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惑星迷子  作者: ふん
Season4
99/223

第二十四話

「手伝え」

 ラバドーラはルーカスと卓也を足りない人手に使おうとしたのだが、怠け者の二人がすぐに首を振ることはなかった。

 そこですぐにアイの姿を自身に投影すると、卓也には「手伝って」と甘えた声で言い、ルーカスには「どうせ役に立たないからついて来なくていいわよ」と突き放して言った。

 これで卓也は誘惑に負け、ルーカスは怒りに流されてラバドーラの手伝いをすることになる。

 かと言って、この二人に任せられることは限られている。主に荷物持ちか、機械が倒れないように支えることだ。

 ラバドーラが船外活動で外してきたものは、古いレーザーだ。

 ナガレモノを音で脅かすために、既に発射装置へと改造されているのだが、今回これをさらに改造する。

 難しいことをするわけではなく、出力を上げるだけだ。

 その為にやるのは機械の整備と、プログラムの書き換え。

 ラバドーラがアイの姿の投影を止めると、冷静になった卓也がようやく疑問に気づいた。

「これ、なんの為の装置なのさ。何を手伝ってるか全然知らないんだけど。知ってる?」

 卓也が首を傾げてルーカスを見るが、ルーカスも何も知らない。だが、首を傾げるのではなく、鼻から興味がないようにため息をついた。

「ポンコツが作るものなんぞ、私が知るわけもないだろう。だが、天才の私は見た目から察することが出来る。ズバリこれは巨大浣腸だな」

 ルーカスがレーザーを叩くと、ラバドーラが触るなと払い除けた。

「これはあのクソ野郎を恒星まで吹き飛ばすものだ。なんなら、ルーカスも一緒に飛ばしてやりたいくらいだ……」

「手伝ってやったというのに……私は非常に気分を害したぞ。糞をひねり出す巨大浣腸は二人で勝手に作りたまえ。私はそんなものに頼らなくても快便だ」

 ルーカスはやっていられないと、不機嫌な足音を鳴らして部屋から出ていってしまった。

「自分がひねり出したうんこだってことをもう忘れてるよ」卓也は肩をすくめると、今度はいい考えが浮かんだと手をぽんと打った。「そうだ! あのうんこの姿をルーカスに変えちゃえばいいんだ! そうすれば僕らの気も晴れる」

「そんな材料があるわけないだろう。ここはレストだぞ。ゴミ山のほうがまだ役立つものがある」

「一から作るわけじゃないよ。ラバドーラと同じ方法さ。体を白く塗って投影するんだ。安物のおもちゃのカメラでも十分だろう?」

 卓也の提案にラバドーラは呆れて肩をすくめた。この提案に反対というわけではない。だが、卓也の考えはあまりに安易すぎるからだ。

「ただ白ければいいというわけではない。それに、カメラと言っても映写機能が必要になる。それもルーメン数の高さや、解像度やそれに伴うルクスの減少など考えることは山ほどある。簡単に手を出せるような技術じゃないんだ」

 ラバドーラは目の前の卓也の姿を投影して見せた。まるで鏡のように瓜二つだが、背景は後部に着いたカメラの映像がリアルタイムに合成されているので、鏡ではないことを証明している。

 これを利用して体の全てに背景を映し出せば、ラバドーラは透明化することも出来る。

「うーん……やっぱり僕っていい男……宇宙一セクシーなだけはある」卓也は映し出された自分の姿に惚れ惚れしてポーズを取ると「でも、投影するのはルーカスだよ。解像度が低くてもたいして変わらないって。少しくらい潰れたほうがまだ見れる顔になるよ」と半ば本気に笑ってみせた。

「……確かに。変わりだとしても、気が晴れるかもな」

 ラバドーラはレーザをいじる手を止めると、クソ野郎の元へ行くと言い出した。

「え? 本気なの?」

「オマエが言い出したことだろ」

「僕が驚いてるのは人間みたいなことをするなって思ったの。ラバドーラもルーカスに取り込まれて、人間に近付いてるんじゃないの? それでもいいけどさ。取り込まれる時は……僕の姿になるのだけはやめてよね」

「アホなことを言うな。取り込まれることなどありえない」

 ラバドーラは冗談にもならないと、怒りに発熱しながら部屋を出ていった。



 クソ野郎はまだ通路の影に隠れており、卓也とラバドーラに投影機能を付けないかと提案されると「ルーカスの姿に?」と疑問の声を上げた。

「そうそう。うんこの姿ってのは、どこに出ても失礼だよ。それが軽蔑か怒りになるかはわからないけど、ハグしたくなるような姿ではないのは確実。体を白く塗ったら、白蛇に間違える人は出てくるかも知れない。排泄物か生物か。悩む必要はないと思うけど」

