私、異世界人なので
「では、品物を引き出すのなら、今までの預かり料をいただこう」
女神は唐突に、そんなことを言い出した。
なんだろう。
ますます銀行じみてきた。
いや、銀行は引き出すときにまとめて取られたりはしないが。
「おいくらですか?」
とアキは訊いてみる。
「そうだな。
大きめのクリスタルを箱二つに負けておいてやろう」
「このくらいの?」
とアキは小さな百均で売ってそうなギフトボックスサイズに手を動かしてみたが。
「このくらいの」
と女神はアンブリッジローズにもらった魔法の箱くらいのサイズを手で示す。
「法外だな」
と王子が言う。
「そうなんですか?」
この世界のクリスタルの価値がよくわからないが。
「大きなクリスタルに光を当てて、私の住処に飾りたいのだ」
と女神は言った。
「今持ってない」
と王子は女神に言う。
「国に帰って後からクリスタルを送ったのでどうだ?」
そう王子は提案したが、
「いや、クリスタルを受け取ったら入り口を開こう」
と女神は頑張る。
「王族のくせに結構踏み倒すヤツがいるんだ」
「……困ったな」
と王子たちはヒソヒソ小声で話している。
「一度城へ戻ってまた来ることになるのか。
そもそも、近くを通ったから取ってこいと言われただけなのに面倒くさいな」
……仕方がない、と呟いた王子は、
「アンブリッジローズ」
と女神を見ながらアキを呼んだ。
はい、とアキは前に進み出る。
両手を後ろに大きく振って、振りをつけた。
「秘儀っ! フリーズドライッ!」
と女神に向かって力を投げつける。
女神が慌てて飛んで逃げた。
どんっ、と水面に波紋が広がる。
「やめんかーっ」
と離れた場所に沈んで避けていたらしい女神が現れた。
水は少ないようだから、しゃがんでいたのだろうかと思うアキを女神が罵る。
「ドライされて、ババアになったらどうするっ」
いや、フリーズドライってそういう技じゃないんだが、と思ったとき、アキは気がついた。
「あれっ? 女神様、目が青いですよ。
さっきまで金色だったのに」
「いや、あれは、より女神っぽい感じにしようと思って金色に染めた薄いガラスを入れていたのだ」
と女神は言い出す。
カラコンのようなものか……?
まあ、コンタクトレンズの原理は、レオナルド・ダ・ヴィンチが考えていたと言うしな。
この世界のこの時代にあってもおかしくないか、と呑気に思うアキに、まだ身構えたまま女神は言った。
「……生き物に向けるな。
恐ろしい娘だな」
貴女、生き物なんですか……?
「それにしても、お前のその力。
何処から来ているのだ。
お前、何者だ?」
「ああ、私、異世界人なので」
「そうか。
なるほどな。
だが、異世界人だから、力が使えると言うものではないぞ」
「そうなんですか?」
とアキは女神に突っ込んで訊いてみた。




