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惑星迷子  作者: ふん
Season7
157/223

第七話

 ルーカスと共に管理施設へと向かったデフォルトだが、その足取りは重かった。

 近付くに連れて混乱は大きくなっているので、ルーカスがしでかしたことの重大さが嫌でも実感出来てしまったからだ。

 予測不能の事態。通信機器にも影響が出てしまい、地下での解決が早急に要求される事態になってしまっている。

 この惑星は地球と同じ大きさだが、人口は地球の人口の半分ほど。それも地下と空で別れているので、更に少ないということになる。

 他から助けを呼べず、亀裂をどうにかしようとしている最中だ。

 現場は立入禁止になっていたが、ルーカスの姿を見つけた警備は中に入ることを特別に許した。

「とにかくヒビをどうにかしろ! 磁力の振動で割れてしまうぞ!!」

 技術者はどうして良いのかわからず、オタオタしながら部下に命令していた。

「なんの騒ぎだね」

 ルーカスはたった今騒動を知ったかのような口振りで技術者に近付いた。

「コアが爆発する可能性が出てきたんです!」

 技術者が集まり騒いでいるのは、この地下の星人は磁力を使ってコアにちょっかいをかけていたからだ。

 刺激を与えることにより磁力が強くなる。そうして無限のエネルギーを使っていたのだが、それは磁力を制御できていたからだ。

 つまり、この惑星は人口のコアと天然のコアがある。

 その絶妙なバランスに支えられているおかげで、空の星人も磁力を使うことができるのだ。

 だが、磁力の制御がきかなくなった現在の状況では、地下も空もない。惑星ごと爆発を起こす可能性が一番高いからだ。

 事態の深刻さを理解していないルーカスの隣では、心配性のデフォルトが血の気の失った顔で放心していた。

「なにを大袈裟な……今までも似たようなことばかりだっただろう」

「……ルーカス様は爆発癖をお持ちなんですか?」

 デフォルトは過去何度似たようなことに巻き込まれただろうとため息を落とした。

「聞いたか!」と技術者が突然叫んだ。

 てっきり今回の騒動の原因がバレたかもしれないと思って身構えたデフォルトだが、その逆だった。

 過去に対処の経験があるというデフォルトの言葉に、二人目の救世主が現れたと騒ぎ出したのだ。

「そんな違います! 話を聞いてください!」

 すぐさま訂正したデフォルトだったが、ここのモグラ星人は適当に褒め称えているわけではない。

 デフォルトの技術と知識。培ってきた経験を踏まえ頼りにされているので、だんだん気持ちが高揚してきてしまったのだ。

 長い説得の末。デフォルトは「わかりました! 見てましょう!」と折れてしまった。

 これは頼りにされて気分が良くなっているからだけではない。ルーカスを連れて戻るためにも、一度事態を把握しておくべきだと思ったからだ。

 本当にコアが爆発する場合。レストはただ逃げ出すだけではなく、航路も考えなけれならない。下手すれば磁力に捕まって惑星に引き寄せられてしまい、爆発に巻き込まれる可能性もあるからだ。

 そんなわからないことだらけの中で、一つだけわかったこともある。

 それは振動の原因だ。人工コアが破壊されてしまい天然コアに影響が出ている。それにより強力な磁場が発生してしまい、普段は放出されているプラズマが磁場内に閉じ込められてしまったのだ。

 そのことをルーカスにだけこっそり説明したのだが、相変わらずルーカスは理解というものをしようとしなかった。

「プラズマなんぞ。理解不能の現象をとりあえず押し付けるための固有名詞が欲しかっただけに過ぎん」

「回遊電磁波もプラズマを利用しているんですが……。いいですか? そもそも磁場とプラズマというのはとても関係が深くてですね。プラズマ交信技術というのは簡単な原理であり、それでいて――」