「それに……ルーカスはクソ野郎という愛称がぴったりの姿だ」

 卓也がいいことを言うとハイタッチを構えると、ラバドーラはその手に手を合わせて心地良い音を響かせた。

「少なくとも、白い体の方が人前に出るのに困らないな。よし、やってみたまえ!」

 クソ野郎は意を決して通路の影から姿をあらわそうとしたのだが、卓也が慌てて大声を出して止めた。

「ちょっと待った! 僕も人間!! 人前に出るのはまだ困っててよ!!」

 卓也はルーカスのうんこの姿を見るのは二度とごめんだと思っていたが、ラバドーラは違った。

 排泄機能が備わっていないアンドロイドなので、排泄物と言われてもピンとこないのだ。気になるのはルーカスの声色をしていることくらいだった。

「まったく……」

 ラバドーラは通路の影に隠れた卓也に呆れると、影から通路に出てきたクソ野郎に近付いていった。

 しばらくして、体を白く塗り終えたクソ野郎がラバドーラと一緒に出てきた。

 卓也はその姿に「うん……これなら大丈夫。まぁ、バリウムを飲んだ後のに見えなくもないけど……」とまだ少し葛藤していた。

「人間の排泄物とは、皆こんな形をしているのかね?」

 クソ野郎は気絶しない卓也を見て、なにがそんなに変わったのかと不思議に思っていた。

「想像させないで……。早く忘れるためにも、別の姿を投影してよ」

 卓也は手で目を覆いながら、詳しくは形容したくないうんこの形から目をそらした。

 色が変わったとしても、一度ついたイメージのせいで、うんこはうんこに変わりなかった。

「しょうがない……」ラバドーラが合図をすると、クソ野郎は床の模様を体に投影させた。

「わお、結構画質がいいじゃん」

「おもちゃの中にも使えるカメラがあったからな」

「ルーカスにはもったいない画質だよ。まぁ、そのほうが面白いからいいや」

 卓也達はさっそくルーカスの姿を撮りに向かった。



「アホかね……」

 ルーカスの第一声は否定だった。

「ルーカスならぴったりでしょ」

「私がこの世にひねり出してやったのに、姿まで奪うつもりかね? 少なからず私の栄養を持っていったのだぞ。盗っ人猛々しいにも程がある。姿の次はなんだ? 私の優秀な脳みそまで奪うつもりかね?」

 ルーカスは爪の垢すらも分け与えるつもりはないと、椅子にふんぞり返った。

「ルーカス……。普通に考えてAIの方が頭がいいんだから、脳なんか奪うわけ無いだろう」

「いいや、狙っているぞ。私は極秘の組織から常に狙われているのだ……」

「……どこからさ」

「極秘だと言っただろう。名前を知っていたら極秘ではないではないか」

「わかったよ……僕が言い方を変えるよ。――宇宙服で単独遊泳に成功。話題になると思うけどな」

 卓也が餌をチラつかせると、明らかにルーカスの表情が変わった。だが、まだ食いつかない。

「私をバカだと思っているのかね? いくらなんでも都合の良い展開過ぎる。見え見えだ。ハゲ頭の地肌より見えている」

「だって、ルーカスの姿を投影してるんだよ。もし発見されたら、讃えられるのはルーカスってこと。それが地球の宇宙船でも、他の惑星の宇宙船でもね」

 卓也の都合の良い説明に、ルーカスは餌を突き始めた。

「ふむ……ハゲもカツラをかぶれば、肌色は見えなくなる……。それが精巧であれば精巧であるほど体の一部になる。つまり、私そっくりの姿をしたものの栄光は、私のものでもあると」

「それにルーカスのフリをしてもらえばいい。言わば影武者ってやつ。遥か昔の殿様には皆影武者がいたんだよ」

 卓也がコマセを巻いたことにより、ルーカスは一気に餌へと食いつきを見せた。針はしっかり食い込み、釣り上げてと暴れだしている。

「殿というのは王だ。私にふさわしいということだ。そこの壁。許可してやる。思う存分この私を真似るがよい」

 ルーカスは壁の映像を投影しているクソ野郎に向かってポーズをとった。

 腕を組み、ふんぞり返る。如何にもな偉そうなポーズだ。

「まぁ、それでいいなら……私は拒む理由はない」

 クソ野郎はルーカスを中心に一周すると、頭と靴の裏まで撮影した。

 そして、それをさっそく自身に投影してみせた。

「今にも嫌なことをいいそうな口元、ストーカーみたいな粘着的な目、自分の悪口を聞き逃さない耳。そして、それが全て正しいことだと勘違いしている態度。間違いなくルーカスだね」

 卓也はお見事だと拍手を響かせた。

 ルーカスは不服そうに「どこがだね……」と睨みつけた。「目の前にいるのはチビだぞ。君より小さいというのはどういうことかね」

 ルーカスの身長は百九十センチあり、クソ野郎の姿をその高さまで積み上げるには部品が足りなかった。無理やりルーカスの身長に近づけるとなると、今度は棒のように細くするしかない。

