表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/69

第五十三話 万国博覧会

 何かの声がする。女性の声だった。呼んでいる気がする。誰を呼んでいるんだろう。

「――ぐり――あ――」

 まるでお湯の中を漂っているような、お母さんのおなかの中のような……。

「あぐりちゃん」

 肩を叩かれ、あぐりは目を覚ました。真っ白い何もない風景。かと思えば。右隣から白い花びらが流れてくるのが見えた。振り返ってみると、真っ白い髪が目の前で揺れた。

「初めましてだね」

 白い髪に白い肌、燃えるように赤い目に雪のように乗ったまつ毛、瑞々しい唇。そして、眩しいのに温かく優しい笑顔。

「きれい……」

「フフ、みんな言う」

「あの、あなたは……」

「んー、そうだね……これってネタバレOK?」

「ダメですって」

 左隣からも声がして振り返ると、仮面をつけた謎の人物が座っていた。

「ここまで歯車を変えるのも大変だったんですから、これ以上狂わせるようなことはなさらないでください!」

「えー、どうしてもダメ?」

「そんな顔してもダメです! 惑わせないでください!」

「ケチ」

 その白い女性は口を尖らせた。

 仮面の人は性別はおろか、年齢もわからなかった。声も若くも、しゃがれ具合から年上にも感じた。高いが男性の声にも聞こえる。

 自分の肩に手が回されているのに気づいた。目で辿っていくと、どうやらこの仮面の人の手の様だった。指の欠けた手袋をはめていて、そこから出る指は黒く半透明に見えた。手のひらはとても熱く、カイロを押し当てられているように感じた。

「あの、あなたは誰なんですか」

 あぐりが怪訝そうに尋ねると、

「そうだな……役職を言ってしまうと誰なのかわかってしまうからな。ナァルと言っておこう」

「なーる?」

「ナ・ァ・ル、だ。小さいアが入る。皆、そのように私を呼ぶ」

「男なの? 女なの?」

「私は私と言う性だ。それ以上でも以下でも以外でもない。君の世界では……男にあてはまるのだろうが、私は男と同じ体をしていない」

「……変なの」

「あぁそうだ、私は変だぞ! 何せ、昔は変な神と言う意味で『変神へんじん』と呼ばれていたのだからな!」

「ちょっと、職人、話が長い」

「ちょ、聖女様、身バレ身バレ!」

「職人だって言っちゃってるじゃん!」

「ア゛ーッ! バカ!」

「聖女に向かって何さ! バカ!」

「あ、あの、ここ何なんですか……」

 頭上でナァルと聖女と呼ばれる女性が言い争う。ふと、膝上に何か重みを感じた。見下ろして見ると、誰かが膝の上に手と顎を乗せてこちらを見上げていた。

「ありゃ、見えるんか」

「どちら様ですか? ここはどこですか?」

「君はあぐりと名を持つ娘だね?」

「そうですけど」

「可愛らしい名前と見目だ。さぞ幸せな人生が訪れるだろうね」

「あの、あなたは……」

 膝上の人は頬杖をついて、

「エトワール、と呼ばれる者だよ。この仮面の変人に憑いてる」

 あぐりは仮面の人の顔を見る。

「おや、どうかしたかい?」

「いえ……」

 膝上のエトワールに視線を戻す。とても整った顔立ちで、女性にも男性にも見えた。切れ長の目に金の目、白い髪と透き通るような白い肌。すっと通った高い鼻筋。まるで人形の様だった。

