6.見舞い(上)ーロバートー
ロバートは少し緊張しながら、父親の私室の扉を叩いた。
どうと言うわけではないが、ロバートは父親が苦手だった。
父親であるチェスター伯爵は、優秀な事業家であったため常に忙しく、子供達と触れ合う機会があまりなかった。
そのためか、ロバートは父親と中々打ち解けられずにいた。
「入りなさい」
父親の威厳に満ちた声に、扉の前で背筋を伸ばし、
「失礼します」
と、静かに扉を開けた。
父親は何やら書類に目を通しているところだったようで、顔は上げず、
「ブルック男爵が、御令嬢を見舞ってほしいと」
父親の言葉は、思いも寄らないことだった。
「え?ジョセフィーネが病に⁉︎」
ジョセフィーネの身に何かあったのだろうか、ロバートはとても心配になった。
「いや、マリアンヌの方だ。元々身体が弱く、伏せっているらしい」
父親の口調は淡々として、特に緊急性はないように思われた。
それに何より、見舞いの相手がジョセフィーネでなかたったことに、ロバートは安堵した。
「早々に見舞うように」
書類をめくりながら、抑揚のない声で父親は言った。
「わかりました。数日のうちにでも」
(身体が弱いのか、可哀想に。見舞いの品は、何がいいだろうか)
マリアンヌとは面識はなかったが、哀れに思った。
「では、手紙を出しておこう」
そう言って、父親は別の書類に目を移した。
ロバートは父親に気取られぬように、小さな溜息を僅かに漏らし、
「よろしくお願いします」
頭を下げ、私室を出た。
しばらく黙って廊下を歩いてから、立ち止まり、大きなため息を改めてついた。
ふと、窓の外に目をやると、小雨が降っていた。
空は昼間のためか、雨とはいえ然程暗くもなく、よく目を凝らさないと降っていることにさえ気付かない程だった。
(ジョセフィーネは、どうしいているだろう)
ロバートはそんな雨を見ながら、ぼんやりと思った。
ジョセフィーネの美しい顔を思い出し、
(マリアンヌは気の毒だけど、ジョセフィーネにまた会えるんだ)
罪悪感を感じながらも、ジョセフィーネとの再会に喜んだ。