「わかったぞ」とルーカスは急に真面目な顔になった。

 絶対に話のキモを理解していないと確信したデフォルトだったが、それより早くルーカスが地下の星人に高らかに宣言してしまったのだ。

「この難事件……この私に任せたまえ!!」



「――だそうだ」通信を受け取ったラバドーラは、どうしたものかと肩をすくめた。

「だそうだ。って、どうやって連絡を取ってるのさ。デフォルト達は地下だろう」

「電気伝導性の気体プラズマはだな――」と説明しようとしたラバドーラだったが、すぐに説明は無駄だと諦めた。「デフォルトが

上手いことやってるからだ」

「さすがデフォルトだね」

 卓也はまだ理解していない口ぶりだったが、ラバドーラは詳しく説明することはしなかった。

 一つは説明したところで無駄だということ。もう一つはやるべきことを思いついたからだ。

 この惑星の磁力制御システムにアクセスして、レストを磁力船に改造しようという計画だ。

 全ての動力を磁力に変えるわけではない。停滞の時間をなくそうということだ。

 現在レストはなにか故障やトラブルがある度に、宇宙空間で止まってしまっていた。磁力を利用して、常に前進するように手を加える。

 仮に地球へ辿り着く前にルーカスと卓也の二人が死んでしまっても、レストが半永久的に動くのならば、残されたアンドロイドのラバドーラも自由に行動出来る。

 最初は面倒臭がっていた卓也だが、磁場をコントロール出来るようになれば、プラズマを利用して回遊電磁波を拾いやすくなると説明されると、やる気に満ち溢れた。

「もっと早く言ってよ。ようやく宇宙一セクシーな男一位奪還戦にエントリー出来るわけだ。負けないぞ」

 卓也はカメラで記録していると思い、ラバドーラに向かってポーズを取った。

 すると、突然遠くから女性が飛んできて卓也に抱きついた。

「ごめんなさい!」

「謝ることはないよ。運命は誰にも止められないからね」

 卓也は鼓膜をとろかせるような甘い声で言ったのだか、女性の反応は薄かった。

 なぜなら、些細なことでは動揺出来ない状況だったからだ。

 空に住む星人にも、人工コアの被害による影響が出てしまっていたのだ。

「磁力制御がおかしいのよ」

 女性が空を見上げるように言うので、卓也とラバドーラが確認したところ。まるで蚊取り線香の煙に燻された羽虫のように、空の星人がふらふらと地面に吸い寄せられているのが見えた。

 地面に引き付けられたかと思えば、銃弾のように磁力に弾かれたりもする。

 酷い交通事故のように大混乱状態だ。

「愛は人をおかしくさせるんだ」と粘った卓也だったが、そんな場合ではないと女性に平手打ちされてしまった。

 怒って去っていく女性の後姿を見ながら、卓也は「これは緊急事態だぞ……」と今更慌ててみせた。

「女が興味もなく去っていったからか?」

 ラバドーラは冗談で言ったのだが、卓也は大真面目な顔で頷いた。

「そうだよ。これって絶対おかしいだろう。普通はキスマークが出来るもんだ。ひら手打ちのミミズ腫れじゃない……」

「冗談なんて覚えなければよかった……。とにかく下のことはわからないが上はチャンスだ。全員が移動手段を失っているといってもいい。主要施設に潜り込むには十分過ぎるほど場が整っている」

「なんかさ……侵入と爆発と逃亡を繰り返してない? 僕ってメロドラマの主人公でさ、アクション映画の主人公じゃないんだけど」

「ならこう考えたらどうだ? 諸悪の根源は美女」

「わお……わおだよ。わお! 君って詩を読む感性もあるんだね。諸悪の根源は美女という短い言葉で、凄い興奮しちゃった……。ラバースーツの露出具合は? 切れ込みの角度は? これが一番大事。セクシーかセクシーじゃないか」