「ここがどこか、君には不思議でならないだろう。まあ簡単に言うと君の夢の中なんだけどね」

「私の夢。じゃあこれらは全部、私の記憶が作ってるんですか」

「いんや、これは僕らそのものだよ」

「どういうことですか?」

「君の夢にちょっとお邪魔させてもらった。これも、聖女の欠片がほとんど集まったのと、最後の欠片が君の中にあるからだ」

「私の中に……なにかあるんですか?」

「聖女の欠片だよ」

 エトワールは聖女の胸を指さした。服の隙間から欠けた丸い宝石のようなものが見えていた。

「あそこに君の中にある欠片が収まって、ようやく聖女は復活する」

 エトワールの細く長い指が腹をつうと撫でた。くすぐったさにあぐりの頬が染まる。

「じゃあ、その欠片を出すにはお腹を切らなきゃいけないんですね」

「いや、切ってどうにかなるものじゃないと思うよ。もう君の中に溶けてしまっているから」

「じゃあどうするんですか」

「それを取りに来たんだよ。まあ、この左右のはおまけだけどね」

 エトワールは泳ぐように移動すると、仮面の人の首に抱き着いた。仮面の人は全く気付いている様子はない。

「この子はただの物づくりができるだけの人。死にぞこないだから、人間とは言い難いけど」

「どこの世界の人ですか……」

「子のこの世界の人」

「あの……」

 あぐりは額に手を当て、考えるのを辞めた。

「なるほど、そうなんですね」

 首を縦に振った。

 すると突如、誰かに押し倒されたように体が後ろに倒れた。驚いて顔を上げると、腹の上に仮面の人が馬乗りになっていた。

「何ですか!?」

「ご、ごめんね、ちょっと暴れられては困るから……」

「何するの!?」

「欠片を取るんだよ。言っただろう?」

 エトワールがあぐりの顔を手で包んだ。

「ヤダ、殺さないで!」

「死にゃしないよ」

「手足取れない?」

「痛くも痒くも無いから。どこも取れないよ」

「本当に?」

「君が誰にも口外しなければね。約束できる?」

「うん、絶対誰にも言わない。これは夢だからすぐに忘れちゃうと思うし」

「そう、それでいい」

 エトワールは優しく微笑むと、あぐりの鼻をつまみ、唇を重ねた。あぐりは驚いて手を出そうとするが、仮面の人に押さえつけられて動けなかった。喉が閉まって呼吸ができなかった。いくら吸おうとしても空気は入ってこない。

