危険な夕食
アキは勝負に勝った。
が、負けたパリスは、さっき罰ゲーム用だと言っていた方の鍋のスープを食べ。
アキたちは今、出来たばかりの地獄の赤さになっているスープを食べていた。
「おかしくないですかっ?
絶対、おかしくないですかっ?
なんで負けた方が辛くないんですかっ?」
「味はこっちの方がいいと思うんだがな~」
と厨房でスープの味見をしてみながら、イラークは言うが、客たちは毒でも飲まされたのかというよう感じに、のたうち回っている。
「ああ……
美味い
美味いが、辛い」
「辛いが美味い」
「悪魔の味だ」
「っていうか、俺たち、明日は使い物にならないぞ」
「さては、この宿屋の亭主は敵国からの刺客か……っ」
と何処かの国の兵士らしき連中も戸口のテーブルや床で、のたうち回っていた。
アキは目の前で、涼しい顔をしてスープを飲んでいる王子を見た。
「なんで、なんともないんです?」
「いや……、辛いが。
辛いが、しかし、私は常日頃から毒に身体を慣らしているから」
と言った王子に、厨房からイラークの声が飛ぶ。
「毒じゃないぞ」
いや、食べた人たちが、そこ此処でのたうち回っている時点で、ある意味、毒ですよ、と思いながら、アキは王子の横で、これまた平然と食べているラロックを見た。
「何故、貴方も辛くないんですか」
「私は王子の毒味係も兼ねているので。
王子と一緒で毒に慣らしているし、慣れている。
……毒に慣れすぎて気づかないときがあるのが問題だが。
王子も慣れているので大丈夫だ」
その毒味はどの辺に意味があるのでしょうか……。
「だから、毒ではない」
と後ろからイラークは言ってくるが、給仕する巨大うさぎもなんだか弱っている。
「うさぎさんの毛が、ちょっと赤っぽいですよ。
危険な香辛料の粉が飛んでるんじゃないんですか?
目も赤いし」
「そいつは最初から赤いだろうが」
とすげなく言ってくるイラークに、
「動物虐待ですよ」
と言ってみたが。
「いや……人間も虐待されている……」
とみんなより少し辛くないスープを飲みながら、パリスが頭を抱え、呟いていた。




