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惑星迷子  作者: ふん
Season2
27/223

第二話

 ルーカスと卓也が電気ショートさせ、大規模停電が起こる前。デフォルトは二人と一体以外の全員が集まる広場にいた。その場でスピーカーから流された放送は、連れてこられた時に看守から聞かされたものと同じだった。

 L型ポシタムのボスが収監されていることと、ボスの奪還のために襲撃されること。その迎撃のために囚人が駆り出されていること。

 新しい情報は、この惑星は全体を電磁シールドで覆われ、レーダーには別の惑星として捉えられるように擬態しているということだ。

 囚人にもレーザーガンが与えられたが、厳重な生体認証システムにより管理されており、管理者がプログラムを実行しなければ、撃つどころかホルダーから抜くことさえ出来ない。さらに、レーザーガンに何度も不自然に触れたり、返却に少しでも遅れれば、罪は何倍にも重くなる。

 その説明を受けたデフォルトは心底安堵した。ルーカスと卓也の二人がレーザーガンを持ったら、どうなるか予想ができない。

 正しくは予想が出来ないのは仮定だけで、結果は容易に予想できる。良くて悪い結果。悪くて最悪の結果。どう転んでも被害がでるのは避けられない。

 レーザーガンを暴発させるか、自身が暴走するか。などと、デフォルトが別の時間軸のことを考えていると名前が呼ばれた。

 デフォルトは返事をすると、名前を呼んだ看守の元へと走った。

 看守一人をリーダーとして、囚人が二十から三十人の小隊を組むことが決まり、分かれた先でさっそく話し合いが始まった。

「誘導ですか?」と質問するデフォルトに、リーダーが力強く頷いた。

「そうだ。もし電磁シールドの擬態に気付かれてしまったら、我らは強行突破を試みて突進して来るL型ポシタムの宇宙船に、北西のタワーから威嚇射撃を行う。こちらに注意が向いたところに、別の電磁シールドを展開し、空中停止させ拿捕する」そこまで言うと一旦間を開けて、リーダーは最後に「なるべくならな」と付け足した。

 捕獲するよりも、攻撃をしたほうがいいというのはここにいる全員がわかっていることだが、L型ポシタムが総動員でやってくるとは限らない。生きたまま捕獲できれば情報が引き出すことができる。アンドロイドからは無理だったとしても、無傷のまま宇宙船を拿捕できればそこから引き出せる。

 本来L型ポシタムとの対峙は、情報を集め万全の備えをしてから行われる予定だった。故意にボスを捕まえたと情報を流して一網打尽にするはずだったのだが、情報が漏洩したせいで準備不足のママ迎え撃つことになってしまった。

 まるで方舟を襲撃した時のようだと、デフォルトの胸中には懐かしさに似ているが、明確に違う感情が渦巻いていた。

 その得も言われぬ感情は、表情には笑みとしてあらわれていたらしく、隣りにいる囚人仲間に「なにを笑っているんだ?」と聞かれた。

 この男は『チャップネイズ・ナゲット』といい、地球に存在しているげっ歯類にとても似た風貌をしている。似ているのは風貌だけではなく体のサイズもで、とても小さな彼は特殊な透明な素材で作られた丸いシェルターに入っていて、いつもシャボン玉のようにぷかぷか浮かんでいた。

 体がとても弱く、未知の菌に抵抗力がまったくない彼の種族は、シャボン玉のようなシェルターが家であり、移動手段であり、宇宙船なのだ。

 なので本来はとても高機能なのだが、囚人ということもあってほとんどの機能が制限されている。使えるものといえば、浮遊機能と物を持ったりするハンド機能くらいだった。

 デフォルトはそんな彼に「いえ、なんでも……」と素っ気なく返した。

 しかし、ナゲットはそんなことは意に介さずに話を続けた。

「どうせ、あのバカ二人のことを考えてるんだろう? 良かったじゃないか、少しでも離れられて」

 当たらずとも遠からずのことを言われ、心を見透かされたような気がしてデフォルトは少しドキッとしてしまった。

「噂ほど悪い人達ではありませんよ」と、さり気なくフォローするデフォルトだが、ナゲットは鼻で笑うと後ろを向いて、シャボンシェルターの後ろを見せた。よく見慣れたルーカスの筆跡で『シャブネズミ』と書かれていた。

「これが噂か?」

 そう聞いてきたナゲットの表情は窺えないが、声には明らかな怒気が含まれていた。

 デフォルトがルーカスの代わりに謝罪の言葉を述べると、「べつにアンタに謝ってほしいわけじゃないよ」と振り返った。そして、デフォルト目を真っ直ぐな瞳で見て「不思議なのは、なんでデフォルトがあの二人といつも一緒にいるかだ。おかしいと思わないのか? 二人が好き勝手やって、割りを食うのはいつもアンタだ」

 これにはデフォルトにもフォローの言葉が出なかった。

 リーダーから「無駄話をするな」と注意をされたので、答える必要はなくなったのだが、そのせいでその言葉と浮かばない答えを何度も頭の隅で反芻することになってしまった。

 自分があの二人と一緒にいることの意味は?

