第20話「二度と繰り返さないために」
ナナトさんを見送った後、俺たちは狩りを再開しなかった。誰一人続きを……とは言い出さない。全員が思い知ったんだ、自分たちは未熟であったと。
ココハは申し訳なさそうな顔で、とても居心地が悪そうにしている。誰よりも怖かったはずだし、確実に死が目の前にあった。結果としては助かったけど、次は助からないかもしれない。俺たちは自分のことで精一杯で、誰かを守る余裕なんてない。助けたくないわけじゃないけど、実力が伴ってないんだ。
「みんなはさ……どうだった? さっきの戦闘」
一人で考えてても答えなんて出ない。俺は一応リーダーだし、全員の意見を聞いておきたいと思った。
「正直な、よゆーで殺れると思ってたわ」
まずはジェニオが口を開いた。
「前のパーティーでもあれくらいのやつには手こずってたけどな、殺れねえって思ったことは一度もなかったわ。攻め手が足りねえっつーか、遅せえんだよな」
俺の判断が……だろうな。言い訳になるけど、俺は猪を見たのだって今日が初めてなんだ。リーダーだって立候補したわけじゃない。
「ボ、ボクがちゃんと……受け止められていれば」
ブレンが兜を外して両手で持ち、それを眺めながら話し出す。
「さ、さっきの人……ナナトさん? が言っていたけど、まだまだ経験が足りないんだよね。盾にぶつかった瞬間に、これは止められる……とか、これは無理かもしれない……とかは分かるんだけど、分かった時にはもう遅いっていうか、たぶんコツみたいなものはあると思うんだ。でも、まだ掴めなくて……ごめんね?」
「謝ることはないよ。でも、確かにブレンが受け止めている時間が長ければ長いほど、ジェニオも俺も攻撃するチャンスは増えるよね」
「おめえはまだ全然攻撃してるとこ見たことねーけどな」
うるさいな。分かってるよそんなことは。
「レイトの判断が遅いのって、あたしへの指示を止めれば少しは改善しない?」
ルミルはやっぱり指示されるのは嫌なのかな? それに、判断が遅いってはっきりと言われてしまった。
「あんたたちとは距離もあるし、弓を引いてる時にあれこれ言われても集中できないのよね」
「分からなくはないんだけど、でも、目の前を矢が飛んでいくのはさ、やっぱり怖いよ」
「それは……そうよね、ごめん。でも、だからって狙えるチャンスは逃せないでしょ?」
「レイトはよ、影が薄いんだよな。オレも見失ったしな」
「……猪に集中しすぎてただけだろ?」
「だがよ、ルミルの矢に刺さりそうになってたのはおめえだけだろーが」
そういえば……そうだ。ブレンはあの体格だから存在感がある。ジェニオは声がでかいからか見失うことはない。
「俺……かよ」
「だな」
「そうね」
「し、仕方ないよ。レイトくんは猪狩りも……初めてなんだし」
「ありがとう、ブレン。でもいいんだ。そう思ってても、仲間が死んじゃったらやっぱり言い訳にはできないだろ? ああなったのはパーティー全体のミスだけど、リーダーの判断が遅いっていうのは……致命的なんだろうな」
あの時のココハの表情が再び脳裏をよぎる。もう二度とあんな事態になるわけにはいかない。足を引っ張ってるのは俺だ。どうすればいい?
「…あの」
ココハが小さく手を上げた。
「いいよ」
そう返事をすると、ココハは小さく頷いた。
「…まず、その……ごめんなさい。また、足を引っ張って……しまいました」
「そんなこと……」
ないとは言い切れない。次はココハを守ってあげられる自信もない。宿屋で待機してて……そう言うのが最善なのは分かっている。でも、そんなのはパーティーじゃないだろ。
「…私、何も……できないけど、何かしたいの。自分が狙われるって……自覚がなくて、迷惑をかけちゃったけど……次はちゃんと、逃げる……から」
「残酷だけどな、死にたくねーなら街に残ってた方がいいんじゃねーの?」
「…………」
ココハは悲しそうで、悔しそうだ。
ルミルも庇おうとはしない。きっと、ジェニオと同意見なのだろう。
「…ごめん、なさい」
「ココハ……」
「…でも! お願いします! 私も、一緒に戦わせて……ください!」
大粒の涙を流しながら懇願する。
ココハは立ち止まりたくないんだ。きっと、歩みを止めたら諦めてしまう。元々、そんなに心だって強くない。臆病で気弱な女の子なんだ。俺は彼女と約束をした。見捨てることなんてできない。
「俺たちはパーティーなんだ。パーティーって仲間だけど、家族みたいなもんだろ? 放り出すみたいなことはしないし、させない。みんなもいいよね?」
甘い考えかもしれない。でも、俺とココハはそうやってここまで進んで来たんだ。もしも……もしも受け入れられなかったら、その時はまた二人で始めればいい。
「ボ、ボクはそれで……いいと思うよ。ココハさんの気持ちは尊重してあげたい……かな」
「ありがとう」
「ま、また同じことにならないように……ボクも気をつけるよ。相手との距離を空けすぎるのは危険だって……身に染みたから」
「それってブレンの負担が大きくなるけど、大丈夫?」
「うん、体力には……自信があるから」
「そっか、頼りにしてる」
ブレンは優しい人だから、そう言ってくれるとどこかで思っていた。
「私も……それでいいわ。正直、ココハには危ない目に遭ってほしくなんてないけど、泣いてるココハを街に残しておくこともできないし」
「うん、そうだね」
「一番近くにいるのはあたしだしね」
「…ごめんね? ルミル」
「いいのよ、今度はちゃんと守ってあげるから」
「…ありがとう」
ルミルもココハを見捨てたりはしない。
「ジェニオは?」
「ったくよ、オレは忠告したからな? どんなことになっても自己責任だ。生きるか死ぬかなんだからな? それが分かってんなら……好きにしろよ」
「ああ、そうする」
なんとか同意は得られた。ココハを追放するみたいなことにならなくて良かった。ココハと目が合う。視線を逸らされたりすることはない。微かに笑った気がした。俺はそれを、ありがとうの意味だと受け取ることにした。
問題は山積みだ。でも、一つ一つ乗り越えて行くしかない。それに、最大の問題はリーダーの……俺なんだから。




