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惑星迷子  作者: ふん
Season6
130/223

第五話

「さぁ、お宝探しよ」

 ジジはモニターに映し出された焦げたパーツを見て気合を入れた。

 ここは宇宙のゴミが漂う場所。何光年も昔に大破した大型宇宙船があり、ジジは有害な毒素がなくなるのを待っていたのだ。

「なんか一気にやる気がなくなったよ」

 卓也はモニターを見つめてあくびをした。

 どれもこれも同じゴミに見えるので、この中から修理して売れそうなパーツを探すなんてやっていられない。せめて、ラバドーラがアイの姿を投影してくれるのなら、乗せられてやる気も出るのだが、あいにく今はルイスの姿だ。卓也がやる気を起こす要素は一つもなかった。

「卓也さん……地球に帰りたくないんですか?」

 デフォルトは地球で親が待っているというが、卓也は生返事をするだけだ。

「ほっとけよ、いじける時もあるさ」とラバドーラは卓也の頭に手を置いた。「それより、どっちが有用なパーツを見つけられるか勝負しないか? ほら、よーいどんだ!」ラバドーラは手を景気良く叩いてからため息をついた。「あー……もう……この性格自分にムカつくぜ……」

「ルイスさん。そんなに落ち込まないでください。リーダーシップがあってとても素敵だと思いますよ」

 デフォルトは触手を握り拳を作るように曲げると、勝負しましょうとラバドーラの気持ちを盛り上げた。

「そうだな……どうせなら、有用なバカになるか。やるぞ、多古さん!」

 ラバドーラに後頭部と叩かれたデフォルトは「はい!」と嬉しそうな顔で返事した。

「おかしいわね……すぐ隣にあんなに良い見本があるのに、私になびかないなんて」

 ジジは優しくくすぐるように卓也の頬を触るが、卓也は気のない顔を向けてため息をついた。

「男の股間っていうのは難しいの。君もわかるだろう? あそこに旗を立たせても、風はいつも同じ方向から吹いてくる」

「そんなプレイはしたことないけど……試してみましょう。ささ、パンツを脱いで」

「それ、本気で言ってる?」

「本気というか……あわよくばを狙ってる。一度くらい試してみない? あそこを見なければ、完璧な女よ。あなたの惑星みたいに二つ目じゃないけど」

「昨日も一人で試してみたけど、君の股間に押し潰される夢を見て飛び起きたよ。僕だって混乱してるんだ。こんなこと初めての経験だよ。心がバラバラになっちゃいそうだ……」

