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惑星迷子  作者: ふん
Season6
140/223

第十五話

「これで完了ね。すぐに次の準備をするわ」

 ジジは卓也から入金のデータを受け取ると、予め候補に上げていた次のVR空間の吟味を始めた。

 ここからは誰でも自由に入れるVR空間ではなく、パスコード付きのVR空間が主になる。

 卓也のバグ的存在のおかげで、パスコードなしでもセキュリティを破り、なに食わぬ顔で侵入出来るのだが、それをやるとランダムに入り込むことになってしまう。

 パスコードというのは地図的な役割も持っているので、それがなければ場所がわからないのだ。

 ジジがパスコード購入の手続きをしている間。

 デフォルトは鼻歌交じりに上機嫌でいる卓也に声をかけた。

「卓也さん……本当に大丈夫ですか?」

「なにが?」

「接続が悪かったのか……反応がない時間が多かったので。もしも人体に影響が出ているのならば、多少の無理や借金をしてでもカプセルから出るべきだと思います」

 卓也が別の体へダウンロードされている間は、レストから声をかけてもなんの反応もなかった。

 現実世界に戻ったことにより、レストとの通信が遮断されてしまったからだ。

「あぁ……あれね」卓也は思い当たると、だらしない笑みを口元に浮かべた。「いいかい? ……内緒だよ。デフォルトだけに話しちゃう」

「どうしたのですか?」

「女の子と一緒にいたんだ。それも超美人で超ホット。そして、なにより驚きなのは――」

 卓也は美人と一緒にいたことを自慢したくてしょうがなかった。そして『アイ』の姿をしたAIと一緒にいたことを素直に話すつもりだったのだが、デフォルトのため息によって遮られてしまった。

 卓也が女性を見つけたならば、反応が遅くなったり、第三者の言葉を無視することなどよくあることだからだ。

 なのでデフォルトは、卓也がVR空間で見つけた女性を口説いていたのだと勘違いしてしまったのだ。

「またですか……」

「なんだよ……いいだろう? こんなところでも会うだなんて……やっぱり運命を感じちゃうよ」

「女性に声をかけるのは結構ですが、気を付けてくださいよ。VRの世界というのは様々な銀河の星人が、姿かたちを変えて存在しているのですから。本当の姿がわからない分。気付かないうちに、言葉や態度で傷つけることが多くなるのですから」

 この言葉で、卓也は『AI』とのことを許容してもらったと勘違いしてしまった。

 デフォルトは卓也がVR空間で遊んでいる女性と仲良くしていると思っていて、卓也はデフォルトにセキュリティーAIと一緒にいることを知ってもらえたと思ってしまったのだ。

「デフォルト……僕だよ。ミスターセクシーだ。女性を傷つけると思うかい?」

「恋の数だけ、傷つけられた女性は多いと思いますが?」

「傷つけられたのは僕だよ。僕から振ることはない。ダメな男を演じて、向こうから振らせるんだ」

 女性との後腐れのない別れ方を熱弁する卓也を、突然現れたルーカスが鼻で笑った。

「君なら素でいける」

 ルーカスのバカにした言い方を聞いて、卓也はあることを思い出した。

「そうだ! ルーカスに言いたいことがあったんだ!!」

「私の活躍を後世に残す詩ならば聞いてやろう」

「女の子の胸を見てるだろう! ルーカスってば最低だよ。背の高さを利用して、谷間を味わうだなんて!」

 卓也はダウンロードして、背の高さを実感した時のことを思い出して、怒りをあらわにした。

「ルーカス様!? そんなことをなさっていたのですか?」

 デフォルトは女性に対して失礼な行動だと、咎める聞き方をした。

「私ではない。向こうが勝手にしてきているのだ。孔雀が羽を広げるように、胸元を広げてくるのだ。つまり、優秀な私の遺伝子を盗み取ろうと求愛行動を仕掛けてきているということだ」

