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惑星迷子  作者: ふん
Season7
160/223

第十話

 ここは惑星リック。

 トレト銀河とゴーニックモルトバイ銀河。それにボン銀河。この三つの銀河の連合本部がある惑星だ。

 スペースデブリが土星の輪のように広がっており、様々な技術を合法的に売買する場所だ。

 以前のように、VR世界の中でこそこそする必要はない。

 なぜ前回この手段を使わなかったかというと、ある程度の大きさのある宇宙船しか受け入れていないからだ。

 そして、レストはある方法を使って惑星リックへ到着していた。

「いいですか? くれぐれも大人しくですよ」

 デフォルトは毎度おなじみのセリフを、今回も期待通りの同じテンションで言った。

「僕はいつもおとなしい。女の子が騒ぐだけ」

 あっけからんとした卓也の態度に、デフォルトは少しだけ声のトーンを下げた。

「密入星ということを忘れないでくださいよ」

 密入星という不穏な言葉を自分で言っても慌てないのは、この惑星の一つの特徴を意味していた。

 この惑星は密入を歓迎しているのだ。

 それも一つの技術として受け入れられている。

 レストは大型宇宙船に磁力でくっつくことにより、宇宙船の一部として認識させるという古典的な方法で密入星をしていた。

「でも、密入星をしたことを知らしめないと。ただここにいる人になっちゃうよ」

「そのことなんですが……肝心の情報はジジさんから詳しく聞いていないんですよね……」

「ちょっと……不安になるようなこと言わないでよね……」

 卓也の不安というのは、これから何をしていいのかわからないことではなく、ジジが追ってくるかもしれないという不安だった。

 だが、ジジにとってこの惑星はメリットがない。小型の商船というのはレストと同じく、普通は入星出来ないからだ

「とにかくグループで移動するか、個人で移動するか決めましょう」

 デフォルトは振り返り、残りの二人に意見を聞こうと思ったのだが、ルーカスもラバドーラも勝手に個人行動を始めていた。

「個人で移動だね。僕もやることがあるから行くよ」

 卓也は女性と出会うチャンスだと浮き足立って通路を歩いていった。



「……なんでルーカスがいるわけ?」

 卓也は行列に並ぶルーカスの姿を見ると、睨みつけるようにその姿を確認した。

「順番待ちが出ているからに決まっているだろう。偉大なる私は流行に敏感なのだ」

「僕も同じ。流行には女の子が集まる。それってどういうことかわかる? 良い匂いがするってこと」

 卓也は順番を守ることなくルーカスの後ろに割って入ったのだが、そのことに触れるものは誰もいなかった。

 口汚い怒声も注意の言葉もなし。あまりに自然なので卓也も不審に思うことはなかった。

「見たまえ。この列の長さを」ルーカス前方に人差し指を向けた。長蛇の列は地平線の向こうまで続いている。「何かあるに違いない。この私を迎えるパーティーとかな」

「そんなのあるわけないだろう。でも……こんな列だったら全然苦にならないね」

 卓也は動き出した列の流れを感じながら言った。

 だが卓也は足は止まっていた。しかし進んでいないわけではない。道が勝手に進んでいるのだ。

 このシステム事態は珍しいことではないが、驚くべきはそのスピードだ。まるで乗り物に乗っているかのようなスピードで移動しているにも関わらず、髪のセットが乱れることもない。

