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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第2章<シシノ平原編>

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第24話「新しい仲間」

 朝。いつものようにココハの合図で宿を出て、みんなが待っている南門の前へと向かう。今日は雲一つない快晴で太陽がとても眩しい。こんな日は、気持ちも高揚して前向きになれる気が……いつもならしていた。しかし、今日は気持ちが晴れることはない。不安で胸がいっぱいになる。俺たちの命を握っている、神殿に認められた冒険者をパーティーに迎え入れる予定だからだ。


「…どんな人、かな?」

 ココハに尋ねられた。


「ヤルミさんは彼女って言ってたし、女の人なのは間違いないよね」

「…うん」

「契約とかそういうのがあったから不安に感じるけどさ、それは神殿との契約であって、その人は俺たちと同じ境遇の……先輩だと思うんだよね」

「…うん」

「だから、ココハやルミルが仲良くなって、打ち解けてくれると助かるかな」

「…………」


 いきなりは難しいか。新しく仲間が増えるということは、またココハの事情を説明する必要があるわけで、今度はそれを受け入れてもらえないかもしれない……という不安を、ココハは常に抱いているんだ。


「無理はしなくていいから」

「…うん。でも、頑張る」

「ココハは十分、頑張ってると思うよ?」

「…ありがとう」


 南門が見えた。ブレンにジェニオ、ルミルもいる。他には誰もいない。


「おはよう、みんな」


 挨拶を交わした後で時計塔を確認する。午前七時五十五分。集合時間の八時まで残り五分だ。俺たちの新しい仲間は来てくれるのかな? もしも来なかったら契約は破棄されるんだろうか? まぁ、守る相手もいないわけだし、そうなってもらわないと困るんだけど。


 考え込んでいると、ブレンが「あ…」と言い、ジェニオが「お?」と続き、最後にルミルが「来たみたい」と呟いた。俺とココハは後ろを振り返る。そこには確かに冒険者らしい女の人が歩いて来る姿があった。


 白と青の神官服からはとても清楚で清潔な感じがする。手に持っている短杖は自衛用だろう。背は俺やルミルと同じか少し低いくらいかな。透き通った薄い青色の髪は長く、後ろ髪を左肩の前でまとめている。それがとても色っぽく……というか大人っぽく見えて、少しだけ年上なんだろうなって思った。


「レイトさんのパーティーですか?」

「あ、はい。そうですね」

「ごめんなさい。少し遅れてしまいました」

「いえ、大丈夫……ですよ?」


 なんだろう。空気が重いような気がする。年上なのに敬語だから? いや違う。それはたぶん、彼女が無表情だからだ。心ここにあらず……というような、俺と話をしていてもその目には映っていないのかもしれない。


「おいレイト、緊張してんじゃねーよ!!」

「いや、してないって」


 嘘だ。正直に言ってこんなに綺麗な人と話をするのは緊張する。パーティー内だとルミルも美人だとは思う。でも、彼女の性格のせいなのか、出会った時にそんな余裕がなかったからなのか、わりと平気で話せている。しかし、この人は違う。触れると壊れてしまいそうな……いや、俺なんかが触れると汚れてしまいそうな、高貴で神聖な感じがする。


「とりあえず、自己紹介とかしてくれる?」

「ルミル、年上だよ? 敬語とか……」

「構いません」


 俺の言葉は遮られた。彼女は少し間をとってから口を開いた。


「わたしはマキア。クラスは神官(プリーステス)。治癒魔法が使える以外には何もできません」

 彼女は無表情のまま言い終えた。


「終わりか? 他になんかねーのかよ、趣味とか特技とかよ?」

「ありません」

「ジェ、ジェニオくん……お見合いじゃないんだから」

「これから一緒にやっていくんだからよ、何が起きるかなんて分からねーだろ! オレに恋しちゃったりとかも? 可能性としてはあるだろ?」

「ありません」

「ねーのかよ!!」

 ジェニオは流石というかなんというか、彼女の放つ重い空気を感じさせない鋭いツッコミを見せた。


「なんだよ、彼氏でもいんのか?」

「…………」

 マキアさんは答えずに視線だけを地面に向けた。やばい、もしかしたら地雷を踏んでしまったのでは?


