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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第6章<先輩冒険者編>

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第95話「討伐目標を目撃して」

 昼前にようやく借家へと戻って来れた。女の子たちの買い物はどうしてこんなにも長いのか。時間をかけた割にはそんなに買い込んだわけでもない。荷物を持たされるわけでもなく、俺と一緒に行った意味はなんだったのか。まぁ、俺はいろいろと教えてもらえたから助かったけどさ。


 みんなで昼飯を食べてから北門の前へと向かう。


 漆黒のマントに鋼鉄の剣を背負った俺。重量級の鎧と兜を装備して、両手には巨大な盾を持ったブレン。黄緑色をベースに揃えている術士(メイジ)用の冒険着で、矢筒を肩から下げているココハ。小剣を腰から吊るし、弓使い(アーチャー)用の胸当てを付け、大きな弓を持ったルミル。白と青の神官服を着て、短杖を持ったマキアの五人。


 そこへ、腰に刀を帯びて、ロングコートを纏っているナナトさんが合流して六人になった。


「お、鋼鉄か?」

「はい」


 ナナトさんはやっぱりすぐに気づくんだな。俺の剣には鞘みたいなものはない。剥き出しのまま帯で固定して背負っている。それでも、俺には見た目で違いなんて分からない。まだ二本目だしな……そのうち分かる日がくるのかな?


「じゃあ出発しようか、リーダー」

「そうですね。みんな、行こう!」

「ええ」

「…うん!」


 北門を潜って北東へと進む。草原の先に、大きなこぶのように盛り上がっている場所が見える。山よりは低いがそれなりに高さもある。一面が緑色の芝生のような短い草の溢れる丘。


 しばらく歩いていると少しずつ地面が傾斜になっていくのが分かる。ここから先がユトの丘だ。みんなは静かに登っていく。俺も緊張している。また同じことが起きるなんて思ってもいないけど、あり得ないことでもないという覚悟はしてる。


「今日はあんまり登りすぎないようにしよう」

 ナナトさんが俺たちの様子を見てそう言った。


 ユトの丘を登るのは初めてではないけど、いつもと同じことから始める。まずはこの場所の雰囲気に慣れること。深呼吸をして、よく周りを見渡す。すごく良い景色だ。あんな思い出さえなければ、やっぱりピクニックとかもしたいなって改めて思えるような場所。


「空を飛ぶ相手は、地を這うことしかできないおれたち人間族にとっては脅威だよね。でも、冒険者をやってるとそういう相手ともいずれ相対するかもしれないよね。怪鳥(バード)はちょうど良い相手だと思うよ。今の君たちなら、ちゃんと戦えれば苦戦することもないと思う」


 そうなのか? 幼鳥(ヒナ)とは何度か戦ったけど……確かに苦戦はしなかった気がするな。ジェニオが怪我をしたりしてたけど。それと、ほとんどをネスカが倒してたっていうのもあるか。


「おれたちのパーティーだと空の敵を攻撃できるのはルミルの弓とココハちゃんの魔法だけ。陣形や作戦はまた考えないといけないね。とりあえず暫定で役割だけ決めちゃおうか」


 そうだよな。戦う相手によって最適な陣形や役割分担があるはずで、そういうものは面倒がらずにちゃんと考えた方がいいんだ。


「相手が空中にいる時と地上に降りている時の二パターン言うからね。まずは空中にいる場合、アタッカーはルミルとココハちゃん」

「…はい!」

「当然よね」

「二人を護衛するのがサポーターのおれとレイト」

「はい」

「ディフェンダーはブレン、ヒーラーのマキアを絶対に守ること」

「は、はい……!」

「よろしくね、ブレン」

「う、うん……任せてよ」


 空中にいる間は的になっちゃうから、女性陣を守るのが俺たち男性陣の仕事か。


「次に地上に降りた場合、アタッカーはココハちゃんとおれ……と言いたい所だけど、レイトに任せる」

「俺……ですか? ルミルのままでも良いと思いますけど」

「射程があって射速もあるルミルには、サポーターとして再度飛ばないように牽制してもらう必要がある」

「なるほど」

「それにレイトには幻影(シャドウ)があるからな。地上に足止めするには最適だろ?」

「確かにそうですね」

「ブレンにもディフェンダーとして前に出てもらう。飛ばなくても成鳥(オヤ)の攻撃は危険だからね」

「ひ、引き付けて防御(ガード)、余裕があれば……反撃もありですか?」

「ああ、もちろんだよ。最後にマキアはおれが護衛するけど、もしも何かあれば前に出ることになる。その場合はルミルに護衛を引き継いでもらうから」

「分かりました」

「よし。まぁしばらくは幼鳥(ヒナ)狩りかな?」

「ですね」


 話してる内に少しずつ緊張感も解けてきた。ナナトさんが成鳥(オヤ)と戦う時を想定して話をしたのは、俺たちの怯える心を前向きにするためだったのかもしれない。まだ完全に恐怖心が消えたわけじゃないけど、おかげで戦闘できる状態にはなったと思う。


 ……とはいえ、幼鳥(ヒナ)は気分屋だから出会おうと思っても出会えない時は出会えない。まぁ今日は戦えなくてもいいのかもしれない。この場所にまた来れたっていうことが明日の自信に繋がる。


「…魔法量を増やすには、どうしたらいいのかな?」

「それは、魔法を使っていれば少しずつ増えていく。いきなり増えたりはしないから、時間をかけていきましょう?」

「…うん」


 ココハがマキアに魔法について教わっている。術士(メイジ)のことは術士(メイジ)に聞くのが一番良い。戦士タイプの俺たちには理解はできても感覚がない。マキアは神官(プリーステス)だけど、治癒魔法の使えるクラスは治癒術士(ヒールメイジ)とも呼ばれてるんだよな。


 俺には魔法適性があるけど、術士(メイジ)としての修練を受けたことはないから、魔法力を体外に放出する方法とかは分からない。着火石のこともあったし、俺も今度、マキアに教えてもらおうかな?