「もうなんでもいい……ついてくるならな」

 ラバドーラはため息のような感情のこもった排熱をした。

 以前の卓也なら、アイの姿を投影すればなんでも言うことを聞いたのだが、今では反応がすっかり悪くなってしまった。

 いちいち投影しろと言われる煩わしさは減ったのだが、微妙な距離感に困惑しているのも事実だった。

 だか、特に日常生活に異常はない。異常がなければ無駄に考える必要もない。

 ラバドーラは困惑の部分を、すっかりこの場で削除することにした。

 二人は困難に対面することなく、磁力コアのデータを手に入れていたのだか、デフォルトはそうはいかなかった。

 ルーカスが大見得を切ったせいで、興味を持った技術者が作業を見に集まってきたからだ。

 現在デフォルトはルーカスの右手であり、宇宙戦レストの筆頭技術者だということになっている。

 身一つで地下を飛び回るルーカスの姿を見ているので、そんな彼が信頼を寄せている人物はさぞ凄いのだろうと、もう既に解決したかのように落ち着いてる者までいた。

 しかしプラズマの知識はあっても、それをどうにかすることはできない。

 ここは磁力を制御する機械はあっても、プラズマを制御出来る機械はないからだ。

 このままでは磁場が大きくなり、惑星の崩壊は避けられない。

 地上にあるレストが磁場に捕まってしまう前に、どうにかしなければと考えていたデフォルトだが、不意に逆転の発想を思い浮かんだ。

 レストに影響が出るのならば、レストに引き寄せて脱出すればいい。プラズマは宇宙空間に混じり宇宙線になってしまえば問題ない。

 レストを犠牲にすると説明すれば、地下の星人も空の星人も欺くことができる。

 いつものように憂いを残して去る必要がなくなるのだ。これは心配性のデフォルトにとっては思ってもいなかった展開だ。

 その話をすると、地下の星人は涙を流して感動した。

 昨日今日きた異星人が世界を救ってくれるというのだ。これほど語り継がれる話はない。

 電磁力を使い地上へと戻ったルーカスとデフォルトは空へと戻っていった。

 全てが順調――だと思われた。

 またしても問題は外はではなく内にあった。

「絶対反対。こんなのってないよ!」

 卓也がゴネているのは、この惑星からの立ち去り方についてだ。

 既にラバドーラがレストに新たなプログラムを採用し、推進力に磁力を利用することが出来るようになった。

 だが、ただ去っていくだけでは印象に残らないというのが卓也の主張だ。

「卓也さん。何事もなく惑星から出られるのですよ? それも良い印象だけを残して」

「いがみ合う二人が愛を深めるって知らないの? 恋愛映画の基本だよ。良い印象っていうのはかませ犬なの」

「まさか……問題を起こすおつもりでは」

「まさかだよ。カッコイイ去り方が重要だって言ってるの」

「磁場に溜まった危険なプラズマを宇宙に解放するのはカッコ良くないのですか?」

「デフォルト……いいかい? それだと、磁場に溜まった危険なプラズマを宇宙に解放する人だ。だけどそこに僕の名前が加わったら。見出しはこう――宇宙一セクシーな男は宇宙を救う」

「なにをバカな」と散々似たような話を聞かされたラバドーラは呆れていたが、デフォルトは違った。

「悪くないですね」

「正気か?」

「今回は悪いことをしているわけではありません。自分達の功績を目に見える形で残しておくことは、地球での生活でプラスになることだと思います。自分達は有事の際に役に立つというわかりやすいアピールになるかと」

 間違ってはいないとラバドーラは、デフォルトの意見を渋々受け入れた。

「下等生物に媚を売ることとなるとはな……」

「ルーカス様もそれでいいですか?」

「いいかだと? いいに決まっているではないか。諸君! これから忙しくなるぞ。まずは衣装作りからだ!」

 ルーカスが勢い任せに叫ぶと、デフォルトは思わず拳を掲げた。

「衣装?」という疑問が出たのは、もう既に衣装を作り終わった時だった。






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