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惑星迷子  作者: ふん
Season7
159/223

第九話

「難しいですね……」

 デフォルトは触手で頭をかきながら言った。

「だが、制御するには必要だ」

「ですが、レストのコンピューターでは計算不可能です。丸ごと取り替えませんと……」

 現在レストはエンジンを停止させ、磁力によるオートパイロットを使っている。

 今は磁力船としての性能を確認中だ。

 磁場はシールドに使え、さらに電波妨害でステルス状態にもなれる。

 だが、それは普通以上の宇宙船の場合だ。

 磁場コントロールには多大な計算が必要になり、今のレストでは新幹線程度のスピードで宇宙を進むのが精一杯だ。

 今のままでは本当に最悪の状況でしか、磁場を利用することができないのだった。

 デフォルトとラバドーラの話し合いは、ずっと「だが」と「ですが」を枕詞にしているので終わりはなかった。

「コンピューターがダメなら、乗ってるやつの頭脳を進化させればいいだろう」

 ラバドーラはイライラしながら言った。答えに結びつきそうで離れていくので、すっかりショート寸前だった。

「あのお二人を教育する根性と寛容性があるのならば、全面的に協力しますが」

 デフォルトはルーカスと卓也の力を頭数に数えるのは諦めていたが、ラバドーラはどうにか出来ないかと思っていた。

 だがそれも、のんきな会話が聞こえてくるまでの話だ。

「だいたいさ、惑星のトップが何をするかわかってないだろう。なにを搾取し、なにを与えるかとか」

「簡単だ。国民の時間と金を奪い、ストレスを与えればいいんだろう?」

「……だね。僕にも出来そう。やあ、おはよう。まさかまた徹夜したの? 他の趣味を見つけた方が健康的だよ」

 卓也は萎れぎみのデフォルトの皮膚を見ると、一度肩をすくめただけで、すぐに自分の席に座って朝食をねだり始めた。

 雛鳥に餌をやる心境で食事を作りに行ったデフォルト。

 話は一旦終わったかと思ったが、今日のラバドーラはしつこかった。

「もう少し知識をつけようと思わんのか?」

「思わないよ。知識を過信すると、自分がとんでもないことをしてるのに気付かない。僕が今までで覚えてる強烈な言葉は『あなたサーカスでどの動物の交尾を見てきたの?』だね。いまだに褒め言葉か、バカにされてるかわからないよ。どう思う?」

