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太陽戦士マーブルサンシャイン  作者: アルドニコフ・E・マクバレー
第1話
4/5

01-04.誤算と奇跡

 あーだめだ、終わった。死んだわあたし。さよなら人類。


 友実はパジャマ姿で、無気力に立ち尽くしていた。赤、青、緑、黄色、白、全ての指輪を嵌めたまま。

 赤、青ではキサリアの足元にも及ばなかったが、赤と青の指輪を同時に嵌めた紫色――サンシャインパープルでは何とか戦えるレベルまで強くなれた。キサリアの実力は人類のおおよそ700倍。ということは、サンシャインパープルの力は恐らく40倍よりも強くなっていたはず。そうであるならば、と。友実の秘策は単純で、全ての指輪を同時に嵌めれば、キサリアを倒せる程度の力が手に入るのではないか……そう考えていたのだが。嵌めた先に待っていたのは、あろうことか嵌める前と同じ、着慣れたパジャマの姿であった。


「期待していた時間が無駄になったな」

「……待たせてごめんね。もういいから、さっさと殺して」


 友実は諦めた。自分の意思として、キサリアに止めを刺すように言い放つ。服従を選ぶか死を選ぶか、キサリアは必ず再び尋ねてくる。そんな手間はもう取らせたくない。むしろそのやり取りすら面倒くさくなったので、自ら殺される方を選ぶ。サンシャインパープルの状態では絶対にキサリアには勝てない。しかしここで服従を選んだとしても、逃げたヒーローとして余生を過ごすのは、いじめられ慣れた友実も流石に耐えられない。であれば、今殺されて解放されようと思った。


「……普段ならば自ら死を選ぶ者を、潔しとは思わん。だが、今までの戦いぶりに免じてその望み、叶えてやろう。苦しむことはない」


 ずん、ずん、と一歩ずつ近付くキサリアを見ながら。嫌な事は沢山あったけど、楽しいことはそんなに無かったな……何かあればいじめられてたし、成長しても顔は変わらないし。今こいつに殺されたって、誰にも怒られないよね。そんな事を思い、心臓めがけ爪を打ち付けようとするキサリアの腕の軌跡を追う。


(……遅え。早く来いや)


 キサリアが妙にもたついているように感じられる。腕の軌跡が、はっきりとわかる。何ミリ離れていて、どの位置から、どこを狙い、このまま居ればどこに当たるのか……キサリアの動きが非常にトロくさく感じられて。興奮状態……例えば車に突っ込まれる直前だったり、どこからか落ちて地面にぶつかる瞬間だったり。死の危険が迫ったときに起こる瞬間的な判断力の上昇か? ……そんなことを考えている間にも爪がゆっくりと迫る。……いや、遅くはない。キサリアの動きは今までで一番力強く、速い。友実への敬意か、本当に一瞬で命を落とそうと仕掛けているのは解る。しかし、それ以上に友美の判断力と動体視力が冴え渡っていた。

 これなら、避けることができそう……そう考えた刹那、体が動く。爪が触れる瞬間、体を横に逸らす。キサリアの爪が友実の心臓のあった箇所を過ぎ、空を切る。客観的に見れば、止めを刺せという言葉で渾身の一撃を誘い、それを避けてしまった卑怯な状態。大振りを失敗したキサリアの腹部は隙だらけで、申し訳ないと思いつつも、二回も蹴られたことを思い出す。右手を握りしめる。さっき一発しか殴ってないし、もう一発くらい喰らわせても大丈夫だよね? と都合よく考えながら、足を開き、腰を落とし、上半身をめいっぱい捻らせながら、思い切りキサリアの腹部を殴り付ける。


「……ッオラァ!!」


 以前友実が見学した自衛隊演習で聴いた戦車砲よりも激しい爆発音をドゴオ! と響かせながら、キサリアは一瞬で吹っ飛び、道路の先、丁字路を超えた公園の木々をなぎ倒しながら遊具を次々と吹き飛ばし、レンガ造りの公衆トイレを粉々に崩してようやく止る。キサリアの吹き飛んだ方向に合わせて地面のアスファルトは土ごと砕けて舞い上がった。


「……な、なんだ…今のは…!?」


 状況を理解できていないキサリアは上体を起こし友実を探す。左は瓦礫。右は瓦礫。正面は土煙。頭上には大きな満月―――


 ―――を背にした、パジャマの少女。


「!!」


 すでに友実は拳を振りかぶっている。キサリアは瞬時にマントで体を覆う。不意を突かれたなどと考える暇もなかった。先ほどの一撃は確かに目の前の小娘が放った一撃であるとキサリアは確信した。あの一撃を何度も受けてはならない。そう判断したキサリアはすぐに防御の体制に転じる。

 友実自身、何が起きたのか考える暇なんてなかった。ただ、自分の一撃でキサリアが吹き飛んだ。その事実だけを飲み込み、この好機を逃してはならない、そう考えながら、追撃すべくキサリアの空中でマウントをとる。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!」


 一度この言葉を、大声で叫んでみたかった。友実はそんなことを少し考えながら、パンチの雨をキサリアに浴びせる。パンチは一発も外れない。一撃が当たるたびにキサリアの背の地面は揺れ、形をゆがませる。

 マントが全く役に立たない。キサリアは苛立ちを覚えながらも友実の猛攻をマントの内側の両腕で耐える。しかしもう限界が近い。なりふり構ってはいられないと、次の策に打って出る。

