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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第2章<シシノ平原編>

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第16話「同期との再会」

 ランデーグさんのパーティーを脱退した翌日。午前中はぐっすりと寝て過ごした。昼になったらココハを呼びに行って、そのままサンドイッチ屋へと向かい昼食を摂った。


「これから、どうしようか?」

「…どう、しよう」

小狼(レッサーウルフ)を狩りに行く?」

「…二人で?」

「怖いよなぁ、やっぱり」

「…レイトくんのこと、信じてないわけじゃないけど……もしも、なにかあったらって思うと」

「だよね」


 小狼(レッサーウルフ)を一人で狩れるようにはなった。でも、それは最後のあれ一回だけだ。もちろん次も倒せるって自信はあるし、もう油断することもないだろう。だけど、実戦は何が起こるか分からないものだ。もしも、戦闘中に二匹目が割り込んで来たら? 間違いなく死ぬ。何とかしてみせる……なんていう甘い考えは捨てた。自分のことだけではなく、ココハのことも守らないといけないんだから。


「また別のパーティーを探さないとかな」

「…ごめんね? 私のせいで」

「謝らなくていいよ。一緒にいるって言ったのは俺なんだし」


 ココハからしてみれば、気にしないようにするのも無理な話なんだろうな。魔法を使えない術士(メイジ)を仲間に入れてくれるパーティーなんて、あるわけがないんだから。


「とりあえず、酒場へ行ってみようか?」

「…うん」


 ランデーグさんたちみたいなパーティーはそうそう見つからないだろう。でも、探そうとしないと見つからない。俺がココハにそう言ったんだ。その俺が簡単に諦めるわけにはいかないだろ。



 ――リーシェの酒場。ここはいつでも賑わっている。昼間でもだ。こんな時間から酒を飲んでいる冒険者たちは、いつ仕事をしているのだろうか? もちろん、休日に飲みに来ているだけの人もいるだろう。でも、以前に絡んできた酔っぱらいみたいな人は、もしかしたら、俺たちみたいな余り者だったりするのかもしれない。まぁ……あんなのと同じパーティーにはなりたくないけどさ。


 テーブル席は既に満席状態だった。店員には相席を勧められたが、そんな気軽に声をかけられる相手なんて俺たちにはいないんだよ。察してほしい。


「レ、レイト……くん?」


 男の声で呼ばれ、俺は驚いてココハの方を振り向いた。しかし、ココハは俺を見てはいなかった。その視線を追うと、そこには存在感のある巨漢の姿。見上げるとさっぱりとした短髪の優しそうな男がこちらを見ていた。


「……ブレン?」

「やぁ、久しぶり……だね。ココハさんも」

「…うん」

「久しぶり、びっくりしたよ」

「ボ、ボクも……びっくりしたよ?」

「元気にしてた?」

「うん、まぁ……それなりには」

「そっか、良かった。あの時、ろくに挨拶もできなかったからさ、心配してたんだよ」

「ご、ごめんね? まさかあのまま会えなくなるとは……思ってなくて」

「だと思った、ははは」


 心が和む。ブレンと話すと温かい気持ちになるのは変わってない。それが嬉しかった。


「あのーお客様? そろそろお席の方にお願いしますー」

「あ、そうだった。ブレン、相席……いいかな?」

「え? あ、うん。大丈夫……だよ? こっちに」

「うん。ココハ、行こう」

「…うん」


 俺たちはブレンに付いて行った。そして思い出したんだ。彼と一緒に修練室の前で別れた、あいつのことを。


「おっせーよブレン! どんだけなげえトイレだよ!!」

「ご、ごめんごめん、そこでレイトくんたちと……会ってね」

「ああ? レイト? トイレじゃねーのかよ……って、おめえらか!? なんだよ、生きてやがったのかよ!!」


 刺々しい口調の男、ジェニオだ。不快感の塊みたいなやつ。俺にとってもココハにとっても相性最悪の男だ。


「久しぶり」

「おおよ!!」

「と、とりあえず……座ってよ。ボクはジェニオくんの横に……移動するね?」

「悪いね、助かるよ」


 店員にビールを注文してから、六人用の対面テーブルに俺とココハ、ジェニオとブレンに分かれて座った。俺の正面にはジェニオがいる。相変わらずツンツンした髪と、頬の青い紋様が目に付く。


