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第三十話 クリスマスマジック

 七富に呼ばれ、禊は机に置かれたノートパソコンを覗き込んだ。

「見てください、この件数!」

「ん、これ何?」

 七富は画面のページを切り替えると、

「アークィヴンシャラの公式ホームページを作ったんです。そこに匿名で意見を投稿できるシステムを作ったんですよ。そしたら国に関する質問やアーミューズに関して感想などが届きまして! アイドル関係の中でもかなり多かったのが、矛盾非公式ファンサイトを見た方やファンの方が、『男性ユニットも作ってはどうですか?』とのことでして」

「アイドルねぇ。工とかシンガーソングライターだったし、丁度いいんじゃない?」

 禊はそう言いながらソファーに腰を下ろした。

「良かった……! じつはですね、この話をロータスチェストの蓮刃さんに持って行ったところ、今度の歌番組のクリスマス企画にアイドルとして出そうって話ができましてですね」

「え、もう話は出来上がってんの?」

「禊さんの許可が得られればこちらから人選しますし」

 禊は少し考え、

「まぁ、冬限定なら……」

「わかりました!」

 七富は早速電話を掛け始めた。

「早っ」

 リビングに男子たちが集められる。

「アイドルぅ~?」

 忍が呆れかえったように叫んだ。

「何だ、嫌か?」

「嫌じゃないですけど、こんな変人だらけで務まります?」

「変人って何だよ失礼な!」

 尊が立ちあがった。要がそれを制する。

「で、でも皆さん結構イケメン揃いですし……。ほら、宵彦さんとか!」

「宵彦は格が違い過ぎんだろ」

「尊さんや要さんだって!」

 するとさっきまで機嫌の悪かった尊は急に照れ始めた。

「では、こちらで美友さんと決めた人選を発表しますね」

 全員が唾を飲み込む。

「まず、センターに工さん。それから尊さん、要さん、忍さん、宵彦さん、嫌好さん、それから禊さん」

 禊は聞き間違えたのか、耳を七富の方に傾けた。尊は禊の肩を持ち、

「禊、お前もだってよ!」

「えぇ~? 何で。写真写り悪いよ?」

「エンジェルさんの所での仕事がかなり影響したようで、非公式ファンサイトの方で禊さんの人気順位がすごい上がってたんですよ」

 禊は怪訝そうな顔で見た。

「それから、旅行会社とのコラボの話も出てるんですよ。冬休みに入りますし、冬休みは旅行に行こう! という事で、楽曲を旅行をテーマにしないかって話が出てまして」

 すると工が手を叩き、

「いいね! ほら、矛盾って日本人だけじゃなくて元ドイツ人とかいるじゃん。だから結構よいと思う!」

「でも、この人選だと全員日本人だぞ?」

 禊の言葉に工が肩を落とす。すると尊が工の肩を持ち、

「だとしても、俺らは世界中行った事あるんだから、悪くは無いと思うぜ」




 国民的歌番組「Mスタ」、クリスマス特別生放送スペシャル。放送日――。

「あああ緊張してきた……!」

 忍は腹を抱えてスタジオ裏に座り込んでいた。工は肩に手を置き、

「こんな時に何でだよ! あれだけ練習したんだから大丈夫だって。ほら、元シンガーソングライターが言うんだから」

「自分で言うかよ……」

 そこへ七富がやって来て、

「準備大丈夫ですか?」

「大丈夫! こういうの慣れてるし。それに、Mスタ十数年ぶりだし。懐かしいな~、この風景」

 工はステージを見て深呼吸する。

「もうすぐでアーミューズ・チームLが終わります! 皆さん準備お願いします!」

 七富が呼びかけると、奥から禊たちが現れた。

「クリスマスならもう少しクリスマスらしくても良かったんじゃないかな?」

 宵彦はそう言いながら、アークィヴンシャラの制服をなびかせた。本来なら制服の上着の丈は腰までとされているが、宵彦の物はそこにさらに燕尾服と同じものが接続されていた。忍はそれを見て、