 ここはレストのように限定された宇宙船内ではない。他の星人も多種多様に存在している。皆が皆囚人だとしても、全員が凶悪犯というわけでもない。自分が加わるべきコミュニティーは他にあるのではないか、惰性で二人と一緒にいるのではないか、仮に他のコミュニティーに加わるのならば、知り合った中の一人である、目の前に浮かんでいるナゲットはどうだろうか。などと考えているうちに、いつの間にか北西のタワーに移動していた。

 自分がどう歩いてきたのかも覚えていない。この非常時に余計なことを考えている暇はないと、気を取り直して空を見上げたときだった。宇宙空間に漂うゴミの塊を、磁石で適当にひと纏めにしたかのような不格好で不気味な宇宙船が、ものすごいスピードで急接近してきた。

 偽装電磁シールドが突破されてしまったのだ。すぐさま指示されて、デフォルト達はレーザーガンを撃って誘導を始めた。

 L型ポシタムの宇宙船に傷一つつくことはなく、その船はゆっくり回転し北西のタワーに咆口を向けた。明らかに攻撃のための充填音が重く垂れ響くと、拿捕のための電磁シールドの展開を始めた。

 この電磁シールドは船を空中で停止される。電磁の壁に宇宙船を埋めるイメージだ。

 しかし、時間にしてわずか数秒。宇宙船は姿を消した。

 惑星全体が停電したのだ。

 数秒後。非常用電源が立ち上がった時には、空は見えなくなっていた。空は鉛色に染まり、幾筋もの白煙と黒煙が炎とともに舞い上がっていた。

 オイルの雨と瓦礫の雨が降り注ぎ、火炎の暴風が吹き荒れ、雷鳴が轟くような爆発音が鳴り止むことなく響く。

 その音の隙間を抜けて、デフォルトの耳には、無席に向かって怒鳴るような大声で「L型ポシタムの宇宙船の爆発を確認」というリーダの声と、雑音だらけの無線機から漏れ聞こえる「被害は電子系統のみ」という二つだった。