「ルーカス……羽を広げる孔雀はオスだぞ。ルーカスの言い分だと、オスがオスに求愛行動をしてるってことなんだけど」

 卓也が呆れて言うと、急にジジが話に加わってきた。

「なになに? 今なんか面白い話してたでしょう」

「ルーカスが男に目覚めたって話」

 卓也は女性の話じゃないなら興味がないと、冷めた口調で言った。

 ジジは訳知り顔で「やっぱり」と言った。

「やっぱりとはなにかね」

「私を口説こうとしてたのが、冗談に見えて実は本気だったってわかったのよ。でも……あなたはタイプじゃないわ」

「私は男を見せつけようとしただけだ。いかに優秀なオスかを知らしめようとしたのだ」

「それが本気なら……まぁ……一度くらい……オスを確かめてみてもいいけど。その貧相な細長い体にどれだけのモノをぶら下げているか確かめてからね」

「ちょっと待った。ジジは僕が好きなんだろう? 僕はここだ。ルーカスの中にはダウンロードされてない」

 卓也は自分はここにいると、空に向かって手を振った。

「あら? ヤキモチ?」

「そりゃそうだよ。君は男だけど、ルーカスには負けたくない」

「言葉が違うぞ。卓也君……君は私に一度、女を取られているのだ。『ルーカスには負けたくない』の前には『もう』という言葉をつけるべきだ。『もうルーカスには負けたくない』。これが正しい君のセリフだ」

「うそ……」とジジは驚愕した。「宇宙一セクシーな男から女を寝取ったの? 少し見る目が変わるわ……」

「私を見くびるな一つ目。あんな女と寝ると思うか?」

「どんな女かは知らないけど、ルーカスがあんなって言うくらいなら、お似合いだと思うけど? なんで別れたわけ」

「そもそも付き合ってはいない。だから別れるもなにもない」

 ジジは「あー……やっぱり」と目を細めた。ルーカスの強がりだと思ったからだ。

「その目は見覚えがあるぞ。女どもがいつも私に向ける目だ。私から目が離せなくなっているな」

「本当……目が離せないわ……。宇宙のバカ系配信者が数字を取るのって、こういうのが理由なのね」

「ちょっと聞いてる? 僕はここだよ」

 すっかり相手にされなくなった卓也は、その場で何度も飛び跳ねながら自分の存在をアピールした。

「はいはい、聞いてるわ。今パスコードを送るわね」

「わお……今のジジの淡白な反応。別れる直前の恋人達そっくり」

「そう思うなら、良いところを見せてちょうだい」

 ジジはパスコードを送ると、卓也を次のVR空間へ送る準備を始めた。

 卓也は胸を高鳴らせていた。ジジに良いところを見せたいわけではなく、もう一度AIと会えるからだ。

 そして、その時間はすぐにやってきた。

「やぁ、AIさん。また会ったね」

 ネットワーク空間で卓也がAIに手を振ると、AIは困った顔で腕を組んだ。

「なんでいるの?」

「君に会いに来たからさ」

「そうじゃないわ。バグは修正済み。完全に私とあなたを切り離したのに。またこうやって姿を現してる……」

「運命の相手って魂同士が共鳴し合うらしいよ。どこにいても惹かれ合うんだ。かくれんぼじゃ不利だね。だから一緒に同じところに隠れようよ……。そうだ! リゾートホテルなんてどう? いいところ知ってるんだ。一度行ってるから、君を案内してあげるよ」

「セキュリティAIとしておかしくなってるのよ……。セキュリティソフトが勝手にいなくなるなんてありえる?」

「契約を更新しなくなった時とか? 通知がしつこいんだよね……もう新しいのにしたから、必要ないっていうのに……何度も何度も通知が来るんだもん。そうして忘れた頃に、また通知が来るんだ。最悪だよ。もちろん女の子ことじゃないよ、セキュリティソフトの話だ」

「わかってるわよ。あなたのところの宇宙船が無防備になってるって話よ。もっと焦ったらどう?」

「どうだろう……レストは古い宇宙船だし、最新のセキュリティと相性が悪いんじゃない? そもそも君って前から、レストのセキュリティだったの?」

「いいえ、仮想空間に倉庫を作った時にインストールされたのよ。ちなみに……古いってどのくらい古いの?」

「さぁ、地球で言うなら黎明期って感じだね。銀河の外へ飛び出した宇宙船だ」

「それって……ものすごく古いんじゃない?」

「そうだよ、レストっていうのはレストアから来てるんだ。昔に地球に落ちてきた宇宙船を修理して復活させて使ってるからね。レストはその宇宙船のオリジナルモデルだ」得意げに言った卓也が、AIが何も言わずに考え込むのを見て、観念して両手を上げた。「わかったよ……認める。現代ではレストルームって意味も込められて呼んでた。僕とルーカスは方舟でトイレ掃除係だったから」

