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王剣コールブランド


 控え室にてウィズウッドは衣装を換装した。

 黒いマントに黒の鎧。魔王としての格好である。


「よし、では──」

「よしじゃないっス却下っス。なんスか仮装大賞にでも出る気っスか?」

「余の晴れ舞台を衆目に晒すのだ。今見せねばいつ披露する」

「ダーメっスよ! リゼにも清水先生にも釘刺されたっしょ? オイラ、お目付け頼まれてるんスからね」


 同伴したボルタにダメ出しを受け、ウィズウッドは不服そうに眉をひそめる。

 渋々体操着姿に戻した彼だが、一拍間を置いてマントだけを背中に出した。


「では、これくらいはよかろう」

「どうしても着けたいんスか? それ」

「うむ。マントは余の誇りと威厳を表す。普段であれ身に着けたいのを我慢しておる。この機会でもなくば纏えぬからな」

「……オイラは止めたっスからね」


 ボルタはこの魔王、よほどマントが好きなんだな……と匙を投げた。


「さて、行くとしよう」

「今のところ全員脱落しているんスからしっかりやるんスよ」

「言われるまでもないわ」



 そしてステージに出た矢先、静寂した場所が一転した。

 ワーワーと声援が殺到し、これまでになく観客席が埋まっている。


「さっきも相見えたな、関口シュナイデルよ。かの勇者の血に連なる男と聞く。して、その噂は真か」

「……」



 シュナイデルはピッチリしたインナーを着込んでいるせいで鍛え上げられた筋肉が浮き彫りとなっていた。

 こちらの問いかけに一切返事もなく舞台の上へ移動。

 対話の意志はないことを判断しウィズウッドもステージに昇る。


「沈黙を貫くか。それは魔族と見下す故あってかそれとも元より寡黙なだけか……まぁ、そのどちらでもよい」

 開戦のブザーが鳴り、ウィズウッドは『レーヴァ』の杖を引き抜く。


「最強のウォーリアーと名高い実力、お手並み拝見といこう……む」

 相手も腰の金剣の柄に手を伸ばすも、意外な行動に出る。

 納められた鞘ごと、抜剣してのけたのだ。当然刃がないので斬ることはできず、鈍器として扱うように強いられるだろう。


 それでも当人は全く意に介した気配はなく、こちらに向かって突きつける。

 強面で対面する彼の様子は、微塵の冗談には窺えない。


(なるほど、強者の手心というわけか)

 意図を看破したウィズウッドは鼻を鳴らす。軽んじられているということが不服だった。


「では、こちらも──」

 指揮を振るうように杖を揺らし、魔王は魔術を発動する。

 魔力で現出させた鉱物を握り拳ほどの大きさまで集積させ、音を立てて短剣状に成形させた。刃はいぶし銀の鈍い輝きをたたえている。


(【黒曜の切拓(オブシウス)】)

「少しばかり遊んでやろう。【ストーン・エッジ】」

 命じると同時、宙に浮かんでいた鉱石の刃は回り、シュナイデルめがけて勢いよく飛び出す。


 人と持ち手不在の短剣による剣戟が始まった。彼は鞘付きの剣で防ぎ、弾き飛ばしても、磁石の如く引き寄せられて幾度となく執拗に襲いかかる。

 激しい攻防が繰り広げる最中、片手間で弾きながらシュナイデルは動いた。



 視線を動かさず、眉ひとつ動かさず、一直線にこちらへゆっくりと歩いて接近してきた。四方八方、死角からの攻撃にも平然と防いでのける。

「意に介さず術者を狙うか……当然だな。だが、そうは問屋が卸さぬ」


 想定済みであったウィズウッドは既存の魔術を操作しながら更にもう一太刀の黒い石器の短剣を追加した。

 飛来する黒き二刀。手数が増え、シュナイデルは防御の動作が倍になる。



「そら、もう一本くれてやる」

 と、息をつく暇もなく魔王は三本目を繰り出す。短剣の乱舞に翻弄され彼は立ち止まることを余儀なくされた。


「あれ、本当に【ストーン・エッジ】か? あんな自在に飛び回って同時に三本も操るのを見たことがねぇ……」

「野郎、小癪な真似を」

「シュナイデル! もたもたしねぇでとっととやっちまえ!」


 チームメイト思わしきギャラリーの野次を受け、男は無言で新たな行動に出る。


 自らの剣を懐に下げ、その場で腰を低くする。居合いの構えを見せた。

 黒刃が三方向から同時に迫っていた直後、一薙ぎにした。


 一度にウィズウッドの魔術を砕き、その斬圧がこちらにまで届く。

「ほう」


 そしてなにごともなかったように歩みを再開。確実に距離を詰めていく。

 だが魔王はその場から一歩も動かなかった。待避や後退は意地でもするつもりはないのだろう。


「なれば次はこうだ」

『レーヴァ』の杖先が空色の光に溢れる。


(【水龍遊戯(アホ・ロートル)】)

