ある意味、さっきよりヤバイ状況ですっ
王子が死にそうになりながら運び出した宝物が馬車に乗ったので。
アキはまた王子とともに馬に乗っていた。
「素晴らしいです、王子。
お疲れ様です、王子」
と働きすぎて顔色の悪い王子にアキは言う。
夫と子どもは褒めて伸ばせと言うからな、と思いながら。
いやまあ、ほんとうにこの人と結婚するかはわからないのだが。
横をパカパカ馬で進んでいるラロック中尉はなにごとか考えている風だった。
「中尉、どうされたのです?」
とアキが訊くと、ラロック中尉は月のない空を見上げ、いやあ、と言う。
「実は、湖の女神は貴女のことをなにかご存知だったようなんですよね」
「……何故、今、言いますか」
とアキは言った。
もう遠くなった迷いの森を振り返りながら。
「いえ、それが私も追求してみたのですが、笑って教えてくださらなくて」
「そうなのですか。
それにしても、何故、女神様は異世界人の私のことなどご存知なのでしょうね」
などと言っているうちに本日の宿に着いた。
夕食は食べたが、よく動いたし。
そのあとは、ちょっぴりしか海老が入ってない、というか、海老と野草と怪しい湖の水しか入っていないスープしか飲んでないから、お腹空いたなーと思いながら、アキは森と海を見下ろす高台に立つアジアンテイストな宿を見上げた。
バリのヴィラのような茅葺の建物が何棟もあるようだ。
あれからちょっと走っただけなのに、もう違う国なのだろうか、とアキは考える。
どうもこの世界、国境がふんわりしているような気がしていた。
うーむ。
うちのご近所さんなんて、境の塀の位置がちょっとおかしいというだけで、大揉めに揉めていたのに。
それとも、敷地が広大すぎると、塀がどちら寄りだろうと気にならないのと同じだろうか、と思っているうちに、イラークのように態度のデカくない、白い布をまとったような服の男女が出迎えに出て来てくれた。
案内されたヴィラの中は香の匂いと花の香りであふれ返っていた。
人によっては苦手かもしれないが、私は嫌いじゃないな、とアキは思う。
天蓋で覆われた白い石造りの湯船にもむせ返るほどの花が風呂の周囲と湯の中に用意されていた。
はあー、気持ちいいなー、とひとり湯につかり、アキは思っていた。
王子の妃とか勘弁して欲しいけど。
こういう素敵な宿に泊まれるのはありがたいなーと。
風呂のある部屋は森に向かい、少し飛び出していた。
真下を見たくない感じに。
薄い白い布で周りは囲ってあるのだが、透けて下の森の濃い緑色が見える。
ずいぶんと深い森のようだった。
ま、あんなところから、ひょいとこちらを覗いているのはサルくらいのものだろう。
もうちょっと外見たいから、布、開けちゃおうかなと水音をさせて身を乗り出したとき、王子の声がした。
「アンブリッジローズ。
ちょっといいか」
……いいわけございません、と思いながら振り返った後ろの布越しに王子の姿が透けて見えた。
ということは、こちらも透けて見えているっ! とアキは慌てて湯の中にしゃがんだ。