 エトワールが口を離した瞬間、体が解放されて起き上がれた。そして急いで息を吸い、大きく咳き込んだ。

「あぐりちゃん、大丈夫?」

 声をかけられて振り返ると、後ろの座席からアキラが心配そうに身を乗り出していた。

「……は……え? ここ何……」

「何って……花京院さんの車の中だけど」

 アキラが運転席の方を見るからあぐりも見ると、明彦が隣で車を運転していた。

「ん、どうした?」

「いえ……」

「よく寝ていたけど、昨晩は寝るのが遅かった?」

「いや、乗り物に乗るとすぐ寝ちゃうんで……」

「そうなんだ。もうそろそろ着くよ」

「どこに?」

「あぐりちゃん、大丈夫?」

 女性の声が聞こえてきて振り返る。そこには車いすに座った薫子がいた。

「あぁ……薫子さん」

「病み上がりですものね、仕方ないわ」

「傷は痛まない?」

「うん、平気」

「ほら、万博が見えてきたぞ」

 明彦が指さす方を見る。建物の群の上に英語の書かれた登りが高く上がっているのが見えた。

 車が大量に並ぶ駐車場に車を置き、車から降りる。

「アメリカ……久々だなぁ」

 あぐりは人種のるつぼの空気を吸い込む。時代の先を行くすべての風が身体に溶けていく。

「海外なんて初めてだよ。ちょっと怖いな」

 アキラは身震いしながらコートに首をすくめる。

「大丈夫、ここらは治安がいい方だから」

「来たことあるの?」

「住んでた事があるの。ここよりもっと北の方だけど。そこでエンジェルとおとうさんの三人で小学生の頃にね」

「すごいね」

「おとうさんの仕事で付いて来ただけだから」

 明彦について目的の場所へ向かう。辺りは休日のテーマパーク並みに人で込み合っていて、肩をぶつけずに歩くのは難しかった。

「狭いから裏を通ろうか」

 明彦がどこかに電話をかけると、黒服の男がやって来て案内した。

 staffonlyと書かれたドアに入り、配管だらけの道を通っていく。そしてまたドアを出ると、目の前に目的の建物が現れた。

 建物の近くまで来ると、

「プリンセス~!」

 聞き覚えのある声が飛んできた。あぐりは笑顔で手を振ると、

「よく来たねプリンセス!」

「ごきげんよう、エンジェル」

 丁寧にお辞儀をした。エンジェルもお辞儀をして、すぐにあぐりを抱きしめた。

「あら、こっちは……アキラくん、だっけ? プリンセスの執事」

「執事……まぁそうですね……」

 アキラは苦笑いをした。

「ほらエンジェル、早く行きましょ。初日から大賑わいよ! 宝器の展示は日数が限られてるんだから」

 エンジェルはあぐりの手を取って早歩きで進んだ。

 アメリカで開催されている万国博覧会、そのアークィヴンシャラ国のパビリオン。真っ白い石を組み合わせて作られた宮殿のようなこの建物は、アークィヴンシャラにある聖女のための神殿とほぼ同じ寸法、形容で作られている。内部は幾つもの柱が天井を支え、奥へ進むと大きな階段が目の前に立つ。その階段の一番上に、聖女を祭る祭壇のレプリカが置かれている。また、神殿の倉庫に当たる部分は展示スペースとなっていて、アークィヴンシャラ産の鉱物や矛盾についての資料、宝器のレプリカや制服のレプリカ、またそれを手に取って触れるようにしてある。また、一定期間限定で本物の宝器の展示も行われている。これは今日から一か月間と、最終日前の一か月間のみとなっている。

「やぁ、いらっしゃいいらっしゃい!」

 入り口に入ると、奏が両手を広げて出迎えた。

 奏に案内され、一同は中へ進んでいく。ガラスの展示ケースに入った鉱物がいくつも並ぶ。

 アキラが磨かれる前の宝石の一つを指さし、

「すごい大きいですね……これが矛盾の体内から?」

「そうだね。それは矛盾から生成されたアメジストだよ。肩の付け根から出てきたんだ」

「ひ、人の肩に……」

「彼らは国にいる時は人の姿ではないようだからね」

「あぁ、それならこの大きさでも頷けますね」

 あぐりがガラスの器に入った幾つもの翡翠を指さし、

「これは誰の体内から出たの?」

「禊さんの目から。彼は体内ではなく涙から生成されるようでね。その仕組みはまだ解明されていない」

「値段が書かれておりますが、どこかに出品されているんですか?」

 薫子が訪ねると、

「展示が終わったらオークションに出される事になってます。一応この値段はアークィヴンシャラが指定した初期価格です」

「結構するんだね。ねぇ、これとこれって同じ原石だよね。値段が違うのは何で?」

「普通に地中から出土したものか、矛盾の体内から産まれたものかの違いです。矛盾の体内から作られるものは希少ですし、矛盾特有のものを含んでいますから、何らかのご利益があるとかないとか……。まあ信じるか信じないかはあなた次第ですよ。確かに、矛盾から作られた宝石は治癒効果があったり、体に与える影響は多少あります。物によってはそれが強力で、輸入禁止となっている国もあります。そういうのは矛盾研究に大いに役立ちますから、私が買い占めるんですけどね!」

 奏は高らかに笑った。

「さて、次に行きましょうか」

 アークィヴンシャラ国についての展示コーナーに移動する。

 アークィヴンシャラは惑星そのものが一つの国で、国土面積、海面積など、惑星のサイズや周期、全て地球とほぼ同じであり、第二の地球と呼ばれている。惑星と呼ばれているが、厳密に惑星と決定されたわけではない。地球に比べてやや温暖で、寒地が地球より少ない。地球で絶滅した生物や古代生物がいくつか生息しているため、それら動物を輸入して研究しようという案が出されているが、アークィヴンシャラはあまり好意的ではない。各地を国民である矛盾が分割統治しており、それぞれの生態に合わせた土地を管轄している。首都は矛盾の長である五月雨が管轄し、最北にある地は聖域とされている。

 アークィヴンシャラを映した写真も展示されていて、地球にもあるような景色から、見た事も無い絶景がおさめられていた。

「ね、これ凄い綺麗だね」

 あぐりがアキラの袖を引っ張った。アキラが覗き込む。写真には日の出が映し出されていて、白い朝日に照らし出されたアークィヴンシャラの自然が映し出されていた。地面には大きな巨人の影が映っている。

