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惑星迷子  作者: ふん
Season4
79/223

第四話

 パーティーの始まりは退屈なものだった。形式張った堅苦しいセレモニーが長々と続いたからだ。最初はニコニコしていたルーカスと卓也だが、十分も経つと飽き飽きしてボーッとしていた。

 用意された食事は軽食だけ、あるのは水。目の前にはご馳走とお酒が並んでると言うのに、長々と惑星の歴史を話しているせいで取りにいけない。

 デフォルトにこういう場は大人しくしていないと、惑星違法行為に引っかかり、罰則を受ける可能性があると説明されていなければ、ルーカスはすぐにでも話を中断させて料理を取りに行っていただろう。今は窓から通り雨を眺めるように、ただ音を聞き、あてもなく視線を前に向けるしかできなかった。

 卓也も同じように視線を前に向けているが、視線の先では女の子を探している。

 惑星ドヴァでは男も女も青い肌をしており、体に香油を塗って光沢をもたせるのが正装だ。服は出迎えの時と変わらずに、布に穴を開けて被ったようなものだが、白の服から別の白の服へと変わっていた。

 これは屋外では白い服を着て、屋内では別の白い服を着るという文化からだ。というのを、デフォルトに小さな声で教えてもらっていた。

 卓也の目当ては、ドヴァにいるはずの『アネンダ・デルルルカルド=ポニッシュ』だ。だが、彼女の姿は見つからなかった。

 デフォルトは正しい惑星交流の為、失礼のないように話を耳に傾けているのだが、途中で卓也に色々聞かれるせいで集中力を欠いてしまっていた。

 食事が始まると、ルーカスと卓也は脇目も振らずに群衆の中へと駆けていった。

「皆さん元気ですね」と世話役に言われたデフォルトは恥ずかしそうに「騒がしくてすいません……」と頭を下げた。

「謝らないでください。先程の話通り、ドヴァでは嬉しい時や楽しい時は、過剰に感情を表出すのが普通のことなのですから」

「そうでしたね」とデフォルトは頷いた。実際には話を聞き逃してしまっていたが、聞き返すのも失礼かと思ったからだ。

「デフォルト様は感情を出すのが苦手なご様子。どうかご無理をなさらないよう楽しんでください」

「助かります。自分は惑星交流をあまりしない、宇宙船生まれの星人だったもので……」

「それはそれは、どういった経緯で地球人のお二人と一緒に興味がありますな。よろしければ、食事とともにお聞かせ願えませんか?」

 相変わらずラバドーラの存在が消えてしまっているのに違和感は残るが、このまま突っ立っていてもしょうがないと、デフォルトは案内役の後をついて、数人が取り囲むテーブルへと向かった。

 その横のテーブルでは、ルーカスが大風呂敷を広げているところだった。

 ルーカスを絶賛する者もいれば、眉をひそめる者もいる。

 都合よく首を縦に振るだけではないので、ルーカスは声を大きく反論して味方する方を盛り上げていた。一見討論に熱が入っているように見えるが、話の内容はどれだけ自分は地球人として凄いかの一点だけで、地球のことを詳しくないドヴァ星人が突っ込める箇所は少ない。

 Dドライブからの地球の知識だけで、ルーカスとやり合うのにも限界があるので、結局は言ったもの勝ちでルーカスが優位になっている。

 仲間も敵もいることでバランスが取られており、いつのものようにルーカスが暴走することはないだろうと、耳を傾けながらデフォルトは安心した。

 だが、こういう状況で心配になるのはもう一人のほうだ。宇宙一セクシーな男という都合の良い立場を持った卓也が大人しくしているはずもなく、様子が気になって辺りを見回すが姿は見えない。背が小さいので人影に隠れてしまうというのもあるが、デフォルトの周りにも人が挨拶だけでもと集まってくるので、遠くの状況を把握するのは困難だった。

 卓也は心配されているなどつゆ知らず、気ままに女性と話していた。

「へぇ……じゃあここにいるのは、みんな権威ある人なの?」

「そうよ。政治家とか、学者とか、パイロットとか、惑星交流の専門家とか。各界の著名人も多くいるわね」

「わお……僕そういう肩書に弱いんだ」

 卓也はうっとりと目を細めた。

「あらそうなの?」

「女医とか、女性警官とか、見るだけでドキドキしちゃう」

「どうやら弱いのは制服にみたいね……」

「そんなことないよ。スーツ姿も好きだし、エプロン姿も好き。なんなら、なにも着てなくてもいいくらいだ。もちろん君の服も素敵だよ」

 卓也はドヴァの伝統服を褒め称えた。正直に言うと、地球の派手な装いとは違い、シンプルで機能性だけを追求した服に、言葉を重ねることは難しいのだが、自分でも驚くほどにペラペラと思ってもいないことが次々と口から出ていた。

