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不服と暗躍


 未だ興奮が冷めやらぬ会場の出入り口に若葉色の長い髪の少女が待ちかまえるようにそこに立っていた。安倍マリア、リゼの前から立ち去った彼女は愛想のいい微笑を貼り付ける。

 立ち止まり、ジロリと目を動かすシュナイデルに対しても全く怯んだ素振りを見せない。


「まさか試合を放棄するとは、これは世間様が黙ってはいないと思いますよ。さぁなんて騒がれるでしょう? 『関口シュナイデル、戦意喪失』や『勇者の末裔、まさかの敵前逃亡』とか?」



 恐れるどころかクスクスと嘲りを含めて「ああ失礼」とマリアは言う。

「別に嫌みを言いにきたつもりはありません。貴方がなにをどうなさろうと私にはどうでもいいことですので」

「……」

「では何故わざわざこの麗しきご令嬢(マドモアゼル)が赴き声を掛けたのか、とでも言いたげな顔ですね。ちょっとした老婆心でお教えしようかと思った次第で」


 一言も喋らないシュナイデルをよそに彼女は饒舌に語りかけた。


「腑に落ちなかった筈でしょう。一太刀を浴びせた森野ウィドなる魔族が難なく復帰したことが。たとえ場外でなかったとしても得点になっていない理由を解説いたしましょう」

「……」

こうやった(・・・・・)んです。簡単でしょう?」



 空を指でなぞる。ちょうど試合で彼がウィズウッドを斬った時の軌跡に合わせていた。

 指先から光が灯り、尾を引くようにいくつもの小さな魔法円が描かれた。【多重(プル)魔障壁(アスピス)】。あろうことかマリアは杖を持たずに魔術を発動させた。


「これは古来(ロートル)の魔術の一種ですね。今は【シールド】と呼ばれる代物ですがこちらの方が断然応用や柔軟性に長け、このような芸当もできるようです」

「……それで、あの一撃をしのいだのか」

「ええ、衝撃を殺しきれずに後方には吹き飛んだようですけれど。よかったじゃありませんか……あれは──」




 一方ウィズウッドは憮然とした面持ちでスタスタとステージから出てきた。皆も追いかける。

「も、森野~! どこに行くんスか~!?」

「此処に用はない、戻るぞ」


 不本意な勝利をおさめた彼は帰る意志を表明し、リゼ達は困惑する。


「でも次の試合どうするの?」

「辞退する。あれ以上の相手は望めまい」

「えぇーッ!? 二回戦を放棄するんスかぁ!?」

「んだよ勿体ねェ」


 背後からやいのやいのと言われても無視を決め込み足早に会場を出て行こうとしていた。


「運営に申し入れよ」

「……では、そのように」

 すれ違い様にウィズウッドは清水ニーナに言い残す。彼女もそれに従う意志を示した。

 彼女は教職員として他にも出場している生徒達が試合を終えるまで居残る予定だ。



 魔王一行がそうして去ってからニーナは動いた。

 ウィズウッドの辞退を伝え、手続きを終えて息をつく。

「初陣はどんよりとした雲行き、といったところですか……」


 ウィズウッドを除いても試合経験が少ないながら彼等のポテンシャルであれば、三回戦までは軽々と突破すると見越していた。しかしよもや全員が一回戦で敗退するなんて思ってもみなかった。

 各々が大いに反省すべきことが見受けられ、今回の件を糧にして次に活かしてもらえればとニーナは願う。


 気持ちを切り替えてエルフの彼女は他の生徒試合を見回っていたのだが、

「清水先生~。突然すみません~!」

「あら? どちらさま?」


 瓶底眼鏡に黒い三つ編みという絵に描いたような女生徒が背後にいた。

 プレアデス学園とは違う制服だ。ニーナには心当たりがない。

 間延びした口調ではあるのだが、どうにも焦った様子である。


「ちょっと体調が優れない子がいるんです~。顔色も悪くて辛そうなのに試合に出るって言い張って~……私どうしたらいいのか……!」

「それは大変。どこにいるの?」

「こっちです~!」



 言われるがまま彼女はその女生徒の後をついていく。

(……あれ? そういえば、どうして私の名前を? ……いや、そんなことよりも)

 ふと、頭によぎった疑問は奥にしまい込んでニーナは会場の裏まで先導されていった。


「呼んできました~! 先生、どうかあの子を……!」

「大丈夫? 具合が悪いって聞い……」

 曲がり角にさしかかり、うずくまる少女の元へと駆け寄る。その呼びかけにつり上げたその素顔が露わとなった瞬間、ニーナは言葉を失う。

 若葉色の長い髪と、同じ色の瞳には酷く覚えがあった。



「貴女は──」

 そしてようやく口を開いた矢先、視界が暗転。背後からの衝撃に力なくニーナは崩れる。

 どさりと倒れた彼女の頭上でやりとりが繰り広げられた。


「こんな三文芝居に引っかかるなんて、コレも先行きが思いやられますね」

「命令通り意識を奪いました。数時間はこのままでしょう」

「よろしい。後はあちらの使いが訪れたら差し出すだけです。すぐに連絡なさい」

「かしこまりました」



(どう、して……)

 ニーナはつなぎ止めていた意識を、抵抗できずに手放した。

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