「これ、禊さんかな」

「そうですね。後で矛盾のビーストモードが見れますから、この影の全貌が見れますよ」

「すごい大きいんだろね」

 あぐりが目を輝かせて写真を見た。

「この写真は誰が撮ったの? アークィヴンシャラはまだ誰も入国許可出してないでしょ」

「主に矛盾のハルシュタインさんが撮ってますが、宇宙旅行中のロータスチェストの社長、蓮刃とチャスがアークィヴンシャラに遭難し落下した際に撮った写真も含まれてます」

「遭難者とかいるんだ」

「アークィヴンシャラと地球館の距離は不明ですが、時空の歪みが――まあ簡単に言いますと、何らかの事故でワープしてしまい迷い込んでしまったんです」

「SF映画みたいだね」

「そう考えててください」

 一同はまた移動する。

「お次は宝器の展示です。ここは自由に見て回る方が楽しいですし、私より持ち主に尋ねるのが一番でしょう」

 奏が手を広げた先に、制服に身を包み警官帽を深くかぶり、姿勢を正して見張りをする矛盾らが見えた。

 専用の台に宝器は設置され展示しており、その横に矛盾が立っていた。その周りをパーテンションポールが囲み、5メートル以上は離れていた。

 側に置かれたパネルには、実演時間が書かれていた。あぐりは時計を確認する。

「おじさん、今から実演が始まるよ!」

 アキラの肩を叩いて宝器を指さす。鐘が鳴り、アナウンスが入る。英語と中国語のアナウンスだった。

 並んだ宝器の前に置かれている段に、宝器を持った禊が登る。周りから拍手が起こった。帽子を外して近くのスタッフに渡す。ハサミ型の宝器を両手に持って、双剣に分裂させる。そして両手を構えると、宝器が光り出す。