「今の話を聞いた上でも、聞かなくても答えは同じだ。聞きたいか?」

「嫌味を覚えたロボってどうなの」

「アンドロイドだ」

「まったく低レベルな……」

 ルーカスはため息をつくと、タブレット端末を起動して読書を始めた。

「癪に触るが、あの努力を見習ったらどうだ?」

「アンドロイドに癪があるとは驚き。第一ルーカスは勉強中なんだぞ。止めなくていいの?」

「止めるに決まってるだろう……」

 ラバドーラはルーカスからタブレット端末を取り上げると、アクセス出来ないようにパスワードを変えた。

 当然ルーカスは「なにをする!」と怒鳴った。

「宇宙船の平和を守ったんだ。余計な知識は騒動の元。バカでようやくバランスが取れる」

「私を見下しているな」

「実際役立たずだろう」

「ならば、貴様より先に次の惑星を見つけてやる」

「本気か?」

「なにか問題でもあるのかね?」

「負けるのが嫌いだと思ってた」

 ラバドーラはルーカスの顔を投影して、不敵に笑って見せた。

 眼の前にいるのは鏡に写った自分。だが、ルーカスはその顔に苛ついていた。

「地球人がいかに優秀かを見せつけてやる。来たまえ!」

 ルーカスは卓也の手を引っ張って立たせた。

「まだご飯も食べてないんだけど……」

「聞いたかね? 貴様を倒すのは朝飯前という意味だ!」

 ルーカスは高笑いを響かせると、部屋から出ていった。

「朝食は要らないのでしょうか……」

「さぁな。私は元より必要のないものだ。しかし……このまま勝ち誇られるのもムカつくな……。少し格の違いを見せて大人しくさせてやるか」

 ラバドーラが立ち上がると、デフォルトも手伝うと続いたのだが、ラバドーラは手で制した。

「私一人で十分だ。デフォルトは好きなことをしていろ」

「そうですか……」

 デフォルトは少し寂しそうに返事をすると、勇んで出ていくラバドーラの背中を見つめた。

 しばらく手持ち無沙汰にぼーっとしていたデフォルトだが、この機に細かいところの掃除をしてしまおうとやる気を出して、自分も部屋を出ていった。



「生命あるところに汚れあり……。やりがいと虚しさを感じますね」

 デフォルトは独り言をつぶやくと、文字通り部屋の隅から隅まで操縦室の掃除を始めた。

 そんな中。埃が立つのも気にせずに、ルーカスと卓也が入ってきた。

「だから、言っただろう。惑星は見つかるって。でも、それが生命体がいるかはわからないの」

「人工衛星があれば知的生命がいるだろう」

「だからそれが難しいの。銀河系みたいに統一電波じゃないんだから。僕らが今更勉強したって無理な話さ」

「じゃあどうしろと言うのだね」

「負けろってこと」

「私が頷くとでも思ったかね」

「ルーカスがおバカさんなのを考慮すると、引っかかる可能性はありえる。でも、どうするのさ」

「電磁波の乱れを確認してみてはいかがでしょうか?」

 デフォルトは掃除の手を止めずに言った。

「電磁波の乱れなんてしょっちゅう起こってるだろう。ここは宇宙だよ」

「ですから、いくつもパターンを読み込んで解析するんです。同じ波長が多くなると、同じ物質が使われている可能性が高いです。知的生命体が何か打ち上げた可能性があるということです。小惑星や惑星屑という可能性もあるので、確実とは言えませんが。自分も子供の頃よくやりましたよ。超小型宇宙船とスペースデブリを見分けるのが難しいんですよね。実際デブリを住処にする……ルーカス様? 卓也さん?」

 二人は話の前半だけ聞き、それならば簡単だと、デフォルトの思い出話の最中にいなくなってしまったのだ。

 いつものことだと開き直ったデフォルトは、思い出を浮かべながら掃除を続けた。そのせいでラバドーラが入ってきたことに気付かなかった。

「この宇宙空間は厄介な……。高性能の宇宙船がよく移動に使う航路らしい。電磁波が乱れ過ぎていて、まともに惑星観察が出来ない。特にこのレストの装備ではな」

 ラバドーラは磁場を利用してどうにか電磁波を整理出来ないかと考えたが、それをするにもコンピュータの計算能力が足りないのだ。

 仕方なく自身のコンピューターで計算を始めたのだが、専門外なのでどうにも時間がかかり中断が続いてしまった。

 とうとう諦めて別の道を探すことにした。

「デフォルト。奴らの様子はどうだ?」

「はい? なんですか?」

 デフォルトはようやくラバドーラの存在に気が付いて顔を上げた。

「だからあの二人の様子だ。まさか私をだし抜いてないだろうな」

「二人? ……ルーカス様と卓也様なら。電磁波の分析を始めたようですが」

「なるほど……奴らの分析を奪えば計算が簡略化出来るな……。特殊電波の計算に集中すれば、なんとかなるかも知れん」

「そんなに電磁波が不安定なんですか?」

「そりゃもう。独自の電磁波を飛ばしてるのが何隻もだ」

「おかしいですね……。そんなに電磁波が混雑しているのはワープホールくらいですけど。どこかの惑星への中継地点なんでしょうか」

「そうだ! 中継地点だ!! つまり電磁波の解析は必須。電磁波の種類を分析すれば、特殊電磁波を出す船がどこへいったのかがわかる。特殊電磁波と正規のワープホール。これがどういった意味かわかるか?」