 内側からマントを掴み、自らの肩から外すと、一瞬のパンチの隙を縫って横から抜ける。マントが自我を持ったように、友実を飲み込む。


「な、なに!?」


 視界を奪われ友実は一瞬ひるんだ。その隙にキサリアはマントの上から友実の頭を鷲掴みにすると、思い切り地面に叩きつけ、ドゴン! と鈍い音を響かせる。すぐさまもう一つの腕を振りかぶり―――


「これで、最後だ!!」


 友実の喉元めがけて爪を打ち付ける。しかしその一瞬前に友実はマントの中から顔を覗かせ、間一髪突き刺さる瞬間キサリアの体を思い切り蹴飛ばした。

 キサリアは蹴りが当たる刹那、体を屈めて威力を半減させる。体勢は維持したまま、先ほど吹き飛んできた方向へ戻される。キサリアは友実を注視する。……速い。既に拳を握り締め、こちらへ駆けてくる。面白い、これが最後の一撃だと両足を地面に下ろす。ズザザザザ! と摩擦で土が再び巻き上がる。キサリアは止まった瞬間、友実に向かって走り、爪を向ける。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 二人とも雄叫びを上げながら渾身の力を腕に込める。キサリアは友実を地面に叩きつけるように、友実はキサリアを上空に吹き飛ばすように。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおラァーー!!!」




 すさまじい衝撃音とともに、キサリアは遥か上空、大気圏ギリギリまで吹き飛ばされた。


「んー……だめだ見えねえ」


 目を凝らしても見えない位置にまでキサリアは飛んで行ってしまった。

 呆然と、友実とキサリアの戦いを見ていたタキアーの元へ、友実はゆっくり歩いて近づく。


「……なんだかまだ、よくわかんないけど……何とか、勝てたみたいだよ」

「すごい……あのキサリアを、倒してしまうなんて……」


 状況分析は、後でゆっくりやろうね。とお互い認識を合わせる。そして一息つこうと、パジャマのポケットに手を突っ込み、余った小銭で飲み物を買おうとする。小銭がない。……あ、変身の時落としたんだっけ。そう思いながら小銭を落とした付近、自販機の周りを見ると、アスファルトは剥がれ、壁は崩れて、見るも無残な姿になっていた。


「ねえ。戦う度に町がこんな風になってたら、あたしのほうが侵略者みたいになっちゃうんだけど」

「大丈夫。白の指輪の力を使おう」

「何ができんの?」

「祈れば、町並みは戦い前の状態に戻るよ」

「ご都合主義……」

「予想できる事態なんだから、それくらい保険はかけないとね」

「なるほどね。……で、祈ると言われても、祈り方なんてわかんない」

「手を広げて天に掲げて、祈りの言葉を言うんだ。自分で決めれば何でもいいよ」

「……もとにもどれーっ」

「ださいなー」

「うるっせえなもう」


 もっと言ってみたいセリフは浮かんだけれど、今は恥ずかしさが勝った。しかし確かに効果はあったようで、崩れた壁や瓦礫、木々、アスファルトも、自販機でドリンクを買う直前の状態まで修復された。自販機の前にはお釣りの小銭も元通りに落ち、購入したペットボトルまで、キサリアに切られる前の状態で受け口に入っていた。友実は小銭を拾い、先ほどから飲みたかったドリンクを何口か飲むと、ふと思い立つ。


「……あー、そういえば」

「?」

「いや、この力って何回も使えんの?」

「制限なんて設けてないよ。どうして?」

「もっかい使わないといけないよね」


 ずどん! とすごい音と共に、自販機のそばに穴が開く。穴の中心には黒い大柄な何か。キサリアだった。友実はペットボトル片手にキサリアを覗き込む。一度勝った相手に、恐怖はなかった。


「……生きてる? 大丈夫?」

「……とどめを、させ」

「なんで?」

「敗者に……生きる権利はない……」

「やだよ、殺さない。」


 友実はぷいっとそっぽを向いて少し距離を開けると、再び「もとにもどれ」と白の指輪の力を使う。キサリアのせいで穴の開いた道路と、キサリアの体の傷が癒えた。


「どういうことだ? 私は貴様を殺そうとしたのに、貴様は私を殺さないのか」

「進んで殺す気なんて、はなっからなかったでしょ?」

「……」

「あたしに何回も生きるか死ぬか聞いてきたじゃん。地球の資源狙ってるなら人間なんて皆殺しでいいし。それにあたしも、生き物殺すのほんとはやだもん」

「……完敗だな。何も言えぬ」

「あーあと自分で死ぬのもナシね。でもあたしに勝てたら、好きにすればいいよ」

「なぜ貴様の言う事など、聞かねばならん」

「負けたんだから、勝った方の言う事くらい聞けよ」


 じゃあね、と手を振ってタキアーをポケットにしまうと、友実はキサリアをそのままに、その場を去る。


「かっこよかったよ」

「かっこつけたかったわけじゃないよ。明日も学校だし、寝ないとね。……あー、予習と復習してないや。まあ、一日くらいいいか」


 タキアーの言葉に少し照れながら、むすっとして。今度また、キサリアと戦えたら楽しそうだと思いながら、薄明るくなり始めた夜道を、家に向かって歩いた。

第一話の終わりです。

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