 ウィズウッドが次に繰り出した魔術は、膨大な濁流の柱。魔術名の通りドラゴンのように頭がついていた。鎌首をもたげてシュナイデルへ特攻を仕掛ける。


「……」


 歯牙を開き食らいつこうとする水の龍に対しても彼は別段慌てた様子もなく飛び退く。しぶきをまき散らし、地面に衝突。

 その瞬間に間合いへ飛び込み、一撃で首を落とした。

 無力化された水龍は力なく霧散し、ステージを濡らす。


 そんな状況下でいる彼に魔王は杖を向けた。

 

「──関口ィ! 奴はなにか狙ってるぞ気ィつけろォ!」

 忠告をしても時すでに遅し。



(【焼ける雷(セント・エルモ)】)

 紅い稲妻が迸り、シュナイデルの足下に散乱した水溜まりに届いた。



 干上がった水が水蒸気となり、爆発を引き起こす。巨漢がたまらず転がった。


 ウィズウッド側の得点ランプが一つ灯ったことで、顎をつり上げてこう言った。

「さしもの肝を冷やしたか? 余の先制だ」



 どよめきが会場を覆った。最強の代名詞から一本取ったことへの驚愕と戸惑いに支配される。

 当の関口シュナイデルも身体をすぐに起こしながらジロリとウィズウッドを睨む。



「どうした。抜かぬのか、その刃は飾りか。遠慮はしなくてよいぞ」

「……」


 するとシュナイデルは王剣コールブランドの全貌を見せつけるように前へ提げた。

 封印と思わしき錠がひとりでに外れ、スルスルと柄から滑り落ちる。地面に重厚な金属が沈む。


 刀身が剥き出しになった途端に一層黄金が輝きを増し、まばゆさに周囲が騒然となった。

「シュナイデルが鞘をとった!?」

「今まで片手で数えるくらいしか見せたことがねぇ筈だぞ!」



 外野の声にほう、とウィズウッドは尊大に振る舞った。

「ようやく本領発揮か。見せかけではないであろうな?」

 彼からの返答はない。だが、代わって再び居合いの構えを見せる。


「ではこれはどうする──【ファイア・ボール】」


 軽々とした調子で繰り出された火球の正しき魔術名は【焔玉フォボス】。魔王のありったけの魔力を籠められたそれは、従来のバスケットボールサイズではなく、ステージを埋め尽くすほどの規模に膨れ上がった。

 唖然とする観衆。床の表面を砕き、関口シュナイデルを呑み込まんと覆いつくす。


 これまで寡黙を貫いていた口から、短くも低い声が発せられた。

「──斬光(ざんこう)



 文字通り輝く金の軌跡が紅蓮の景色を二分する。そして向こう側にいたウィズウッドのもとまで届いた。

 驚愕に見開かれた魔王はとっさに杖で横一線を引く。


 黄金の斬撃と繰り出された一陣の鋭い風が相殺した。いや、完全ではなく余波が残ってウィズウッドの頬を掠めた。


 恐らく魔力を刀身に乗せて音速を超える早さで繰り出すことで生まれた真空波を飛ばしてきた。ウォーリアーでありながら遠距離攻撃も可能であることを把握する。


(最速最小限の発動とはいえ、殺傷特化の【西の烈風(ゼピュロス)】であっても打ち消しきれぬ威力とは……見せかけではないということか)


 シュナイデルは遂に動き出した。ウィズウッドを狙って一直線に突撃し、巨躯に見合わぬ加速で間合いに詰め寄ってくる。

 面白いと、あちら側にとって本領である近距離戦闘に持ちかけられてウィズウッドは応じることにした。


「【ソーディア】」

 

 杖に宿らせた光刃で袈裟斬りと正面衝突。

 けたたましい金属音が反響し、光の粒子が火花のように彼等の視界で飛び散る。

 想定よりも重い一撃を受け、魔王は確証を得る。この太刀筋はかの勇者サイファーにひけを……


「……フン」

「ぬぅっ」


 シュナイデルの猛攻は止まらない。体勢と防御を崩すべく、絶えずこちらの阻む光刃に打ち込んでくる。

 一撃一撃が絶大な破壊力を誇る王剣コールブランドの斬り込みを受け、肉体を魔力強化で補っている筈のウィズウッドが押し負けつつあった。

 防戦一方となった最中、魔王は異変に気付く。


(──いかん)


