VSジャスミン
坂本ドゥーゴはコート内にずかずかと入り、竜鱗を錬成して作った幅広の大剣を軽々と肩に担いだ。
対するサルーキ系のコボルト種、美しい白い毛並みが特徴の斎藤ジャスミンは二振りの短刀を携えて竜女の得物に目を奪われている。
「待ちかねたぜ、この瞬間をよォ」
「貴女、その大きな剣を会場によく持ってこれたわね。それきちんと使えるの?」
「心配いらねーよ。ちょいと力にゃ自信があるんでなァ、この通り……フンっ! フンっ!」
さながら枯れ木の枝でも扱うように軽々と素振りを披露する。その度に不穏な風斬音が発生する。
「ある程度は、魔法で重量を減らしているのよね……?」とジャスミンはその様子に顔をひきつらせた。
それから二人は身構える。竜女は待ちきれなさそうにウズウズと身体を揺すり、口元を剥き出しにした攻撃的な笑顔を見せた。完全な臨戦態勢である。ジャスミンも短刀を逆手に握った。
そしてブザーが鳴り戦闘の口火が切られるなり、すかさずドゥーゴから飛び出した。
「──じゃ、おっ始めるとするかッ!」
正眼に構えたまま特攻を仕掛け、頭蓋を叩き割らんと言わんばかりに勢いよく振り被る。
試合開始から一秒、ダイナマイトでも使ったようにステージが爆発を起こした。遙か高く土煙を巻き上げたことで観客席からは驚嘆と悲鳴が広がり、他のステージで試合中の選手までその現象に驚き一時戦闘の手を止めた。
「うわぁあああ! 無茶苦茶っスぅぅ! ていうかジャスミンせんぱぁぁい!?」
「ステージが穴だらけになっちゃうんじゃないのォ!?」
「ドゥーゴの奴め、はりきりおって。もっと加減を覚えぬか」
観戦していたリゼ達は衝撃に竦み上がり、ウィズウッドは苦々しく非難の言葉を漏らした。
しかも先手の一撃にしては悪手であったと言わざるを得ない。
現に力に物を言わせた初撃は見事に躱された。自らの煙幕で相手を一瞬見失う。その爆心地の傍で白いシルエットが横切っていた。
身軽に跳躍したジャスミンが破壊力に圧倒されつつもドゥーゴの背後へと回る。
今度はジャスミンの方から接近を仕掛けた。
返す刀で死角から一打を加えようとするも、背中を見せていた竜女はすかさず振り返り横薙ぎに一閃を放った。咄嗟に飛び退いて距離をとる。
「一撃でもまともに受けたらお陀仏ね……!」
「おうおうおう! よく避けたな! だがいつまで持つかな!?」
ドゥーゴは戦法も立ち回りもかなぐり捨てて特攻を繰り返す。
袈裟斬り、胴薙ぎ、斬り上げ。立て続けに素人さながらの動きで力任せに振り回す。それだけでも十分脅威であった。並の相手であればそれだけで場外にまで弾き飛ばされるからだ。
だがコボルトの少女はヒラヒラと舞うように攻撃の数々を紙一重に回避してのけた。アクロバットな挙動でドゥーゴを翻弄していた。
彼女はそのまま懐へと潜り込む。
二対の刃を交差させジャスミンは隙を突く。
「──シッ!」
「──させっかよォ!」
させまいとドゥーゴは横合いからスイングを見舞う。
だが間合いを詰められていた為に威力が減衰し、大剣の腹を片方で受け流しつつもう片方でジャスミンは竜女の肩を穿つ。
「一点」
「ぬがっ!?」
そのまま強引に振るい飛ばすも、錐揉みしながら離れた地点に着地。
こちらの膂力を利用して一撃離脱を成功させた。
全く堪えた様子のないドゥーゴであったが、ジャスミン側に三つの内一つのランプが灯る。先制点をとった。
「チィ、やってくれるじゃねぇか」
「こっちだって必死になるわ。貴女パワーだけなら一級品よ?」
「じゃあ畳みかけてやるよヴォラァッ!」
ただ猪突猛進のまま坂本ドゥーゴは挑む。対して斎藤ジャスミンも一陣の風のように向かってきた。
(素早さそのものはボルタほどじゃねェ、ただアイツより動きが読めねぇだけだ。闇雲に追っかけても埒があかねぇだろうなァ。だったら)
こちらから仕掛けると見せかけて反撃の機会を待つ。どんな達人であろうと攻撃の瞬間には隙が生まれる筈だ。
肉を切らせて骨を断つ。カウンターで決着をつける。
目前まで迫ってきたところで大きく振り被り、ドゥーゴは吠えた。
「食らいやがれェェ!」
と見せかけて直前でピタリと動きを止める。後出しで確実に攻撃を当てる腹積もりだった。
クスっ、という笑いの吐息がドゥーゴの懐で漏れる。他ならぬ斎藤ジャスミンからだった。
「──残念、読んでた」
予想とは異なり、横切るようにして一撃を加える。反撃に出ようとした時には既に間合いを通過している。
「んなァ!?」
「二点。そして──」
ジャスミンの追撃は既に行われていた。再び背後からの奇襲。
とっさにドゥーゴも反撃に出、剣閃が交錯した。
「三点」
タッチの差で決定打を決めたのは斎藤ジャスミン。竜女の一振りはジャスミンを掠め、白い毛並みが風圧でなびいた。
無情にもブザーが鳴り三つの灯ったランプが勝敗を判断していた。
言うまでもなく、ジャスミン側である。
その状況を目の当たりにし、竜女は呆然とその場に立ち尽くす。
「……は? 終わり?」
「残念だけれどこれで試合はおしまい。貴女本当にタフよね」
「待て待て待てちょっと待ってくれ! 冗談だろこれだけで退場になんのか!?」
納得できずに声を荒げて詰め寄るドゥーゴに勝者のジャスミンは「そ、そうよ」と言っておずおずと頷く。
「ダメだそんなの! もっかいもっかい! もう一回試合やらせろやり直しだ!」
「えーと、ダメなのは試合のやり直しの方よ?」
「納得いかねェ。オレァこの通りまだピンピンしてんだぞ! 全然闘えらァ!」
「でもね坂本さん、これは勝負である以上決着がついたら恨みっこなしで……」
「もっかぁぁあああいッ! 試合しろォ戦えよォおおおおお!」
大剣を振り上げて駄々をこね出したドゥーゴ。周囲も驚き、ちょっとした騒ぎになりかけていた。
その様子に彼女の仲間達は頭を抱え、あるいは落胆の息を吐く。
「あちゃぁー結局暴走しちゃった……」
「あれは、お止めになられた方がよろしいかと」
「……やむをえまい。ボルタよ」
「オイラっスかぁ!? まだジャスミン先輩と顔合わせるの気まずいんスけど!?」
「どさくさに紛れてちょうどよかろう。おぬしが適任だ、行け」
「……あーもうっあとで覚えてろっスよ! ちくしょう抑えればいいんでしょ!? おぉいドゥーゴちょっと待ったっスぅうううう!」
慌ただしく仲裁に向かったコボルトの獣人を尻目に、魔王は重々しく唸る。
「まさかドゥーレゴエティアまでこうも容易く陥落するとは思わなんだ」
「どんなに強くてもそれだけ勝ち進めるのは難しいのですね」
「ともあれこれで残すは二人。次はおぬしの番だぞ、リゼ。支度せよ」
「……う、ん」
どくん、と心臓が高鳴り魔族の少女の顔が強張った。だが意を決したように観客席から離れていく。
坂本ドゥーゴ、一回戦敗退。