「驚いたわ。他の惑星の人は、一言二言褒めて終わりなのに」

「僕はその他の男と一緒にするなんて……そうか、まだ僕のお尻を見せていなかったね」

 卓也は背を向けると、小刻みにおしりを振って見せた。

「知ってるわよ。そのキュートなお尻の持ち主が、宇宙一セクシーな男だってことは」

 彼女の反応が思っていたよりも悪いので、卓也はもう一度お尻を振った。

「やっぱり……脱いでみせたほうがいい?」

 女性は「それも面白そうだけど」と笑った。「私はただのつなぎ。ドヴァにもいるのよ、宇宙一のセクシーさんが」

「それって――」と卓也が固まると、他のドヴァ星人とは違う。派手な装いをした女性がやってきた。

 氷河を思わせる神秘的な青白い肌。彼女が着ている真っ白なポンチョはまるで雪原だ。重ねて首にかけられたチェーンネックレスは水のように透明で、青い肌を透かしてグラデーションを作っていた。

 今まで卓也と話していた女性と会釈をして入れ替わると、小さな咳払いを響かせた。

「それで、私はそのキュートなお尻に話しかければいいの? それとも、よだれを垂らしてる顔?」

 卓也は姿勢を直すと、感激だと胸に手を置いた。

「良かったよ……お尻からよだれが垂れてないで……卓也だ」

「アネンダ・デルルルカルド=ポニッシュよ。アネンダでいいわ。それで……それはどういうつもり?」

 アネンダは両手を広げて待ち構える卓也を指して首を傾げた。

「なにって地球の挨拶だよ。ハグっていうの。疑ってるなら、他の子をハグして証明したいけど。君を目の前にしたら、もうそれはできないよ」

「まぁ、いいわ」とアネンダは卓也を優しく抱きしめた。「ドヴァにいらっしゃい。あなたの相手が出来て光栄よ、宇宙一セクシーな男さん」

「僕も光栄だよ。さっきの長話の時いくら探してもいないから、てっきり来ないものだと思ってたよ」

「理由があるのよ。見て、これ」

 アネンダは不服表情をあらわにすると、タブレット端末を取り出し卓也の前でホログラムを起動させた。

 映し出されたのは、Dドライブ発刊の『裸の王様』の最新号だ。記事には『卓也とアネンダの密会』という見出しで、二人きりで食事をしている合成写真が載せられていた。

「わお、アネンダ。君は写真より綺麗だよ。良い記事じゃん」

「ありがとう。でも、私はあまりに適当な記事だからムカついているのよ」

「なら僕もムカついてる。君のためのなら意見もコロコロ変えちゃう。なんて最悪な記事だ。ゴシップなんてろくなもんじゃないね」

「本当そうよね。でも、ムカついててもしょうがないのよ。雑誌に載るってのはこういうことだから。だから、どうせなら記事を本当にしようと思って、着飾ってきたら遅れちゃったのよ」

「えぇ……」と今度は卓也が不服な表情を浮かべて口をとがらせると、タブレット端末を操作し始めた。「ちょっと待って、雑誌を見直すから」

「あら、私じゃ不服なの?」

「不服なのは内容。どっかにベッドを共にした書いてない?」

「書いてないわ」

 アネンダがきっぱり言うと、卓也はわかりやすくしゅんと肩を落とした。

「そう……」

「だって……とても雑誌に書けるような内容じゃないもの。さぁ、ご飯を食べに行きましょ。良い店知ってるの。ここにいても、堅苦しい挨拶が続くだけよ」

 アネンダが手をとって歩き出すと、卓也は「わお……ゴシップって最高」とタブレット端末を強く握りしめた。



 卓也だけではなく、ルーカスも有頂天になり、デフォルトも多少浮足立っているころ。ラバドーラは外に出て、気ままに会場近くを歩いていた。

 目当ては、移動手段である乗り物のエネルギーの拝借だったのだが、どれも燃料は空だった。だが、会場に無駄な電気がついているということは、エネルギー不足ではないはずだ。

