今から心を入れ替えようと思います
せっせと親鳥のように夜食を運んでいる、あの王子が。
自分のものを上から下にもおろさない、あの王子が。
そんなことを思いながら、ラロック中尉は王子がアキの部屋の扉をノックするのを見ていた。
今までずっと思っていた。
いつか王子が美しい花嫁をもらい、自分も可愛い何処かの貴族の娘をもらって、王子夫妻を見守りながら、幸せに暮らすのだと。
なのに、何故、私は王子とひとりの娘を争っているのか。
何処で道を踏み間違ってしまったのか。
……単に気が迷っている気がしてきた。
よく考えたら、あの偽アンブリッジローズは美しいが、好みじゃないし。
そうそう。
きっとこれは単なる気の迷いだ、と思いながら、ラロックは廊下でずっと、王子がアキの部屋から出てくるのを待っていた。
しばらくして思う。
……何故、私は此処でずっと王子が出てくるのを待っているのだろうな。
そうそう。
王子にアンブリッジローズ様のことは気の迷いだったので諦めると言うためだ。
そうそう。
うん。
そのために待っているのだ。
そのために待っているのだが
……何故出で来ないのだ、王子。
早く出てくるんだ、王子。
妃になる予定の娘ではあるが、まだ結婚してはおらんのだぞ。
……何故、出てこないっ。
このクソ王子~っ!
ドアぶっ飛ばしますよっ、とラロックが外でイライラしている頃、中は中で揉めていた。
「美味しいですね~、王子。
このおむすびとお味噌汁。
出汁がすごいですよ」
アキは王子と二人、ベッドに腰掛け、王子が持って来てくれた夜食を食べる。
「そうなのか。
俺はこういう料理はよくわからんが、美味いな」
「なんでもできるんですね~、イラーク様って」
そう微笑みながら、アキはちょっと距離が近いな、と思っていた。
味噌汁の乗ったトレーはベッドの中程に置いたまま、なんとなく左に避けると、またいつの間にか王子が腰が触れる位置まで来ている。
すすすっと横にまた、ずれてみたが、また、いつの間にか側に来ている。
あっという間にアキは端まで追い詰められていた。
「……ベッドから落ちるじゃないですか。
何故、私を落とそうとするんです」
「落とそうとはしていない。
お前が逃げなければいいだけの話だ」
い、いざとなったら、このトレーでっ、と思いながら、チラとトレーを見たが、察したように王子にトレーを退けられる。




