関口シュナイデル
ステージ下で顔を合わせたリゼとレティシア。運営のスタッフに説明を受け、納得の上で舞台を出る。
「二人ともナイスファイトー!」
「凄かったぞーお嬢ちゃん達ー!」
大健闘を目の当たりにしていた観客から声援が送られ、拍手が起こった。それはレティシアだけではなくリゼも偏見の目を越えて称えられた証拠である。
「でも引き分けかぁ。決着はまた今度だね」
「よもやこのような結果になろうとは思いもよりませんでしたわ」
「悔しい?」
「貴女こそ」
かつてのように二人は揃って出歩き、気さくな軽口を交わした。
しがらみを解き、またこうして話せる時がこようとはリゼも考えもしなかった。
「これほどの力を身に着けたのは、やはりあの男の仕業なのでしょうか」
「ウィドのことだよね。まぁ、そんなところ。アイツはあたしの遠い親戚で一応師匠みたいなもん」
「ということはあの短期間でわたくしでは為し得なかったことを……妬けますわね」
「……待たせちゃって、ごめんね」
「いいえ、おかえりなさいと言わせていただきますの」
魔族の少女は魔戦興行を続けていて、この大会に出てよかったと達成感と喜びを噛みしめる。
「それで、あの話はどうしよう?」
「リゼが勝てばそちらのチームへのご勧誘を検討する約束でしたわね。残念ながら約束は約束、そこはけじめをつけるべきですの」
チーム入りについては見送る。それとこれとは話は別、ということだ。
「確かに、負けた訳じゃないのに嫌々入っても仕方ないよね」
「ライバルとしてその方が面白いでしょう?」
「うん、今はこうして元に戻れただけで十分」
「では残す問題は……」
「リゼー大丈夫っスか!?」
「星村様お怪我は!?」
両陣営の生徒達が出口で殺到した。派閥のように分断され、二人は視線を交わす。
口火を切ったのはリゼ。
「どう星村? 一泡吹かせてあげたよ」
「……今日のところは痛み分けですわ、田中リゼ」
「うん、だから次はあたしが勝つ」
「レッサーが吠えましたわね。それではごきげんよう。行きますわよ皆さん」
冷たい態度で振る舞い、とりまき達を率いて彼女は会場を出て行った。
リゼ側はともかくレティシアの体裁を考えると、二人がまた仲睦まじくするのは不興を買うかもしれない。
だったら公の場での接触は極力控えた方がいいという判断で彼女らは口裏を合わせたのだ。
もう胸の奥に巣食っていた疼きは欠片も残っていない。気丈な目で晴れやかな胸中でその後ろ姿を見送っていた。
「さっ次はウィドの試合だよ」
「うむ。皆不甲斐ない者ばかりで気苦労が絶えぬよ」
「嫌みっスかぁ森野ォ!?」
「おーおー悪かったなァ不甲斐なくて」
「ともあれ、余の闘う相手をまだ視ておらぬな」
「無視かよオイ」
一部始終を静観していた魔王ウィズウッドは抗議の声を受けながらも己の試合相手に意識を向ける。
指定されたステージはこの近くであるのなら、そろそろ姿を見せてもいい頃合いだ。
その懸念は周囲のざわめきで的中する。
「おい、あれ見ろよ!」
「前年度世界大会で優秀したアトモスフィア大学の一群チームか!」
「じゃあ、一番前にいる奴は……!」
「ああっテレビで見たことあるぜ……!」
雑踏を掻き分けて一直線にこちら側へとやってくる集団がいた。
先陣を切っているのは二メートルに達しそうな大男。岩を削った彫像のように屈強な身体を持ち、刈り上げた金髪と精悍な顔つき。
関口シュナイデル。勇者サイファーの末裔であり、今日これからウィズウッドと試合する人物である。
だが彼の図体以上に目を引いたのは、腰に帯刀された得物だった。
材質は鞘まで金で構成されているのか黄金の輝きを放ち、あくまで儀礼用で実用的には思えないほど造形美に優れている。
「アレは王剣コールブランドです。鉄を裂き、振れば空にも届くという勇者の聖具のひとつで、正当継承者にのみ所有を許された……」
「……待て。そのような武具を余は知らぬ」
背後からひそひそとニーナから解説を受けていたウィズウッドは口を挟む。
実際に相対した魔王であるからこそ、そんな派手な宝剣を勇者サイファーが持っていなかったと断言できた。
「では紛いものか」
「いえ、あながちそうではないかと。かつての勇者にひけを取らない剣技を発揮されるそうですから」
「面白い。なればこの試合で確かめてやろうではないか」
通り過ぎた彼等を眺めているとシュナイデルの新緑の瞳と目があった。
森野ウィドなる対戦相手という認識はない筈なのに、彼は敵として見定めているようである。
魔王は無言のまま目を逸らさず、睨みを利かせ合っていた。
「関口、前! 前!」
後続のチームメンバーが警告する間もなく、よそ見をしていたシュナイデルは電信柱に衝突。目撃者達はあっ、と痛ましい場面に固まる。
沈黙が広がって数秒。彼は数歩後退する。
「お、おい大丈夫か?」
「……」
顔面を強打したのか、顔を手で拭いながら無言を貫く。そのまま移動を再開した。
そんな様子に毒気を抜かれたウィズウッドだったが、咳払いをして取り繕う。
「……余も出立するとしよう」




