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惑星迷子  作者: ふん
Season7
156/223

第六話

 巨大な大蛇。

 地球に生まれた者ならば、誰もがそう口にするはずだ。

 体をくねらせ、地中から飛び出ると空に向かって吠えたーーというのは大蛇と例えた磁力を含んだ土ではなく、その頭に乗っているルーカスだ。

 空にいる敵を倒してやろうと、団体を連れて地上を練り歩いて見たものの。なんの反応もなかった。

「まさかこの私に嘘の情報を教えたのか?」

 ルーカスは全身防護服に身を包んだ地下の星人を睨みつけた。

「まさか! ただ空にいるので見つけられないのも事実です」

「ならば大きな音を立てて引きずり出せばよかろう。いいか? よく聞いてろ。おい! 聞こえるか! 空の小便たれども! 空には資源がなく、クソを固めて乾燥させて家にしてると聞いたぞ!」

 ルーカスが汚い言葉を使うと、周囲がざわめいた。

 ここ惑星での争いというのは神聖なものであり、今まで誰も舌戦をしてこなかったのだ。

 そして、その声はしっかり空にいる三人にも聞こえていた。

「なんでバカの声って響くんだろう……」

 卓也が下を覗くと、ラバドーラも同じく地上を見下ろした。

「それしか方法を知らないからだ。それにしても厄介な……どうする?」

「どうも出来ないよ。本当に自分勝手なんだから」

「本当にですよ……」デフォルトは卓也を睨んだ。

 すでに空の星人に協力すると卓也が伝えてしまったので、今はルーカスと敵対してしまったのだ。

 返事をしていなければ、ルーカスの方へ味方につくか、ルーカスをこちらへ引き入れるか、どちらにせよ四人で固まることができたのだ。

「また脱走するわけ? 僕達定期的に脱走しすぎじゃない?」

「そのことですが……このまま敵対しておきましょう。そして、今夜にもルーカス様とコンタクトを取り、この惑星から逃げるんです。卓也さんが返事をしなければ普通に出られたんですけど……」

「デフォルト……もう過ぎたことだぞ。それにもう決まったことなんだから。ね?」

「いいですけど……。今回は逃げるというより、追い出されるという言い方が正しいです」

「どういうことだ? まさか攻撃を仕掛けるのか?」

 デフォルトにしてはずいぶん無茶なことを思い付いたとラバドーラは考えたのだが、デフォルは否定に首を振った。

「攻撃は仕掛けられるんです。つまり、自分達はこのまま空の星人に味方をしつつ。第三勢力となるわけです。当然ルーカス様も含めてですよ。地下と空。二つの星人が協力して自分達に攻撃してくるはずです。それを狙って退散するわけです。宇宙までは追って来られないはずですから」

 デフォルトは昨日からずっと空の星人が過ごす環境を見て回っていた。

 その結果。この惑星内ならば高度な文明だが、惑星の外に出る技術はまだ備わっていないということがわかった。

 それで、交流は磁力を使って宇宙船を引き寄せるという手段を取っていたわけだ。

「退散たってどうするのさ。磁力に引き寄せられたんだから、また磁力で引き寄せられるぞ」

「そのことなんですが……。この惑星の磁石というのはただの磁石なんです。恐らく独自の技術でしょう。ですが、レストの電磁石をうまく使えば、反発の力を利用して距離を取ることができます。この惑星にはレストに使えるような技術もないようですし、明日にでも出ていきましょう」

「待った。僕の運命の相手は?」

「それこそが電磁石だと気付かせてくれました。卓也さんも、ルーカス様も地球製の宇宙服のブーツをつけたままなので、それがタイミングで作動しただけです。ルーカス様の動きを見ると、この惑星で地球産の電磁石はとても有効のように思われます」

