最強の軍隊
このようなことを認めるのは非常に口惜しいのだが、我がA国の国力はお世辞にも高いとは言えない。いや、そのような書き方ですらまだ傲慢だ。はっきり言って貧弱そのものといっていい。
中でもひどいのは軍事力だ。戦いに行けば連戦連敗。負ければ負けるほど兵士たちも自信がなくなっていっていき、今では戦う前から逃亡兵が出る始末。
前回、隣りの強国S国との戦いに大敗後に行われた軍の再編に伴い新たな司令官に選ばれた私がこの現状を打開するべく行なったことは軍の視察であるが、そこで私が目にしたのは想像以上に惨々たる兵士たちの体たらくぶりであった。この現状を確認した私はさっそく自身の幕営に入り、私自身の要望で副官となっているアレク君と意見交換をすることにする。
「アレク君、兵営では随分と女性の姿がよく見受けられるがこれはいかなることかな?」
「以前の司令の意向により連れてこられた兵士の家族たちです。エバ司令官。前の司令官は度重なる兵士たちの士気低下を止めるために、予てより兵士たちから要望されていた『家族の同伴願い』を許可して以来軍内の女性や子供の数は増え続けています」
「だが女性や子供同伴の部隊では機動力に深刻な悪影響が出る。何より女性が部隊にいればそれだけで風紀を乱す原因になる可能性があるし、さらなる士気低下にもつながりかねない。今すぐにでも非戦闘員の家族は部隊から追い出す必要があると思うのだが」
「しかし元々彼女たちは兵士たちの強い要望によって同伴を許可された家族たちです。今すぐに追い出すというのは非常に難しい話ですし、それにエバ司令官が着任して早々に兵士たちの強い反感を買う結果とならなければ良いのですが」
このアレク君の言葉に一理あること私にもすぐに理解することができた。だが、この現状をそのままほうっておくことができないというのもまた事実だ。私は少し考え込み、
「わかった、君の言うとおり、家族を陣営内からすぐに追い出すというのはやめることにしよう。いや、むしろ家族を連れてくることを奨励したいと思う。ただし、軍の決まりに一つ訂正をすることにしよう、明後日に控えているS国との戦闘に勝利するためにもな」
それより二日後、我がA国は強国S国との激戦の末に勝利を掴み取った。我が国が戦争で勝利したのは実に十年ぶりだという。
「やりましたねエバ司令官」
「あぁ、成し遂げたなアレク君」
「エバ司令官あっての勝利です。司令官の名は我がA国に永遠に語り継がれることでしょう」
「あぁ……、ところでアレク君。例の"公開刑"だが……」
「えぇ、準備は整っています」
アレクがそう言って部下に目配せをすると、その部下が女性一人と子供一人を引き立て、近くのガレキに座らせた。
それを見た私は少々疑問に思う。
「問題の兵士はいないのかね?」
「えぇ、どうやら逃亡したようですね」
「ふむ」
若干の不甲斐なさを感じたものの、規律は規律である。私は戦闘に参加した兵士全員に聞こえる声で叫んだ。
「これから予てより伝えていた『最初に敵前逃亡を行なった兵士の家族の公開処刑』を行う。現在ここにいる女の夫、子供の父親は先立つ先頭で最初に逃げ出した兵士だ。彼は現在行方をくらましており、おそらく戻ることはないだろうが規則は規則だ。この処刑は私が司令官である限り行なうつもりだ、心しておくように」
私がそのように叫び終わるのとほぼ同時に複数の銃声が戦場に鳴り響いた。
この小説のモデルはギリシャのテーバイというポリスに実在した神聖隊という軍隊と、ローマの十分の一刑です。
神聖隊は世にも珍しい男性の同性愛者の二人一組で構成された部隊です。片方が逃げれば片方が危機に陥る危険があったために戦場では逃亡兵が非常に少ないことで知られていて、その実績はギリシャ最強とも言われていたスパルタ軍に勝利したこともあるほどだったようです。愛の力というのはあらゆる訓練を凌ぐ場合もあるのかと考えると、漫画の主人公などがよく最後に「愛の力で覚醒する」とかいう展開も起こり得るのではないかという気がします。
第二次大戦中、「この戦争に負ければ家族や愛する人が虐殺される」というようなメッセージが喧伝されていた国は多くあるようですが、「大事な人を守りたい」という気持ちを戦争に利用するのが始まったのが古代の時代から始まっていたと考えると、何となくぞっとするような気もします。