「なんなら今すぐ縮めてやるぞ。伸ばすより簡単だ。叩き潰すのと、切り落とすのとどっちがいい?」

 もう既にルーカスの映像は記録したので、もうルーカスの機嫌をうかがう必要もないと、ラバドーラは強気に出た。

「遠近法だとしても無理がある大きさではないか。私は認めんぞ。人を見下ろしてこその私だ」

「見下してこそのだろう? 僕は優越感。ルーカスに唯一負けてたところがなくなったんだからね」

 卓也はクソ野郎の隣に立つと、満面の笑みでピースサインをした。

「なにをしているんだ」

 ここでやることは終えたと、ラバドーラがクソ野郎を連れて行こうとするが、卓也はまだ終わってないと、隣の部屋からタブレット端末を持ってきた。

「せっかくだから写真に収めてよ。ルーカスより背が高くなった僕を」

 卓也はもう一度クソ野郎の隣に立つと、先程と同じく満面の笑みでピースサインをした。

 タブレット端末を渡されたラバドーラは「無理だ」と一言言った。

「いいんだよ。ルーカスになんか気を使わなくても、なんなら一緒に写る?」

「タブレット端末のカメラをそいつに使ったからな。レストにある二つともカメラを抜かせてもらった」

 卓也は「うそ!!」と、ラバドーラからタブレット端末をひったくってカメラを起動してみるが、エラーと出てアプリケーションは開けなかった。「こんなのって酷いよ! 僕の姿を待ってる女の子は銀河にたくさんいるんだぞ!」

「おもちゃのカメラを使えと言ったのはそっちだろ。安心しろ。使えないのはカメラだけ。他は元通り直しておいてやった」

「良いカメラこそ、良い端末の証拠なの。地球はそうやって端末を売ってきたんだから」

「なら、地球に戻った時には、端末ではなく良いカメラに通信機能をつけろ」

 ラバドーラはクソ野郎を発射装置に乗せるために去っていった。



 それから更に時間が経ち、触手を玉結びにされていたデフォルトは、ようやく操縦室にいるラバドーラを見つけた。

 短い触手を高速に動かして駆け寄ると、逃さないと短いままの触手でしっかり腕を掴んだ。

「見つけましたよ!!」というのと、レーザーが発射されたと表示が浮かび上がるのは同時だった。

「間に合ったか。丁度いいところだぞ」

 ラバドーラはモニターを指した。そこには打ち出されたばかりの宇宙服。それに身を包んでいるのはルーカスだった。

 思いもしなかった展開に、デフォルトは「ルーカス様!」と大声を上げた。

「私は老人ではない。そんな声を出さなくても聞こえている」

 打ち出されたはずのルーカスは、耳を手で塞いで壁に寄りかかっていた。

「今確かにルーカス様の姿を確認したのですが……」

「そうとも、あれは私だ。私はここにいながら前人未到のことをやってのけるのだ」

 意味がわからないという顔をするデフォルトに、卓也が今までのことを説明した。

 宇宙服に身を包んでいたのはクソ野郎だと知って安心したデフォルトだが、デフォルトはもう一つ二人が知らない情報をラバドーラから聞いていた。

「あの、宇宙服は恒星に向けて発射されたのですが」

「知っている。見ればわかるだろう。一直線だ」

 ルーカスはモニターに映る恒星を指して言った。

「ラバドーラさんは、恒星にぶつけて消そうとしているのですよ。そのために発射装置を更に改造しているはずです」

 ルーカスは「何のために」と余裕で笑ってみせたが、卓也がそれもそうかという納得の顔をしたので、ラバドーラに「本当かね!?」と詰め寄った。

「待て、今が良いところなんだ。ほら、軌道に乗ったぞ。もう少しでルーカスが恒星に飲み込まれる」

「止まれ! 止まるのだ! 私の栄光はどうなるのかね!」

 卓也は「諦めなよルーカス」と肩を掴んだ。「その栄光も、もし他の宇宙船に見つかったらっていう微々たる確率しかないんだから」

「宝くじは買うから当たるのだ。女だって、声をかけるからなびくのだ。そうではないのかね?」

「ルーカスにしてはまともなことを。でも、もう無理。手遅れさ。一緒にルーカスが消えていくのを見ようよ。きっとすっきりするよ」

「私が恒星に飲み込まれるのにか!?」

 ルーカスが声を荒らげた瞬間。ラバドーラがおかしいと呟いた。

「速度が上がっている。計算外だ……なにが起こっているんだ」

 ラバドーラは珍しく慌ててモニターを食い入って見ていた。

「どんどんスピードは上がっていますね。このままでは光速を超えそうです。エネルギーもおかしな数値を出していますよ」

「これじゃあまるで重力崩壊だ。ブラックホールが出来るようなエネルギーだぞ……」

 ラバドーラの言葉に全員が息を飲むが、映像から宇宙服の姿が消えると、レーダーに映る数値も平常なものに戻っていた。

「なにが起こったんだ……」

「ラバドーラさんが余計なことをするから、なにか化学変化起きたのでは?」

「私の計算が狂うはずないだろ。狂ったのはこいつら関連くらいのことだ」

 ラバドーラはルーカスと卓也の姿を見てから、もう一度何も映っていないモニターを見た。

 もしかしたら、ルーカスの体内にいたことが影響して、クソ野郎になにかが起こったのかも知れないと。






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