男の娘とレズ剣士の出会い
ーーとある森の中。雨が、降り始めた。
初めはぽつり、ぽつりとだったのが、次第に本降りになっていく。
そのような中、1人の子供が歩いていた。頭巾を被っているので顔はよく見えないが、それでも顔立ちが美しい事が分かる。疲れ果てているのか、歩く速度は酷くゆっくりだ。
(……ここは、何処だろう)
寒さと寂しさ、不安。子供の心はこれらでいっぱいだった。
(出口も分からないし、お腹も空いた……)
疲れが限界に達したのか、ついに子供は倒れてしまう。
(もう会えないのかな……プラム)
子供は静かに、1人の女の子の事を考えてした。大切なあの子。今はどうしているのかーーー。
「お頭、こんな雨の中そうそう獲物がいるとは思えませんよ〜?」
「馬鹿野郎!そうとは限らねえだろう。もしかしたらきっといい奴が……お?」
何やら下品な声が聞こえてきた。彼らは獲物ー美しい女子供ーを捕まえ、売り飛ばす所謂人売りを生業としている。2人の目は、倒れた子供に釘付けになっていた。
「ほらみろ!いただろう?」
「おお、確かに!しかもこの娘、えらく綺麗ですよ!こりゃいい金になりそうだ……」
舌舐めずりをしながら子供に近づく。下っ端の方の手がその子に触れそうになった、その時。
「……その子に手を出すのは、私を倒してからにしてもらおうか」
「あ?何だおめえは」
そこに現れたのは、1人のこれまた美しい女。剣を携えたその姿は、どこかの絵画から出てきたかのようだ。
「……ほう、お前もなかなかの上玉だな。こいつも売れれば、なかなかの金に……ぎゃああああ!!」
下っ端が言葉を完全に言い終わる前に、女の剣は子供に触れようとしていた腕を切り落としてした。動きが見えない、素早い一撃だ。男は人語にならない叫びを口から出しながらのたうち回る。
「な、この、アマ……!」
ボスらしき男が拳を頭に振り下ろそうとするも、それをあっさりと避けると蹴りを腹部に入れる。男はそれだけで倒れてしまった。
「はあ、この位で伸びるなんて、こいつら大した事ないな。……さて、後はこの子だけど」
女は子供に向き直ると、静かに抱え上げた。
「ひとまず、宿にでも行ったほうがいいか」
そう言うと、そのまま男達を置いて森の出口へと向かっていった。
「……う、こ、ここは?」
「目が覚めたようだね」
子供が目を覚ますと、そこには優しげに微笑む女が居た。何が何だか分からないでいると、女が口を開いた。
「君が森で倒れていたから、救助したんだ。大丈夫?怪我は無いようだけど……」
「あ、大丈夫です…ありがとう、ございます。ご親切に……」
「いいんだよ、気にしなくて。可愛い女の子を助けるのが私の義務なんだ」
「……え?」
「最近女子供を攫う不届きな一味がこの町にいるって聞いてねー。可愛い女の子とか綺麗なお姉さんを攫うなんて許せないと思わない?あ、正直男の子の方はどうだっていいけど」
何を言っているんだこの女は。お前も美人に分類されるだろうとか、そんなどうでもいいツッコミを入れてしまいそうになる。いや、それ以前に、女は1つ勘違いをしている。それも、大きな。
「すみません…その、僕、男、なんですけれど……」
「……え、」
宿屋に大きな「えーーー!?」という声が響き渡る。「うるせえ!」だの「やかましい!」だの言うクレームがこの部屋に寄せられたのは、まあ、言うまでもない。