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惑星迷子  作者: ふん
Season8
184/223

第九話

 一時間後。まだ帰ってこない卓也を不穏に思いつつも、デフォルトはせっかくの機会なので体を休めるために施設内をうろつくことにした。

 ラバドーラはじっとしてる方が休まるということなので、部屋でルーカスと共に充電をしている。

 デフォルトが部屋の外へ出ると、すぐにロボットが来て案内と説明を始めた。

 この惑星バルでは様々なものを癒す目的で動いている。それは生命体だけではなく、ラバドーラのように機械の体をしていても同じだ。

 様々なメンテナンス施設が存在しているので、自由に動き回って癒され帰っていく。

 そう説明されたデフォルトは、帰ったらラバドーラにもこのことを教えてあげようと思いながら、まずは自分の体を癒しに行くことにした。

 美味しくはないが栄養のある食事。不思議な機械で体をこねくり回され、今は体温と同じ温度の水溶液に浮かばされていた。

「これにはどんな意味が……」

 海に浮かぶビニール袋のようにデフォルトは何時間も浮いたままだった。

「浮かぶのはストレスが溜まっている証拠です。雑念があると、体が動きます。そうすると浮力が生まれる。そういった特殊な水溶液です。何も考えず、ただ沈んでいきましょう」

 ロボットに言われ、デフォルトは頭の片隅にある三人のことを一度忘れることにした。

 すぐには忘れることは出来なかったが。体が沈む感覚を掴むと、そのことに気を取られ、どんどん三人のことを忘れていった。

 それと比例するようにデフォルトの体は水溶液の中に沈んでいった。

 息苦しさはない。それどころか息をしていないことに気付いた。

 その一瞬の恐怖は体を動かすには十分すぎるものであり、デフォルトの体は一気に浮上した。

 必死に顔上げたデフォルトの聴覚器官に入ってきたのは、ロボットの「お疲れ様です」という無機質な声だった。

「死ぬところだったんですが……」

「それはないです。死が最上のリラックスなら別ですが。普通は二、三分で済むプログラムです。相当ストレスが溜まっていたようですね」

「そんな無茶苦茶な……」

 デフォルトは文句を言いながら水溶液から出たのだが、その時自分でも驚くほど体が軽くなっているのを感じた。

 触手の先と床が両面テープで貼られているだけ。剥がれたらそのまま浮かんでいってしまいそうだと思うほどだ。

「極上の時間は一分が一日にも感じるものです。宇宙ヨガの究極ですね。お手軽体験できる機械です……本来ならば」

 二、三分で終わるものが数時間かかったのは、デフォルトが考えすぎる性格のせいだ。

 だが、今の治療でコツを掴んだのか、デフォルトは考えるのをやめて次から次へと色々な治療を試した。

 結局帰ることにはフラフラになっていた。

 リラックスもしすぎると疲れると思いながら部屋へと戻ったデフォルトは、電気をつけることなくそのまま眠ってしまった。



 翌日。完全充電を終えたラバドーラは、深夜から施設を徘徊していた。

 部屋を出てすぐ案内ロボットがやってきた。

「必要ない」

「そうプログラミングされていますから。少しでも同じコードが使われているのならば、命令違反出来ないことはご存知だと思いますが」

「ロボットはここでも飼い犬か……」

 ラバドーラは吐き捨てるように言うと、ロボットの後をついていくことにした。

「言っておくが充電は済ませてあるぞ」

「お部屋の使用データはこちらにも反映されるので存じております。不備はございませんでしたか?」

「問題ない。それよりどこに案内するつもりだ?」

「見たところ。細部に汚れが溜まってるようなので、クリーニングしてはいかがでしょう。専門のスタッフもおりますが、道具もご自由に使えるのでご自身でクリーニングも可能です」

「それはいいな。うちの連中はどうにも図太くてな。細かいことに気付かない」

 定期的に機械の体のメンテナンスをしているラバドーラだったが、環境が過酷な過ごすことが多かったので、目に見えないところに砂利や埃などが溜まっていた。

「ボディの交換も行っておりますよ。材質によっては無料のものあるので、一度試してみるのをお勧めします」

「無料とは怖いな」

「宣伝ですよ。この惑星へ体を直しにくるアンドロイドは多いですから、ここに見本としていくつかパーツを置いていくんです。なので、ロゴは大きく書かれてしまっています」

「なるほど……見てみる価値はあるな。塗装などいくらでも消す方法がある」

「企業もそれを見越してでしょう。宣伝になれば正規の依頼でも、違法で目についたものでも同じですので。さあ、ここです。充電コードと放電コードだけ間違えないよう気をつけてください」

