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惑星迷子  作者: ふん
Season7
153/223

第三話

「どういう惑星なのでしょうか……」

 全員が集合しても、デフォルトは外に出るためのハッチを開けられずにいた。

 ノブを触手で触ったり離したりと、デフォルトの煮え切らない態度に、卓也は率先してハッチに手をかけた。

「降りればわかるんじゃないの?」

「ダメですよ!」

 デフォルトは外の危険性を理解していないと、慌てて卓也を止めた。

「さっき外の様子は確認しただろう。毒の検出もなしだし、敵意もない。僕らの他にも、宇宙船は停泊してる。異星人との交流が盛んな惑星だろう。デフォルトが自分で説明してたじゃないか」

「どうして綺麗に一つだけ忘れられるんですか……極端に重力が小さい惑星だと話しましたよね?」

「無重力の宇宙に出てる知的生命体のセリフだとは思えないんだけど」

 卓也は重力が大きいより面倒なことにはならないと言って、勇んでレストを降りて言ったのだがすぐに戻ってきた。

「なんて度胸のない男だ……」

 飛び跳ねるようにして戻ってきた卓也を、ルーカスは呆れて見ていた。

「違うよ。僕の意思じゃない」

「その通りだ。卓也君、君は悪くない。君の心に棲んでいる臆病者が悪い」

「茶化すなら、自分で降りてみたらどう?」

 卓也が挑発する態度で言うと、ルーカスはすぐに頭に血が上り、やってやると意気込んだ。

 しかし、結果は卓也の時と全く同じだった。

「おかしい……どうなっているんだ」

「ね? 絶対におかしいだろう? ……この惑星にはなにか特別な秘密があるんだ」

「おそらく無限回路に繋がっている……。私の知能を見破り、いち早く隔離しようとしているに違いない」

「アホらしい……」とラバドーラはレストから降りた。

 卓也とルーカスのようにレストに戻ることはなく、地面に立っていた。

「無限回路がなんだって?」

 卓也は冷ややかな視線をルーカスに送った。

「奴はアホだ。アホはフリーパスに違いない……」

「その意見には賛成。戻った僕はお利口さんってことだもん」

 見当外れのことを言い合うルーカスと卓也に、デフォルトは「違いますよ」と呆れていた。「重力が小さいと言ったじゃないですか……。お二人は跳ね返ってきたんですよ」

「待てよ、それならラバドーラのことが説明できないだろう」

 卓也が騙すならもっと上手くやってとため息をつくと、下からラバドーラが「磁力だ」と答えを言った。

「聞いた? ルーカス。磁力だって」

 卓也が堪え切れずに笑い出すと、ルーカスも笑った。

「聞いたとも! 磁力なんて時代遅れにもほどがある。ポンコツアンドロイドにはお似合いの技術だな」

「あの……お二人とも。磁力はどの宇宙船にも使われている技術ですよ……。さすがにもう重力制御には使われていませんが、戸棚の固定は磁石ですよ。磁石というのは基本的に無限のエネルギーを持つ物質ですから、宇宙ではかなり有用なものです」

