集合そして進軍
「それでは皆さん気を付けていって下さい、ご武運を祈っていますよ」
「うちの栄養満点の料理を食べたからきっと大丈夫よ。祝勝会はまたここで宜しく
頼んだよ」
「怪我しないようにね~」 「おみやげわすれちゃやだよ~」
ソルト夫妻に見送られながら集合場所である正門へと向かう。それにしても土産
といってもあの子達は何しに行くのか分かっているのかな。
「お土産何がいいですかね。やっぱり魔獣の肝なんかがいいのでしょうか」
「どうしてソレをチョイスしたかは気になるが牙とか毛皮でいいんじゃないか。も
しくはそこらで店売りしているやつ」
何故かミュラは納得いった顔をしていなかった。間違っても持って帰ろうとはし
ないでね。
そうしてだべりながら正門に近付くにつれ沢山の人だかりができていた。騎士や
冒険者達だけでなく、一般人も野次馬根性よろしくで見にきているみたいだ。なか
にはちょっとした露店まで開かれており、商魂逞しい限りである。
「集合にはまだ少しばかり早かったみたいだな。だけど昨日あれだけひしめき合っ
ていたから参加者は多そうだな」
「その方ガ仕事も早く片付けラれるとイうものだ。人数によッて報酬が変わルわけ
でモないし、大いに越した事はナい」
「もしかして変化するときもあるんですか」
「依頼によりけりね。大抵は今回の様に1人1人りに決まった額を払うものなのだ
けれど、場合によっては決められた金額を参加者の人数で割る事もあるわ。参加者
が多ければ当然貰える額は少なくなるから下手をすれば討伐に費やした分よりも費
用が嵩み、かえって赤字なんて事もありえるのよね。
かと言って少なければ貰える分は増えるけど危険も比例して増えるから依頼を受
ける場合は注意が必要ね。あんまりにも高額だと受けるべきではないわ」
トリトスの方を見れば深く同意を示し頷いている。ソフィアも冒険者としては俺
よりもずっと先輩なのだからそれなりに知識も豊富だ。さまざまな事を知っておい
て損はないだろう。
「皆見ろよ、ルーカス伯爵様がお見えになったぞ」
「騎士団長のフィリップ殿も一緒だ。そろそろ時間なのかな」
周りが騒がしくなり誰かが伯爵が来たとか言っていたのでそちらに意識を集中す
る。いつの間にかお立ち台が準備されており演説が始まりそうだ。おもむろにお立
ち台に登り一つ咳払いをして皆の注目を集める。徐々に話声が疎らになり、完全に
静かになってからから伯爵の演説が始まった。
「諸君、此度の討伐戦に早朝より多くの参加をしてもらい感謝に堪えない。既に聞
き及んでおると思うが我が領内にある森の中でグレイウルフの群れが確認された」
皆の反応を見たいのか一旦そこで話を区切る。知っている事とはいえ、改めて伯
爵の口から聞くとなると緊張が走るのか再び周囲がざわつきだす。騎士や冒険者達
はそうでもないが、普通の市民からすれば不安だろう。それを片手を上げて制して
から再び話を続ける。
「しかし心配は無用である、何故なら今ここに多くの勇敢な戦士が集ってくれたか
らだ。これから森へと進軍するにあたって多少なりとも困難が待ち構えているであ
ろう事は想像に難くない。我が騎士団と共に力を合わせて討伐にあたってほしい。
諸君等の健闘と吉報を期待している!」
マントを翻して壇上を降りる伯爵に惜しみない拍手と歓声が沸き起こる。人前で
こうして演説するのは割と緊張するのだが流石は伯爵、慣れているのであろうか淀
みがない。
続いて騎士団長のフィリップが何やら連絡事項があるとかで代わりに壇上に姿を
現した。
「聞いた通りだ諸君。我々はこれから森へと赴き件のグレイウルフの討伐にはいる
わけだが、道中1~2泊程野営をしなければならなくなる。そこでまだ準備が整っ
ていないという者がいれば遠慮なく申し出てほしい。1時間程度なら時間を割く事
も可能だ。もしそうなら挙手してもらいたい」
そう呼びかけてみたが幸いにも誰も手を上げなかったので、多くの市民に見送ら
れながらそのまま出発する運びとなった。
「なんだかちょっとオーバーな気もしますね」
「伯爵殿や騎士団かラすれば自分達が行ってイる仕事ぶりヲ民衆に示す絶好の機会
だカらな。少々派手なクらいやっテおいた方がいいンだろう」
頼れる為政者像を定着させたいわけだな。俺の見る限りではこの街に限って言え
ばそれなりにしっかりと統治されているように思えるが、こういったパフォーマン
スは常に行っておかねばならないんだろう。ご苦労なこった。
さてはて伯爵の苦労はさておき見送られて出陣したはいいが、道中は戦闘らしい
戦闘はなく森に入ってマイルドボアとイエローキャタピラーとそれぞれ1回づつ遭
