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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第2章<シシノ平原編>

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第20話「二度と繰り返さないために」

 ナナトさんを見送った後、俺たちは狩りを再開しなかった。誰一人続きを……とは言い出さない。全員が思い知ったんだ、自分たちは未熟であったと。


 ココハは申し訳なさそうな顔で、とても居心地が悪そうにしている。誰よりも怖かったはずだし、確実に死が目の前にあった。結果としては助かったけど、次は助からないかもしれない。俺たちは自分のことで精一杯で、誰かを守る余裕なんてない。助けたくないわけじゃないけど、実力が伴ってないんだ。


「みんなはさ……どうだった? さっきの戦闘」


 一人で考えてても答えなんて出ない。俺は一応リーダーだし、全員の意見を聞いておきたいと思った。


「正直な、よゆーで殺れると思ってたわ」

 まずはジェニオが口を開いた。


「前のパーティーでもあれくらいのやつには手こずってたけどな、殺れねえって思ったことは一度もなかったわ。攻め手が足りねえっつーか、遅せえんだよな」


 俺の判断が……だろうな。言い訳になるけど、俺は(ボアー)を見たのだって今日が初めてなんだ。リーダーだって立候補したわけじゃない。


「ボ、ボクがちゃんと……受け止められていれば」

 ブレンが兜を外して両手で持ち、それを眺めながら話し出す。


「さ、さっきの人……ナナトさん? が言っていたけど、まだまだ経験が足りないんだよね。盾にぶつかった瞬間に、これは止められる……とか、これは無理かもしれない……とかは分かるんだけど、分かった時にはもう遅いっていうか、たぶんコツみたいなものはあると思うんだ。でも、まだ掴めなくて……ごめんね?」

「謝ることはないよ。でも、確かにブレンが受け止めている時間が長ければ長いほど、ジェニオも俺も攻撃するチャンスは増えるよね」

「おめえはまだ全然攻撃してるとこ見たことねーけどな」


 うるさいな。分かってるよそんなことは。


「レイトの判断が遅いのって、あたしへの指示を止めれば少しは改善しない?」


 ルミルはやっぱり指示されるのは嫌なのかな? それに、判断が遅いってはっきりと言われてしまった。


「あんたたちとは距離もあるし、弓を引いてる時にあれこれ言われても集中できないのよね」

「分からなくはないんだけど、でも、目の前を矢が飛んでいくのはさ、やっぱり怖いよ」

「それは……そうよね、ごめん。でも、だからって狙えるチャンスは逃せないでしょ?」

「レイトはよ、影が薄いんだよな。オレも見失ったしな」

「……(ボアー)に集中しすぎてただけだろ?」

「だがよ、ルミルの矢に刺さりそうになってたのはおめえだけだろーが」


 そういえば……そうだ。ブレンはあの体格だから存在感がある。ジェニオは声がでかいからか見失うことはない。


「俺……かよ」

「だな」

「そうね」

「し、仕方ないよ。レイトくんは(ボアー)狩りも……初めてなんだし」

「ありがとう、ブレン。でもいいんだ。そう思ってても、仲間が死んじゃったらやっぱり言い訳にはできないだろ? ああなったのはパーティー全体のミスだけど、リーダーの判断が遅いっていうのは……致命的なんだろうな」


 あの時のココハの表情が再び脳裏をよぎる。もう二度とあんな事態になるわけにはいかない。足を引っ張ってるのは俺だ。どうすればいい?


「…あの」

 ココハが小さく手を上げた。


「いいよ」


 そう返事をすると、ココハは小さく頷いた。


「…まず、その……ごめんなさい。また、足を引っ張って……しまいました」

「そんなこと……」


 ないとは言い切れない。次はココハを守ってあげられる自信もない。宿屋で待機してて……そう言うのが最善なのは分かっている。でも、そんなのはパーティーじゃないだろ。


「…私、何も……できないけど、何かしたいの。自分が狙われるって……自覚がなくて、迷惑をかけちゃったけど……次はちゃんと、逃げる……から」

「残酷だけどな、死にたくねーなら街に残ってた方がいいんじゃねーの?」

「…………」

 ココハは悲しそうで、悔しそうだ。


 ルミルも庇おうとはしない。きっと、ジェニオと同意見なのだろう。


「…ごめん、なさい」

「ココハ……」

「…でも! お願いします! 私も、一緒に戦わせて……ください!」

 大粒の涙を流しながら懇願する。


 ココハは立ち止まりたくないんだ。きっと、歩みを止めたら諦めてしまう。元々、そんなに心だって強くない。臆病で気弱な女の子なんだ。俺は彼女と約束をした。見捨てることなんてできない。


「俺たちはパーティーなんだ。パーティーって仲間だけど、家族みたいなもんだろ? 放り出すみたいなことはしないし、させない。みんなもいいよね?」


 甘い考えかもしれない。でも、俺とココハはそうやってここまで進んで来たんだ。もしも……もしも受け入れられなかったら、その時はまた二人で始めればいい。


「ボ、ボクはそれで……いいと思うよ。ココハさんの気持ちは尊重してあげたい……かな」

「ありがとう」

「ま、また同じことにならないように……ボクも気をつけるよ。相手との距離を空けすぎるのは危険だって……身に染みたから」

「それってブレンの負担が大きくなるけど、大丈夫?」

「うん、体力には……自信があるから」

「そっか、頼りにしてる」

 ブレンは優しい人だから、そう言ってくれるとどこかで思っていた。


「私も……それでいいわ。正直、ココハには危ない目に遭ってほしくなんてないけど、泣いてるココハを街に残しておくこともできないし」

「うん、そうだね」

「一番近くにいるのはあたしだしね」

「…ごめんね? ルミル」

「いいのよ、今度はちゃんと守ってあげるから」

「…ありがとう」


 ルミルもココハを見捨てたりはしない。


「ジェニオは?」

「ったくよ、オレは忠告したからな? どんなことになっても自己責任だ。生きるか死ぬかなんだからな? それが分かってんなら……好きにしろよ」

「ああ、そうする」


 なんとか同意は得られた。ココハを追放するみたいなことにならなくて良かった。ココハと目が合う。視線を逸らされたりすることはない。微かに笑った気がした。俺はそれを、ありがとうの意味だと受け取ることにした。


 問題は山積みだ。でも、一つ一つ乗り越えて行くしかない。それに、最大の問題はリーダーの……俺なんだから。

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