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第六十一話 帰国

 空港に大荷物を抱えた矛盾らが集まっていた。

「えー、これ持って帰っちゃダメなの!?」

「ごめんなさい、検査に引っかかりまして……後で大きい荷物と一緒に送りますね」

 七穂は必死に美友をなだめる。

「宵彦さん、もう少し減らそうよ。サイズオーバーしてるよ」

「いや、絶対持って帰るんだ。帰ってすぐ必要なものなんだから。詰めれば……入るよ……っ!」

「トランク壊れちゃうって!」

 ニヴェは急いで宵彦を止める。禊が手を叩いて合図する。

「お前ら、忘れ物は無いな? まああったとしても、後で七穂に頼めば送ってもらえるけど、届くまで一年くらいはかかるからな」

「えー、ワープ使えないの?」

「それは宝器の力だけだ。今の人類にその術はない」

「ケチだな」

 工は口を尖らせた。

 薫子が車いすを押しながらやって来る。

「皆さん、楽しいひと時をありがとうございました。また是非いらして下さいね」

「それまでに生きといてくれや、お姉さん」

 アーサーは強く握手を交わした。

 明彦が宵彦の側にやって来て、

「お前はいつも荷物が多いな」

「うるさい、お前だってそうじゃないか」

「じゃあ、この美しいレディは俺がもらっておこうかな。そうすれば荷物も軽くなるだろう?」

 そう言い、明彦は軽々とニヴェを抱き上げた。

「ちょ、明彦さん!」

 ニヴェは顔を赤くして笑う。

「何がお荷物だ! ニヴェは私の妻だ、その薄汚い手を離せ!」

 宵彦は急いでニヴェを取り返して強く抱きしめた。

「ま、それだけ強く抱きしめているのであれば大丈夫だろう。奥さんを大事にしろよ、宵彦。薫子姉さんは俺が守っておくから」

「お前……! ……まぁ、そうだな。姉さんを守れるのはお前くらいだ。頼んだよ」

「頼まれなくとも、お前が地球を出てからずっと俺が守っている」

「その威勢なら安心だな」

 宵彦はそっと微笑むと、明彦と抱き合った。

「達者でな、明星の双子」

「あぁ」

 七穂が全員に呼びかけ、

「これからお写真を撮ります、皆さん集まってください!」

 千歳がカメラの後ろで指示する。

「もう少し右。尊さん、もう少しかがんでもらえますか。マーサさんは前の方に。禊さん、カメラ移り悪いです」

「うるせぇ、これは昔からなんだよ」

 その場の全員が笑顔を溢す。

「それじゃ行きますよー」

 カメラのタイマーをセットし、千歳は急いで宵彦の隣に立つ。数秒し、カメラからフラッシュが放たれる。

 千歳はカメラを確認し、強く頷いた。

 そこへ丁度飛行機の搭乗準備ができたアナウンスが入る。

「おらみんな、行くぞー」

 禊の合図とともに、それぞれが荷物を持って搭乗口に向かう。

 するとマーリンが禊の手を取り、

「父さん……っ!」

 目に涙を溜めて唇を噛んだ。何か言いたそうだったが、必死に飲み込み、

「墓参り、どうだった?」

「うん、良かったよ。ちゃんと挨拶できた。みんな昔のように、気持ちよさそうな顔して寝てたよ」

「そうか……良かったな」

 マーリンは禊を抱きしめた。

 円香と健良が禊の手を取り、

「またいらして下さいね。お仕事持ってきますから」

「それ、前にも言ってたな。地球から出る時」

「確かに、そうですね」

「新しい旅館建てたから、次来たときはうちに泊まってよ。客全部追い出して貸し切りにしてあげるから」

「それでまた潰したりするんじゃねぇぞ?」

「しないって」

 二人で禊を抱きしめる。

「何であろうと、あなたは僕らの父です」

「達者でな」

「手紙送ってね」

 禊はしかと頷き、そっと手を離して三人から離れた。そして搭乗口を通り、三人は小さくなっていく背中をいつまでも見ていた。

「さ、お前ら。仕事に戻るぞ」

 そういい、宗政が背中を叩いた。マーリンは鼻をすすって笑うと、

「そうだな、彼らの住んでいた家の今後、楔荘の管理、借金返済……やることはたくさんだな」

「アークィヴンシャラからの輸出物を受け取る口を作っておかないとですね」

「さーて、矛盾にあやかって温泉饅頭でも販売するかー」

 四人は鼻をかみながらその場を後にした。


 それから数年後、アークィヴンシャラは観光業を開始し、年に10人ほどしか入国できないながらも、10年待ちになるほど人気を誇っていた。また、輸出される宝石も多くが市場で一番高く取引されていた。

 そして数十億あった借金はあっという間に返済が完了された。

 タレント活動していた名残として、流行のダンスを踊ってみるなど、アークィヴンシャラの大自然で様々な事にチャレンジする動画などがアップロードされ、大変人気を誇っていた。また、ハッシュや嫌好が趣味で撮った写真も、地球では見られない自然の美しさが見られるということで大変人気が高かった。




 禊が背負子を持って森の中を歩く。

「今日は何が採れっかな~」

 鼻歌を歌いながら木の実や草花を採っていく。ふと、森の奥の日差しが差し込む下に、白く穏やかに光るものが見えた。目を凝らしてじっと見つめる。

 風に揺れる虹色に輝く白い髪、透き通る白い肌、燃えるように赤い目、雪のように乗ったまつ毛、伸びやかな手足、果実のように瑞々しい唇。

 背負子が足元に落とされる。禊は目に涙を浮かべ走り出した。

「ニーア! 永遠!」

 白いそれは気づいて振り返ると、にっこり笑って両手を広げた。

 禊は飛びついてしっかり抱きしめた。そしてその場をくるくると回ると、柔らかい頬に口づけをした。

「ずっと待ってたよ、永遠。旅は楽しかったか?」

 ニーアは笑顔で深く頷いた。

 その目は地球が脈打つマグマのように、真っ赤に燃えて輝いていた。

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