 すぐ通信は切られ、リーダーは振り返り「爆発の原因がわかる者はいるか」と聞いた。

 全員が首を横に振った。

 リーダーは難しい顔で頷くと「二次被害により道が塞がれた。我ら小隊が一番近い。よって発電システムの確認に向かう。はぐれずについてこい」と先導した。



 L型ポシタムの宇宙船が爆発した時、卓也とルーカスはその衝撃によって壁に叩きつけられていた。

「なに今の!?」と卓也が驚きの声を上げると、ルーカスは冷たいため息を返した。

「私が知ると思うのかね? どこぞの巨大生物が屁をかましたとでも言えば満足か」

「だっておかしいだろう。まるで方舟が爆発した時みたいだ」

「おかしいのは君の頭だ」

「なにを怒ってるのさ」

「ナニが起こっていたら、もっと怒っている。早くグニグニと形を変えるアメーバーを私の太ももから離したまえ」

 爆発の衝撃で抱きつくような形になっていた二人は、お互いに眉をひそめて、道に落ちている絞りたてで、まだ湯気がでている犬の糞を見るような嫌な顔をしながら離れた。

「こんなところを見られたら、誤解されちゃうよ……」

 卓也がルーカスと密着していた部分を手で払いながら言ったその時だ。バタバタと忙しない足音が聞こえたと思ったら、すぐさまドアが開いた。

 周囲を確認して「これは何事だ!」と聞くリーダーの後ろでは、デフォルトがぽかんとした顔で全裸の二人を見ていた。

 ルーカスは全裸のまま敬礼すると、「襲われたのであります!」と真面目な顔で言った。

 卓也は「なにを……襲われたのは僕のほうだ」と、ため息まじりに口を挟んだ。

「私は銃を押し付けられたんだぞ。役に立たない銃ではあったがな」

「僕も押し付けられた。大して使い込んでない銃だったけどね」

 あーでもないこーでもないと言い合う二人を一括したリーダーは「要点だけ聞く。聞かれたら答えろ」と睨みつけた。

 ルーカスは媚びを売るために「はい」と気持ちのいい返事をし、卓也はふてくされたように頷いた。

「よし、二人を襲ったのはL型ポシタム。アンドロイドだったか?」

 リーダーの質問に二人はあからさまな疑問顔を浮かべた。それもそのはず、聞き慣れない言葉が耳に入ってきたからだ。

 しかし、卓也は「そ、そうです」と答えた。デフォルトがこの場では肯定するようにと、小さく頭を振って合図を送ってきていたからだ。

 それを聞いたルーカスはリーダーだけではなく、卓也にも疑問の顔を向けた。

 卓也は左の口端を痙攣しているかのように何度も横に引きつらせ、煙が出ている配線を指した。

 ようやく停電の原因がこれだということに気付いたルーカスは、「その通りであります! それも十体ものアンドロイドが、いっぺんに、同時に、殺気立って、私一人に向かって襲ってきたのであります」と調子良く返した。

 ルーカスが「私はそれをちぎっては投げちぎっては投げ」と説明をするが、リーダーはそれに耳を貸さず、卓也に状況説明を求めた。

「僕達が大人しく? 座っていたところに、えっと……アンドロイドが侵入してきて、液状の武器を使って攻撃をしてきました。その流れ弾が配線に当たり、電気ショートを起こしたもようです?」

 卓也はデフォルトの口パクに合わせて、なんとかつじつま合わせの言葉を口に出した。

「なぜ疑問形なんだ」

 リーダーはたどたどしい口調に怪しむが、卓也は「突然のことに混乱して」と平然と嘘をついた。

 リーダーが「そうか……」と水浸しの床を眺めているすきに、デフォルトに向かって「うまいもんだろう?」という笑みを浮かべた。

 卓也の笑みをナゲットが告げ口するが、卓也は神妙な表情を浮かべて「まだ気が動転してて……」と適当に返した。

「そうだろうな……」とリーダーは納得した。そして、卓也の顔からつま先まで視線を下ろすと「なぜを服を着ていない」と聞いた。

「脱がされたんです。変装して内部から破壊工作をするつもりだったらしいです。残念ながら取り逃がしました。すぐさま惑星探索をしたほうがよいかと」

 卓也は適当な嘘八百を並べてリーダー看守を部屋から追い出すと、パンツを拾い、指に引っ掛けて振り回しながらデフォルトに近付いた。

「どうだ。見事なもんだろ」

「……嘘に嘘を重ねたことですか?」

「いや、僕のナニが見事だろってこと。……冗談だよ。そう、嘘のこと。見事に誤魔化した。これでお咎めなし」

 卓也はパンツを履きながら言う。

「どうせすぐにバレる」と、ツバを吐くようにナゲットが言った。

「同じ囚人同士仲良くしようよ。看守は敵だろう? シャベルネズミ・ナゲット」

「チャップネイズだって言ってるだろう。ほら、見ろデフォルト。また尻拭いしなくちゃならなくなるぞ」

 ナゲットの同情の言葉はデフォルトには聞こえていなかった。デフォルトの興味は停電と、L型ポシタムの宇宙船の爆発の関係性だ。

 聞かずとも停電の原因はルーカスと卓也の二人だということはわかる。そして爆発のタイミング的に、この停電が無関係とは思えない。

 そこでデフォルトは一つの仮説を立てた。

 停電が起こったことにより、非常用電源が立ち上がるまでのラグが発生し、電磁シールドの距離がずれてしまった。

 壁に閉じ込めるはずが、真正面に壁にぶち当ててしまった。そして、それはラグによってL型ポシタムの宇宙船の攻撃開始のタイミングと重なってしまった。

 自らの攻撃が電磁シールドに反射されたことによって爆発してしまったのだ。

「聞いてるか?」というナゲットの言葉に、デフォルトは頷いた。

「目を離すと危ないからですかね……。よくもまぁ、短時間でこれだけ問題が……。自分が歯車の一部だと実感しますよ……」

 デフォルトの口ぶりはうんざりしたものだったが、口元には笑みが浮かんでいた。

「聞いてないじゃないか……」

 ナゲットは見当外れのデフォルトの言葉に呆れた。

「いいえ、答えました」

 デフォルトは納得のいく答えを見つけて満足していた。

 二人は自分を動かす歯車で、自分は二人を動かす歯車。もう欠けることのできない存在なのだ。

 そして、そう思ったことをすぐに後悔した。

 看守が去ったことにも気付かずに、虚言の劇の熱演を続けるルーカスの股間のモノが、大きく揺れて床に、振り子時計のような影を作っているのが見えたからだ。






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