 重力や引力が完璧に制御されている空間なのだ。

「私は不満しかない。いつまで待たせるつもりだね」

 ルーカスはもう一時間以上並んでいたような口振りだが、実際は十分も経っていなかった。

「さあね。これってそもそも何に並んでるだろう。ねぇ、何かわかる?」

 卓也は振り返ると、胴体だけ透明で、顔と手足だけが浮き出ているような星人に話しかけた。

「なにって面接だろう。この惑星の技術を盗んで帰れるって、それはもう他の惑星からこぞってやってきてるんだ」

「面接? それって仕事ってこと?」

「当然だろう。ここでの滞在条件は労働だって知らないのか?」

 ルーカスと卓也は労働という言葉を聞くと、これは良くないことが起こると顔を見合わせた。

 珍しく二人にしては機転が利き、すぐに列から離れようとしたのだが、ほんのわずかだけ判断が遅かった。

 大量のキャンセルが発生したかのように、あっという間に列が動き出したのだ。

 人の動きに流された二人。わけもわからないままバッジと制服を渡され着替え終えると、早速仕事内容の書かれたメモが送られてた。

 メモというのは制服に備え付けられた通信道具から確認することができ、二人は排泄物処理場の勤務ということになっていた。

「ちょっと……これってトイレ掃除と変わらないじゃん。なんで僕らはいつもここからスタートなの?」

「私が知るか。それにここはトイレではない。排泄物処理場。つまりトイレの王様みたいなものだ。出世したと言っても過言ではない」

「箱舟のトイレ掃除係から、知らない惑星の排泄物処理場の仕事ね。それもこっちは望んでもいない仕事だぞ」

 ルーカスと卓也は当然文句を言っていたのだが、全てコンピューターを通して指示が出されていたので、その文句を聞く者はいない。罰せられることはないのだ。

 かといって、ここで文句を言ったところで同じことだった。

 何も起こらない。

 同じように新しく排泄物処理場勤務になった者や、以前から働いている者などがせっせと働いているので、二人に反応する者は周りにいなかった。

「仕方がない……」とルーカスはため息をついた。

「まさか働くつもりか?」

「仕方がないだろう。それに見たまえ。給金が出ると書いてある」

 ルーカスはメモを拡大して空中に投影した。

 そこにはしっかり日払いと書かれていた。

「もしかして、ここってパラレルワールド? でも、僕はルーカスを見ても欲情しない……。つまり本物の世界だ」

 卓也はルーカスが真面目に働くと言いだしたので、絶対にありえないと何度も頬をつねった。

「なにを言っているのかね……慣れた仕事ではないか」

「トイレ掃除はね。でも、処理場の仕事だぞ」

「やることは同じだ」

 ルーカスが不敵に笑うと、卓也も意味がわかったと不敵に笑った。

「なるほど……僕らは僕らの仕事をすればいいというわけね。面白いじゃん」

 卓也は乗ったと手を差し出すと、ルーカスと固い握手を交わした。



 そして、数時間後。

「いやー、勉強になったなぁ」

「こんなところにジャイロセンサーが使われているとはな」

「でも仕事量がおっつかないぜ」

「そのために技術を使えってことだろう?」

 別グループの星人は談笑しながら、バッジをコンピュータにかざした。

 それが仕事終了の方法だとわかったルーカスと卓也も後をつづいて真似をした。

「そっちはどうだった?」と話しかけられると、ルーカスは肩をすくめた。

「どうもこうのこの通りだ」

 ルーカスは楽勝だと言いたかったのだが、星人はそうは受け取らなかった。

「やっぱりキツイよな。そんな顔にもなる」

 話が通じないとルーカスは困って卓也を見た。

「寝てたから顔が腫れてるんだよ」と卓也は小声で伝えた。

 ルーカスと卓也が今日やった仕事といえば、サボり場を見つけるというものだった。

 当然そんな仕事内容はないが、ここでは処理場に勤務と言われただけで細やかな仕事内容の指示はない。全員が自分で仕事を見つけることが前提のシステムだからだ。

 この惑星に来る星人は向上心の塊みたいな星人ばかりなので、まさか仕事をサボる者が現れるとは思ってもみなかったのだ。

 普通はどんな仕事場に配属されても、他惑星の技術や思考に触れられるので勉強になって終わるのだが、この二人がそんなことを思うことはなかった。

 他の星人達に「明日も頑張ろうぜ」と声をかけられて別れた二人は、とりあえずデフォルトとラバドーラを探す予定だったのだが、給金は仕事終了と共に支払われることを思い出してしまったせいで、すっかり思考転換して買い物へ行ってしまったのだ。

