結局、仲良しさんなんですね
「私は帰りません」
王子に帰れと言われたラロック中尉は当然のようにそう言ってきた。
「城に戻りたくないのです。
王子もいないのにあそこに戻っても、私の仕事などないからです」
そういえば、王子のお話相手でしたね、お仕事、とアキは思う。
「俺には城から手紙でも書いて話し相手になれ。
元アンブリッジローズには早馬で服を送れ」
「嫌です」
「たまには俺の言うことも聞け」
「嫌です」
きっぱりとラロックは王子の命令を拒絶する。
一歩も引かない。
むしろ、王子の方が引いている。
あとで聞いたところによると、ラロック中尉の方が半年、年上なので、昔のくせで、言うことを聞いてしまうのだと言う。
どんな主従関係だ、と思って見ていたが。
案の定、王子の命令はうやむやになり、ラロックはそのまま一緒に旅を続けることになった。
「もう行ってしまうのか、タイガー・テールよ」
と翌朝、見送りに出てくれたアントンが言う。
「なにかもう、その名が馴染んできてしまったので、別にこのままでもいい気がしてきたんですが。
とりあえず、行ってきます」
とアキは答えた。
「うむ。
そうか。
帰りはまた此処に立ち寄るがよい。
もてなそう」
「ありがとうございます」
とアキはできるだけ姫らしいお辞儀をした。
宝石ののった馬車は一足先に信頼できる部下とともに、国に向けて旅立った。
その様子を見送りながら、王子がラロックに言う。
「お前も付いて帰ればいいのに。
なにもかも早馬で送ればすむだけだぞ」
ラロックはさっさと馬に跨りながら言ってくる。
「嫌です」
そんなふたりのやりとりを見ながら、アキが言った。
「あのー、前々から思ってたんですけど。
我々も早馬に乗って、飲まず食わずで走ったら、すぐ国に着くのではないですかね?」
王子とラロックは沈黙していた。
「……旅をしたいのですね」
「よし、行くぞ。
元アンブリッジローズ」
「行きましょう。
タイガー・テール様」
こういうときは息が合ってるんだな、とアキは思った。