「宝器、双剣・太刀斬鋏。聖霊名、白銀姫」

「黒鉄彦。持ち主の認証完了」

「すご、カッコイイね!」

 あぐりが興奮してアキラの肩を強く叩く。

 そして禊は宝器を持って、得意の回転切りを披露する。そして双剣を一つにして鋏にすると、左手に持って頭を下げた。盛大な拍手が周りから起きた。

 禊と交代し、次に要が宝器を持って段に上がる。

 そうして矛盾らは宝器を構えて披露していく。1人約3分ほど、24人の披露が終了する。最後に美紗がパーテーションポールの傍にいる人らにハイタッチして回る。

 スタッフが宝器の展示台を持って、台の周りに宝器と矛盾らを置く。パーテーションポールも移動され、円形に設置される。

 あぐりは真っ先に真尋の方に向かった。

「お母さん!」

「しっ、名前で呼んで」

「そうだった……」

 あぐりは舌を出す。

「真尋ちゃんの宝器はどういう機能なの?」

「死に際の生物を完全に復活させることだよ。でもその為には父親と母親の血液が必要なんだ。この左右の珠に血を塗るんだ」

 真尋が子詰母のやじろべえのような形になった先端の珠を指さす。

 禊の元に外国人がやって来て他片言の日本語で話しかけてきた。

「ヤァ、コンニチワ!」

「こんにちは」

「Ah……この、ブキは……」

「英語で大丈夫ですよ」

「ワォ、とっても上手な英語ですね! 僕よりも綺麗な発音だ」

「海外にいた年数の方が多いもので」

「僕は矛盾の大ファンなんです。ファンクラブにも入ってるんだ!」

「それは、ありがとうございます」

「この宝器、触ってもいい?」

「お手を触れることは政府より禁止されています」

「政府……そんなに危険なものなんですか?」

「持ち主以外が触ると、皮膚を大きく火傷したり爛れると言った症状が出ます」

「なるほど」

「奥のスペースにレプリカがございますので、そちらはご自由にお手に持つことが可能です」

「それはありがたいですね! あの、宝器は喋るんですよね?」

「どうぞ、話しかけてみてください」

 外国人がそっと太刀斬鋏に話しかけると、白銀姫は英語で、

「こんにちはー! 元気ですかー!? ダァーッ!」

「わぁ、それ知ってるよ!」

「すいません、白銀姫はふざける事しかできないんです」

「何、さっき真面目にやってたじゃん!」

「すごい、どんなAIを搭載しているんだろう」

「僕らはAIではありません、聖霊です」

「黒鉄彦、それ言って大丈夫なの?」

 外国人は満足したのか、手を振って奥のスペースに向かった。他にも客は矛盾や宝器に話しかけて展示を楽しんでいた。特に要と宵彦の所には女性がたくさん並んでいた。

「宵彦様~!」

「宵彦さ~ん!」

「あ……あぁ、ははは……」

 宵彦は青い顔で手を振る。隣の工が、

「宵彦、大丈夫か?」

「無理です」

「俺の汗拭いたハンカチ使うか?」

「後で借ります」

「お前、どれだけ女嫌いなんだよ……男の匂いで落ち着くってのもなかなか気持ち悪いけど……」

 すると隣の優が工の脇腹を肘で突いた。

 要はとりあえず笑顔で手を振るが、

「お腹すいた。誰かお菓子持ってない?」

「お前なぁ……」

 禊はポケットから飴を取り出して口に入れてやる。

「今はこれで我慢してろ」

「はーい。あっ、これって手作りの?」

「そうだよ」

「んー、いつも美味しいね」

「はいはい」

 あぐりはアキラの手を引いて体験コーナーに向かった。レプリカの宝器や制服が置かれ、制服を身に着けて宝器を構え写真を撮る客でにぎわっていた。

「おじさんは撮る?」

「いや、いいよ」

「だよね。帰れば撮れるし」

「恐ろしいこと言うね、プリンセス」

「だって本当だもーん」

 あぐりは舌を出した。

 そして奥の階段を上り、祭壇を見て回る。

「ね、あの一番上のケースに入ってるのは何?」

 あぐりを指さした方を一同が見る。すると奏が、

「あぁ、あれが聖女の宝器ですよ。今回のために来てもらったんです。丁度昨日、火星からやって来て」

「宇宙を渡って来たの?」

「そうです。大体一年くらいかかります」

「遠いんだねー」

 ガラスケースの中で、聖女の宝器、冠・鉱羽慰こうはいがじっと佇んでいた。天井から差し込む太陽光が反射し、天井に虹が映る。

「これを、聖女様が頭の上に……」

 あぐりはその輝きに目を奪われる。

「聖女様の御髪は綺麗なのに、さらにこんなに綺麗な宝器が……」

「どんな人なんだろうね」

 アキラがそう言うと、あぐりは何かを思い出し、

「そうだ、車の中で寝てるときに見た夢にね、白くてきれいな――」

 急に胸が苦しくなり、咳き込みだす。アキラが背中をさすると、あぐりは口の中に違和感を感じて顔を上げた。そして口から何かを取り出した。

「……魚の骨?」

 アキラがそう言って手を伸ばすと、

「聖女の欠片だ!」

 奏が叫んで奪い取った。急いでポケットからケースを取り出して入れる。

「最後の一つ……! 近くに感知していたが、まさかお前の体内だったとは!」

「え、これ魚の骨でしょ?」

「馬鹿野郎!!!! 人類にとって最大の宝だ! これが無ければ地球はそのまま破滅するところだったんだぞ!」

 あぐりは青い顔でそれを見つめた。

「すまない、取り乱してしまいました。簡単に言うと、これは聖女の命です」

「そんな大事なものが……」

「まぁでも良かったです。これで彼らは国へ帰れますね」

「え、帰っちゃうの?」

「彼らが宙に戻ってきた本来の理由は、地球上に散らばったこれを集める事です。アークィヴンシャラには聖女が必要です。聖女がいなければあの国は均衡を保てない。第一、何故国として独立したかご存知です?」

「うん……」

「この祭壇はこの国にとって大事な場所、崇める程のもの――」

 すると突然エンジェルが、

「でも待って、ここに書かれてる説明に、聖女が何なのかが書かれてないよ? 聖女って何? 矛盾なの? だとしたら数が合わないよ」

「君のような感の良いガキは嫌いだよ……」

「えっ」

「まぁ僕も、聖女が何なのか明確な事はわかりませんし。矛盾の一人とでも思っててください。だってほら、宝器を持っているんですから」

 そして奏は一同を連れてさっさとその場を離れた。

 最後に屋上に上がる。

 エンジェルは屋上に設置されている機械のゴーグルを差し出し、

「さ、プリンセス、このゴーグルをつけて」

「ここは何があるの?」

「等身大の矛盾ビーストモードの立体映像が見れます。結構大変だったんですよ。何たって巨大ですから、スキャンするにも一苦労ですし、まず矛盾化するのに政府から許可を貰わなくてはなりませんでしたから。日本政府はそういうところ頭が固いので、一旦アメリカに移動して許可を貰って急いで期間内にスキャンして作りました。おかげで僕はもう5徹目です」

