第六十話 ノーマル
おはようございます、七富です! 今日は一日、矛盾の皆さんの近くでお仕事をします。というのも、最近金欠なのと、暇な日が多くなったので、シフトを入れた具合です。
朝6時頃、出勤がてらジョギングもしつつ皆さんのお家へ向かう。と、その途中で、
「おぉ、七富じゃねぇか」
後ろから声がして振り返ると、ジャージ姿の尊さんが走ってきた。
「おはようございます!」
「おはよ。その格好から……今日も出勤か」
「はい。シフトを入れました」
「無理はすんなよ」
尊さんは軽く俺の肩を叩くと、先に家の方へ走って行った。
家に着き、事前に渡されていた合鍵で中に入る。まだ寝ている人も多いだろうから、
「おはようございまーす……」
小声でそう呟いて、そっと中に入る。すると早速、
「おう、おはよ。朝早くからご苦労様」
エプロン姿の禊さんが出迎えてくれた。
「おはようございます。何か手伝う事はありますか?」
「それじゃ、朝飯を作るのを手伝ってもらおうか」
二人で台所に並んで朝食を作る。今日のメニューは和食で、みそ汁とご飯に塩焼のカジキ、ベーコンとほうれん草の和え物、作り置きしてあったきんぴらごぼう。みそ汁を作っていく禊さんの隣で、刻んだベーコンを炒める。それと同時に、お湯を沸騰させてほうれん草を茹でる。ベーコンを炒めつつほうれん草を気にかけて、茹で上がった頃にベーコンの方の火を止める。取り出したほうれん草を軽く水で洗い、一口サイズに切る。ボウルにほうれん草とベーコンを入れ、
「禊さん、できました」
「はいよ」
味付けは禊さんの担当なので、後は任せて……
「ピーピロピー」
炊飯器が炊き上がりを知らせる。しゃもじを持って、次々に鳴く炊飯器を開け、中を混ぜていく。
「んー、きょうのごはんなに……」
そこへ嫌好さんが起きてきた。
「あっ、おはようございます」
「みそぎ、おひるはうどんがいい……」
そう言いながら、彼は僕の胴に手を伸ばし、絡みつくように抱き着いて来た。
「あ、あの、俺は七……」
「あとね、柚もいれて」
そう言いながら、彼は僕の首元に顔を押し付けて唇を這わせてきた。
「けっ嫌好さん! 童貞の俺には刺激が強すぎます!」
すると禊さんがやって来て、
「おいタコ、こっちだ」
嫌好さんの頭を叩いた。
「いたぁ! えっ、禊じゃない」
嫌好さんはようやく目が覚めたようで、急いで禊さんの背中に抱き着いた。いつもこんな事してるんですか……?
朝食の用意が終わる頃。
「七富、そろそろみんなを起こしてあげてくれないか」
禊さんにそう言われ、二階へ上がる。手始めに手前の宵彦さんの部屋をノックした。
「はい、只今」
宵彦さんの生真面目な声がして、ドアが開く。
「あぁ、七富くん。おはよう」
「おはようございます」
「朝食の時間かな?」
そう言いながら、俺のシャツの襟を正してくれた。綺麗で長い指が肩を撫でる。
「あ……ありがとうございます」
「こんな時間からお務めだなんて、頑張ってるね。無理はしないでね?」
宵彦さんは俺の頬を手の甲でそっと撫でた。とてもスベスベの手だった。
「はい、大丈夫です。ちょっと最近暇なのと、金欠なのでシフトを入れたまででして……」
「へぇ、お金に困ってるの? なら私が出してあげようか。何が欲しいんだい?」
笑顔で財布を取り出され、慌てていると、
「ちょっと宵彦さん、子供を買収?」
綺麗な声が飛んできて振り返ると、ニヴェさんがこちらに向かってきていた。
「おはようございます」
「おはよう、七富君。朝早くからお疲れ様」
ニヴェさんはにこやかに微笑んでくれた。白くて柔らかい髪は、わずかな動きにも合わせてフワフワと揺れた。
宵彦さんは少し苦い顔をして、
「買収じゃないよ、お小遣いをあげようと……」
「それがダメなの!」
宵彦さんは肩をすぼめた。
「金銭トラブルは面倒くさいからダメ! ごめんね、七富君。でも我慢してね。君にはイイ子でいてもらいたいんだ」
「いえ、お気持ちだけで十分ですよ」
「うん、偉いね」
ニヴェさんはそっと頭を撫でてくれた。
次にアーサーさんの部屋をノックする。だが、何も音沙汰がない。不思議に思っていると、リビングから、
「やった~ベーコンとほうれん草や~」
アーサーさんの嬉しそうな声が聞こえてきた。そうか、庭で尊さんと素振りをしていたのか。納得して、次はハッシュさんの部屋をノックした。だがここもまた音沙汰がない。彼も外にいるのかと思っていると、
「ハッシュは起こさなくていい」
小町さんの声がして振り向くと、眠そうな顔をした彼女が側に立っていた。
「ハッシュさんは何かあるんですか?」
「昨晩は遅くまで話し合いをしてしまったからな……。私も、朝食だけ頂いてもう一度寝る」
「お疲れ様です……。どんな話をなされていたんですか?」
「相変わらずの研究についてと、国の今後についてだよ」
「大変そうですね」
「何、ただ雑学に白熱してしまっただけだ。ほとんど雑談で終わってしまったようなものだ」
そう言って、小町さんはあくびをしながら下へ降りて行った。
[割り込み投稿だと予約投稿ができないようなので、続きは編集による改稿をお待ちください]