「で? どうよ?」

 ジェニオが何かを問いかけてくる。


「何が?」

「冒険者稼業に決まってんだろ!!」

「ああ、まぁボチボチだよ」

「ほーん、おめえ盗賊(シーフ)か?」

 ジェニオが俺のマントを見て言った。


 確かに端から見ればそう思われるよな。今日は狩りに行くわけでもないから、マントを羽織る必要なんてないんだけど……すごく気に入ってしまっているんだ。


「いや、俺は剣士(フェンサー)だよ」

「はっは! なんで剣士(フェンサー)がそんなに軽装なんだよ!!」

「俺はサポーターだから身軽な方がいいんだよ」

「なになに? 剣士(フェンサー)なのにサポーターなのかよ、おめえはよ?」


 あーやっぱりこいつと話してるとイライラする。もう帰ろうかな。


「ジェ、ジェニオくん……飲み過ぎだよ。ごめんね? レイトくん」

「いや、別にいいよ」

「全然飲み足りねえっつーの!!」

 そう言ってジェニオは、グラスに入ったビールを一気に飲み干すと、店員におかわりを注文していた。


「コ、ココハさんも……ビールを飲むんだね?」

「…うん、美味しい……です」

「おお! いける口かよ! 今日は朝まで飲み明かそうぜ!!」

「いやいや、まだ昼過ぎだぞ?」

「うっせーなレイト。いいんだよ、どうせ時間なんていくらでもあんだからよ」

「何言って……」

 俺は言いかけて止めた。


 時間がいくらでもある? 冒険者は狩りをして稼ぐのが主な仕事のはずだ。それなのに昼間からこんなに酒を飲んで荒れている。もしかして……ジェニオも俺たちと同じように?


「じ、実はボクたち、参加してたパーティーを……解雇されちゃったんだよね」

 ブレンが重々しく口を開いて言った。


「そう……だったんだ」

「ちっげーよ! こっちから辞めてやったんだよ、あんなクソみてえなとこをな!!」


 解雇。つまりはクビになったということだ。ジェニオはともかく、ブレンまで?


「何があったの? とか聞いてもいいのかな?」

「え、えっと……」

 ブレンはジェニオの様子を伺う。


「……勝手にしろよ」

 ジェニオはそう言って、店員が運んできた新しいグラスを口元へと運んだ。



 ――ジェニオとブレンは神殿を出た時から一緒に行動しており、宿を借りた後は、ジェニオがひたすらに他の冒険者に声をかけまくって、(ボアー)狩りをしているパーティーに参加させてもらえることになったのだという。なんていうか、そういうところは流石だよな。こいつみたいにはなりたくないけど、俺にはできないことを簡単にやってしまうのは素直にすごいと思った。


 しばらく狩りをしていく中で、パーティー内でジェニオの態度が問題視されるようになった。新人のくせに生意気だ、先輩に対して敬わないなど。まぁそんなの求めても無理だろ。ジェニオだしな。そして遂に、その時は来てしまった。パーティー内の一人がジェニオを解雇するようにリーダーに申し出たのだという。ジェニオはもちろん反発したみたいだけど、その人が『こんな空気も読めないやつと一緒には戦えない』と言い出すと、ジェニオは黙ってパーティーを去ったのだとか。


「ブレンが辞める理由はなかったと思うんだけど?」

「そ、そう……なんだけどね。ジェニオくんを……一人にもできないかなって」

「人が良すぎだよ、ブレンは」

「そ、そうかな? はははは」


 ジェニオはテーブルに肘を乗せ、顔を背けたままビールを飲み続けている。


「レ、レイトくんたちは? 今日は……休日?」

「あー俺たちは……」


 隠したいわけじゃない。でも、話すとなるとココハの件も話さないといけないし。


「なんだあ? お前らも同類かよ?」

「俺たちは別に解雇されたわけじゃないけど」

「でも辞めてんじゃねえか! 同じだよ同じ」


 もういちいち腹を立てるのは止めた。疲れるわ、本当に。


「こ、これから……どうするの?」

「まだ決めてなくて。とりあえずは、またパーティーに入れてくれる人を探そうかなってさ」

「いねーよ。解雇されたやつを歓迎するパーティーなんてな」

「そんなの分からないだろ。それに解雇されてないって言っただろ」

「はいはい、でもいねーんだよ。いたらこんな所で酒なんて飲んでねーわ」

 ジェニオは諦めたようにため息を吐いている。


「ボ、ボクたちは、今朝からずっと声をかけて回っていたんだけど……ダメで」

「そうだったんだ、ごめん」

「レ、レイトくんは……悪くないし」


 その後は誰も口を開こうとしなくなった。無言だ。無職の冒険者が四人、酒場の隅で愚痴を吐いている。なんとも悲壮感が漂う光景だろうか。


「…ルミル」

 ココハが小声で言った。


「ああ、ルミルどうしてるだろうね?」


 ココハが俺のマントを引っ張る。


「…違うの。ルミルが……いるの」

「え?」

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