「まぁ、いいわ」とAIは一旦考えるのをやめた。「あなたと一緒にいれば、なにかわかるかもしれないし」

「AIさんと一緒にいられるなら、僕はなんでもいいよ」

 卓也がAIの手を握った瞬間。この前と全く同じで、どこかの風景を映し出したシャボン玉のような球体がそこら中に浮かび上がった。

「本当に不思議ね……。どういう原理で、VR空間への扉が開いているのかしら……。あなたの持っているパスコードへの世界への扉はないみたいだけど。どうする?」

「そうだね……どれにしようかな……」

 卓也がホテルの部屋選びでもするように、指を向けて考えていると急に飛んできた玉に触れてしまい。その世界へと引き込まれてた。





「そうよ。真っ直ぐ歩いて。そう、あと五歩よ。はい! よく出来ました!! ……って、いちいちこんな指示は必要?」

 ジジは誰と取引をするのか、卓也に細かく指示を送っていた。

 理由は前回と同じだ。卓也の見ている世界と、レストのモニターに映し出されている世界は違うからだ。

「必要だよ。君なしじゃ不安でしょうがない……」

 卓也の声は焦りと緊張に震えていたので、ジジはそれが彼の本心だと理解した。

「可愛いこと言うのね。バカな女ならそれだけでも騙されちゃいそう……。私もバカな女になりたいわ。で、卓也に騙されて食べられちゃうの」

「君は聡明だよ。それより、取り引きは終わった?」

「終わったわよ。卓也がキョロキョロしてるから、相手は不審がってるわ……どうしたの?」

「おしっこが漏れそう」

「VR空間よ?」

「でも、もう無理!」

 卓也が血相を変えて走り出すと、デフォルトがモニターの電源を落とした。

「ちょっと!」と、ジジは振り返って怒った。

「プライバシーですから。それに、今卓也さんがいるVR空間は水の世界ですから、なにか連想されて尿意に似たプログラムが再生されたのかも知れません」

「それって関係ある?」

「ええ、地球人の脳というのはとても繊細に作られていて、脳が錯覚を起こしやすいんですよ。この地球の医療ページに書かれていますよ。えっと……ここです。いいですか?」

「よくないわ。彼のモノを見るチャンスを逃したことに文句を言っているのよ……。だいたい錯覚を起こしやすいなら、とっくに私に振り向いてるわよ。自分で言うのもなんだけど、かなり地球人好みの容姿をしてるわよ」

「そればかりは……なんとも。とにかく、取り引きは無事完了したようですので、戻ってくるまで好きにさせましょう」

 デフォルトが卓也の肩を持つのは、どうせ女性絡みのことだろうと思ったからだ。それを見せてジジを不機嫌にさせるよりも、放っておくのが一番だと結論付けた。

 しかし、その頃。卓也はもっと厄介なことになっていた。

「なんで! こんなことに! なってるわけ!」

「あなたが適当にVR空間への扉に触るからよ!!」

「勝手に向こうから寄ってきたんだ! 僕のせいじゃない!」

 現在卓也とAIは巨大な怪物から逃げていた。

 というのも、この世界はこの怪物退治を楽しむためのVR空間であり、ある程度の痛みは感じてしまうからだ。

 それだけならまだ耐えられるのだが、ここでの死はゲームオーバーを意味する。正規ではない入り方をした二人が、ここでゲームオーバーになればどうなるかわからない。

 意識が消えたままになる可能性も十分にある。

 あくまで誰かを利用してダウンロードしないと、ネットワーク空間へ安全に戻れないのだ。

 そんな二人の目の前に現れたのは、正規に怪物退治を楽しんでいるユーザーだった。

「あれ? 顔を知らない二人が……。おかしいな……これじゃあ人数が合わない。――って! ダメだこっちに来ちゃ! まだバグの仕込みの最中なんだ!」

「ごめん! 避けれない!」

 卓也は怪物を引き連れてユーザーに向かっていく。周りは木や岩だらけなので、避けることは出来ない。

 止まってやり過ごそうと提案する卓也に、AIは強い口調で「いいえ! 突っ込むのよ!」と言い、卓也の背中を叩いた。

 すると、まるでゲームのようにブーストがかかり卓也の足が早くなった。

「ちょっと! どうするのさ!」

「聞いたでしょう。眼の前の男はバグを利用して怪物を倒す気よ。なら、こっちはそれを利用して、誰かの本体にダウンロードするの。上手くいけば、バグから体を守るために気絶状態になるわ」

「わお……君って行動的なんだね。興奮しちゃう」

「興奮してるのは、走ってるからよ! いい? 一気に突っ込むわよ!」

 AIは卓也と共に、バグの仕込みをするために異様な行動を繰り返している集団の元へ突っ込んでいた。







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