「ええ、高度な技術を持った宇宙船が集まる場所へ行けば、念願かなってレストを改造出来ますね。レストも磁場を扱えるようになれば、ワープホールの電磁波混雑でいちいち停滞する必要もありませんし……なんて夢物語ですけどね。ラバドーラさん? またですか……」

 ラバドーラも話の途中で席を外し、特殊電磁波対策をしに行ってしまったのだ。

 結局一人になったデフォルトだったが、これはこれでとても静かなので掃除が捗った。

 いつもは自分達が遊んでるから後にしてと言われるプレイルームも、食事時間がバラバラでなかなか片付かない食卓も、今日は自由にデフォルトの意思でどうにでも出来るのだ。

 これにはデフォルトもテンションが上がり、誰も自分の話を聞いていないことなど全く気にならなかった。

 廊下の掃除と配線点検をしていると、またルーカスと卓也の二人があーだーこーだ言いながら近付いてきた。

「だから電磁波が消えちゃうんだよ。追いかけようがないの」

「電磁波が消える? 忍者やスパイを追いかけているのではないんだぞ」

「忍者やスパイを追いかける方がマシ。地球に行けば揃うんだもん。ほら見て、電磁波を拾っただろう。でも、これ別の波が合わさったかと思うと、そこで消えちゃうんだ」

「電磁波の相殺はよくあることだろう。十になったばかりの子供でも知ってることだ」

「じゃあその十歳の子に話を聞けば?」

 二人が今にも喧嘩しそうなのを見て、デフォルトは先ほどラバドーラから聞いたことを伝えた。

「ワープホールのせいで、電磁波が乱れるって?」

「そうですね。ワープホールの位置自体は離れていますが、惑星の並びから考えて、ちょうどここへ電磁波が流れてきているのだと思います。この銀河に干渉する電磁波ならばすぐに消えるのですが、そうではない場合緩和剤も融合もないので、電磁波が消えるまで時間がかかるんですよ」

「じゃあどうしろというのだね。当たりのない屋台のひもクジのように、無駄な時間を使えというのか」

「考え方を変えればいいかと。いつまでも残っているのならば、電磁波は拾いやすくなっています。――ただ……レストには特殊電磁波を受信する機能は備わっていません。連盟にも加入していませんし、拾うことはほぼ不可能です。もう少し待てばラバドーラさんが」

「聞いたかね? 先を越されるぞ!!」

 ルーカスはたかしの胸を叩いて焦らせると、ラバドーラの元へ乗り込んだ。

 それからしばらくは静かな時間が続いたのだが、急に三人分の足音が近付いてきた。

「デフォルト!! なぜこのアホどもに言ったんだ!」

「デフォルト君! 機密情報を漏らすとは何事かね!!」

 ラバドーラとルーカスはそれぞれ自分が調べていることをバラされたとご立腹だった。

「それで? 何か問題でも起こりましたか?」

「問題だと! このポンコツアンドロイドが情報を盗んだせいで――……電磁波の行方が判明した」

「こっちこそ! ルーカスが無駄な電磁波の解析を終わらせたから――特殊電磁波を絞ることが出来た……」

 デフォルトが「何か問題は?」と聞くと、二人は何も問題がないと押し黙った。

「つまり行き先が決まったということでは?」

「あぁ……」とラバドーラとルーカスは顔を見合わせた。

「ならば目標を設定し、残りは掃除でもしましょう。卓也さんの食事もすぐに温め直しますね」

 卓也はデフォルトの後についていったが、どうにも腑に落ちなかった。

「たまにさ、デフォルトには絶対敵わないと思うことがあるよ」

「そうですか? 自分の方が思ってると思いますが」

「じゃあ僕らいいコンビだ。少なくともあっちよりね」

 耳を澄ませると、まだルーカスとラバドーラの言い合いが続いていた。

「そうかも知れませんね。次の惑星ではよろしくお願いしますよ」

 デフォルトは技術の高い惑星に行けると思い、それは実現するのだが、まさか自分があんなことになるとは思ってもみなかった。






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