そういえば、お元気でしょうか?
うーん、と唸ったあとで、紅茶のおかわりをいただきながらアキは言った。
「アンブリッジローズ様の力を勝手に使おうとすると来てくださいますが。
こんな度々、呼んだら殴られますよね」
「そもそも殴るために来るんだろうしな」
と王子が言う。
「じゃあ、違う感じに来ていただいてはどうでしょう。
『美しきアンブリッジローズ様』とか呼んでみて」
と言ってみたのだが、
「お前、それだと自分を褒めてるみたいだぞ」
と王子に言われる。
そうですねえ……と呟いたとき、
「それでは私のハートには響かぬな」
と声がした。
うわっとアキは王子との間を見た。
また、ちんまりアンブリッジローズが座っていて、クッキーをちゃっかり手にしている。
「お、お気に召しませんでしたか。
えーと。
……賢いアンブリッジローズ様、とか?」
とすでに突然の出現に慣れてきたアキが言うと、
「そんな大袈裟に褒められても、それはそれで小莫迦にされてる感じがするな」
と言われてしまう。
「じゃあ……小賢しいアンブリッジローズ様」
「余計悪いわっ」
いや、大袈裟にするなというから、小をつけてみたのだが……。
まあそんな話はよい、と言ったあとで、アンブリッジローズが言ってきた。
「今日はお前に呼ばれてきたわけではない。
お前に伝えることがあって、転移しようと鍋の中を見ていたら、お前の姿が映り、話し声が聞こえてきたのだ」
「あの淀んで煮えたぎった鍋の中にですか」
よく見えましたね、とアキは言う。
「普段は水を入れて遠見をするんだがな。
まれに料理中も見えるのだ」
そんな話をするアンブリッジローズの前に新しい紅茶が置かれた。
さすがは城の使用人。
いきなり現れた魔女っぽい老婆にも動揺することなく、もてなしてくるとは。
アンブリッジローズは早速、紅茶で喉の渇きを癒しながら言ってきた。
「いやちょっと小耳に挟んだことがあるのでお前に伝えようと思ってな。
お前の母親かもしれないマダムヴィオレに関してだが。
実は、生贄にされたのではないかという話があるのだ」
「生贄?
っていうか、あの塔にいて、どうやって小耳に挟むんですか」
とアキは言ったが。
まあ、城から食事を運んできたりとかいろいろあるのかもしれないなと思う。
いつもあの鍋で煮てるものばかり食べているわけでもあるまいし。
いや、我が家の場合はかなりの確率で、冬場は鍋なのだが。
……おばあちゃん元気かな、とアキはふと思い出す。
おばあちゃんと呼んだら、殴られるし、違和感もある祖母だが。
元気にサーフィンしてるだろうか。




