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太陽戦士マーブルサンシャイン  作者: アルドニコフ・E・マクバレー
第1話
3/5

01-03.宇宙人と誤算

数刻前―――


「キサリア様は、この星の知的生命体と比較し、600倍ほどの能力差がございます」


 モニター越しに人類の顔を観察しながら、リスマーは得意げにキサリアに告げる。リスマーの操縦する小型の宇宙船に同乗するキサリアは、無言で話を聞いていた。


「だからこそ、今なのです。タキアーが研究していたあの5つの指輪、おおかた能力を100倍まで高めるのが関の山でしょう。それにこの星に降りてまだ数日もたっていない。5人はおろか、適正者は一人見つかっているかも怪しいもの。どのような不慮の事態を考慮したとしても、あやつに勝算はございません」

「……少々気が引けるな。戦う相手とはお互い、全力を出し切りたいものだ」

「強者の探索は、この星を制圧してからでも遅くはございません。今は憂いを断つ、それが急務です」

「……」


 リスマーの言う事はもっともではあるが、論理的過ぎて面白みに欠ける。キサリアは日頃より、リスマーの考えには否定的であった。しかしそれも全て組織を思ってのこと。好戦的である自分こそ、組織への忠誠心を欠いているのではないか……と、度々自分を顧みたうえで、リスマーには否定も同意もしないのであった。


現在―――


「もう終わりか? もう少し楽しめる思っていたが、期待外れか」


 当初対峙した位置から一歩も動かないまま、キサリアは友実を圧倒していた。友実は返事をしない。じっくりとキサリアを観察して、なんとか突破口を見つけ出そうと考えを巡らせていた。指輪の能力上昇効果せいか、頭は冴えて、アイデアもすぐに浮かぶ。しかしそこから連想できる結末は、敗北のストーリーだけだった。


「……やっぱり、ヒーローになるのはあたしじゃないんじゃないの?」


 諦めたように、タキアーに尋ねる。しかしタキアーは、変身できている事実こそがヒーローの証だという。現状ではエールは気休めにもならない。選ばれた唯一のヒーローが、こんな情けない姿でやられるなんて、お笑い種にもならない。だがその言葉がきっかけで、友実は一つ、妙案を導き出した。


「……まてよ? ほんとはあたし、赤じゃなくて青なんじゃないの?」


 目立たないし地味だし、と非常に失礼な思案を巡らせながら、青の指輪を寄越せとタキアーに言う。タキアーは絶対違うと否定して指輪を出し惜しみするが、無理やり全ての指輪を奪い上げた。


「……それがリスマーの言っていた指輪か。いい機会だ。お前を倒した暁にその指輪をすべて粉砕し、この星を恐怖の底に沈めてやろう!」

「そんな……こと……させるか!」


 挑発するキサリアの言葉に呼応するように、友実は赤の指輪を引き抜く。刹那、服の変化は解けパジャマへと戻るが、また光を纏う。青の指輪を嵌め直したのだ。輝き終わったその容姿は……


「……はずれか、くそっ」


 最初のスーツ同様のボディパーツ。色が赤から青に変化しただけだった。しかし嘆いている時間もない。格好は変わらなかったが、少しくらいは強くなっているのではないか。そんな淡い期待を秘めながら、無謀にもキサリアに突っ込む。が、その期待はすぐに霧散する。二発目の蹴りを喰らい、友実は再び同じ壁にぶつけられた。キサリアの蹴りは一発目よりも重く、壁は音を立てて砕けた。


「だ、大丈夫かい! しっかりして!」

「どうした、立て。もっと私を楽しませてみせろ。このままでは準備運動にもならん」

「ぅ……げ、ほっ……」


 背中で息をして、血を含んだ咳をしながら友実は立ち上がる。目を開ける余裕も、考える余裕もなく、次は緑の指輪を試そうと、自分の体に言い聞かせるように、ふらふらと立ちながら……指輪を持つ。


「もう……無理だよ、くそ、どうすりゃいいんだ……お終いだ、他の指輪嵌めたって駄目だ! キサリアは四天王の中でも最強クラスの戦闘狂だ! 赤い指輪でそんな力しか引き出せないんじゃ絶対に勝てっこない!」

「う……うるさいっ……やってみなきゃ……わかんねーだろそんなこと!!」


 半ばやけくそになりながら、友実は手に持った指輪を嵌めた。その瞬間……


「……なにっ!?」


 キサリアは僅かに後退する。朦朧とした意識の中で赤い指輪を嵌めた友実がまばゆい閃光を放ち、その力に圧されたからだ。見た目には存在しないが確かにそこに目があるのだろう、黒いマントで頭部を守るように光を遮り、輝きが収まるとすぐに友実に注意を向ける。


「こ……これ、は……?」


 そこにいたのは、自ら輝きを放つ、美しい紫色のバトルドレスを身に纏った友実だった。今までに受けた傷が跡形もなく消え去り、溢れ出る力に驚いた表情で。肩には数段重なった薄いプロテクター、腰から下は可愛らしいプリーツスカート、動きやすそうなスパッツ。さながら小さな女の子が憧れる美少女ヒロインの姿であった。

 友実の姿にタキアーも驚愕していた。友実のスーツは今、いわゆる最終形態、真のヒーローと同様の形として友実を覆っていたからだ。


「どうして……その姿を見るのはだいぶ先だと思っていたのに! 勝てる……これなら勝てるかも……なんで、どうしてこうなったのか私にも解らないけど、今なら勝てる見込みがある!」

