リバースふたたび!
……うーむ。
フリーズドライされたイノシシがさらにフリーズされている……。
アキは王子が律儀に脚をつかんだままだったイノシシを見て、
可哀想だからせめてフリーズドライを溶いてやろうと思い、イノシシに向かい、手を伸ばした。
「リバースッ!」
キラキラと氷の粉末のようなものが舞い落ち、その光の中でカッとイノシシは目を見開いた。
猪突猛進、イノシシが走り出す。
「うわっ」
躍動感あふれるフリーズドライだったイノシシが、躍動感あふれたまま走っていってしまった。
……フリーズドライだけ溶いたつもりだったのに。
アキは凍っている美女、マダムヴィオレに向かい、手を伸ばした。
「リバースッ!」
だが、なにも起きない。
うーん? とアキは考える。
だが、下から吹き上げてくる風で自分も凍りそうだ。
すでに凍っている人たちはなにも感じていないように見えて、実はもっと寒いかも、と思い、アキはイノシシに周りを走り回られながら考える。
しかし、イノシシ、二度と捕まえられそうにないな。
此処からフリーズドライしてやろうかと思いながら、イノシシを目で追っていたが。
待てよ、と思う。
凍っている王子に向かい、
「フリーズドライッ!」
と術をかける。
凍っている王子が凍ったまま、一回り小さくなった。
……いかん。
私デカイから、このまま溶けられたら、身長差があまりなくなってしまう、と妙なことで焦りながら、アキは王子に向かい、もう一度、手を伸ばした。
「リバースッ!」
すると、王子は元に戻った。
一度フリーズドライしてリバースすると、氷も溶けるようだった。
だが、父を止めようとして凍った王子は、凍った瞬間の続きのまま、
「おやめくださいっ」
と叫んでまた父に触れて凍る。
……うん。
もうこの人は放っておこう、とアキは思った。
母親に向き直る。
「フリーズドライッ」
氷の美女が一回り小さくなった。
「リバースッ」
イノシシや王子が元に戻ったときと同じに、氷の粒子がキラキラ上からの光に煌きながら舞い落ち、母、マダムヴィオレは生身に戻った。
王子と同じに、マダムヴィオレは凍る直前に言おうと思ったらしい言葉を叫ぶ。
「やだっ、なに此処、寒いーっ!」
身を震わせたあとで、マダムヴィオレはこちらに気づき、言ってきた。
「あらアキ。
どうして此処に?」
「……アキノじゃなかったんですか」
と久しぶりに聞いた気がするその声に返事をすると、
「ああそう、アキノよ。
でも呼ぶとき長いじゃない。
おばあちゃんたちが言うように、アキでよかったわ」
名付け親により、今、正式にミミズののたくった『ノ』の字は消去された。
「あんた、なんで此処にいるのよ。
私みたいに生贄にされたりしないように、あちらの世界にやったはずなのに」
という母の声を聞きながら、まず、父をリバースし、父と離してから、王子をリバースした。
「アキ、おばあちゃんとおじいちゃんは?
なにしに此処に来たの」
マダムヴィオレは凍った瞬間から溶かされるまでの記憶はないようで、呑気にそんなことを訊いてきた。
「なにって……」
と言ったアキの目に王子が入る。
ちょっと照れてアキは言った。
「……えーと。
運命の人を探しに来ました」
王子が微笑む。