 電気エネルギーしか使われていないなら、太ももについている燃料タンクを、充電式に改造したほうが良いのかも知れない。レストでの充電は困難になるが、この惑星で最大値まで充電しておけば相当バッテリーは保つはずだ。

 ラバドーラは飛行車やレールカーなどの乗り物をいくつか壊すと、バッテリーを取り出して、どれが一番容量があってコンパクトかを比べた。それだけじゃ飽き足らず、起動停止中の警備ロボットを破壊して同じことをした。

 これだけ大胆に動いているのに、駆けつけてくる警備はまったくラバドーラを認識しないで犯人探しをしている。

 試しに真横で警備ロボを壊してみるが、警備は急になにかが爆発を起こしたと報告していた。

 乗り物や警備ロボを見ると、技術はありそうな惑星なのになんてマヌケな知的生命体なのだろうと思いながらも、都合が良いとラバドーラは堂々と自身の改造を始めた。時間がかかっても問題がないので、どうせならデュアルバッテリーにしてやろうと、太もものカバーを開けて設計図を思い描いていると、ドヴァの警備員が二人。ラバドーラの横で休憩を取り出した。

「オマエだったら誰がいい? デフォルトか? 卓也か? ルーカスか?」

「オレならルーカスかな。背が高いと勝手が良い」

 ルーカスの名前が出てきたので、趣味が悪いとラバドーラは鼻で笑ったが、やはり気付かれることはなかった。

「でも、デフォルトの触手は役に立ちそうだぞ。何本もあるし、どれもが器用に動いているんだ。あれなら宇宙船の操縦も楽々だろう。でも、卓也の背の低さもいい。燃費が良さそうだ」

「卓也はアネンダの物だから手を出したら怒られるぞ。そう決まっているんだからな。でも、使い勝手が良さそうで羨ましい」

 ラバドーラは肩をすくめた。警備員の声は男。宇宙で同性愛など珍しくもなんともないが、まるで卓也やルーカスを狙っているような会話なので変に感じたのだ。狙っているというのは、恋愛や性的にではなく能力としてだ。

 そして次の瞬間、なぜそのような会話をしていたか明らかになった。

 ハエのように小さな生物が二人の会話に割って入ってきたからだ。

「ルーカスの体かデフォルトの体。どちらかを選ぶ権利があるのはこの私だ」

 警備の男は「わかってるよ」と、ごく当たり前にハエと会話を始めた。「でも、もうずっとこの体だ。そろそろ取り替えたくもなる」

「その体さえないのが、今の私だ。もう何年もこの姿のままだ」

「より好みするからだろ。何度もチャンスはあったのによ。初めてを捨てるのが遅いと、だんだん手を付けられなくなるものだぞ。早めに初めてを済ませないと」

「より好みじゃない。理想が高いんだ。これからしっかり確認するつもりだが……いまいちピンとこない……」

「それをより好みっていうんだ。まぁ、向こうに選ぶ権利ってものがある。今年もそのままの姿かもな」

 警備の男が笑うと、もうひとりの警備の男も笑った。

 ラバドーラは「なるほど……」と、理解したと呟いた。

 この惑星の住人達の元の姿は、あのハエのような姿で、寄生型の知的生命体だということだ。このタイプの知的生命体は、体内の電気信号を利用して寄生する。

 その手段が主に性的行為だ。それも、普通よりも強い性衝動を持った行為が必要になる。

 脳の過敏化を起こすことにより、普通よりも多くのシナプスが出来てしまう。そのシナプスから電気信号が広がるため、強い欲求が起こる。まるで依存症のようになるということだ。

 そうして弱ったところに寄生するので、電気信号に不具合が生じる。同じような電気信号を持つものしか認識できなくなるということだ。

 なのでラバドーラのようなアンドロイドは目に映らない。

 専用に改造された飛行車や、爆発など強い熱を持ったエネルギーは認識できるが、監視カメラや警備ロボなどは起動しているのかしていないのかの確認も出来ないのだ。

 警備の男が集まったのも、ラバドーラに警備ロボが壊されたことにより、強い熱エネルギーが放出されたからだ。

 義理がないので、ルーカスと卓也がどうなろうと知ったことはないが、一応デフォルトにはこのことを知らせておいてやろうと、ラバドーラはバッテリーを繋いだだけで、太もものカバーをつけ直した。

 そして、堂々と警備男の前を歩いて会場へと向かった。

 






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