表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/69

第六十五話 静かな冬

 冬も近くなり、町は秋から冬へと移行し始めていた。

「ハイカットー!」

 あぐりは撮影セットから降りる。ため息をつきながら台本を確認する。

「だから、どうして君が――」

「あぐりちゃん!」

 幼馴染役の指原がやって来て、ペットボトルの水を差し出した。

「あぁ……ありがとう、指原くん」

「順調?」

「ううん。ちょっと厳しい」

「問題なさそうだったけど」

「うん。でも、ラストシーンだけ最終日まで持ってきちゃったからね。それくらい悩んでる」

「あー、あの泣くシーン。難しそうだよね」

「指原くんも、さっきのシーン良かったよ」

「本当!? 結構心配だったんだ。違和感ないかなって」

「大丈夫だよ。指原くん才能あるもん」

「ありがとう。……そうだ、連ドラの話聞いてる?」

「あー、次のだっけ?」

「それの主役に、あぐりちゃんが候補に挙がってるんだ」

「うそ!?」

「本当だよ。さっきプロデューサーが見に来てたよ」

「……挨拶しといた方がよかったかな」

「いや、あのプロはそういうの嫌いな人だから。媚び売ってるみたいで嫌なんだって」

「あー、わかるかも」

「すいません、撮影入ります」

 スタッフが声をかけると、2人は急いでセットに戻って行った。


 チタはアキラの席に座って考え事をしていた。すると隣の席の男性が、

「チタさん、自分の席に戻った方がいいですよ。今日は課長がいるんですから……」

「うーん、でもさ、宮崎さんいないとこう……」

「ここの所ずっと休みですもんね……急にどうしたんでしょうか」

「寒くなると人は鬱っぽくなるからな、まあそういうことだろう!」

 チタは立ち上がり、自分のデスクに戻って行った。

 定時になり、チタとチコはまた手を繋いで家路を行く。その途中、鉛色の分厚い空から白い結晶がほろりほろりと落ちてきた。

「雪だ……」

 チタは雪を手に受け止める。

「綺麗だね、聖女様が散った時みたい」

「あの時は晴れていたよ」

「見て見たかったね」

「……いや、見えなくて良かったかもしれない。見ていたら私は、嘆き悲しみ、怒りの余り何を仕出かしていたかわからない」

「まぁ、それもそうだね」

「……そろそろ帰るか?」

「そうだね、もう随分見送って来た。もう後は大丈夫でしょ」

 二人は顔を合わせ、そっと微笑み合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