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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第3章<コイマの森編>

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第58話「笑えない冗談」

 コイマの森での狩り初日、その日の反省会はまだ続いていた。


「ナナトさんは今日の俺たちを見てて、どう思いましたか?」

「ん? そうだな……」


 この質問をするのかどうかはちょっと悩んでいた。自分たちで気づくべきことなのかなって思ったから。でも、分からないまま明日を迎えるのは怖いし思いきって聞いてみることにした。


「答える前に、おれから先に聞いてもいいか?」

「はい、なんですか?」

「初見と二回目の戦闘、レイトはどっちが良かったと思う?」


 この質問で俺の何かが試されたりするのかな? 考えても分からないだろう。思った通りに答えるべきだ。


「どっちも悪かった……ですかね。やっぱり二回目は俺が怪我をしちゃったし、指示もちゃんと出せてた記憶もなくて最悪でしたよね。一回目は誰も怪我をしなかったし、少しバタバタしたけど何とか勝てましたから、まだマシ……だったんですかね?」

「その、少しバタバタっていうのが命取りになるんだよ。誰も怪我をしなかったのは、相手が三匹だけだったからだよね?」

「あ……えっと、はい」

「おれは二回目の方は良かったと思うよ? あの場面で、レイトの怪我があの程度で済んだのは、全員が一回目での反省点をしっかりと修正したからだよね? それに、狩りをしてるとどうしても怪我はしてしまうものだよ、その為にヒーラーがいるわけだからね」

「そうですね。でも……結局は二回ともナナトさんを戦わせてしまいましたし」

「ん?」

「え?」

「それは……戦うだろ?」

「あれ?」

 何かが噛み合わないような感じがした。どうしてだろう。


「ナナトおめえ、仲間になる時に自分は戦わねえって言わなかったか? 」

「そんなこと言ったっけ?」

「い、言っていたと……思いますけど?」

「おれは……基本的には戦闘に参加するつもりはない、戦闘は極力自分たちで行うことって言ったはずだけど?」

「言ってんじゃねーか!!」

「その後にもちゃんと言ったろ? 誰かが負傷したり危険だと感じた場合は戦うって」

「あぁ……言ってましたね」

「一回目は全員が左側に意識を持っていかれてて、ルミルが危険だったから。二回目はレイトが負傷して、ココハちゃんが危なかったから」

「…ごめん、なさい」

「謝ることじゃないよ。おれは仲間として当然のことをしただけだし、初日から完璧にできるなんて思ってなかったからね」


 そうだよな。どうして俺はナナトさんの力を借りたらダメだって思ったんだろう? 俺たちは森に入るのが怖いことだって分かってたから、ナナトさんに仲間になってほしいって頼んだんじゃないか。


「もしかしたら、おれの伝え方が下手だったのかもしれない。条件を満たせなければパーティーを抜ける……なんてことは言わないとも言ったはずなんだけどな」

「言ってましたね。すみません」

「いや、誤解させてたなら悪いのはおれの方だよ。みんなはおれを軍師(ストラテジスト)だって言ってくれたけど、おれは自分の頭の中にあることを上手く言葉にできないんだ。こいつ何が言いたいんだって思ったことはない?」