 三人が空の上で話し合っている間。

 ルーカスはちょうど調子乗って、電磁石を使って重力を操り飛び回っていた。

 だが、それは地下の星人が使えないだけで、空の星人は当たり前に使っている技術だ。

 いくら挑発しても、空の星人が地上へ降りることはなかった。

「見たか? 奴らも味方をつけたらしい。とても下品な」

 三人達を戦争へ誘った女性は、すぐに収まると三人を安心させにきたのだが、下にいるのが知り合いなのでデフォルトは恥ずかしく思っていた。

 そして、それはカラクリを理解した卓也が電磁石のスイッチを入れたのを見てしまったので、尚のこと恥じる気持ちでいっぱいになっていた。

「そうですね……。下品な行動はやめてもらいたいです」

「運命だから」

 卓也は磁力の力で女性とくっつくと、肩に手を回してにっこり笑った。

「危ない……。空では急な移動は禁止されている。クチバシ事故が多発してる。我々のクチバシは硬い。気を付けないと穴があくぞ」

 女性の言葉はただの注意だったのだが、それはデフォルトには脅しのように聞こえていた。

 しかし、卓也はいつものままだ。

「君をひと目見た時から、僕の胸には穴があいてる。埋めるのは君しかいない」

「なんか陳腐だ。まぁ、運命の相手はいつか現れると諦めていた。好きにしてくれ」

 女性はくっつきたいなら好きにしろと無抵抗を貫いたので、軽くイチャついてみた卓也だったが、本当に最後まで無抵抗だったので、つまらないと女性から離れた。

「もう良いのか?」

「確かめれば確かめるほど、愛とは何か考えさせられるからね」

「私もずっと考えている。だが、それが運命だ」

 女性はもう問題はないと地上の様子を確認すると、自分の仕事へ戻っていった。

「前言撤回。ここは最悪の惑星だよ……」

 女性に愛のかけらもないと知った卓也は、心底残念そうにため息を落とした。

 卓也にとって恋愛とは相手を喜ばせるという割合が大きい。愛を理解しない女性というのは苦手なのだ。

「私に愛を説こうとしたのはどこのどいつだ?」

 アンドロイドだって愛は理解できないというラバドーラだが、卓也は首を横に振った。

「それは違う。愛があるから暴走する。暴走するからAIは自我を持つんだろう? なら、ラバドーラを口説いてた過去も間違いじゃない。とにかく、さっさとこの惑星を出るのには賛成。どうにか地下へ行ってルーカスと会わないと」



 再び地下へ行くのは難しいと考えていた三人だったが、電磁石を利用すれば誰にも気付かれずに潜って行けることがわかったので、卓也の足をドリルのように三人は地下へ潜っていた。

