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建前と本音を分ける者達


 授業が終わり、昼休みにさしかかる。学徒にとってはかけがえのない安らかな時間である。

 そこで開かれた食堂でリゼとウィズウッドはテーブルに向かい合った。


 注文したサンドイッチを置き、疑問を投げかける。


「どうして分かったの? 杖の不良品をつかませようとしていたなんて」

「まず訝しく思ったことがきっかけだ。平等であるにも関わらず番号が振られたものを選ぶ所作があったのでな。わざわざ杖の所有者に交換を強要し、そのような真似をするには何らかの意図があると見た。そこからは推論と長年の勘よ、あの手の輩はごまんと見てきた」

「つまりほぼ根拠なしってことじゃん!? よく言い出せたね!」

「結果は言うまでもないがな、やはり細工しておったわ」


 後ろめたさがなければ証拠を奪って立ち去るような真似はしない。

 実際の反応からして、限りなく黒であると判断していいだろう。あの三日月顔の教師川上ムンナも授業に参加してきた魔族を貶める意図があり、危うくリゼも恥をかかされるところだった。

 平等や公平が聞いて呆れる、とウィズウッドは毒づく。リゼだって顔を曇らせる。



「あまりいい噂を聞かない先生だったけど、あんなことするなんて。後でニーナ先生に相談しておこうかな」

「越したことはない。しかし恐らく追求するには厳しい状況であろうな」

 千年の時を経て地上に舞い戻った魔王ウィズウッドは、現代で忠誠を誓っていた部下と再会を果たしている。ニルヴァーナと呼ばれていたエルフの少女は現代で清水ニーナとして教員をしており、その伝手で彼はここの生徒になったのである。



「それよりもリゼよ、あのような小物にかまけている場合ではないぞ。この食事を済ませたら動く」

「まだ学校始まったばかりで気が早過ぎじゃない? メンバー集め」


 校内で魔戦興行(ウォーゲーム)に参加してくれる生徒を探す。それがウィズウッドの最初の行動である。

 公式で活動するにあたってチームの編成は五人。公式の活動を行うにはあと三人……少なくとも二人が必要不可欠なのだ。



「いいや、この発起は迅速に限る。事実、我々魔族の風当たりは厳しいものだ。賛同を得るのは至難であるのは重々承知しておる」

「あたし達、生徒全体に喧嘩売っちゃってるから……」

「──さながら茨の道、かな?」


 という、第三者の声に二人は固まる。

 テーブルに割って入ったのは金髪碧眼の少年であった。

 たちまちリゼは座席から跳ね上がり、ウィズウッドは渋面を広げた。


「せっ、せせせ先輩!?」

「堀門ギルバート、盗み聞きとは趣味が悪いぞ」

「ごめん。でもチーム集めなんておもしろい話をしているから混ざりたくなってね」


 丸聞こえだったよ? 茶目っ気にそう伝える。

 これまで見向きもしていなかった他の生徒達もこちらに注目していた。

 リゼを含めた羨望の眼差しを受け、本人も心なしかキラキラしているような錯覚を覚える。


 唯一ウィズウッドだけが珍しいことにこの美少年に対して苦手意識を持っているようで、警戒する様子を見せた。


「それで、何用で訪れたのか」

「いや、あてがあるのかと思ってさ。先に言っておくとボクは先約がいるから断っておくよ」

「そ、そうですよね。先輩は学校外からのチームでも引っ張りダコですから。集まるかどうかも怪しいのに仕方ないです」

「自ら怪しいなどと言うでない」


 やりとりに苦笑を見せる彼は、真人間でありながら魔族に対する態度が周囲と一線を画している。大の大人ですら乖離できない偏見の目を見事にすり抜けているのだ。

 そんな若さに反比例した人間性が、ウィズウッドにとってはよけいに嫌みでもあり、なにより不気味に思えてならない。


 じぃ、と懐疑の目を向ける。

(こやつ……余につきまとって……)

