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太陽戦士マーブルサンシャイン  作者: アルドニコフ・E・マクバレー
第1話
2/5

01-02.ぬいぐるみと宇宙人

 理解の範疇を超えた出来事と言うのは、えてして飲み込み辛いものである。しかし、序盤こそ友実の頭の中には「?」が多く浮かぶ状態だったが、説明を聞くうちに、途中から「そういうものなのだ」と思考を停止させたところ、幾分飲み込みが早くなっていくのを自覚できた。


「えーと……つまり? あんたは正義の科学者で、悪の組織と戦っている? 地球にそいつらが攻めてくるから、あたしが追い払うしかないって?」

「そういうこと。飲み込みが早いじゃないか。やっぱり私の目に狂いはなかったね!」


 ふざけたライオン顔を揺らしながら、タキアーと名乗るぬいぐるみは友実の前で踊る。元々はこのタキアーも悪の組織の一員だったが、首領に嫌気をさして逃げてきたらしい。組織は地球の資源を狙っているそうだが、どこまで信じていいものか。そもそも、なぜターゲットが地球なのか、なぜ地球人専用の指輪を作ったのかなど、疑問は膨らむばかりだったが、自分の目の前で踊るぬいぐるみが現状の総括だと悟り、友実は考えるのをやめた。


「で、あたしはこの指輪を嵌めれば、めちゃくちゃ強くなるんだっけ?」


 赤、青、黄色、緑、白……ヒーローとしては珍しい色の組み合わせだ。その中でおもむろに赤い指輪を持ち、人差し指に嵌めてみる。


「そう、君は赤の力を持っている。他人を思いやる純粋な気持ちと、誰にも負けないリーダーシップ! それが赤の力だ!」

「その割にはまっっったく、体に何も変化なんてないんだけど」


 疑う目線でタキアーを見やる。リーダーシップなど、自分には無いのを知っている。しかし、他人を思いやる気持ちすらも無いと判断されたのであれば、それは少しショックなことで、友実の疑いは膨らむ一方だった。


「それは今の君には『覚悟』が足りないからだよ。変身は『覚悟』がトリガーなんだ。奴らと対峙すれば、否が応でも覚悟は決まるだろうし、今は変身できなくても仕方が無いさ」


 先に言えよ、とため息混じりに指輪を引き抜き、パジャマのポケットに仕舞う。さっきの説明では、組織は既にタキアーを始末しに向かってきており、襲われるのも時間の問題らしいので、念のために赤い指輪は持っておく事にした。


「覚悟なんてあるわけ無いじゃん。さっきの話だってどこまで信じていいかわかんないしさ。全部夢なんじゃないかって思ったら、実際そんな気もしちゃうし」


 深夜3時、摩訶不思議な出来事の応酬で頭が痛くなった友実は、小銭とタキアーをポケットに突っ込み、自販機までソフトドリンクを買いに来ていた。


「そうだろうね。君達の星の歴史からしてみれば、私達のような存在と、接点も無かったんだろうね」


 アニメや漫画ではたくさん襲われてるんだけどねー、などとやる気の無い返事をしつつ、ペットボトルを自販機から取り出すと、自販機の受け口がビシャビシャに濡れていることに気づいた。


「……あれ?」


 ペットボトルも軽い。どうなっているのかよく見てみると、ペットボトルの下半分はざっくりと鋭利な何かで両断されていて、受け口の液体はペットボトルの中身だということがすぐに予測できた。

 そしてもうひとつ。それが敵の襲来であることも、すぐに予想できた。ポケットに手を忍ばせ、いつでも指輪を嵌められるように構える。あたりを見渡すと、帰路の方向、2メートル超の真っ黒な布地と、その上から真っ白な人の頭の形、しかし顔面は指紋のように黒い渦を巻いた『何か』が立ちふさがっていた。


「……っ―――」


 友実は恐怖で絶句する。ありえざる存在との対峙は、これほどまでに人間を萎縮させるのかと、子供の頭ながら思考をめぐらせた。正義のヒーローでさえも、最初は折れない心で立ち向かっていたはずなのに。自分はこんなに弱く、情けないのかと思えば、心はすぐにぼろぼろに蝕まれていくようだった。


(指輪、嵌めて)