 その接触でウィズウッドの魔法の形状が歪んでおり、『レーヴァ』の杖が悲鳴をあげているようだった。

 惜しまれることに、現代の杖は細さや機能性に特化している為このような状況下で耐久性がない。


 こちらの付け焼き刃ではもう数太刀も受け止めれば杖ごとへし折られる。そう悟った彼は纏わせた刃を引っ込めた。


 後退しながら足場からすかさず地面の壁を起こし、立て続けに魔術を用いて迎撃に転じようとした矢先のことだった。


 その上から半分が息つく暇もなく消滅した。正確には一瞬で両断され、勢いで吹き飛んだのだ。

 既に二撃目の構えに入り、懐にまで相手は踏み込んだ。その物言わぬ剣幕は鬼神に見紛う気迫を伴っていた。


「しま──」

 黄金の金閃が、遂にウィズウッドをとらえた。斜め上から斜め下へ、胴を撫で斬りにした。


 例外なくウィズウッドも遙か後方へ追いやられ、舞台の下にまで落ちていく。そのまま地面に激突して場外となるのは自明の理である。


 静まりかえって数秒。観客の興奮が最高潮に高まった。

「っしゃァあああああ!」

「シュナイデルの勝ちだぁ!」

「当たり前だよなぁ!?」



 反して彼を知る一行は愕然とその結果に言葉を失っていた。ショックを受けている者がいることなど知る由もなく、嘲笑と野次の波がうねった。


「ハッハッハッ。どうしたレッサー野郎、呆気ねぇなぁ!」

「あんなにデカい口叩いてそのザマかよッ」

「とっとと尻尾撒いて帰んなー負け犬ぅ」


 魔族の醜態という絶好の悪意の的に晒され、舞台の外で大の字に倒れ伏すウィズウッドであったが、






「──フ、フハハハハハハハハハ! ワーッハハハハハハッ!」


 たちまち周囲が息を潜めるほどの大きな高笑いを吐き出し、そして痛いほどの沈黙が流れる。

 観衆達はくだらない意地か意趣返しの奇行ではないかと勘ぐりそしてヒソヒソと言い出した頃。


「んだあの野郎。みっともないにもほどがあるだろ」

「バカかよ」

「イかれたか」

「試合終わったんだからとっとと引っ込……あれ?」


 ちらほらと、そこで疑問の声がふつふつと沸き立っていく。幕引きを示すなにかが足りないと、気付き始めたのだ。



「……そういや、まだブザー鳴ってねぇな」

「シュナイデルが勝ったのにか?」

「確実に今の一撃が決まったのに得点ランプも光ってないぞ?」

「故障か? あの野郎は今場外で地面に倒れ──」

「待て、アイツ、全身の影がくっきり……」


 そこに注目すれば指摘通り、彼の全身が影を降ろしている。普通に寝そべっていれば影は映らない。それは地面から数センチほど身体を離しているという不可思議な現象によるものだった。



 人体浮遊。それからウィズウッド・リベリオンにも明確な変化が訪れた。

 横たわった体勢で身体が吊り上がり、糸にでも引っ張られたように浮上する。

 場外負けはあくまで舞台を降りた場合であり、彼は未だにステージの中にいるのと同義。故にウィズウッドは場外判定を受けなかった。


南の逆風(ノトス)】で全身を吹き上げ、激突を免れたということを理解できる者は皆無であろう。


「勝利の余韻に浸るのはまだ早いぞ、関口シュナイデル」

 第二ラウンドとゆこう。ムクリと身体を起こし、そうしてステージに舞い戻ったウィズウッドはそう言い放った。


「見くびっていたのは余の方であったな。非礼は詫びよう。ここより先は余も手心を加えぬ」

 ブーイングが響き渡る。明らかにさっきので負けただろう、と彼の復帰に納得がいかない者達の非難で溢れた。


「……」

 すると関口シュナイデルは意外な行動に出る。ウィズウッドから顔を背け、黄金の鞘を拾いに移動した。

 コールブランドを納めるなり、跳躍してステージ外に飛び降りた。


 決着のブザーが鳴り響くと同時、周囲の驚愕の声が広がり魔王も目を見開く。

「貴様……!」

「……お前の勝ちだ」


 一瞥し、そう言い捨てた男は舞台から去っていく。


「オイ! 関口なんてことしてくれた! 聞いてんのか!? 関口──」

 観客席にいる仲間内からの呼び声に脇目も振らない。

 突然の降参にウィズウッドは険しい面持ちでその場に立ち尽くすのだった。

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