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惑星迷子  作者: ふん
Season7
155/223

第五話

 揺れるのと同時に飛び起きたデフォルトには、その全容が見えていた。

 なんとレストは磁力の地面に押し出されて、再び地上へと上がっていたのだ。

 この惑星には夜がないので、デフォルトが目にした現象に間違いはない。

 そして、レストは地上まで押し出されると、ベルトコンベアに乗ったかのように勝手に運ばれて行った。

「本当に……何も粗相していないんですね……」

 慌てて二人を叩き起こしたデフォルトは、治安に違反するような行動を取っていないか何度も確認をした。

 宇宙船の強制移動というのは、大抵このまま取り締まる場所へと運ばれるからだ。

 それを裏付けるように、レストのドアは外側から磁力により固定されてしまっていた。

「なんもしてないよ。なにかしたくなるような子もいなかったしね」

 卓也は自分にとっては価値のない惑星だとがっかりしていた。

 他惑星からやってきた宇宙船も覗きに行ったのだが、ここのモグラ星人と変わらない容姿をしている。

 さすがの卓也でも動物過ぎて性的興奮を覚えることはなかったのだ。

「まったく……スリープモードというのは、地球人のスリープとは違うんだぞ」

 人間と同じように揺すぶられて起こされ、文句を言っているラバドーラだが、まるで寝起きの人間のようにぶつぶつ文句を続けていた。

「ですが……おかしいですよ。どこへ運ばれているのでしょうか……」

「それには同意だ。惑星の端まで引っ張っていくつもりか」

 ラバドーラはモニターで外部の様子を確認していた。

 地上はゴツゴツしており、普通なら飛行が必須なのだが、凹凸に合わせて磁石の地面が埋まっていくので、滑るように移動できるということだ。

 そして、スピードを上げたかと思うと、まるでジェットコースターのように一回転したのだ。

 しかし、着地した先は地面ではない。真っ白な床だった。

 この惑星に夜がない理由。それは空にもう一つ文化を持つ星人がいるからだ。

 床ライトになっており、上下を照らしている。

 まだ全容は明らかになっていないが、ここの誰かに呼ばれたことは確実となった。

 なぜなら、地下とは違い。ここは磁力の反発を利用しているからだ。

 つまり、皆空を跳んで移動しているということだ。

「すごい……天国はここにあったんだ」

 卓也は神に祈るように胸の前で手を組むと、そのまま膝をついた――どころか仰向けに寝転がった。

「卓也さん……モニターはカメラですよ。窓ではないので、覗けませんよ……」

 卓也が見ようとしていたのは、空に住む星人だ。ここでは全員がスカートのようなものを履き、落ちるときはパラシュートのようにして速度を調整しているのだ。

 つまり、卓也は女性のパンツを見ようと寝転がったのだ。

「僕くらいになると、心の目で覗けるの。さぁもう少しだ……こいこい! こいこいこい……!」

 卓也が本気の声で叫ぶと、レストが急停止した。

「いったのか?」

 ラバドーラはわざわざルイスの顔を投影して、嫌味に笑った。

「なんだよ……もう」

 卓也は起き上がると、さっさとこの目で見ようとレストを降りていった。

 ドアの磁力ロックが外れおり、これは歓迎されていると確信した卓也は、ドアを開けるなり地面に飛び込む勢いで外へ出た。

 しかし、足が地面につくことはなかった。100メートルほど離れた、空の住む星人の元へ飛んでいってしまったのだ。

「これはまた……熱烈な歓迎を……。きっと君と出会う運命だったんだ!」

 抱きついた星人が女性だと気付くと、卓也の口説きモードが始まった。胸の膨らみを確認したので、迷いはなかった。胸が膨らむということは、母乳で育てる星人ということ。つまり性的行為になんの障害もないという証明になるからだ。