「もう……可愛いこと言うのね。あなたはセクシーって言われてるけど、とてもキュートだわ」

「クールでホットを忘れてるよ」

「そうね……。それにスウィートだわ。機嫌を直したら、私の船に来てね。みんなそこから小型船に乗って宇宙空間に出るから」

 ジジは卓也の頬にキスすると部屋を出ていった。

 残された卓也は叫び出したいのを必死にこらえて、頭をぐわんぐわんと大きく振った。

 ジジにキスをされるのは素直に嬉しいのだが、そこから先へ進むとなるとどうしてもブレーキがかかってしまう。卓也にとっては大問題だった。

 だが、深く悩む前に「見たぞ見たぞ見たぞ見たぞ」とルーカスが部屋へと入ってきた。

「僕だって参ってるんだから、いじめるなよ」

「君は実にハレンチな男だ。女だけにではなく、男にも尻を振るんだからな」

「喧嘩売りに来たんだろうけど、今は買わないよ。デフォルト達がパーツを拾って売るまでお金もないしね」

「私はジジを振り向かせると宣言しにきたのだ」

「なに!? フィリュグライドの宇宙船の続きをするつもりか? というか、ジジは男だぞ? まさか惚れたの?」

「違う。私に興味が全くないから、私に興味を持たせて盛大に振るのだ。あんな奴の愛などどうでもいい。だが、この私をコケした代償は払ってもらう」

「そんなのいちいち払ってたら、君は今頃大富豪だよ。皆にコケにされてるんだから」

「異星人如きに舐められるのが気に食わんと言っているのだ。一つ目だから、美的感覚がおかしいというのは言い訳に過ぎん。ジジを落とし、すぐさま捨ててやる」

「まぁ、お手並み拝見。不思議なことに、僕は何もイラつかない。女の子だったら、モルガンの時みたいに躍起になるんだろうけどね」

 卓也はため息なのか、それともあくびなのか、自分でもよくわからない吐息を吐くと、机に突っ伏してしまった。

 そのまま動かなくなったので、ルーカスは「役に立たん男だ」と吐き捨てて、自分もゴミ探しに行くことにした。



「まるで潜水艦だな……」

 ルーカスはサルベージ用の小型宇宙船の狭さにうんざりして言った。

 少しでも体を動かそうものなら、誰かのどこかに当たる。それは左右に加え、上もそうだった。

 ルーカスの頭の上から「潜水艦ってことは水に潜るものですよね?」とデフォルトが聞いた。

「他にどこに潜るというのかね。拗ねてレストでふて寝している男の心か?」

「いえ、深く潜ってどうするのかと思いまして。水に潜るより、宇宙で過ごすほうが何千倍も有意義だと思うのですが」

「一万メートル以上の深海の世界は、宇宙と変わらんということだ」

 デフォルトは「一万メートル以上!?」と驚いてから、いつものように適当に笑わせにきているのだろうと笑みを浮かべた。

 ラバドーラが「本当だ」とルーカスの左上で頷いた。「そう書いてあった。方舟の資料にはな」

「地球の面積規模から考えるとほとんどが水ではないですか。そんな水の惑星に済んでいるのに、なぜ地上で暮らしているのですか?」

「簡単だ。おしっことうんこを海に流すのに、誰が海の中で暮らすか」

「地球人の議論って……なんだかバカっぽいわね」

 ジジはルーカスの右上でため息をついた。

「バカっぽいというのはこの状況のことだ。カプセルホテルだって、もっとまともに手足を伸ばせるぞ。それが横を見ても上を見ても人だ……屁をこいたら殺してやる……」

 この小型宇宙船筒状の形をしており、その殆どがサルベージした部品の保管庫になっている。なので、操縦室は狭い作りになってしまっていた。

 だが、レストとは比べ物にならないほど高性能な宇宙船だ。こんなに狭い操縦室に四人も入れる理由は、重力制御が常に足元にあるからだ。つまり周囲全てが、天井であり壁であり床ということだ。

「四人用じゃないのよ、我慢して。四人もいればすぐに終わるから。地球人は私と体の構造が似てるけど、毒素の設定は自分で設定して。そうしないと、保管庫に一緒くたに集められるから、入った瞬間死んじゃうこともあるわよ」

「当然だ。毒素その一はオンナノデシャバリ。私の気分を著しく害す」ルーカスはジジを見て言うと「毒素その二はエラソナオトコだ。これも私の気分を著しく害する」とジジに加えてラバドーラを見て言った。

「オレか? それは悪かったな。でもオレが直したところで、もう一人が直さない限り、気分を害したままだぞ」

 ルイスの顔のラバドーラが笑顔で言うと、ルーカスは深く頷いた。

「そのとおりだ」

「自分のこと言われてるって気付いてないのね」

 ジジはため息をつくと、次はアームの説明を始めた。

 アームの強さは合成金属に穴をあけるほどであり、時にはその力を利用することもある。掴んだりつまんだりするだけではない、その時々に合わせて使い分ける必要がある。

 穴を開けて引っ張ったほうが早いときもあれば、超小型の燃料タンクに穴があき、爆発させてしまう危険性もある。

 漂う廃部品から推理して、その宇宙船の全体図を想像することが大事だとジジは言うが、それはルーカスにとって難しいことだった。

 しかし、ルーカスはわからないままでも、任せろと言わんばかりに行動するので、デフォルトは心配でたまらなかった。

 今も話ばかりで一向に毒素の入力しないので、デフォルトが代わりに地球人への有効な毒素の設定をしているところだ。

 そして、実際にサルベージが始まると、驚いたことにルーカスは完ぺきに仕事をこなして見せたのだ。

「オマエ……偽物か? だとしたら、一生そのままでいてくれ」

 ラバドーラはテキパキ仕事をこなすルーカスに訝しげな視線を送った。

「ルイス君。君もそのままでいてくれていいぞ。常に私の後方にいて、私のなす事全てに驚くのだ。君にはお似合いの職業だ」

「確かに驚くことばかりだ……。驚きすぎて、とっくに心臓は止まってるだろうな」

 デフォルトが「まぁまぁ」と間に入った。「本当驚きましたよ。ルーカス様でも出来ることがあるだなんて」

「私は特殊な訓練を受けているからな」

 ルーカスは余裕顔でニッと笑った。

「今なら信じられます。もしかして、海底調査に加わっていたとかですか?」

 ルーカスのアームさばきを見て、デフォルトは純粋に驚いていた。

「話せば長くなる……。だから簡単に言おう。私にとって、この程度はゲーム感覚ということだ。バランスを考え……しっかり掴む。一度失敗しても慌てることはない。失敗したということは流れが変わったということ。修正は容易だ」