「……そう、なのかな……? ――っ!?」


 キサリアが不意に友実に向けて鞭を打ち放つ。バチィ! と大きな破裂音を響かせ、友実は瞬時にそれを受け止めていた。体が軽い。力も、みなぎる。今まで一方的だったキサリアとの戦いは、今この瞬間、希望の光が見え始めていた。


「私の鞭を受け止めるとは……いい力だ。先程とは比べ物にならん。……だが!」


 キサリアは鞭はそのままに友実に突進する。布から覗く鈍い光を友実は見逃さない。爪の攻撃が来る。先程の蹴り程度であれば受け止められると確信していたが、飲み物を真っ二つにしたであろうあの爪の威力は未知数。慎重に対処しようと鞭を捨てて身構える。


「……ふん!」


 タイミングを見計らい、伸びたキサリアの腕の先、爪の間に指を挟めるようにして受け止める。

 ずん! と重い衝撃を体に感じながらお互い手を合わせ、友実はキサリアの手首も掴みながら膠着する。キサリアは強い。しかし、体の重さはそこまでではないと友実は踏んでいた。であれば、地上から体を浮かせた突進の衝撃は比較的軽く、今の自分なら受け止められると瞬時に判断していた。

 キサリアもそれはすぐに察知した。甘んじて膠着応対を受け入れる。力のぶつかり合いこそが戦いと考えるキサリアにとって、この瞬間こそ滾るひと時だった。

 友実でさえも今ふと、「楽しい」と感じていた。普段いじめられている鬱憤を脳内での昇華に留めず、体を酷使して発散するのはこんなにも気分がよいのかと。


「……あたし少しは、あんたを楽しませられてるんじゃないの……!?」

「……思い上がるな小娘。本当の夜はこれからだ」

「!? ……っく、あっだだだだだだっ!」


 キサリアは異様な握力で友実の手を握りつぶしに掛かる。友実もお返しに思い切りキサリアの手首を握ってみるも、びくともしない。事実、友実は純粋なパワー、防御力はようやくキサリアが手合いとして認めるレベルまでにしか至っていなかった。

 キサリアはもう一つの腕を振りかぶり、先の第二の爪で友実に切りかかる。喰らってたまるかと友実は体を翻し、組み合った腕の手首をつかんだまま二の腕の内側に膝を一撃。一瞬緩んだ手から自分の手を離すとそのまま天に背を向け、襲い掛かる爪の根元を踵で弾き飛ばす。勢いあまり地面に体を叩きつけられる直前、片手で地面を殴りつけ、反動で弾くように体を飛ばし、キサリアの間合いから外れた。

 友実の戦闘経験はキサリアに到底及ばない。そこが仇となった。第二、第三の矢はすでに友実に忍び寄る。先程放置した鞭が勢いよく収縮して襲い掛かり、不意を突かれた友実は反応する間もなく、鞭に締め付けられた。


「! ……うぐ……!」


 強靭な力で鞭が締まる。力を一瞬でも抜けば骨も折れそうな締め付けに耐えながら友実は策を練る。キサリアとのやり取りを思い返す。自分の閃き、強み、好機はなにがあったか。キサリアのウィークポイントはどこか。考える間にも締め付けは強くなる。もう終わりかと考えが過ぎった時、ふと現状を整理する。


(なぜ、止めを刺さない? ……戦いを、楽しんで……そうか!)


「ち、ちょっとタンマタンマ!」

「どうした、命乞いであれば聞かんぞ!」

「違うって! もっと強くなれそうだからちょっとストップ!」

「……どういうことだ?」


 キサリアの鞭が締め付けを弱める。狙い通りだった。瞬間、キサリアはただ「戦いたい」のだと友実は確信した。


「ちょっと、作戦会議……いいでしょ? あたしはもっと全力を出して……やれることやってみたい。いい方法思いついたんだよ」

「何か策があるとでも言うのか? 不意を突くなどと考えているならやめておくがいい。今の貴様では私には勝てん」

「知ってる。だから作戦立てたいの」


 体に軋みを感じながら、友実はタキアーに小声で話しかける。


(ねえ、今なんであたし強くなってるのか、ちょっと解った気がする)

(……私も考えていたんだ。本来やっぱり君は、「サンシャインレッド」のはずで、さっきは私の睨んだとおり、赤いスーツになっていたよね。)

(そう、でも今……服は紫色で、実は今……指輪、赤と青同時に使ってる)


 キサリアは二人の話に耳を傾けることすらせず、結果が出るまで待つ。相手を完膚なきまでに叩き潰し、目的を達成させる。キサリアにとってはそれが全てであり、それに至る過程などには全く興味が無かった。


(えっ……だから紫なのか。「サンシャインブルー」と合わせた色で、さしずめ「サンシャインパープル」といったところかな)

(そういうのは今はどうでもいいんだよ。ねえあいつってどれくらいの強さなの?)

(どうでもいいってひどいなぁ……まあ、キサリアの強さは普段の君と比べて700倍くらいだとおもう)

(え? さっき弱い変身したとき、あたしの力が20倍って言ってたよね?)

(うん、それがどうかしたの?)

(……よし、作戦会議終わり。イチかバチか、やってみる)


 計算が合わない。戦いの最中でくすぶっていた疑問は今解決した。疑問の抜けないタキアーを無視したまま、キサリアのほうを向く。出来るかどうか、わからないけれど、やらなきゃやられる。友実は―――


「……いくぞ、宇宙人。―――変身!」


残りの指輪を全て、指に嵌めた。


 

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