「本当に……運命だ……」

 女性は羽毛を逆立てて驚いた。

 空に住む星人は、翼のない鳥のような見た目をしているのだ。

 卓也は彼女の顔を見ながら、尖るクチバシをセクシーだと捉えた。

「モグラとは大違いだよ。やっぱり地下より空だね」

「そう思うだろう!」

 女性は食い気味になると、卓也の手を握った。

「卓也さん!」と遅れてレストから降りてきたデフォルトだが、卓也のように勝手に飛んでいくことはなかった。

 デフォルトとラバドーラが卓也の元へ来ると、彼女はまず謝罪の言葉を述べた。

「手荒な真似をしてすまない。だが、奴らに見つかるわけにはいかないのでな」

「奴らとは?」

 デフォルトの質問に、女性は真っ直ぐ目を見て答えた。

「地下の奴らだ。会って来たんだろう? 奴らはこの惑星のコアを破壊しようとしている」

「まさか!」

 デフォルトは驚いた。地下の星人は磁力が多い惑星を利用して、うまいこと文化を築いていると思ったからだ。

「そう思うなら、ここの世界を見ろ。地下との違いがわかるだろう。惑星に負担を与えているように見えるか?」

 女性が周囲を見ろと手を広げたので、デフォルトは改めて見直した。

 光白い床からは、いくつも灰色のビルが伸びていた。

 それは彼女らの家であり、玄関が頂上にあるのだ。

「自分達からしたら変わった文明なのですが……エネルギーはなにを?」

 デフォルトが話を詳しく聞いている時、地下でもひと騒動が起きていた。



「どこのバカだ! 私を置いて行ったのは!」

 ルーカスは地下をものすごいスピードで飛び回りながら叫んでいた。

 ルーカスがスーパーマンのように自由に飛び回っているのは、地球の宇宙服の靴だけを履いているからだ。

 感覚で扱うことができ、磁力を利用して無くなったレストを探し回っているのだ。

 それを見られたルーカスは、地下の星人に磁力車で追い回されているのだが、圧倒的なスピードで飛んでいるので追いつかれることはなかった。

「止まってください!」

「止まれと言われて止まるアホがいるかね。ノロマめ!」

 ルーカスはペッペッと唾を吐くと、さらにスピードを上げた。

 しかし、そのよそ見のせいで網が広げられているのに気付くのが遅れてしまった。

 見事網に飛び込んだルーカスを見て、周りはほっとした。

「よかった……知能はあまり発達していないようだ」

「誰だ! 私に危害を加えれば、銀河系惑星連邦が全軍で押し寄せてくるぞ、それくらい私は重要人物なのだ!!」

「危害を加えるつもりはありません。我々の助けになって頂きたいのです。英雄様」

 喚いていたルーカスだが、英雄という単語を聞くとすぐに静かになった。

「私を英雄と呼んだかね?」

「呼びました。この惑星にルーカス様のように、高速で自由自在に動ける者はおりません」

「なにを……機械すら私に追いつけていないではないか」

「おっしゃる通りです」

 すぐに肯定されると、ルーカスは更に気分を良くした。

「君はなかなか有能のようだな。私の芯に気付くとは。地球でも、私と同じ者は存在せぬ。唯一無二だ」

「残ったのがルーカス様で良かった……」

 レストが消えていくのを見ていたので、他の三人はさっさと惑星を出ていったと考えた地下の住人は、スーパーマンのルーカスさえ居ればよかった。

「当然だ。仕方ない……話を聞いてやろうではないか」

 ルーカスが腕を組むと、すぐに磁力により椅子が作られた。それにどっしり腰掛け、まるで民の話を聞く王様のように耳を傾けた。

 地下の星人の言い分は、空の星人の言い分と全く逆だった

「奴らは空を破壊している。だから我らは地下でしか暮らせなくなったのだ。恒星の毒の光が差し込む地上だ」

「なるほど……オゾン層の破壊みたいなものか。ふむ……全く興味がない」

 ルーカスは勝手にしてくれと背中を向けたが、貴重な戦力を逃すわけにはいかないと、地下の星人も必死だった。

「お願いします! ルーカス様がいないと、我々が勝つことは不可能なんです!! 地下と空の統一の証には、是非ともルーカス様の支配下惑星に!」