「あるな、山ほど」

「あるわね」

「あ、あります……ね」

「…ごめん、なさい」

「わたしも……あります」

「俺なんて、ナナトさんがそういう風に言うのは、自分たちで気づけよって意味だとばっかり……」

「ははっ、全滅だな!」

 ナナトさんが腹を抱えて笑っている。


 そうか……ナナトさんは戦闘技術や知識もあって、経験値も俺たちとは比べ物にならなくて。でも、俺たちと同じ人間なんだ。人間だったら不得意なことなんて普通にあるよな。


「えっと、確認していいですか?」

「……うん。なに?」

「俺は……俺たちは、ナナトさんに頼ってもいいんですか?」

「ああ、いいよ。でも……」

「分かってます、ナナトさんをデメリットにはしませんから」

「そうか。それなら存分に使ってくれよ、リーダー?」

「はい、ありがとうございます!」

 良かった。何だか少し肩の荷が降りた気がする。



 ――それから、もう少し反省会は続いた。でも、あんまり遅くなると明日に響くし、個人の反省は持ち帰ることになった。


「時間が足んねーよな」

「それだけ俺たちがまだまだ未熟だってことだろ」

「質問とかアドバイスなら森へ向かう途中でも聞いてあげるから」

「はい」

「…やっぱり、みんなで……一緒に」

「ココハ?」

「…あ、ううん……なんでもない」

「なんだよ、気になんじゃねーか。はっきり言えよ!!」

「…………」

「ちょっと、そんなに強く言わなくてもいいでしょ!」

「言ってねーよ!!」

「言ってるじゃない!」

「ま、まぁまぁ二人とも……落ち着いてよ」

「……パーティーのみんなで、宿舎みたいな所で共同生活したらどうかなって話」

 マキアがココハの言いたかったことを代弁してくれたようだ。


「宿舎で……共同……生活……?」

「なに!? マジかよ!?」

「嘘よ」

「あ!? どっちなんだよ!!」

「女子三人で一緒に住みたいなって話をしたの。男は関係ない」

「なんでだよ! オレも混ぜろよ!!」

「嫌よ、嫌!」


 確かにみんなで共同生活をしたら、一緒にいる時間も増えるし、たくさん話とか……いろいろできるよな……いろいろ。


「俺とココハは街一番の安宿のままだし、引っ越しはそろそろ考えたいかな……まぁ宿舎じゃなくても別にいいんだけど」

「ココハはそうね、そろそろちゃんとした宿に移るべきよね」

「…私は、みんなと一緒が……いいな」

「よく言ったぞココハ! もっとだ! もっと言え!!」

「…みんなと一緒に、暮らしたい!」

「よっしゃ! 暮らすか、暮らしちゃうかあ!?」

「却下」

「なんでだよ!?」

「あんたと一日中一緒なんて嫌よ」


 それは……確かにそうだな。絶対に疲れるし、ストレスも溜まりそうだ。


「…ナナトさんは、どうですか?」

「ん? おれは……今の宿でいいかな」

「…そう、ですか」

「おれだけ歳も離れてるし、そういうのが一人混じってたら気を遣うだろ?」

「いえ、そんなことないですよ。俺はナナトさんと話す時間はもっと欲しいですし」

「ボ、ボクも……」

「わたし……も」

「「え?」」

「あ、なんでもない!」


 明らかに焦っているマキアがいる。照れているのかもしれない。自分たちはそんな関係じゃないって以前に言ってたけど、やっぱり意識はしてるんだなって思った。


「…私は、マキアさんとも……一緒がいいな」

「ココハ……もう許して」

「そうだな、マキアがいるなら考えてもいいかも」

「え!?」

「なんつって」

「……もう、バカ!」

「あはは、マキアがそんな言葉を使うなんてね」

 ルミルが吹き出したら、みんなも釣られて笑っていた。


 マキアは恥ずかしそうにしていた。まだたまに、思い出したように無表情になることはあるけど、だんだんと笑顔も見せるようになってきた。確実に変わってきてる。仲間に……家族になってきてる。


「家族……だもんな」

「レ、レイト……くん?」

「別に今すぐにじゃなくてもいいからさ……いつか、みんなで一緒に暮らせるようになったらいいなって思うよ。本当の家族みたいになれたらいいよね」

「…家族」

「おいおい、おれをパパなんて呼ぶなよ?」

「ははは、俺たちとナナトさんとはそれなりに歳は離れてるかもしれないけど、そこまでじゃないと思いますよ。まぁでも……パパがいるなら、ママも必要ですよね?」


 冗談のつもりだった。俺だって別に冗談のひとつくらい言えるんだよ。でも、誰からも笑い声は出なかった。マキアが鋭い目でこっちを睨んでいた。あれ? なんでだよ。


「レイト……おめえそういう趣味があったのかよ」

「な、なんだよ?」

「まあな、同じ男として……女の前で自分の性癖を晒せちまうってのはすげえと思うぞ? 認めてやるよ」

「いや、何言ってんだよ」

「あ? だからおめえがいつも家族家族って言ってたのは、パーティーの女にママになって欲しかったからなんだろ?」

「……はぁぁぁぁああ!?」


 なんだよ、それ! 待てよ、みんなそう思ってんのか? マキアとルミルが軽蔑の眼差しで俺を見ていた。ココハは悲しそうな目をしている。


「ち、違うって、冗談! 冗談のつもりだったんだって! 本当! マジで! 俺が仲間をそんな目で見るわけないだろ!?」

 必死だった。とにかく必死だった。


 ふふっ…と誰かの声が漏れた。すると、みんなが一斉に笑いだした。な、なに? 今度は何だよ……。


「分かってるわ、バーカ! おめえが似合わねー冗談なんか言うからだぞ?」

「ご、ごめんね、レイトくん……はははは」

「あはは! 良いリアクションだったわよ、レイト」

「…ごめんね、レイトくん……ふふっ」

「か、勘弁……してくれよ……」


 正面に座っているマキアも笑っていた。彼女が笑顔でいられるならそれはそれで悪くないけどさ。でも、もう冗談は言わないようにしようと思ったよ。

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