 ウィズウッドは彼に同性愛があることを懸念していた。



「なんだいその視線。君、なにかすごく失礼なことを考えている気がするんだけど」

「っく! なるほど思考を読む類の魔物もおったが、人間にも備わっていたとは……! ええい気色悪さが増した!」

「ほんとに失礼な奴だなこの野郎」

「その通りで申し訳ないですけど先輩キャラが!」


 目を剥いてちょっぴりムキな様子を見せるギルバートは「おっと失礼」と言って元の容姿端麗な爽やかさを取り戻す。どうやら振る舞いの半分は意図的なものらしい。


「本音を言うと、予約を入れておきたかったんだ。ボクと試合をするという約束をね」

「そのような回りくどいことをせずとも、いつでも受けて立つが」

「それは山々だけど、交渉先が練習試合ひとつにもうるさいんだなこれが。昨日の田中くんみたいに注目を集められると少々面倒なことになるだろう」

「つまり公の場で挑むのを待つと」

「そういうことさ。君達が作るチームの活躍を楽しみにしているし、影ながら応援しているよ」

「あ、ありがとうございます!」


 そうして彼はその場を立ち去った。

 ようやくいなくなったとウィズウッドは毒の息を吐く。


「つまるところただの冷やかしではないか」

「ちょっとぉ! そういう言い方はないでしょう」

「いや、こちらの立ち位置を哀れんで施しを受けるのも癪ではある。あやつの経緯で紹介なぞされようものなら蹴ってやるぞ」

「なんでアンタはギルバート先輩に冷たいの?」

「いちいち食いつくな。話が脱線したが昼食を済ましてまずは同胞の魔族から当たって……」

「見つけましたわ森野ウィド! 此処で会ったが百年目!」

「全く、次から次へと」

 代わる代わるで現れたのは星村レティシア。

 アフロにパーマされていた金髪は無事元通りになったようで、険しい面もちでずんずんとこちらに接近。

 今日は付き人の姿がなく、単身乗り込んできた様子。



 テーブルを両手でつき、ずいと身を乗り出す。衝撃で僅かに皿が浮く勢いだった。食事を手にしていたリゼが今度は縮こまる。

「はて、これほど騒がしいと登校しておれば気付くものであったが」

「午後からの復帰ですわ、そんなことより貴方! 先日のお礼がまだでしてよ!」


 反してウィズウッドは煩わしそうに顎をつり上げた。

「なんだ、また性懲りもなく余に噛みつくか」

「当たり前ですの! この屈辱を易々と忘れてなるものですか! 今一度試合をお受けなさい! 今日の放課後にでも……!」

「果たし状を突き出すのはよいがそれに応じても無意味でしかない。あの時、おぬしの言い分を打ち砕くほどに実力を示したのだからな」



 まだ記憶に新しい出来事である。星村レティシアは一人下手くそな練習をしていたリゼが目に余ると因縁を付けて追い出そうとした。

 そこに横やりを入れたウィズウッドは弱者同士の格付けと揶揄し、実戦でその証明を果たした。


 だからリベンジマッチを求められようと歯牙にかけるまでもないと彼は言い降す。事実メリットがない。

 しかしあしらわれたレティシアも負けじと食い下がる。

「いいえありますわ貴方はわたくしに恥をかかせた! 公の場で!」

「それは自業自得であろう」

「だとしても、こちらにも面子というものがありますの! このままで──」

「そうして再戦を望み、結果が変わらねば繰り返すであろう? 逐一相手などしておられるか」

「怖じ気付きまして!?」

「そのような台詞はこちらに脅威を思わせる実力を伴ってからにせよ。おぬしが披露した魔法合成、アレが全霊の力であるのなら手数にも劣ったおぬしには万に一つも勝機はないと言っておこう」

「ぐぬぬぬ……!」


 口先での交戦ですら軍配が彼にあがる。

 背を翻して、撤退の意図を見せた。

「そう遠くない内に吠え面をかかせてさしあげますから!」

「負け犬の遠吠えならもう少し静かにやれ」

「お黙りなさい! それと!」


 首だけで少し振り向いて、


「貴女も他人事のようになさらないこと、打倒を考えているのはこの男だけではありませんわ」

「えっあたし……?」突然意識を向けられて彼女は戸惑う。

「わたくしを慕う者から少しおいた(・・・)があったようなので。もしも、またこのようなことがあったのならお伝えなさい」

「う、うん……」

「ではごきげんよう森野ウィド、田中さん」


 嵐のように立ち去るレティシアの後ろ姿を呆然と見送ったリゼ。そんな一部始終を目の当たりしたウィズウッドは意図を悟る。

 自分へ突っかかってきたのは建前に過ぎないと。



「こちらが本命であったか。回りくどい」


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