 奏は隈だらけの目を擦る。

 一同はゴーグルをつけて目の前を見る。すると空中に像よりも大きい角の生えた狼が現れた。

「すごーい!」

「細かい部分まで再現されてますね……」

「最先端に技術を甘んじることなかれ」

 機械のスイッチを切り替えると、目の前に巨人の顔が現れた。あぐりは驚いて尻もちをつく。

「これが巨人です。矛盾で最大で最強を誇ります」

 巨人の足はファサード前の広場に置かれ、パビリオンを優に超えてうんと上に頭があった。

「身長300m、体重は測定してませんが、数百トンはあるでしょう。過去に7日で一国を滅ぼしたとも言われています」

「一国?」

「当時の一国は今でいう一県ですから、そう考えたら大したことありませんけど。矛盾の本当の脅威は、七日で世界を滅ぼせることです。それも、立った一匹で」

 一同は唾をのむ。

「まあ安心してください、彼等にとって地球は命以上に大事なもの。そう易々と壊しはしませんよ」

 一通り矛盾の立体映像を見て、一同は屋上を出る。人ごみの中をかき分けて移動していく。

「ねぇおじさん、この後ショップの方に……」

 あぐりが振り返ると、アキラの姿は見当たらなかった。周りを振り返るが、エンジェルも奏も、薫子も明彦の姿も見当たらない。

「迷子だ……」

 鼻の奥がつんと痛くなってくる。見た事無い外国人の顔ばかりで、不安と人ごみに押しつぶされる。もがき苦しんで手を伸ばすと、誰かに手を掴まれて引っ張られた。

「お前どこ行ってたんだよー!」

 知らない顔のその人はそうあぐりに声をかけた。だがすぐに人違いだと気づき、

「ご、ごめんなさい! 連れだと思って……」

「いえ……ありがとう。押し潰されそうだったから」

「そっか、なら良かった。迷子かい?」

「うん……」

「私もだ。中を探すのは……あぶなさそうだね。人が急に増えてきた」

「そうだね。ねぇ、ショップの方見てようよ。出入り口の近くだから、見つけられやすいだろうし」

「いいね! ショップ見たかったんだ」

 二人はショップに入る。

「ねぇ、君の名前は?」

 あぐりが訪ねた。その人は眼鏡を持ち上げ、

「ナァル」

「日本語上手いね。中国人?」

「一応日本人だけど……」

「へー、変わった名前」

「そうだね」

 ふと、あぐりはナァルの髪に触れ、

「綺麗な色だね。染めてるの?」

「じ、地毛なんだ……」

「えっ、ゴメン」

「でもちょっと染めてる」

 ナァルは悪戯な笑みを見せた。あぐりは安心して微笑んだ。

 陳列棚に下げられた金属のキーホルダーを見て、

「修学旅行でさ、男子ってこういうの必ず買うよね」

 あぐりが手に取って見せた、手のひらサイズの金属の宝器のストラップを見て、

「買う買う! 商品考えた人、それ狙ってたでしょ」

「絶対そうだよ」

「あ、国旗のタペストリーとかある。買ってこ」

「へー、いいね。あっ、写真集とかあるよ」

「いや~、ちょっと値段が……」

「じゃあ写真ハガキは? これなら安い」

「そうだね、これにするわ」

 二人でレジに並ぶ。パビリオンの外にアークィヴンシャラ限定のフードワゴンが出ていた。

「なんかオタクのイベントみたい。おとうさんも来ればよかったのに」

「それね、コラボメニューとかさ」

 二人は宝石をモチーフにしたパフェを買ってベンチに座る。

「結構クオリティ高いじゃん!」

「それね! いやでも、喜んでもらえてよかったよ、商品とか展示とか」

「え、ナァルが考えたの?」

 そこへアキラが走って来て、

「あぐりちゃん、どこ行ってたの……!」

 息を切らしてあぐりの足元に座り込んだ。

「アザキ……?」

「私の執事なんだよ。ね、おじさん、この子がね――」

 あぐりが紹介しようと隣を見ると、そこに誰かいたはずなのに、ベンチは冷たくなっていた。

「誰かといたの?」

「……うん、でも一瞬。ね、あそこのワゴンのパフェね、すごいクオリティ高くて美味しいよ! 宝石に見立てた琥珀等がトッピングされてて――」

 あぐりはアキラの手を取ってワゴンの方へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