 太陽が橙色に染まってきた。夕陽だ。ユトの丘の中腹くらいまでは登って来れた。でも、そろそろ帰らないとかな。


「みんな、そろそろ戻ろう。続きはまた明日にしよう」

「そうね」

「う、うん……そうだね」


 みんなの表情も柔らかくなってる。この場所の雰囲気にも慣れてきたみたいだ。反転し、ゆっくりと丘を下っていく。


 バサッバサッ……と何かの音が聞こえる。それは西の方角から何かが飛んでくる音だった。


「クワァァアアアア!」

 その何かが鳴き声をあげる。


 全員が空を見上げた。俺たちの頭上を大きな影が通りすぎていく。それは白く大きな鳥。幼鳥(ヒナ)のような可愛らしいフォルムの面影はなく、大きな翼と立派なクチバシが見えた。


成鳥(オヤ)だわ」

 ルミルがそう呟いた。


 俺たちには気づいていないのか、それとも興味がなかったのか。警戒する俺たちには構わずに頂上の方へと飛んでいく。


「あれが、今回の君たちの討伐目標だよ」

「結構……大きかったような?」

「全長六メートルって所かしらね。翼を広げてるから大きく見えるだけよ」

「そうなんだ」


 六メートルでも十分大きいような気はするけど。シシノ平原の巨大猪(ヌシ)は三メートル、カンムリ塚での魔界(アント)の女王は四メートル、コイマの森の魔獣マンティコアは五メートルくらいだった。それよりも大きいということだ。以前、ここで出会ったワイバーンは八メートルほど。確かにあれに比べたら小さいのかもしれないけどさ。


「クァアアア!」

 幼鳥(ヒナ)の鳴き声が聞こえた。


 今日はもう戦うことにはならないと思っていたのに。周囲を見渡す。麓の方から駆け上がって来る。数は四。体長は六十センチくらい。ふわふわで……もふもふな……丸い綿みたいなフォルムの幼鳥(ヒナ)


「みんな、戦闘準備! ブレンとココハで二羽、俺が一羽、ルミルも一羽いける?」

「当然!」

「ナナトさんはマキアをお願いします!」

「おーけー」

「戦闘開始だ!」


 ブレンを先頭にしてココハをその後ろに立たせる。左右を俺とルミルが固めて迎え討つ。ルミルは小剣を手に持っていた。弓矢なら先制攻撃は可能だけど、矢は消耗品だから抑えられる場面では使わないということだろう。もちろん矢を射った方が早く終わるし楽なんだけど、戦闘の練習にはならない。今回みたいに相手の数が少ない場合はそれでいいかなって思う。


 幼鳥(ヒナ)が上下に飛び跳ねながら迫ってくる。ブレンが防御(ガード)の体勢をとり、前後に動いてタイミングを測る。飛び跳ねているから受けるポイントを選ばないと頭上を簡単に越えられてしまう。


「うぉぉおおお!」


 まだ攻撃は仕掛けられてはいない。でも、いけると判断したのだろう。着地に合わせて反攻(バッシュ)を使うと二羽の幼鳥(ヒナ)が後方へと吹っ飛んで行った。残りの二羽は俺とルミルで相手をする。


「…風鋭刃(シャープネスウインド)!」


 右上と左上から二枚の刃が弧を描いて射出された。空中でクロスして右の刃で左の幼鳥(ヒナ)を、左の刃で右の幼鳥(ヒナ)を斬り刻んだ。さすがだな、ココハは。


 俺も負けてはいられない。おちょくるように俺の周りをピョンピョンと飛び跳ねている幼鳥(ヒナ)の前に、素早く脱いだ漆黒のマントを放り投げる。右か……左か。


 左! 体の右側で構えていた剣で追いかけるのは難しい。それならばと、体を思いきって右方向へ回転させる。相手から一瞬だけ目が離れる。次に見えた時には向こうから剣に飛び込んで来る形になった。


 スパッ! ……という音が聞こえたわけじゃない。でも、感覚としてはそんな感じだった。鉄製の剣の時のような、肉や骨を斬った感触が少ない。幼鳥(ヒナ)は赤い液体を垂れ流して地面に伏せていた。


 すごいな、鋼鉄製の剣はこんなにも斬れ味が違うのか。高額なだけあってきちんと鍛え上げられているからこそなんだろうな。強度も威力も増している。これはいい買い物をしたな。


「いいかげんに!」

 ルミルの声。


 振り返ると俺と同じように周囲を飛び跳ねられていたルミルが、それまた同じように体を回転させる。しかし、俺とは違って幼鳥(ヒナ)の前に飛び出したのは剣ではない。足だ。回し蹴り。ルミルの長い足が幼鳥(ヒナ)を蹴り飛ばす。地に伏せた所を小剣で一突き……戦闘終了だ。


「ルミルってそういう武術? みたいなこともできるんだ?」

「え? できないわよ。ちょっとイラッとして足が出ちゃっただけ」


 それで当てちゃうんだもんな。これがルミルの戦闘センスっていうのかな。才能なんだろうな。


「お疲れさま。みんな良い動きだったね、明日からもその調子でいこう」

「…はい!」


 ココハの元気な返事。戦える。俺たちはこの場所でもいつものように戦える。それが確認できた。今日はこれで帰ろう。続きはまた明日だ。

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