「はぁ……あんたはデリカシーっていう言葉を知らないの?」

「しらねーよ、そんなもん」


 呆れてため息が漏れそうになる。とにかくこのままじゃダメだ。


「俺たちもちゃんと自己紹介をしよう。まずは俺から。このパーティーで一応リーダーをやっています。剣士(フェンサー)のレイトです」

「え、えっと、じゃあ……次はボクが。盾士(ガーディアン)のブレンです。よろしく……お願いします」

「次はオレだな! 最強の槍使い(ランサー)ジェニオ様だ! 必殺技は考案中! よろしくな!!」

「なによそれ。あたしはルミル。弓使い(アーチャー)よ。男は頼りないのばっかりだけど、まぁ一人を除いて害はないから安心して?」

「だってよ、レイト」

「いや、どう考えてもお前のことだろ」

「あ? んなわけねーだろ!!」


 本気で言ってるのか? ジェニオ……お前やばいよ。いや、まじで。


「…わ、私は……ココハ、です。精霊術士(エレメンタラー)……ですが、あの……まだ、魔法が……使えません。その、ごめん……なさい」


 ココハ、先に謝ってしまっているよ? でも、きっと怖かったんだろうことは分かる。マキアさんはそりゃあ美人だけど、あの無表情のままなのが妙に恐ろしさを感じる。


「そう」


 納得……した? あまりにも簡単に返事をしたので驚いた。ココハに至っては何か悪いことを言ってしまったのではないか……というようにおどおどしている。


 たぶんだけど、マキアさんは俺たちに関心とか興味はないんだ。ヤルミさんに言われたから来て、仕事をするだけの雇われ冒険者みたいな。それにしては愛想がなさすぎるけど、神殿預りの身とかいうものになるとこうなっちゃうのかな? いや、ジートさんはそんなことなかったよな。やっぱり彼女の性格なんだろう。うん。こういう人なんだと思ってしまえば、そのうち気にならなくなるかもしれない……そう思った。


(ボアー)狩りですか?」

「え? ああ、そうですね」

「行きましょう」

「あ、はい……じゃあみんな、準備して」


 手荷物を確認していく。みんなの雰囲気が気になる。ジェニオとルミルは特に気にしてはいないみたいだ。ブレンは俺と同じ心境なのか、目が合うと苦笑いをしていた。ココハは何度も瞬きをしていて、まだ落ち着かない様子だ。


「お? みんな、おはよう!」


 突然挨拶をされ、声がした方を見てみるとそこにはナナトさんがいた。だけど、空気が重いせいか返事はできなかった。ナナトさんは不思議そうな顔をしながら近寄って来る。俺たちのパーティーの人数が増えていることに気がついたのか、その人物を確認しようとしているみたいだ。


「あ……」

 俺は彼女を紹介しようと思い、視線を後ろへと向けた。


 そこには無表情をした彼女の姿はなく、目を見開き、何かに驚いてる女の子の姿があった。その女の子は我に返ったように息を吸い込むと、すぐに下を向いてしまった。


「「マキア」さん?」

 俺の声が誰かと重なった。


 それはナナトさんの声だったと思う。俺は思わずそちらを振り返るがナナトさんの視線は外れない。他のみんなも何が起きているのか理解できてはいないだろう。


「マキア」

 ナナトさんがもう一度彼女の名前を呼んだ。


 マキアさんの体が震えているように見える。それはほんの一瞬だったと思う。でも俺には何十分、何時間にも感じられた。彼女は無表情の顔を上げると俺の方を向いた。


「行きましょう、早く」

 マキアさんはそう言って、先に南門の方へと向かって歩いて行った。


「え? ちょっと……待って」

 俺たちはわけが分からないまま彼女の後を追う。


「ナナトさん、すみません! 行ってきます!」


 そう叫んでみたけど、ナナトさんはこちらを振り向くことはせず、彼女が立っていたその場所をただただ眺めていた。

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