「どうしたんですか、それ? 龍がプラスの装備として腰に巻いていたものとよく似てますが……」

「あぁ、これね。ただのおしゃれ」

「おしゃれ!?」

「一応、腰用装備として役割はあるんだよ。一応ね」

「そんなもの付属してたんですか……」

「星に願ったら届いた」

「星に願えば届くものなんですか!?」

「なんかね。届け主は不明だし住所も書かれてなかったけど、中に職人からのものって言う証明書も入ってたし」

「信憑性……」

 忍が青い顔でいると、尊が肩を組み、

「まぁいいじゃねぇか! 今回限りだけど、一応アイドルなんだぜ? 女の子たちをキャーキャー言わせようじゃないか!」

「まあ兄さんと違って、僕は何もしなくても勝手に言われますし」

 要がすまして言うと、

「喧嘩売ってんのかお前!」

「当たり前じゃないか」

 尊が悔しそうに歯を食いしばる。

「どうどう、こんな時に喧嘩すんなよ」

 禊が間に入る。

「ほら、もうすぐ出番なんだから。ちゃんと覚悟は決まってるな?」

 禊がステージを見る。

「すごい歓声だね。チームLと同じくらい喜んでもらえるかな」

 嫌好がそう言ってステージを覗き込む。

「大丈夫ですよ! 俺、信じてますから」

 七富がそう言って手を差し出すと、全員が顔を見合わせてそこに手を重ね、禊が掛け声をかける。

「アーミューズ・チームM、ファイッ」

「オー!」

 全員で声を合わせて拳を高く掲げた。

 アーミューズ・チームLが終わり、司会者の話に変わる。観覧席が少しざわつき始めていた。

「次は……アーミューズ・チームM? アーミューズってユニットは一つだけだったよね?」

「クリスマス限定らしいよ」

「え、要くん出るって!」

「矛盾って? あの?」

「宵彦様も出るって~!」

 暗くなったステージにチームMが整列する。スポットライトが彼らを照らし出し、楽曲が流れ始める。

「俺の渾身の楽曲、心の底から楽しめよな……!」

 工は観覧席を強く見て、誰にも聞こえないようそう小さく呟いた。

「世界を見に行こう、The beautiful star!」

 工の歌い出しと共に、全員がダンスに入る。

 矛盾のモットーである人間離れした身体能力。歌いながらダンスするアイドルはあまり多い方ではないが、これほどまでに激しいダンスをしつつ、これほどまでの歌唱力を維持できるのは矛盾だけだろう。そう、蓮刃は語った。

 チームMのそのダンスの激しさと、優雅さと、歌唱力、歌詞に込められた思い、それだけでなく、全員の楽しそうな表情に誰もが目を奪われた。

 曲が終わり、センターの工が丁寧に頭を下げた。途端、観覧席から盛大な歓声が上がった。

「いや~見事な歌いっぷりとダンスでした!」

 司会者がそう言うと、また拍手が沸き起こる。

 司会者のそばまでチームMがやって来る。工は息を切らしながらインカムのマイクを持ち、

「初めまして。今回のこの、クリスマス限定という事で組ませていただきました、アーミューズ・チームMです」

 すると別のアーティストがマイクを持ち、

「こんなにイケメン揃いとは思いませんでした! 禊さんは前からテレビや雑誌で知っていましたが、個人的にはあの、宵彦さん、であってますか?」

 宵彦は前に出て小さく頭を下げた。

「私、宵彦さんすごいカッコイイなって思いまして! すごい綺麗ですよね。背も高いですし」

「ありがとうございます」

 するとまた別のアーティストがマイクを持ち、

「あの、センターの工さんなんですけど、元シンガーソングライターって、もしかしてあの、世界中旅してまわってたあの、タクミさんですか? 変人で有名の?」

 観覧席から笑いが上がる。工も苦笑いしながら、

「そうです! あの、行方不明になってた工です。あの時はどうも大変お騒がせしました」

 工は八方に頭を何度も下げた。アーティストは笑いながら、

「にしても久しぶりですね! 10……20年近いんじゃないですかね」

「そうですね! 老けましたね~白髪増えました?」

「違う! これ白く染めてるの!」

 二人は楽しそうに笑いあう。そして司会者が前に出て、

「ハイ、アーミューズ・チームMの皆さんでした! ありがとうございました~」

 チームMが拍手と共に退場する。

 楽屋近くまで戻ると七富はすぐさま駆け寄り、

「皆さんとても良かったです! マジカッコよかった!」

 禊は七富の頭に手を置き、

「ありがとう。こんなの初めてだったから楽しかったよ」

「これもう一回やってもいいかもな~!」

 尊はステップを踏みながらそう言った。

 そこに見知らぬサングラスをかけた男が近づいてきた。

「君たち、ちょっといいかな」

 そして名刺を差し出されて、

「ボクはテレビ番組の監督でね。是非君たちの冠番組を作りたいと思ってるんだ」

 その言葉に全員が目を丸くさせた。

「まだ本格的に決まったわけじゃないけど、どうだい。乗っかってみないか?」

 全員が不安そうに禊を見る。禊は強くその男を見ると、手を差し出し、

「えぇ、是非やらせてください」

「よし、決まりだな」

 二人は強く握手を交わした。全員が歓声を上げる。

「俺らテレビデビューだってよ!」

 尊が要の手を取って叫んだ。工は鼻の穴を大きくさせ、

「テレビデビューで冠番組とか最強じゃねぇか! 忍! なぁ!」

「え? あ、あぁ、うん」

 忍は喜びつつも、あまり乗り気ではなかった。

「何だよ、嫌なのか?」

「嫌じゃないけど……ちょっと調子乗ってる気がしちゃって」

「これくらいじゃないとアークィヴンシャラの知名度は上がらねぇって!」

「うん。でも、アークィヴンシャラってもっと威厳ある国ってイメージなんだし、これだとちょっとチャラチャラしすぎてるって言うか……」

「お前は気にしすぎなんだよ! 知名度を上げるためだ、今だけだって!」

 工は忍の背中をバシバシと叩いた。

「うん……。悪い方に行かないといいんだけど……」

 忍は少し心配そうに皆を見た。

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