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第五十八話 ムードって大事

 真尋とアキラが楽しそうに会話しているところに、

「よっ、おっさん。楽しそうだな」

 工が二人の間に入り込む。

「近寄らないで、今すぐ離れて」

 真尋は工から数歩離れ、側にあった包丁を手にする。

「うわっ、おっかねぇな……。そう身構えなさんなって、お嬢さん。もう一緒に暮らして長いだろ?」

「国にいた時は全然接点無かったよ」

「まぁ、そうだな。何でそんなに男を嫌うんだ? 禊は平気なのに」

「どうせ君にはわからないよ!」

 包丁を顔に突き付けられ、工は両手を上げて後ろに下がる。アキラは急いで真尋の手を掴み、

「真尋さん、落ち着いて。彼はその……君が思うほど悪い奴じゃない」

「え、それフォローしてるの?」

 真尋はアキラの目を見てため息をつくと、

「……君がそう言うなら。でも許したわけじゃないからね。気色悪い」

 包丁を置き、真尋は上の階へ去って行った。

「……すいません、彼女は男性がトラウマなんです」

「また何でそんな、厄介なトラウマを」

「……その、生前、男性から暴力があって」

「あー、そういうね」

「余りこの事は口にしないであげてください」

「わかってるよ。矛盾皆誰だって書く仕事の一つや二つあるさ」

「工もあるんですか?」

「あるよ。あっ、喋らねぇからな!」

「いいです、無理にしゃべらなくて」

 アキラはそっと微笑んで見せる。

「そういうお前も、隠し事とかあるだろ?」

「そりゃ、たくさん……」

「ほー、例えばどんな?」

「ふ、普通の事ですよ。そんな特殊なものじゃないです……」

「そうだ、俺が当ててやろうか!」

「えぇ……」

 工は腕を組んでアキラの顔を覗き込む。アキラは少したじろぎ、耳が赤くなっていく。

「もっと良く見せろ」

「えっ、あの」

 工の手がアキラの顔を持つ。思わずアキラが目をそらすと、

「はは~ん、なるほど」

 工は悪戯な笑みを浮かべ、

「お前、俺の顔好きだろ」

「はっ!? 何を……!」

「ほらやっぱり。たれ目好きだろ? 真尋と言い、あぐりちゃんと言い。お前がこの前読んでた雑誌のアイドルの子、めっちゃ見入ってたもんな。お前たれ目が性癖か~」

「言うなよ!? 言うなよ!?!?」

「めっちゃ焦ってる。図星かよ」

「ううぅ……言うなよ……!」

「唸るな唸るな。あとたれ目っつったら……アーサーはどうだ?」

「……いや」

 アキラは急に冷ややかな顔を向ける。

「ムキムキは違うか。じゃあ禊は? あれはたれ目と言え……」

 アキラは目をそらす。

「嘘だろおい」

「うるさい」

「じゃあ李冴ちゃんは? あの子すごい可愛いよな!」

「まぁ、そうですね」

「あれ? やっぱツルペタはダメか?」

 工は腕を組んで考え込む。アキラはリビングを見渡し、

「あの、禊さんは? 朝から見当たりませんが……」

「あぁ、軍隊に呼ばれた」

「ぐ、軍隊!?」

「大丈夫、アメリカの田舎の方の自衛軍。特別講師として招待されたから行った。アーサーとか小町、尊なんかも行ってるってよ」

「教えてくれた方々ですね……」

「明後日には帰って来るさ。女子たちは?」

「アイドルのお仕事で、泊まりだそうです。主要の方々が留守なので、ニヴェさんがマーサさんと子供らを連れて研究所に泊まるそうです。あそこの屋内庭園は広いですから、子供たちが動くにはピッタリですし」

「なるほど、じゃあ俺とお前だけか」

 工がそう言い、エアコンのリモコンを操作する。

「なぁ、いくら温度下げても暑いんだが、エアコン壊れたか?」

「いえ、僕は寒いです」

「あれ~?」

 工はスマホを確認すると、

「……ごめん、俺、今繫殖期だ」

 舌を出して笑った。

「えっと……何かする必要はありますか?」

「えー、お前人間だからなぁ……」

 工はシャツを脱ぎ、

「ちょっと水浴びてくるわ」

「繫殖期……」

「発情期とも言うな」

「それは……どんな症状が出るんですか?」

「あー、矛盾それぞれだけど、主に体が火照ってだるくなる。んで無性に性欲強くなる」

 アキラは生唾を飲み込む。

「それを解消しないと、まぁ生態的にちょっとしんどいからな。お前男だからわかるだろ?」

「えぇ、わかりますけど……」

「だからって女の子に手を出すのはご法度。それで一回処罰されたやつがいるんだよ」

 工は冷蔵庫を開け、氷を口に入れた。

「誰なんですか? あ……聞いちゃだめですよね」

「どうせ本人いないんだから大丈夫! ……要」

「えっ、あんな紳士な彼が……?」

「そ。ああ見えて実は色んな女の子たぶらかしてる。まー処罰ってのがどんなもんなのか知らないけど、相当やばいらしい。美友も処罰から帰って来てしばらくは何かに怯えてた。特に夜とか」

「相当ですね……」

「俺も処罰とかされたくないし、女の子傷つけたくないから、矛盾はみんな同性同士でどうにかしてる」

「同性同士は可能なんですね」

「まぁな。異性同士が禁止の本当の理由は、キメラの産出を防ぐためなんだけど」

「キメラ?」

「俺はよくわかんねぇんだけど、小町が言うにはキメラが生まれてしまうんだと。それがまぁなんだ、色々面倒だしリスクがあるからダメなんだって。だからほら、宵彦とニヴェの夫婦、アイツら純潔だよ」

 アキラは思わず目をそらす。

「何想像してんだよ!」

 工は笑いながらアキラの背中を叩いた。

「あーにしても、熱すぎるな」

「クスリとか無いんですか?」

「あるけど、長時間持たないし、副作用がデカいんだよ。こればっかりは部屋で大人しくしてろって事だな……」

 工が部屋に戻ろうとして、アキラに手を掴まれた。

「え、何。どうしたの?」

 するとアキラは工の少し割れた腹に手を置き、

「ぼ、僕でよければ……その、男性のだれか帰ってくるまで……」

 工はアキラのやろうとしていることを理解し、つばを飲み込んだ。振り返ってアキラの肩に手を伸ばす。

「そ、そのな、初めてだろうから、痛くはしないけど……」

 二人は目を反らしてつばを飲み込む。

「ズルッ」

 二人だけのはずのリビングに、お茶をすする音が聞こえた。何かと思い二人で顔を上げてソファーを見ると、ハッシュが真顔でお茶を飲んでいた。

「ハッシュ!?」

「いつからいたんですか!?」

 二人は急いで離れる。

「真尋さんとアキラさんが会話しているところからですね……」

 ハッシュは冷めた顔で目をそらす。

「全部じゃねぇか!」

「ああああああああああああ」

 アキラは顔を手で覆い机の下に潜り込む。

 ハッシュは立ち上がってゴム手袋を手にはめると、

「ま、ムードも大事でしょうけど。きちんとした処理も必要ですからね」

「やだ! お前やると萎える!」

「なら好都合じゃないですか」

「来るなヒゲオヤジ!」

「待ちなさい、そのままでは体に悪いですよ」

 ハッシュは逃げる工を追いかける。その様子を見て、アキラは楽しそうにクスクスと笑い出した。

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