よし、今すぐ嫁に来い
濡れた草はらを少し歩くと、アキたちの前に地下へと続く階段が現れた。
「ついて来いよ、……アキ」
「アンブリッジローズでいいですよ」
と言いながら、ふたりで下りる。
「おお、広いではないですか」
四角い石室のようなものがあるのだが、結構広い。
王子が入ると、その血に反応してか、ぼんやりと白い石壁が明るくなった。
石室には、たくさんの木箱や革のトランクのようなものがあって、宝石類などが保管されているようだった。
「なんだ、クリスタルもあるじゃないか。
重いから女神に渡して帰ろう」
と王子は言ったあとで、箱をひとつ抱えようとした。
沈黙する。
「アンブリッジローズ……」
「はい」
「もしや、まさかなんだが」
「はい」
「手を握ってたら抱えられないよな?」
「そうですね」
「……とりあえず、お前を外に出そう」
と王子は言った。
王子はアキとともに入り口まで行き、ひとり石室の階段まで戻った。
「まさかなんだが、これ。
お前も誰も俺に触れてないと入れないのか」
「そうですね」
「てことは、俺ひとりで抱えるということか」
「……そうなりますかね」
女神ーっ、と王子が叫んだ。
「なんだ」
と女神が叫ばずとも通る声で湖のほとりから言ってくる。
「この中、俺しか入れないのなら、俺がこれ、全部抱えるってことか」
「そうなりますね」
「……試されているのだろうかな、俺が」
この宝を持ち帰る資格があるかどうか、と王子は言うが。
「腕力があるかどうか試されてるだけな感じがしますね」
とアキは言う。
「ま、まあ、王子。
此処まで運んでくだされば、あとは私が運びますよ」
とアキが言っていると、ラロック中尉たちがやってきた。
「王子、此処からは我々が運びますよ」
と言ってくれるが。
此処までが大変なんじゃないかという顔を王子はしている。
階段をひとりで持って上がらないといけないしな~、とアキが苦笑いしていると、後ろから女神が叫んできた。
「ああそう。
王家の者と愛を誓い、契りを交わした者なら、入れるぞ。
ある意味、血族だからな」
「何故、私を見るのですか……」
とラロック中尉がアキに言う。
いや、なんとなく……。
この中で可能性がありそうなのは貴方くらいかなとか思ってしまいました。
そのとき、下から王子が叫んできた。
「よし、アンブリッジローズ!
今すぐ嫁になれっ」
「いや、物を抱えさせるためにですか……」
そんなプロポーズは不許可だ、と思うアキの視線に耐えかね、
「ちょっと言ってみただけだろうが」
とぶつぶつ言いながら、王子は、ひとり頑張って運んでいた。




