登場オークの娼婦
意気揚々とミックに連れて来られた花街は大層賑わっていた。自分達が足を運ん
だのは『紅玉の華』と呼ばれる店だった。他の店と比較してやや大きめだ。
「さあ着いたぜ旦那。実は俺も昨日きたばかりだけどな」
「昨日の今日でもう言ったのか。それに金はその時どうしたんだ?」
「初就任祝いということで衛兵隊長が奢ってくれた」
そうなんだ、そして今日は俺から2日続けて豪遊する気だな。まあ別にいいケド。
「あら~ミックさん今日も来てくれたんだ~、アタシうれしい!」
そんな事を思っていると横から声を掛けられた。
「やあ、カトリーヌ!今日はお客をもう一人連れて来たんだ」
「あら嬉しい、初めましてカトリーヌって言います。ここは他の店よりもサービス
が良いと自負してるからたっ~ぷり楽しんでいってね」
そういって手を引かれ中に入る。ちなみに料金の方はこの店だと一晩で平均大銀
貨8枚~金貨1枚と大銀貨2枚くらいだそうだ。勿論上を見たらキリがないが払え
ん事はないし、妥当な値段だと思う。
どういった娘が好みなのと聞かれたので若くてかわいい子とだけ答えておく。準
備ができたら向かわせるからと言われ部屋に通される。
「じゃあ旦那ごゆっくり~」
ニヤニヤしながらカトリーヌと共に別の部屋にミックは消えていった。部屋の広
さは普通だが品のいい調度品も置いてありきれいに整っている。暫く夜の街を窓か
ら眺めていると
「おまたせいたしました」
と声がしたので振り返ってみるとそこには、ボン、キュ、ボンの美女ではなく今
にもはちきれんばかりの筋肉をしたオークがいた。
「だ、誰だオマエはっ…」
声は裏返り顔もひきつっているのが自分でもわかる。オイオイ誰だよこんな化物
寄こした馬鹿は、話と全然違うじゃねーか。責任者出てこい。
「ミルキィーっていいます。人間のお客さんは初めてだけど精一杯おもてなしいた
しまあ~す!」
もじもじしながら答えるオークもといミルキィー。キ、キモイこれ以上ここにい
ては色々と危険だ!俺は一目散に窓から飛び降りた。゛シュタ゛と華麗に着地を決
めれるはずもなく゛グキィ゛という鈍い音がした。ヤバイもしかしたらこれ折れた
かも…うずくまって痛みに悶絶していたが、俺には回復魔法があったという事を思
い出した。
まさかこのような形で自身に初めて使うことになるとは思わなかったぜ。眩しい
輝きが辺りを包む。その後振り返る事なくに屋敷に逃げ帰った。
「お客様~おまたせしました、ご相手を務めるシルキィーで~す。アレ?なんでミ
ルキィーちゃんがここにいるの?」
「シルキィーちゃん、お客さん窓から飛び降りてどっかに行ってしまったよ。こう
ピカーと光っていたけど…一体何がいけなかったんだろう?」
「え、そうなのってミルキィーちゃんのお客は隣じゃない。それにお客さん人族の
方でしょう。そりゃ驚くって」
「ありゃ、そうだったのかい。道理で変だな~とは思ったけどそういうことか~あ
の人には悪い事しちまったね」
「ハー、しょうがない。事情は私から女将さんに話しておくからミルキィーちゃん
は早くお客さんのとこに行ってあげな」
「ゴメンね。シルキィーちゃん。この埋め合わせはきっとするから」
ハイハイと手の平を振り彼女と別れ事情を説明するべく女将のところへ向かう。
「あーあ、きっと小言をねちねち言われるんだろうなー。でも光っていたというこ
とは魔術師なのかな?うまくすれば私にもチャンスが」
にまにましながら呟くシルキィーの姿がそこにはあった。
この世界魔法を使えるものはあまりいない。いや、いないと言うのは少し語弊が
あるかもしれない。実用的なと訂正した方が正しいか。しかも魔術師と呼ばれる程
の者は更に少ない。
そしてえてして彼らは大抵金持ちだ。彼女がそのような思いを抱くのも無理なら
ぬ事であった。当の本人は素寒貧に近い状態ではあるが…。
「旦那どウした。具合でモ悪いのカ?」
「お顔の色もあまり優れない様子ですが、大丈夫ですか」
二人が心配そうに聞いてくる。
「ああ大丈夫だ、ちょっと飲みすぎたみたいだ」
嘘ですごめんなさい、本当は娼館に行ってとんでもない目にあってきましたなど
とは口が裂けても言えない。
「それよりも今日は二人の防具が仕上がっている日だ。早速取りに行こう」
話題をすり替え装備品を取りに行くことにする。
「そーダな、それじャ早速でカけるとすルか」
「鎧どんな風に仕上がっているか楽しみです」
トリトスもミュラも乗り気だ。何だか誤魔化しているようで心が痛いが、とりあ
えずはホフマンの店から顔を出すことにする。
「おう、お前さん達か。兜ならできとるぞ、持っていくがいい」
兜を受け取り付け心地を確認するトリトス。
「うンこれなラ動きも阻害さレずにすみソうだ。中にモ綿が詰まッていテ頭も痛く
なイ」
「そいつは良かった。それはギランが打ったものでな、実は既に昨日には仕上がっ
ていたんだ。いやードワーフってのは思った以上にスゲェな、俺らが3日かかるよ
うな作業でも半日とかからず完成させちまうんだからな」
昨日の内にできていたとは驚きだ。当のギランは相変わらず黙々と槌を振るって
いる。
「ありがとう、また寄らせてもらうよ」
「おうまた来いよ、いつでも歓迎するぜ」
ホフマンに見送られ店をでる。次はマーシェの防具屋だ。
「ああいらっしゃい。もうちょっとでできるから適当に座っておいてくれよ」
そう言われ近くの椅子に腰を下ろす。兜は早かったが鎧の方は時間がかかってい
るようだ。まあ人族とドワーフを一緒にししたらだめか。
「すごく一生懸命に作業なさってますね」
「それだけ精魂込めて制作してくれているってワケだ」
しばらくそうやってだべっていると
「おまたせ、できたから着てみてごらん。何か不備があったら遠慮なくいって頂
戴、多少なら直しもきくからさ」
二人とも出来立ての装備に身を包む。軽く体を動かしながら具合を確認してい
る、どうやら特に問題ないようだ。
これで準備は万端だ、明日の試験は必ずパスしてやる。そう一人気合を入れて
いると゛つつつっ゛とマーシェがよってきた。なんなのかなと思っていると
⦅そーいやアンタ昨日娼館に行ったんだろ⦆
ひそひそと話かけてきた。どーして知っている。
⦅もしかしてミックから聞いたのか?⦆
⦅いや今日注文を受けていたドレスを納品したとき小耳にはさんでさ。何でも3階
から飛び降りたんだって、ちょっと噂になってたよ⦆
オウまじか…まあ派手に回復魔法も使っちまったからな。しかし暫くはあそこに
は近づけないな。
⦅どうかこの事は2人には内密に⦆
⦅わかってるって、その代わり今後ともウチを御贔屓に⦆
何だか弱みを握られてしまったような気がする。
サブタイトルの通り少々とんでも展開となっております。
次回は飛び級がかかった試験にのぞみます。