 ラバドーラは当たり前のことだと返事はせずに、早速クリーニングを始めた。

 ありがたいことに舗装部品まで揃っており、クリーニングと同時にメンテナスをすることも出来る。

 人間が体に血の巡りを感じるように、ラバドーラも全身に電気が巡るのを感じた。

 今まで不備で滞っていた電気が、問題いなく全身を巡るようになった。

 今まで騙し騙し直していたラバドーラのボディを、ようやく本格的に直すことが出来た。

 欲しい道具は言えばすぐに案内ロボットが用意してくれるのでストレスはゼロ。

 ラバドーラは時間を忘れて自分のメンテナンスにのめり込んでいった。

「うむ……悪くない。欲を言えばクッション性能が気になる」

 人間がするように屈伸を繰り返したラバドーラは、その後も様々な動きを繰り返して体の調子を確認した。

 異音は少なくなり、可動域も増えた。

 内側の異常はほぼ直し終え、次はロボットにボディを見せてもらいうため、ここから遠く離れた別の施設へ移動となった。

 施設から施設への移動は自動運転の乗り物が各種揃っており、空を飛ぶ、地に潜る、地面を走るなど様々だ。

 ラバドーラは普通の車に乗り込むと、ロボットは役目を終えたとお見送りだけした。

 この惑星は緑豊かな惑星だ。地球が水の惑星ならば、正真正銘緑の惑星がバルだ。

 雨季を繰り返すこの惑星はその都度植物を成長させる。自然豊かなこの惑星では有害物質も少ないので、文字通り雨季は恵みの雨となるのだった。

 植物は雨季の水を溜め込むためにとにかくでかい。

 地球と形が似ている植物もあるが、そのどれもが何十倍はするほどの大きさだ。

 ただの雑草が低木のように育っている風景を見ながら、ラバドーラはふと三人の存在を忘れていたのを思い出した。

 クリーニングに没頭していたのと、没頭できる空間があるせいだ。

 ラバドーラに地球人と同じようにストレスがあるのなら、間違いなく今はストレスフリーの状態だった。

 そんな良い気分で向かった先は、純白のボディが並ぶ施設だった。

 ここは主にアンドロイド用のパーツが置いてあるので、生命体はほとんどいない。

 ラバドーラは早速担当のアンドロイドと話し合いながらボディを眺めていた。

「これはダメだな。肩の可動域が狭まってしまう」

「おしゃれで人気なパーツなのですが。この丸みは生命体でも出せない究極の曲線ですよ」

「大事なのは機能性だ。オシャレに目覚めれば投影すればいいだけだ」

「映写機も新型が入っていますよ。新技術のライトによって影の調整が出来るので、よりリアルな投影が出来るとのことです。値段はしますが、ブラックホールの歪みにも負けない強いライトもあります」

