いざぁ夜の街へ
「二つ合わせて金貨80枚かな。特にトロールはあまり手に入らないからな~。そ
の分どうしても、ね」
高い、伯爵から貰った軍資金がほぼ底をついてしまう。ぼられているんじゃない
かとトリトスにコッソリ聞いてみたが適正価格なのだそうだ。ちなみにドラゴンの
素材はないのかと聞いてみると
「ハアッ!ドラゴンだって!?Sランク冒険者か大規模な騎士団でもなければ倒せ
ないよ。寿命を迎えたのか他のドラゴンに殺されたのを運良く見つけた奴が極稀
に持ち込むくらいだ。殆どは国や公爵家が買い取るから、うちのようなとこにはま
ず出回らないよ」
やっぱいるんだなドラゴン。そして思った以上にレアで強い存在のようだ。ちな
みにそれらで防具を作るとなると金貨500枚は下らないそうだ。
「分かった、では二人の防具を頼む。代わりに下着類はサービスしてくれ」
「毎度ありっ。その位なら負けたげるよ。ささっ二人とも採寸するからこっちにき
な」
そのあいだ街中で着れそうな服を選ぶ。こうやって見ると結構センスがあるんだ
なこの店。
その後採寸を終えたトリトスとミュラも服を選び、しめて金貨81枚と大銀貨5
枚の出費となった。
「防具のほうは明後日までには仕上げとくからさ、また取りに来ておくれよ」
分かった、ではまたなと言い残し店を後にする。外に出るとすっかり日は傾いて
いたので俺たちは急いで屋敷へと戻った。
「お帰りなさいませマサツグ様、トリトス様、ミュラ様。ご夕食ができております
がいかが致しますか?」
「「「もちろんいただきます!」」」
見事にハモった。そーいや昼は何も食ってなかったな。二人に気付かずスマンと
謝る。
「そんな、いいですよ。おかげでいい剣や鎧を得ることができましたし」
「それニ殆どハ俺の装備ニ資金が消えテしまッた。必ずそレに見合う働きデ返す」
「どうやらお渡しした資金は有効に活用して頂けたようですな。さあ夕食が冷めて
は勿体ない、食堂へどうぞ」
チャップマンに先導されて食堂に赴く。そして約束通り夜は子供達に冒険譚を聞
かせるのであった。主にトリトスがだな。
あくる朝俺達は朝食を取った後再び街に繰り出す事にした。しかし昨日と違い今
日は予定がある訳ではない。
「それならソルトさん達のお店に行ってみませんか?」
そうミュラから提案があったので訪ねてみることにした。まだこの街には不慣れ
なので地図を書いてもらいでかける。
「すみません、店は昼からなんですよ」
仕込みをしているのだろうか、俺達が店に近付くとソルトがそう話かけてきた。
「いや、別に客としてきたわけじゃない。ただ様子を見に来ただけだ。お邪魔だっ
たかな?」
「いいえ滅相もない。すぐに皆を呼んで来るので、オ~イ!マサツグさん達がお見
えになったぞ~!」
「本当に!?」 「お兄ちゃんたち来てるの?」 「あ~おねえちゃんもいる」
ドタドタと3人とも2階から降りてくる。
「まぁまぁようこそお越し下さいました。たいしたもてなしは出来ませんがどうぞ
ごゆっくりしていって下さいね。」
深々と頭を下げて応対するシュガー。まるで旅館の女将みたいだなと思ってしま
う。女の子2人はミュラにつきっきりであれやこれやと話をせがんでいるようだ。
暫くそうしてくつろいでいると不意に厨房の方からいい匂いがしてきた。
「仕込みが終わりましたんで。まだ昼には少し早いですが良かったら召し上がって
いきませんか?」
また昼を食いそびれたくはないのでご厚意に甘える事にする。
「旨そうないい匂いがするな。オッ、今日はマイルドボアの煮込みか、好きなんだ
よなコレ」
どこかで聞いたことがある声がするなと見てみればミックであった。
「衛兵のお勤めご苦労さんミック。昼休みか?」
「あれぇ誰かと思えばマサツグの旦那じゃないですか。それにトリトスにミュラ
も。何かあったんですかい?」
「別に何もないよ、皆がどうしてるかなと思い訪ねてみたんだ。そして今昼餉をご
馳走になっている」
「ミックさんも良かったらどうぞ」
「やったー!夜勤明けで腹ペコペコでね。では遠慮なくいただきます」
そう言って肉にかぶりつく。見事な食いっぷりだ、しかし昨日の今日で夜勤とは
衛兵も大変なんだな。
「なんでも人手が足りてないみたいでキツキツの勤務体制なんすよ、入っても辞め
ていく奴が多くて。まあ俺から言わせれば金もらえてしっかり食えるこの仕事はそ
れだけでありがてぇもんすよ」
かつては貴族相手に盗みを働いていたんだから真っ当に稼げるのは良い事だと
思っているのかな。
「あまりお前の事は知らないが人には言えぬ苦労も多かっただろう。だが今度は道
を間違えるなよ」
「分かってるって。次やったら縛り首だ、まだまだ命は惜しいからな」
そうして話に花を咲かせつつ、昼になるにつれてチラホラとお客が入ってきだした。
「しかしもう営業できるなんてすごいな。ギラン達もそうだったがまだ2日しか
経っていないだろう」
「殆ど居抜きでしたので。食材の方も伯爵様の方から手配もして頂きました。です
のですぐに開店する事ができました。元々ここは宿屋ということですが流石にそこ
まで手は回りません。落ち着いて人手が増やせるようになれば、ゆくゆくはそちら
の方もと考えております」
思ったよりもたくましいなソルト夫妻。これ以上いては邪魔になると思い食事が
済み次第店を後にする。
「美味しかったですね、ソルトさんの料理は」
「あア、俺はどチらかとイうと魚の方ガ好きなンだがそれデも満足ノいく旨さダった」
2人共先程の料理の感想を述べている。またこよう、そう誓うのであった。
午後からは図書館、教会、雑貨屋等をぶらついて時間を潰した。いい時間になっ
たので屋敷に帰宅し、夕飯を済ませ寛いでいるとコンコンとノックの音がした。
「失礼しますマサツグ様。ミックさんが訪ねて来ているようですがいかがなさいま
すか?」
ん、ミックが?一体何の用だろう。取り敢えず屋敷の外にむかう。
「よう、マサツグの旦那。悪ィな急に呼び出しちまって」
「いや、丁度暇を持て余してたところだ。他の2人はいいのか?」
「ああ今夜は旦那と親睦を深めたくてな、いっちょ夜の街にでも繰り出そうと思っ
てな…どうだい?」
そこまで言ってハハーンと見当がつく。コイツは娼館に誘っているんだな。この
マサツグそんな安い男ではない。
「どこにあるんだそれは?」
しかし口から出たのは真逆の言葉だった。安くはないがフットワークは軽いのだ
よ。その真意を悟ったのだろう、ミックはニィと笑って
「話が分かるじゃねぇか旦那。それじゃ善は急げだ、それに聞いたぜぇ伯爵様から
たんまり軍資金を頂戴したことも」
むっ、こやつ人の金で豪遊するつもりか。
「資金はこれからの装備で殆ど手元に残ってないぞ。精々出せて金貨10枚だ」
先に釘を刺しておく。娼館の相場がいくらかは知らないがあまりに高かったたら
手が出ないからな。
「それだけあれば十分さぁ、じゃあ出発~。」
奴隷にから復帰した人達はそれぞれ再起をはかっているようです。
次回主人公はどんなムフフな体験をするのか。乞うご期待…はしないで下さい。