「へぇ……そんな長い期間争ってるんだ」

 卓也はこの惑星の歴史を聞き、何度も深く頷いていた。

 ずっと黙っていたラバドーラだが「私からも質問がある……」と声を上げた。

「なんだ」

「いつまでそうしてるつもりだ?」

 ラバドーラが指摘しているのは、抱き合ったままの二人だ。

 真面目な話をしているのに、まるでイチャついているように見えて集中できなかった。

「これは運命だから仕方ないの。この惑星で運命の相手は、磁力でわかるの。同じS極でも全く引かれない人もいるの」

「磁力はそういうものでは……」

「わかっている。だから運命なんだ」

「卓也さん……」

 デフォルトは何か仕組んだと思って睨んだが、卓也は違うと首を振った。

「外に出たら、急に体が彼女の元へ飛んでいったんだよ。本当だよ。だから僕も運命信じちゃう」

「そう言ってくれると思った。共に地下の星人を滅ぼそう!!」

「おー!!」

 片手を女性の腰に回し、もう片手を意気揚々と上げた卓也だったが、デフォルトの触手によってすぐに下げられた。

「卓也さん……もう少し話を聞きませんと。とりあえずルーカス様を交えて四人で……ルーカス様は?」

 デフォルトに振り返られたので、ラバドーラは知らないと首を横に振った。

「卓也さん?」

「僕も知らないよ。少なくとも運命は感じてない」

「一度レスト――宇宙船へ戻ってもよろしいでしょうか?」

「当然だ。是非ゆっくり話し合ってくれ。良い答えを期待している」

 空の星人は拘束することなく、三人を解放した。

 レストに戻ったが、当然地下にいるルーカスの姿はない。

 そして、三人はルーカスがどこにいるのか全く知らなかった。



「私がおしっこをしている間に誘拐だと? なんて卑怯な奴らだ……」

「お言葉の通りで」

 まるで大臣のようにモグラ星人は、ルーカスの隣でかしづいていた。

「仕方ない……助けてやるか……。役に立つ三人だとは思えんがな」ルーカスは大きく息を吸うと、小さな声で「進軍だ」と呟いた。

「用意が出来ておりません」

「私の思考くらい読み取ったらどうなんだ? 何年私に仕えてきたと思っている」

「ルーカス様の惑星時間で、一時間も満たないかと」

「そういうときは、十年と答えろ。いいな?」

「はっ! 十年前からルーカス様に仕えさせていただいております」

「うむ……いいぞ」ルーカスは腕を組むと、仕切り直した。「進軍の準備を始めろ!」



 ルーカスの声が地下でこだましている頃。

 レストでは三人が話し合っていた。

「おかしいですよ……」

「ルーカスがいないこと? どうせトイレに起きて、寝ぼけて外に出て行ったんだよ」

「ルーカス様も気になるのですが、空の星人の言い分が気になっていまして……地下の星人に敵対思想はありましたか?」

「ないな。少なくとも私達には」

 ラバドーラはどうとでも取れる情報だと言った。

「地下に行く必要がありますね」

「あのなぁ……」とラバドーラが呆れた。「空の思想を聞かされたばかりだぞ。このまま去るのならともかく、再び地下行きを許すと思うか?」

「無理でしょうね。ですが、ルーカス様の生存確認のためにも地下は必須です」

「地下へ行く方法が一つだけある。空の星人に加担するんだ。そうすれば攻めを理由に地下にいける」

「そんな! いえ……良い考えかもしれません。数ある宇宙船から自分達が選ばれた理由がわかれば、交渉の材料が揃うかもしれませんし。いいですね? 卓也さん」

「よくないよ……運命だって言ったのに。あっさり離れちゃった……」

「それも、気になりますね……」

「そうだろう? そんじゃそこらの男じゃないよ、僕だよ」

「卓也さんが空の星人とくっついていた理由ですよ。これは色々調べる必要がありますね……」

 デフォルトはすっかり謎解きに夢中になり、自分の世界に入ってしまったので、ラバドーラが空の星人の元へ向かい、イエスの返事をしに行ったのに気付かなかった。






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