遇したぐらいで、予定していたよりもすんなり進軍できてしまった。
いい事ではあるのだがこれ以上進むと真夜中にグレイウルフ達の住処に足を踏み
入れてしまうので、早めに野営の準備に取りかかる運びとなった。
「兄ちゃん達無事か~、って聞くまでもないな」
「全く戦っていないから無事じゃないとおかしいんだけどな。結局魔物達も騎士団
が片付けてしまったし今のところ活躍の機会はないな」
テントを立てようとしていたところにゴリゾウが話しかけてきた。向こうは伯爵
から直接依頼を受けたわけではないので、貸し出しではなく自前である。なので支
度も簡単なのか既に準備は終わっていた。折角話かけてくれたので俺は例の幽霊の
件を聞いてみた。
「幽霊が出るだって?そんなのは初耳だなあ。お前達は聞いたことあるか」
「いえ、あっしは耳にした事はねぇです」
「残念ながらアタイもないわ。それにしても出るの幽霊?それ系を祓う魔法は習得
してないから遭遇したら困るわ」
どうやら誰も心当たりはないらしい。あくまで噂程度だし不確実な情報だから他
言無用でとお願いしておく。それにしても幽霊を祓う魔法って存在してるんだな。
機会があるなら見てみたいものだ。
「おーイ旦那、お喋りもいいガそろそろ夕飯が出来上がルぞ。早くしなイとソフィ
アに全部食べらレてしまうぞ」
トリトスに呼ばれたのでそこで会話は打ち切り食事を摂る為仲間の元へ戻る。明
日に備えて万全の状態で臨まなければな。
「それで彼等の様子はどうだったのだ」
「つい先ほどクラン『トート』と接触し何やら幽霊が出るとかどうとか話しており
ましたが、噂話の類のようです。街を出てからこれまで特に気になる点はありませ
んしメンバー達も普段通りに感じられます」
見張りの為冒険者に扮した騎士からマサツグ達の動向の報告を聞く。実はもう伯
爵からは放っておいても構わないと言われているのであるが、心配性であるフィ
リップはこうしておかしな動きはないか警戒を続けているのであった。
「フィリップ団長、お気持ちは分からなくもありませんが彼等よりも目前に迫った
討伐に集中すべきです。グレイウルフの群れともなればいかに我が騎士団が精強と
はいえど、足元を掬われかねませんよ」
「だとしてもだ、私の直感が彼等には何か秘密があると訴えてきているのだ。それ
が何なのかハッキリと判明するまでは警戒を解くわけにはいかんのだ。分かってく
れるよなミレーユ」
その後明日からの予定と作戦を確認した後、ミレーユはフィリップの天幕を出
る。騎士団長ともなればテントではなくそれなりに立派な野営設備が支給されるの
だ。1度だけ振り返り軽く溜息をつく。
「団長は真面目で仕事熱心なのはいいけれど些か融通が利きづらいですね。それよ
りも彼等、いえ彼には秘密がありそうといった点では同感に思います。今回の戦い
もぜひ期待させていただきましょう」
誰に聞かせるでもなく彼女の呟きは夜の闇に溶けていった。
「ムッ!今世界のどこかで美女が俺の噂をしている」
「突然何を言いダすんだ?それヨりも早く食べてシまわなイと折角ノ飯が冷めてし
マうぞ」
「沢山作りましたからどんどんお替わりして下さいね」
俺の台詞は適当に聞き流され、空になった椀にビーフシチューのような煮込み料
理をミュラが注いでくれる。別にどうでもいい内容なのだがもう少し掘り下げてく
れてもいいんじゃないかな。
「美味しかった~ご馳走様。ミュラって料理上手なんだね、私はあまり得意じゃな
いから助かっちゃた」
「村にいた時はよく作っていましたからお口に合って何よりです。私は食器を片付
けてきますから、マサツグ様達は明日に備えて早めにお休み下さい」
そう言って空になった鍋に洗い物を入れて川の方へ歩いて行った。正直さほど眠
くはないが、これといって特にやる事もないので言われた通りとっととテントに
入って寝袋に包まる。
さぁていよいよ明日は討伐戦だ、寝不足になって皆の足を引っ張らないようにし
ないとな。
「ZZZZっ~~~~、ンゴオォォ~~~~!!」
テントに響き渡るいびきで俺は眠りに就く事ができなかった。誰であろう犯人は
なんとソフィア嬢である。半目を剥いて口からは涎も垂らし、凄まじい限りだ。時
々歯ぎしりをしている音も聞こえてくる。
驚くべき事に両隣で眠っている筈の他の2人は気持ちよさそうに寝息を立ててい
るではないか。
「何故平気でいられるんだ、どうして気にならないっ!?」
叩き起こしたい衝動にかられつつも、1人騒音に悩まされながら夜は更けていっ
た。
いよいよ討伐の為に森の中へ侵入をする一行。
次回グレイウルフ+αとの戦闘です。