「大変素晴らしいと思います」

 デフォルトが触手を数本使って数人分の拍手を響かせると、ルーカスは得意になった。

「そして、しっかり掴んで引き寄せたものは、アームを開いて穴に落とすということだ」

「ちょっと待って……落とす?」

 ジジはまさかと思い、保管庫の監視カメラの映像を確認した。

 すると、ちょうど今サルベージした部品が高くから落とされるところが映った。

 しかし、ルーカスは「完璧」と自分で自分を褒めると「景品ゲットだ」とつぶやいた。

「落ちるって……重力制御は?」

「切っているに決まっているだろう。ゴトっと音がしてこそのクレーンゲームだ」

「ただでさえボロボロの部品を床に落とすなんて……どうかしてるわ。頑丈な無重力合金なのよ? パーツが使い物にならなくなるでしょう」

「我々はゴミを漁りに来てるのだぞ。特殊指定の天然記念生命体を保護しにきているわけではないのだ」

「考えなしなのね……」

「私の頭の中を理解するには、もう少し勉強する必要があるようだな。精進したまえ」

 ルーカスはご機嫌に笑い声を響かせると、陽気に歌いながら再びアームの操作を始めた。

 ジジは思わず「彼、正気?」と聞いた。

 ラバドーラは真面目な顔で「いいや」と答えた。

「大丈夫なの?」

「いいや」

「大丈夫ですよ。落ちる瞬間に重力制御をオンにするので。触手は余っていますから」

 デフォルトはサルベージしたものが床に落ちて壊れないように、匠に重力制御を駆使して床に置いた。

 それを何度も繰り返しているうちに、急にルーカスの手の動きが止まった。

「私にやらせたまえ」

「何をですか?」

 デフォルトは保管庫の監視モニターを見たまま言った。

「そのゲームをだ」

「あの……ゲームではないのですが……。重力を駆使して、隙間が出来ないように荷物を整理しているんです。たくさん荷物を積み込めるように」

「つまり私の出番ということだろう?」

 ルーカスはデフォルトをどかして座ると、重力制御装置をいじり始めた。

「ルーカス様! 気をつけてくださいよ。あまり乱暴にぶつけたりすると亀裂や穴が出来る可能性もあるんですから。もし間違って、保管庫以外の重力をいじってしまったら、自分達がぺちゃんこになってしまうかも知れませんよ」

「デフォルト君……心配し過ぎだぞ。みたまえ。君が危惧するような状況かね」

 ルーカスは監視モニターを自慢気に指した。

 そこでは、ルーカスが操作しているとは思えないほど、実に見事に荷物が積まれていっている。何度もモニターを切り替えているので、適当ではないこともわかる。

 デフォルトは思わずラバドーラを見たが、何も手助けはしていないと首を振った。

「私はやり込んだのだ」

「3D空間における荷物の積み込みシミュレーターをですか?」

「まぁ、そんなところだ。それよりも見たまえ」

 ルーカスはモニターを指差した。そこでは積み込まれた荷物が床のように真っ直ぐに積み重なっていた。

「ルーカス様……凄いです! お見事です!!」

「デフォルト君……気が早いぞ。私を褒め称えるのは、荷物が消えてからだ」

「はい?」

「知らないのかね? この手のゲームは横一列をまっすぐ揃えると消えるのだ」

「消えませんよ……これはゲームじゃないのですから」

「なに? ただ荷物を積み込むだけでなにが楽しいんだ? スコアが出てこそだろう。やってられるか」

 ルーカスは子供のように、やーめたとやる気をなくしていた。

 いつもならデフォルトが作業を引き継ぐのだが、あまりにルーカスが綺麗に荷物を積んだため、ルーカスにやってもらったほうが無駄がないことがわかっているので、効率的にもルーカスに作業して貰うのが一番だ。

 どうにかルーカスにやってもらいたいと、デフォルトは困ってラバドーラを見た。

 するとラバドーラは頼りがいのある顔で頷いた。

「わかった。オレがスコアを数えてやる」

「消えなければ意味がない」

「倉庫が埋まるまでに、どれだけ見事に詰めるかにすればいいだろう。どうせ今日の作業だけで終わらないんだ。勝負といかないか?」

「私に勝てると思っているのかね?」

「負けると思っていたら、こんな勝負を仕掛けると思うか? でも、まぁ……負けると思って勝負を受けないのも……ある意味立派だと思うぞ」

 ラバドーラが馴れ馴れしく肩を叩いた瞬間、ルーカスの顔色が変わった。

「後悔させてやるぞ。おい、そこの一つ目。早くサルベージしないか。それまでも私にやらせるつもりか?」

 ジジは「うわぁ……態度最悪」とルーカスを睨んだのだが、ルーカスは気付くことなく。落ちゲーを目一杯楽しんでいた。






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