「たかが磁石だよ」

 卓也はは信じられないという顔をした。

「回遊電磁波も、電磁石の磁界を利用して拾ったり発信したりしているのですが……」

「うそ……本当の話なの?」

「嘘をつくメリットがないですよ。おそらくですが、レストにある古い宇宙服には靴底に磁石が埋め込まれているはずです。それを着ればこの惑星でも自由に歩けますよ」

 デフォルトはルーカスと卓也の宇宙服はあるが、自分の分はどうしようかと考えた。触手用の宇宙服など、地球の初期型宇宙船には備え付けられていないからだ。

「仕方なくデフォルトはレストに残り、残りの三人で惑星を探索することとなった」

 探索と言っても、未開の土地を歩くわけではない。

 どこを見ても地面は平らに整備されており、ここに住んでいる星人は一定以上の技術や知識があることが窺えた。

「歓迎されていると言ったわりには、誰一人出迎えに来ないとはな……」

 ルーカスはどこまでも真っ平な地平線を睨みつけた。人影どころか、ほかの宇宙船の影も見えない。それほど広い土地を持った惑星ということだ。

「急に引っ張られたと言っただろう。恐らく磁力を強めて、惑星へ宇宙船を誘導したんだ。捕らえるつもりはないようだが」

 ラバドーラは紫の空を見上げた。

 いくつかの宇宙船が出発したところらしく、空を突き抜けていく線を残していた。

 つまり宇宙船は自由に移動出来るというわけだ。

 今のところはその術を知ることは出来ない。

 話を聞くためにも、惑星不法侵入にならなためにも、誰かを見つけるのが最優先事項になっていた。

 しかし、ルーカスと卓也の集中力が続くこともなく、靴裏の電磁石の電源を消したり、強さをいじったりして遊び始めた。

 きっかけはルーカスが卓也を歩いて追い抜かそうとした時だ。

 磁力を弄れば、この惑星でスーパーマンになれることに気付いてしまったのだった。

「見たまえ! どこまでも飛んでいけそうだぞ!」

 ルーカスは空高くジャンプすると、カッコつけたポーズで戻ってきた。

 しかし、電磁石の電源をつけ忘れてしまったので、スーパーボールのように跳ね返って再び空に消えていった。

 それが磁石のせいだと気付いたのは、六回目の跳ね返りで酔い始めた頃だった。

 ルーカスの足が地面にピタリとくっつくと、そのまま膝と手をついて嗚咽を響かせた。

「あの姿……情けないと思わない?」

「情けないのは同意だ。けど、あれが普通の反応だ。重力の変化というのはそれだけ体に負担がかかるもの。そのはずなんだけどな……」

 ラバドーラは俄然な元気な卓也を不思議に思っていた。

「僕はVR空間でパワーアップして帰ってきたんだよ。今更重力なんかであたふたすると思う?」

 強がりでもなんでもなく、卓也が体に負担を感じることはなかった。

 長いこと意識をアップロード状態にしたことにより、まだ意識と体のバランスが取れていないのであった。

 結論として、今は大丈夫ということ。そのうち正体不明の症状に襲われるが、それは今回のことが遅れて症状が出てきたということだ。

「元気ならルーカスを引きずって来い。この惑星ではぐれると少し面倒だぞ」

 ラバドーラはレストから見えていた惑星と、実際に降り立って見た惑星のデータを合わせると、大体の惑星の大きさがわかった。

 わかりやすくいうなら、地球とほぼ同じ大きさ。

 だが、水は少なく、ほとんどが岩石。

 つまり似たような光景が続いているということなので、人を探すどころか、元来た場所を戻るのも困難だ。

「ラバドーラでも迷うの? もしかして磁力でコンパスがおかしくなった」

「その磁力で方角を示すおもしろ理論。地球でしか通用しないぞ。そんなことより生物だ。別に知的生命体じゃなくてもいい。生物の一つでも見つかれば、それから様々なことがわかるからな」

「そうなの? それで地球はよく牛が盗まれてたんだ……納得だよ」

 卓也はよくわからない納得を見せながらも、ルーカスの足を脇に抱えて歩き出した。



 どれだけ歩き回ったかはわからないが、わかったのはこの惑星には夜がないということだけ。

 知的生命体がいる形跡はあるが、知的生命体そのものが見つかることはなかった。

 やることがなくなってしまい、仕方なくレストに戻った三人は、デフォルトに惑星の様子を伝えていた。

「そうですか……」と少し考えてから「磁石の惑星ということは、くっつく以外にも反発することも出来るわけですよね? ……もしも磁力を活かした文明ならば、反発の力を利用して早く、そして遠くまで移動できるのではないでしょうか?」

「それってバネみたいに飛んで移動するってこと?」

 卓也がなるほど頷いた。

「バネじゃなくて磁石です……。バネなら磁力は関係ないじゃないですか」

「とにかく飛んで移動するってことだろう? ならルーカスも留守番だね」

 ルーカスはレストの床に置かれたきり、寝返りを打つこともしていなかった。

 時折吐き気を我慢する不自然な呼吸が聞こえている。

「卓也さんは大丈夫なんですか?」

「もう余裕。デフォルトのリハビリも効いてるんだろうね。VR空間に入る前より元気だよ」

「嬉しいお言葉なのですが……」

 デフォルトは卓也とラバドーラを見て不安になっていた。

 ルーカスが居残り組になったことで心配の種は一つ消えたのだが、二人が交渉人だというのは安心から程遠かった。

 二人とも交渉に向いてるタイプではない。卓也は女性なら口説くし、それ以外なら無視だ。ラバドーラは少々喧嘩っ早い性格なので、相手が強気に出るとそれを押さえつようと暴れる可能性がある。

 デフォルトは自分が交渉に行けないことを、親の死に目に会えなかったかのように悔しがった。

「デフォルトってよくそんなに毎日毎日心配事が浮かんでくるよね。疲れない?」

「疲れます……」デフォルトは誰のせいでという言葉を飲み込むと「探索は明日にしましょう」と提案した。

 卓也が歩き疲れたことと、夜にならない惑星だということを考えると、一度朝を迎えたほうがよさそうだと判断したからだ。

 体内時計を合わせることにより、体の負担はかなり軽くなる。

 卓也は楽ができるならとすぐに賛成した。

「デフォルトはわかってるね。疲れたら休む。これ常識だよ。知ってた? ラバドーラって休憩しないで歩くんだよ」

「疲れないから休む必要がないんだ」

「うそうそ。よく疲れたって言ってるじゃん。さっきだって帰り道にずっと文句言ってたよ」

「それは考えるのに疲れたんだ。毎回毎回くだらない話を聞かされる身にもなれ」

「くだらなくないよ。もしこの惑星の住人が磁石人間だったら、どうやってベッドを一緒にするか考えてたんだ。やっぱり磁石を使うのかな? だとしたら使い道は一つしかない。でも、その想像を超えてきたら、すごい興奮すると思わない?」

「な? くだらないだろう」

 同意を求めてくるラバドーラに、デフォルトは乾いた笑いで返した。

「卓也さんはいつもの調子ですが、まだどんな知的生命体が暮らしているかわからないのですから、くれぐれも注意してくださいよ。失礼のないように」

「失礼なのは、勝手に宇宙船を呼び寄せたのに顔も出さないここの星人だ」

 ラバドーラは余計な時間を過ごしたと苛立っていた。

「そのことですが……本当に呼び寄せられたのですか?」

「そうじゃなければ説明出来ないだろう。重力変化があれば、モニターにそう表示されている。されていないのは磁力だからだ」

「そうですか……。危険がないか観察されていても珍しくありません。皆さん。宇宙船にいるからといって安心せず、品行方正に過ごしましょう。ね?」

 デフォルトがにこやかな顔で言うので、卓也は渋々頷くしかなかった。

 それから寝るまで何も起こらなかったのだが、全員が寝静まった頃。

 レストは再び地震に襲われたかのように揺れたのだ。






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