「見て、地球のみかんにそっくり。でも、剥くと中はパインで、食べると豚の脂身! ……まず」

 卓也はトレイをテーブルの端へ寄せた。

「まったく……難儀な惑星だ」

 ルーカスがため息をついたのは、この惑星にいる星人の誰とも話が合わないからだ。

 今食べている料理を頼むにも三十分かかってしまった。

「それはルーカスが粘るからだろう。宇宙に納豆なんてものはないの。あるのは地球だけ」

「いつもそれだ。高度な技術。高度な文明。偉そうに旗を掲げているわりに、納豆一つ作れんとはな……」

「僕は納豆がないのは大賛成。知ってる? 食事に納豆が出たら、その日はベッドでにゃんにゃんワオーンはなしって意味だって」

 卓也とルーカスが下世話な話をしてると、デフォルトとラバドーラがやってきた。

「探しましたよ……お二人とも」

「仕事をしてたんだ。僕らのせいじゃない。聞いてよ!」

 卓也は文句を言い始めたのだが、デフォルトは驚いていた。

 卓也が働いていたことに対してではない、自分も強制的に仕事を振り分けられ、先ほどまで仕事をしていたらからだ。

 それはラバドーラも同じだった。

 この惑星の滞在条件は労働。というのは、デフォルトも他の星人から話を聞いていたので、どこかで三人とも働いているのはわかったのだが、驚いたのはその仕事内容だ。

 デフォルトは情報処理系。ラバドーラは機械整備と得意な仕事へ振り分けられていたのだ。

「おそらくですが……コンピューターが適切な仕事を振り分けたのではないでしょうか?」

「私にはトイレ掃除がお似合いということかね?」

 ルーカスはバカにされたと思い不機嫌になった。

「いいえ! ただ以前にトイレに関わる仕事をいくつかしていたので、それを加味されたのかと思います」

「私には排泄処理場がお似合いということかね」

「いえ……でも、この話はやめにしましょう」

 万が一ルーカスに合った仕事は何かと聞かれた場合。デフォルトには適切な言葉が重い浮かびそうにもなかったので、早々に話を打ち切った。

「まあ、以前のように監獄惑星で管理されているわけでも、悪の組織にいるわけでもない。むしろ子守りの心配がなくなって、私達は助かるくらいだ」

「ですが……目の届かないところで二人が働くというのは」

「いいかげん過保護はやめたらどうだ? 今日働いみてどうだった?」

「幸せでした! まさか宇宙技術がこんなに進化してだなんて」宇宙に造形が深いデフォルトは、今日の数時間の労働だけでも、この惑星に来た価値はあると興奮していた。

「なら、二人のことは任せるんだ。託児所だと思えばいい」

 ラバドーラもこの惑星に集まる技術に興奮気味だった。二人のことを無視出来るのならば、こんに自分を向上させる場所はないと。

「そうしましょう」

 デフォルトは強く触手を握った。

「ちょっと……僕らのことは無視?」

「そういうわけではないですが……。これはせっかくのチャンスなんですよ。どの道しばらく滞在する必要があります。上手くいけばここでレストで改造が出来るかもしれませんよ。それまで資金を集めながら自己を磨きましょう!!」

 デフォルトの言葉はラバドーラだけに響いていた。

「労働は少なければ少ないほどいいんだぞ」

 卓也は勘弁してよと項垂れた。

 今日サボり場を見つけたのは、ただの暇つぶしだった。

 デフォルトとラバドーラの二人と会えば、強制労働は不審なので帰ろうという話になると思っていたので、まさか長く滞在するとは思っていなかったのだ。

「この惑星の排泄物処理場はそんなに過酷な労働なんですか?」

 デフォルトの見透かしたような瞳に、卓也は思わず「そんなことないけど……」と正直に呟いてしまった。

「なら決定ですね! ワクワクしてきました! 毎日。この時間にここで集まりましょう! それで、今日一日どれだけ勉強になったか報告会をするんです!!」

 デフォルトは初めて全員で一緒にレベルアップが出来ると、テンションが上がっていた。

 その豹変ぶりはルーカスでも止められないほどだった。

 ただ、明日の労働を考えてため息だけがこぼれ出た。






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