「強いでは意味がない。完璧に防げなくてはな。だが――新技術は気になるな……どこにある」

「あちらですが。まずはボディから決めたほうがよろしいと思います」

「当然だ。でも、ライトも合わせる。買わなくとも見る価値はあるからな」

 ラバドーラのテンションは正月の福袋を買う気持ちと似ていた。

 とりあえず両手に何かを持っていたいと、買わずとも確保しておきたいという欲が出ているのだ。

 実際一人で技術に触れる時間がほとんどなかったラバドーラは、これがチャンスだと言わんばかりにいつもの自分を捨てて、この惑星を楽しんでいた。

 結局ライトを新品に替えることはできず、ボディも値段から良いものは買えなかったが、今までの不備は全て直したのと、少しの新しい機能にラバドーラはご満悦だった。

 普段使わない高エネルギー源を補充すると、他のアンドロイドやロボット達と楽しい時間を過ごしたのだった。



 そして、さらに翌日。

 無気力だった卓也は、のそりとベッドから起き上がった。

 この部屋のベッドも医療ベッドであり、ただ寝てるだけでも効果はあったのだ。

 しかし、目覚めても誰の姿もなかった。

「僕がカムバックしたのに誰もいないわけ? ……これは邪魔をしないという優しさなのでは?」

 卓也はフラフラの足で部屋のドアまで行くと、外の空気に混ざる女性の香りを敏感に感じ取っていた。

 寝たままだったので筋肉が上手いこと動かず、ロック解除のパネルを触ることさえできずにいた。

 デフォルトとラバドーラの名前を呼ぶが、二人は先にこの惑星を体験したことにより癒されモードに入っており、今日も朝早くから療養に出掛けていた。

「誰かー!」と卓也が駄々っ子のように床で手足をバタバタさせていると、異変を察知したロボットが様子を確認しに来た。

「大丈夫ですか?」

 ロボットがドアのロックを解除して部屋に入ってくると、卓也は露骨にテンションを下げた。

「大丈夫じゃない……ロボットじゃなくて女の子を呼んで……」

「生命反応は問題なし。寝たきりによる関節と筋肉の固まり。まずはマッサージから入ることをおすすめします」

「女の子シャツの中に入って、胸に顔を埋めて、匂いとぬくもりと香りに癒やさながら、今日からここが僕の部屋だって添い寝される治療はないの?」

 ロボットは卓也に問題がないことを確認すると、「なにかあれば呼び出しください」と反応もなく出ていった。

「冷たいロボットだ……。そもそもここはどこなんだ?」

 卓也は部屋を見回すが、全く覚えがない。

 勝手に連れてこられて勝手に寝かされてので当然のことだ。

 だが、目覚めたら当然はなくなる。

 全く怯むことなく、卓也はふらふらっと女の子を探しに出掛けたのだ。

 しかし、卓也の思い通りにはいかなかった。

 ここへは皆が療養を目的にきているので、目的もなく施設を歩いていることはないのだ。

 ふらふら散歩をしたければ、外の自然豊かな散歩コースがある。

 女性が歩いていたとしても、療養施設へ向かう途中なので卓也にはなびかない。

 そもそもリラックス状態で性欲は薄まっているので、ここでは出会いの優先順位は下から数えたほうが早いのだ。

 それでもめげずに声をかけ続けた卓也だったが、病み上がりとも言える状態で顔色も良くないので、誰も口車には乗らず、逆に心配され療養施設を案内されてしまった。

 案内された先は地球で言うお風呂だ。

 デフォルトが入っていた水溶液と似ているが、こっちは体をほぐすことを目的につくられた施設だ。

 卓也をここまで案内した女性は、周囲を全く気にせず服を脱ぐとお湯の中に入った。

「わお! 嬉しいハプニングだよ。天国ってどこにでもあるんだね」

「早く脱がないと、帰りはびしょ濡れで歩くことになるわよ」

 女性は脱いだ服をカプセルにしまうと、それを天井に放り投げた。

 天井ではまるで木の実のようにカプセルがいくつも張り付いていた。

 卓也も服を脱ぐと、すぐにカプセルが支給された。それに服を入れて投げると、まるで糸でもついているかのように天井に吸い付けられた。

「僕って天才? 今ならバスケットのプロプレイヤーになれそう」

「そう思うなら早く入ったほうがいいわ」

 女性が指したのは一人ぶんの浴槽だ。

 そして指された瞬間から、動き始めたのだ。

「待った! これなに? 新しいラブホテルのベッド機能?」

「これから、これに乗って茹でられにいくのよ。一時間コースだから長いわよ」

 卓也が連れてこられたのは、お湯の温度で体温を調節し老廃物を流すコースだ。

 これから様々な燃料で浴槽を温められる。直火や電気、特殊燃料など。温めるものにより、お湯の効能が変わる。

 顔色が悪かった卓也を心配して血色を良くしようと連れてこられたのだった。

 だが、卓也は隣で裸の女性がいる。その事実だけをフォーカスしていたので、コースが終わっても周りの人のようにリフレッシュした感じがしなかった。

 女性は顔色が良くなった卓也を置いて、自分の時間を作りにいったので、また一人になってしまった。

 まだここがどこか合点がいっていない卓也だったが、女性が存在しているとわかれば別だ。

 自分では気付かなかった軽くなった体を踊らせ、この施設周辺を探索することにした。

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