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天才棋士 山中 省吾

作者: アツシルック

「君がいたから・・・」3話執筆中にふと思ったことを、読み切りにしました。

こんなキャラいたら楽しいなぁ〜と思い書いたものなので、楽しんでもらえたら幸いです。


「君がいたから・・・」3話目がなかなか内容がダークな所があり、書いていてなかなか精神が削られる思いなので、筆休め的に書いた作品です。


感想や、コメント頂けたら嬉しいです。


ついでに、「君がいたから・・・」読んでくれたら嬉しいなぁ〜


将棋、それは盤上の戦と言われている。


戦のないこの日本でも、その盤の上で激しく、決死の覚悟で戦う者達がいるのだ、彼らをプロ、棋士と呼ぶ。


そんな棋士の世界でも色々なタイプがいる、そんな中において天才、鬼才と言われた伝説の天才棋士がいた。

山中 省吾、彼を人は"神の棋士"と呼んだ。


あるプロ棋士は言う

「彼の前では全く動く事が出来なかった」

またある名人は

「心が読まれているようだ・・・」


口々に名だたる棋士達が彼と戦い、二度と戦いたくないと言わしめていたのだ。


某日


そんな噂を聞きつけた今勢いのある若手天才棋士、"橘 武雄"は、神の棋士"山中 省吾"名指しで指名したのだ。


山中はその挑戦を即座に快諾し、応えた。


この若手天才棋士はのちにあらゆるタイトルを総なめにする実力者。


そんな彼をしても

「あんな試合は初めてだ・・・」と言わしめたのだ


この戦いはマスコミに一切シャットアウトされて行われた。

挑戦表明から一ヶ月、都内某所、会場はおおよそ将棋を打つような場所には似つかわしくない、コンクリートで覆われた一室、窓は一切無く、換気の空調と出入り口のドアのみ。


先に会場に現れたのは若手棋士の橘であった。

アイドルと言ってもいいくらいのルックスに、モデル並みの体型、服装も黒のスーツを着こなしていた。

物々しい会場の雰囲気に呑まれそうになりながらも、彼は落ち着いた動作で、自分の席に静かに座った。


それから一時間遅れで、会場入りギリギリに山中は部屋に現れた。

ボサボサな髪に、虚ろな目、ヨレヨレなスーツにネクタイを緩めてつけ、ヒョロヒョロって感じで。

「遅れてすんません」

軽い口調で席にあぐらをかいて座った。


橘はそんな山中に対し

「いえいえ気になさらないで下さい」

顔は笑っているが、目だけは山中を刺すように睨みつけていた。

そんな睨みつけられていた山中は

「でわ、気にしません」

橘なと眼中にないと言うような態度で、未だヘラヘラと

「時間も押してますし、始めましょか?」

罪悪感も無く言い放ったのだ。

さすがの橘もこの物言いには腹が立ったのか、態度には出さなかったが、冷静さをなくしかけているのを感じた。

落ち着くため、持参したペットボトルの水を一口飲み、一呼吸置き、目をつぶり、始まりの合図をまった。


将棋とは盤を前にして席に座って始まるのではない、挑戦を受けた時点で既に始まって、終わっているのだ。

これは神の棋士"山中 省吾"だからこそたどり着いた、勝負論なのである。


両者の話し合いの結果、先行を山中が行うことになった。

この試合においては、本来いるべき記録係も、立会人もいない、まさに一対一の真剣勝負なのだ。


先行となった山中は盤面を睨み、そして一瞬対戦相手である橘の顔をチラ見した。

この山中の一連の動作は、時にして数秒だったろう。

橘を生唾を飲んだ。


なぜ人は山中を"神の棋士"と称すのか、それは一般的にプロの棋士でも十手先が読めれば凄い事だろう。

しかしこの山中にしては、何百、何千、何万手・・・否、何億手も先を見据える力を持っているのだ。

故に、凡人、秀才など程度の輩では到底たどり着けない、前人未到の極致まで辿り着いているのだ。


開始して数秒・・・橘いわく、この数秒は数分とも数時間とも感じられたと言う。


山中が動いた。


手を床につけ、軽く相手の目を見つめ、深々と頭を下げた・・・

「参りました!」


「・・・・・・へ!?」

橘は一瞬何があって、何を言ってるのか理解出来なかった。


「でわ私はお先に失礼します」

既に帰り支度をしてドアに向かう山中。

未だ何が起こっているのか理解出来ない橘は、盤面に目をやり呆然としている。

そんな橘の様子を気にせずもせず、山中が出入り口のノブに手をかけた時、橘は未だ理解出来ないこの一連の出来事はさて置き、この戦局の?解説をして貰わなければ納得できない、そう思えてしまった。

