ついでに、そっちもお願いします
「尽くしてくれたってどの辺がですか?」
と訊くアキに王子は、
「何度も夜食を運んでやったろう」
と言う。
「ありがとうございます。
美味しかったです」
なら、と王子が手首をつかんで来ながら言うので、
「いや、美味しかったですが。
この身をゆだねていいほどではありません。
幾らイラーク様のお料理でも。
と言いますが、美味しかったからと身をゆだねるのなら、お料理を作った人にでは?」
「待て。
何故、そうなる……」
呆れてか、王子が手を緩めたので、アキは急いで起き上がった。
「お前……、また訳のわからぬことを言って、私を煙に巻こうと思ってるな」
バレましたか……。
「お前のその往生際の悪いところは嫌いじゃない。
他にいいと思うところを問われてもちょっとわからないが、そういうところは嫌いじゃない」
もしもし?
王子は座り直し、アキも最初のように王子と並んでベッドに座った。
「アキ、最近の俺は頑張ってると思わないか?
お前のために名前を取り戻しにアンブリッジローズ様の塔にも行ったし」
まあ確かに。
「なにかご褒美をくれてもいいんじゃないか?」
ご褒美……
ご褒美。
ご褒美ねえ。
アキは迷って、
「はい」
と一口残っていたお味噌汁を王子に差し出した。
「それ作ったの、イラークだろ……。
美味いが」
「美味しいですよね。
……待てよ。
王子も美味しいと思われるのなら、王子もイラーク様に身をゆだねることに……」
「だから、何故そうなる……」
という王子の声にかぶせるように、
「いや、どっちもゆだねるな」
という声がし、あとからノックの音が聞こえてきた。
すでに部屋の扉は開いており、イラークがトレーを手に立っていた。
「デザートだ」
と差し出すトレーには、果物ののったガラスの器。
「あ、ありがとうございます」
と受け取るアキはイラークの後ろからじっとこちらを覗いているラロック中尉に気がついた。
……なにやってんだ、と思いながら、
「ラロッ……」
と声をかけかけたが、
「そっちのトレーはもらって帰ろう」
と言って、味噌汁碗ののったトレーを手に出て行ったイラークが扉を閉めてしまう。
あの……、ついでに王子も持って帰ってください……。
アキは器を持ったまま思っていた。




