装備を整えよう
それではまた3日後お越しください、と言われギルドを後にする。外に出てみれ
ば空は茜色に染まりつつあった。
「有難うございます。チャップマンさん、おかげでスムーズに登録を終える事がで
きました」
「お役に立てたのでしたら本望です。今日はもう日も傾いておりますのでお屋敷の
方へ戻りましょう」
「え?いいんですか。またお邪魔しても」
正直これから宿でも探すかなと思っていたのでその提案は渡りに舟だった。
「勿論ですとも、お三方は旦那様の命の恩人なのですから。ささっ、どうぞ馬車の
中へお乗り下さい」
そう促されて中へ乗り込む。何だか自分が偉い人になったみたいだ、早く自力で
こういう風になってみたいもんだ。
次の日俺達は皆の装備を整えるため街に繰り出すことにした。朝食を伯爵達と共
にしたとき、お礼だと金貨300枚も貰ってしまった。ブラッドの討伐金の10倍
だ、ミュラもトリトスも面食らっていた。
ちなみに伯爵には子供が3人いて長女イザベラ、次女ライラ、長男リカルドと紹
介された。冒険譚を聞きたいとせがまれたが、学校があるという事で渋々引き下
がってくれた。
「だったら夜にでもお話しましょうか?」
そういうと喜んでくれたのでまた夜にということで伯爵達とは別れた。服のほう
はあらかじめ見繕ってもらっていたので心配ないが、装備のほうは何とかしないと
いけない。
特にトリトスは槍も盾も壊れてしまったしな。そういう訳でまずはギランの工房
から覗いてみる事にした。
「お邪魔しまーす」
声を掛けつつ中にはいる。
「いらっしゃい。ってあんちゃん達!親方この人だよオレが話していたのは」
やや興奮気味にまくしたてるカイ。親方と呼ばれて奥から一人のいかつい老人が
出てきた。
「大きな声出さんでも聞こえとる。ホゥ、お前さん達か…ボウズ共が言ってた冒険
者というのは。ワシはホフマンという、どんな武器が望みなんだ?」
値踏みされるようにじっくりと見られる。なかなか筋骨隆々な爺さんだ、ホント
に引退するつもりだったのかと思ってしまう。
「槍とバックラー、あと剣も。鎧や兜もここでは注文できるのかい?」
「金属製のみ扱っている。ローブやレザー系なら防具屋に行きな。紹介状も書いて
やろう」
二人にどうだと聞いてみるとトリトスは兜と盾が欲しいということで、ミュラは
動きやすいレザー系がいいそうだ。
「よし分かった。サイズ測るからこっち来な。」
そう言ってトリトスを奥の部屋へと引っ張りこむ。ギランはどうしているのかな
と思えば一心不乱に何かを打ち込んでいる。声を掛けるのをためらっていると向こ
うから話しかけてきた。
「剣ならこれを持っていけ」
ズイと白銀に輝く剣を渡された。
「わぁスゴイ!ミスリル製ですよ、これ」
驚きつつミュラが答える。オウ、結構いいものじゃない。でもお高いんで
しょ~。
「材料はお前さんが戦った盗賊の折れた刃だ。形も整っていたし量も十分だった。
加工するのに大した手間はかけておらん。助けて貰った礼だ、持っていけ」
言うべきことは終えたというように再び槌をふるい始める。ありがとうと声をか
けると右手を上げて応えてくれた。
しかしちゃっかり拾っていたのね、案外抜け目がないなコイツ。だがそのお陰で
立派な剣が手に入った。
ミュラは剣を手にとりうっとりとそれを眺めている。大層お気に召したようだ。
あとその表情はやめなさい色々と危ないから。
「おねーちゃん、これが剣の鞘だよ」
横からズイッと鞘を差し出す。ハッと我に返るミュラ、よしでかしたぞピーター
と心の中で褒める。そして採寸の終えたトリトスが戻ってきた。手には頑丈な鋼鉄
製のバックラーだけを握っていた。
「ん?槍の方はいいのか」
「いヤ気にナる武器なら見つかッたんだガ…そノ値段がナ」
言われて壁に立てかけてある一際立派なハルバートが目に入った。値段のほうは
ブッ!金貨200枚だとうぅぅぅ!?
「ああそれか。以前騎士団からの要望で作ったんだが誰一人としてまともに扱える
奴がいなくてな。団長ですら使いこなせなかった代物だ、アダマンタイト製なので
頑丈さは折り紙付きだがその分重くてな」
試しに持たせてもらうとズシリとした重さがあった。
「う~む。持てないことはないけど槍は専門外だしなぁ。どこか試しに振るえる所
はあるのかい?」
「裏庭にちょっとした広場がある。そこで振るってみろ」
裏庭にでて槍をトリトスに渡す。
「ムンッ!!」
゛ゴアッ゛という唸りを上げてハルバートが円を描く。その後も何度か突く、切
る、払うを繰り返し塩梅を確認している。
「振ってみてどんな感じだ?」
「思ってイたよりモしっくリくる。これ程ノ獲物にハそうそウ出会えナいだろウ」
「ならそいつはお買い上げだ。最低限武器だけでもしっかりしたものを持ちたいか
らな」
金貨200枚は確かに大きな買い物だが、これ程の業物滅多にお目にかかれない
とみた。
「有難ウ旦那。大事ニ使わせテもらウ」
「決まったようだな。実は作ったはいいが誰も使いこなせない為、売れずに困って
たんだ。材質も材質だし値を下げる事もできん。正直助かった、代わりに兜と盾の
代金はタダにしておこう。明後日にはできるだろうからとりに来てくれ」
「ただいま戻りました。例の品、無事に納めてきました」
そう言ってケビンが帰ってきた。そーいやコイツだけ姿見ないなと思ったらお使
いに行っていたのね。
「おうケビンお帰り。悪いがその三人をマーシェの防具屋まで案内してやってく
れ。それとホレ、こいつが紹介状だ」
紹介状を受け取り、ありがとうとお礼を言ってお代を支払い店をでる。そしてケ
ビンの案内で防具屋を目指す。
「こんにちは、マーシェさんいますか?」
゛ああいるよー゛と、カウンターの方から声がした。
「ケビンじゃないか。どうしたんだい。忘れ物かい?」
「ううん。親方からこの人達を店に案内してくれって頼まれたんだ。ちなみに昨日
話してた人達だよ」
どうもこんにちはと挨拶をしつつ紹介状を差し出す。
「へぇ~あの偏屈な爺さんが紹介状をねぇ。アンタ達よっぽど気に入られたようだ
ね」
別に爺さんに気に入られても嬉しくないが多分大物買いをしたからだろう。
「それじゃあボクはもう戻るね。お兄ちゃん達また店によってね」
明後日また行くぞーと返事をしてケビンと別れる。
「二人に合う装備を探しているんだ。あと街中で着る服と下着類も欲しい」
「あいよ。どんな防具がお望みだい」
「私は動きやすさを重視したいのでレザー系の鎧がいいです」
「俺はローブがいイな。金属製モ悪くなイがあまリ動きガ鈍くナるのハ避けタい」
「それだとトロールの皮を使ったやつがいいだろうね。熱にも強いし普通のやつよ
り丈夫だし。ローブだと小人族が織った素材がおススメかな。値段はその分張るケ
ド」
「いくら位するんだ?」
意を決して俺は聞いてみた。
大枚をはたいて武器を購入。しかし防具にもお金はかかりそうだ。
次回残りの奴隷だった人達のその後です。