 小さな声でタキアーが言う。数時間とはいえ聞きなれた声に、友実の意識は現実を取り戻した。

 息を呑みながら、ポケットの中で指輪を人差し指に嵌める。背の高い黒い何かを目線から逸らさないように、じっと白い頭部を見据えたまま。


「その小動物を、こちらに渡してもらおうか」


 低く渋い声があたりに響いた。目の前の存在から放たれたものだろう。


(何てことだ……あいつは四天王のキサリア。ダメだ、勝てない。君のパワーじゃ全力でも負けてしまう)

「……渡さなかったら、どうなるの?」


 タキアーの言葉は頭の片隅に置き、恐怖を飲み込み、友実は尋ねる。友実は思っていた。目の前の存在は少なくとも対話ができると。すぐに自分を殺さず、タキアーを奪いもしなかった。挑発さえしなければ、話をする機会ぐらいは作れると踏んでいた。意外にもそれは事実であり。キサリアは紳士的で、その場から動かず友実の問いに応えた。


「お前に恨みは無いが、力づくで渡してもらう」

「あたしたちは殺されるの?」

「それはお前たちの出方次第だ。服従か尊厳による死か、好きなほうを選んでもらおう」

「ここで逃げても殺されても命乞いしても、結果は変わらないって事……?」

「そういうことだ。しかし選択権はお前達にある」

(い、今は退くべきだ。今の君じゃ、奴には勝てないよ)

「ここで逃げたって、このあたりを手当たり次第に壊されて……見つかるよ。だったら……始めから戦って負けたほうがすっきりするでしょ!」


 意を決するように友実は叫び、指輪を嵌めた手をぎゅぅっと握る。友実の体が輝き、パジャマは戦闘スーツに変化する。ポケットを失ったタキアーと小銭はその場に落ちた。


「悔いの無いよう全力で掛かってくるといい。相手になろう」

「いや……ごめんちょっとまって」

「?」


 漫画から真似た戦闘の構えを崩すと、友実は変身した自分の姿を確認する。首から下、全てを覆う薄い真っ黒な前身タイツ。小さな胸はラインに沿って形をくっきり写し出し、パンツ状の赤い装甲、肘から先とすね・ふくらはぎを覆う赤く丸い装甲。10万馬力の科学の子を髣髴とさせる、前時代的な容姿を目の当たりして、友実はタキアーの首を掴み問い詰めた。


「……なんでこんなかっこ悪いの? ねえ?」

「あれっ……おかしいな。100倍の力ならもっとかっこ良い姿になるはずなのに。指輪は変身後のパワーによって服がかっこ良く変化するようになってる。君の能力は今のその姿だと20倍くらいだよ。」


 20倍でもいいからその力で今逃げよう、と無駄な助言をするタキアーをぽいっと道路に投げ捨てると、友実はキサリアと対峙し、身構える。


「さっきも言ったけど、逃げたってどうせ捕まって、いいようにされちゃうんだから。お母さんほっといて自分だけ逃げるなんて絶対後悔するから、嫌だよ」


 覚悟を決めた言葉にキサリアは同調する。


「話は済んだようだな。こちらから行くぞ」


 小手調べだろうか、キサリアは大きく身構えマントを翻すと、内側から腕ほどもある太い鞭を友実に向け放つ。


「!」


 みえる、そう思う間もなく友実は鞭の死角へ瞬時に避ける。流れ弾に当たらないようタキアーを掴むと背中にしがみつかせ、鞭が当たった結果を確認しようと横目で鞭の軌跡を追う。

 ドン! という鈍い破裂音とともに道路のアスファルトは砕け宙に舞い、鞭の先は友実に向かって再度襲い掛かる。

 第二の鞭も避けようとするが、ちり、と僅かに腕のパーツを掠る。……速くなっている。避けきれなくなるまでスピードを徐々に上げていたぶるつもりか。そう判断すれば鞭が地面に打ちつけられる前にキサリアの懐に入り込み、


「―――っく、オラァ!」


 普段の脳内妄想のように口の悪い掛け声を発しながら、渾身の力で思い切りキサリアのわき腹を殴りつけた。ドム! と鈍い打撃音が腕の先から響き渡る。


「……無謀だな」


 キサリア冷たく言い放つと、装甲の薄い友実の腹部を蹴り飛ばした。

 友実は衝撃で民家の壁に肩を打ちつけ、道路に落ちる。強い衝撃を受けた壁にはひびが入り、がらりと友実を覆うように崩れた。


「っつ……なん、なの……コイツ……強すぎる……」


 その場から一歩も動かないキサリアに、げほ……と小さく咳をしながら、友実は恐怖と賞賛の念を抱いていた。


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