 そして、ルーカスはあっさり見つかった。

 ここではスーパースターのルーカスは、ご機嫌に笑いを響かせて、地下を飛び回り自分をアピールしていたからだ。

 地下の星人はルーカスの凄さはもちろんのこと、面倒臭さにも気付き始めているので反応は悪い。

 それを確認したルーカスは文句を言いに行くため、移動の速度を遅めて方向転換した。

 そこを狙って、三人に確保された。

「なんだ……生きていたのか。もう私の右腕のポジションは残っていないぞ」

「いいですか? ルーカス様。急いでいるので、手短に伝えますよ」

 デフォルトから今回の事情と作戦を聞いたルーカスは、思いのほか冷静な反応を示した。

「なるほど。つまりここは幼稚園だ。大人であり、優秀な私がここで暴れるのは大人気ないということだな?」

「本当に優秀な人は、今のセリフに優秀だって言葉が必要ないことくらいわかると思うけど」

 すっかり調子に乗っているルーカスに、卓也は釘を刺したつもりだったが、却って調子に乗らせてしまった。

「そう褒めるな」

「褒めてないんだけど……」

「とにかく、私は君達の作戦に賛成する」

 ルーカスがあっさり仲間に加わったので、デフォルトは驚いた。てっきり、もっとごねられると思ったからだ。

「ルーカス様……」

「そんな目で見るな私には優先事項がはっきりと見えている。ここが脱出。それが一番だろう?」

「その通りです!!」

 こんな時を待っていたと声を大きくしたデフォルトだが、付き合いの長い卓也はわずかな違和感を察知した。

「なにかしでかしたんだろう」

「ノリノリで調子に乗ってる私だぞ? なにをすることがあるのかね?」

「ルーカスが調子に乗ってる時は、何かしでかす時だろ。前の時は宇宙プールの重力制御を故障させて、水滴が銃弾みたいに飛び回る空間に変えただろう」

「その時はどうだった? 怪我人はでたかね?」

「幸い出てないよ。でも、修理も不可能でお荷物空間になった」

「ならば今回は大丈夫だ。宇宙船ではないからな」

「ならよかった」

 笑い合うルーカスと卓也だが、デフォルトはそうはいかなかった。

「宇宙船ではない? ……そう言いましたか?」

「その通りだ。地下の黒い物体にヒビを入れただけ。なんの問題もない」

「なるほど……それで地下の星人が慌てているのか」

 ラバドーラは一人冷静に地下の様子を確認していた。

 なんでも磁力制御装置に影響が出たということだ。空の星人の破壊工作という言葉も聞こえてくる。

「もしかして……ヒビを入れたのは、磁力制御をしているシステムコアでは?」

「私がわかるか、急に磁場を乱れさせるのが悪い」

 デフォルトはルーカスがまたやらかしたと触手をへなへな折って座り込んだ。

 ルーカスが壊したものは、地下惑星全体の管理システムのようなものだ。

 つまり、地下の住人は移動さえも出来なくなっている状態だ。

 強力な磁力の影響により、ルーカスが履いているブーツの電磁力も乱れてしまい、引き寄せられた結果ぶつかってしまい、衝撃でヒビが入ってしまったのだ。

「まぁ、でも面白いぞ。惑星そのものに影響を当てる磁力コア。天然か人工物かは知らないが、使えるな」

 ラバドーラはあの磁力を使えば、速度は遅くとも磁力によって動くレストに改造出来ると考えた。

 まったくの停止状態がなくなり、二人が騒動を起こしても、確実にゆっくり地球へと向かうことができる。

 他の惑星でする予定の大々的な改造を考えても、ここの磁力の技術は応用してデメリットはなさそうだった。

「使えると言いましたか?」

「聞き返すということは、この後の計画もわかっているな」

「無理ですよ! 異変のせいで、管理設備には人が集まっているんですよ」

「だが、磁力の影響を考えると、私は近づかない方が良いだろう?」

 ラバドーラの提案とは、磁力のシステムを失敬しようということだ。混乱の今は最大のチャンスでもあるが、逆もまた然りだ。

「ですが……」

 デフォルトはルーカスを見た。現在、ここで自由に動けるのはルーカス。だが、一人でミッションをこなせるわけもなく、誰かが着いていくこととなる。

 ラバドーラは磁力による故障を万が一に考えて、レストの発進準備。

 卓也がルーカスの面倒を見られるわけもなく、デフォルトが付き添うのは決定しているということだ。

「自分の立場は危ういと思うのですが……」

「安心したまえ。デフォルト君。君はよく気がつく召使いだと教えている」

「それはまたーー軽蔑されたでしょうね……」

「まったく……この手のジョークはどこでも通じん……」

「普通は言いませんもん。他惑星で悪口ジョークは。なぜなら争いの元になるからです」

「争いの元は磁力だろう。とにかく、行くぞ。こんな土臭いところとはさっさとおさらばだ」

「今頃犯人探しでしょうしね」

「……空の星人だろう」

「どこかと争っているということは、情報戦ということですよ。とりあえずはそういうことにしても、捜査は入りますよ。それで、脱出に賛成したんじゃないんですか?」

「私は怒られると思ったからだ」

「怒られるで済まされる惑星はどこにも存在しないと思うのですが……まぁ、とにかく行きましょう」

 デフォルトはレストのことをラバドーラに頼むと、ルーカスの後ろにピッタリくっつき、管理設備へと向かった。






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