「ま、待て!山中・・・さん」

年上で、この業界で先輩であるが、こんな奴にさんを付けるべきか悩んだが、ここは対戦相手に敬意を示し、渋々『さん』を付けた。

「まだ何も始まってないだろうが、何が参っただ!ふざけんな!」

「・・・やれやれ、これを見てまだ分からないとは」

「分かるか!」

外人の様にオーバーアクションで頭を横に振りながら、素人棋士を見るような目で山中は言った。

橘も間髪入れずに大声でツッコむ。

「若手天才棋士とか言うから期待していたが、所詮は同じ天才でも、天と地の差があるようだな、やれやれだぜ」

「いやいや、待て待て、仮にも山中さんよ、あんたが先に『参りました』って言ったんだろうが、俺がこの勝負、勝ってんだろうが!」

どっちが勝ったのか分からない態度で山中が見下しながらニタっと笑うと。

それにイラッとした橘は正論をぶつけた。

「橘くんとやら、君は何手先が読めるんだい?」

「ん!?、なんだ唐突に・・・まぁ調子良ければ三十、四十手先は読めるか・・・」

「プッ」

「あん!」

山中の質問に、橘は素直に答えたら、山中は答え終わる前に、耐えきれず笑いを吹き出した。

橘は眉間にシワを寄せ、ヤンキー顔負けのガンつけで、山中を睨みつけた。

「所詮、天才天才と騒がれていても、凡人が騒ぎ立てた程度の天才だな。この程度の先しか読めないでよくもまぁ、『俺は将棋王になる』などと言えたもんだ、おそまつ!」

「だから俺がかってんだろがぁー!、全く人の話聞かねーなこのおっさん、そもそも俺はそんな事一言も言ってないし、ちょくちょく某少年漫画のセリフを挟むな」

山中は未だ平然と淡々と語り、橘はイライラを通り越して呆れていた。

「凡人の天才に問おう、この盤上を見てなんと思う?」

「はぁ?・・・まぁ将棋における最初の配置かな、駒を動かす前にお前が・・・ん!?」

「さすがの凡人の天才でも気づいたかね」

山中の質問に、橘は思う。

(山中は言っていた、試合は挑戦を受けた時点で始まり、既に終わっていると・・・もし、もしこれが本当の戦争ならば・・・)

「私には生まれてからある能力がある、それは世間では何億手先も読めるとか、間違ってはいないが、正しくもない、私は何兆、何京手先をも読む能力があるのだ。すなわち生まれた時に既に君がこの日、この時既に挑戦し、私と戦い、君が勝つことは読めていた」

「なならばなぜ、なぜに戦わない・・・先を読めるなら相手を負かすことは容易な筈だ!」

「青いな・・・仮に私が兵を動かし、次に君が何を動かすかも既に読めている、だが戦えば兵は傷つき、下手をすれば戦死する、戦場とはそう言うものだ、この盤上を見てなんと思うと問いて、君はなんと思った?」

「誰も傷ついて・・・いない」

「指揮官として一番大切な事は戦さをどうやって解決するか、戦う事は簡単だ、勝つ事もしかり。君はこの戦いで何を守りたかった?、名誉か?名声か?」

「俺が・・・俺が守りたかったもの・・・」

橘はその場で下を向き、再び盤上に目をやった。

「そ・・・そうか、兵は捨て駒ではない、イヤ、捨て駒なんて一つもありゃしない、敵であってもまた同じ、やらなくてもいい戦さならやらない方がいいのだ」

「私にとってこの『步』ですら大切な民、負けると分かってる戦さに民を戦場に送るなどできるものか」

「山中さん・・・あんた」

「俺にはこれからどうやって帰り、今後どんな生活を送り、いつ死に、いつ生まれ変わり、どんな生き物になっているかも読めている」

「凡人の天才、橘 武雄、これからも精進しろよ。まぁ俺には君の今後の人生も読めているがな」

「や、山中・・・さん」


「アディオス、ミスタータケオ・タチバナ」

山中は橘の方を見ずに後ろ姿で、手を振りながら、開けたドアを閉める間際に言った。


「なんでカタカタなんだよ・・・サンキュー、ショウゴ・ヤマナカ」


そしてそんな伝説の一局は幕を閉じた。


この戦さを経て、橘は破竹の快進撃を繰り返し、伝説の棋士となった。


のちに彼は言う。

「山中との一戦があったから今の自分があると」









読み切りを書いたのは初めてで、話はまとまってたでしょうか?

2日くらいで書き上げたので、詰めが甘い所もありますが、思いつきで書いた話なのでご了承を。


なお登場人物などは架空の人物なのでご注意をw


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