第6話 ソロ活動の始まり
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「…ん…んん…」
程良い温もりと柔らかい感触であるベッドの中で、僕は突然目が覚めた。
ゆっくりと目を開けた瞬間、見慣れた天井がそこにあった為、今いる場所は宿屋のベッドの上なのかと察した。
「寝てたのかな…」
目をハッキリと開け上半身を起こすと、すぐに周りを見渡した。
窓のカーテンから溢れる薄い光からして、今は朝か昼間なのだろう。
装備は近くの台に、コートはこの上なく綺麗に畳んで置いてあるし、剣もそれに添える様に置かれていることから、ユニさんがしてくれたのだろう。
何気にコートは濡れているどころか、洗濯して乾かしてある。
「…あ、ミリアは…!」
置かれているコートに見惚れている中、ミリアの存在を思い出し再度周りを見渡した。
すると、隣のベッドにミリアが横になっていることに気づき一安心する。眠っている様で、苦痛の様子もなく安らかな様だ。
「良かった…」
「あ!ルーア君、目が覚めたんだね」
突然なその声と共にユニさんが部屋に入ってきた為、一瞬身体がビクッと反応する。未だにこういうのに慣れないというのが、なんとも…。
「ど、どうも…」
「うーん、特になんともないみたいだね。疲れてたのかな?」
「…多分…」
掛ける言葉が見つからず、ついこの様な返事をしてしまい何やってるんだ自分と嘆きそうになる。
と、ふと気づくとユニさんの手には水の入った桶と布が持たされていた。ユニさんはそれらを使ってミリアの傷に当てる。
「大変だったんだよ〜。ルーア君は急に寝込んじゃうし、ミリアちゃんは意識がなくて傷だらけだから」
「…ごめんなさい」
「うーん、まぁ二人共無事だったし良かったよ。昼食作ってあるから、食べに降りなよ」
「…はい」
ある程度処置を終えたユニさんは、持って来た物をミリアの付近に置いて部屋から退室していった。
再び静かになった部屋にて、僕は気怠い様子でベッドから立ち上がると外の様子を確認しようとカーテンを開ける。
「…まだ降ってるのか」
外の光景はというと、昨日の大雨程ではないが通常の雨量くらいで雨が降り続けていた。
通りで日光が薄いわけだ。
「…あれで、良かったのかな。ミリアは何て言うんだろ…」
雨が降る外の光景を見詰めていると、昨日の出来事を思い出す。
忘れもしない、恐らく今後も忘れることはないだろうあの出来事を…。
………………………………………………
………………………
…………
…
僕の耳には、激しい豪雨の降る音しか聴こえなかった。
何の抵抗も感じない。身体の疲れも、痛みも、苦しみも。
只々、雨粒の降る音と悔しさ、そして、激しい殺意だけが僕の脚を立たせ、走らせ、剣を振らせたのだ。
「!おい後ろ!気をつけろ!」
「ッ!!」
男達に向けて、飛び上がり剣を振り下ろした。
振った勢いで周りの雨粒も吹き飛ぶ程に、力強く攻撃を仕掛ける。が、逸早く気づいた大剣持ちの男は、背負っていた剣を盾にして斬撃を防ぐ。
「!?何だ!?この攻撃の重さッ!!」
「ッ!グゥッ!!」
剣同士が衝突した為、耳を劈きそうなくらいの金属音が辺りに響く。斬撃を防がれはしたが、僕は力を抜かずそのまま押し倒そうとする。
「クッ!!この餓鬼!クソみてぇに力強ぇ!!」
「チッ!どけぇ!!」
ミリアや僕に暴言や暴力を一番行ってきた男が横槍を入れる様に僕の腹を蹴る。思わず怯んだ僕は、男達と距離が空けてしまった。
「はぁ…はぁ…クッ!!」
僕は再び剣を構え、攻撃を仕掛けると先程の大剣持ちの男が前に出る。
それを薙ぎ払うかの様に僕は男を剣と一緒に攻撃で吹き飛ばし、壁に激突させた。
「ぐあッ!!」
過剰な程に強く壁に叩きつけられた所為か、大剣持ちの男は地面に倒れて気絶してしまう。
渾身の力で剣を振った僕に、隙を突く様に武器籠手を装備している男が殴り掛かってくる。
「死ねッ!クソ餓鬼!!」
その言葉と同時に攻撃が迫ってくると、僕は拳を握り締め男の拳とかち合う様に殴りつけた。
そして、返り打ちどころか僕は逆に勝り、男の武器籠手を破壊し、そのままの勢いで男を吹き飛ばした。
「なッ!?嘘だろッ!?」
最後に残った男は、剣を抜き僕に向けて構える。
が、姿勢自体がまるでモンスターに怯える戦士そのもので、足が小刻みに震えている。
「ッ!く、クソがぁ!!」
男は叫びながら斬り掛かってくるが、返り打ちにする様に僕は男の剣を弾く。
弾かれた剣は地面に突き刺さり、男はありえないと訴えるかの様な表情でその場にへたれ込んだ。
へたれ込んだ男の首元に、僕は剣先を突き立てる。
「ヒッ!わ、悪かった!!あ、謝る!謝るから許してくれ!もう何もしないっ!何もしないから命だけはっ!!」
急に懇願し始めてきた男に、僕はさらに剣先を突き立てた。首に剣先が当たった為、少し切り傷ができ少量の血液が垂れている。
「ッ…!!」
''殺せる、僕にはこの男を殺せる''
''こいつはミリアを、僕を傷つけた。だから殺せる''
そんな思いを巡らせながら、剣の柄を握る力を強める。男の首を、跳ね飛ばせる様に。
''僕には、剣がある。男を殺せる剣が。だから…!''
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
男は首を跳ねられたと勘違いして叫び声を上げた。
実際には僕は首を跳ねるどころか、男の首から剣を離していた。
殺すの止めたのだ。
もし殺したとして、意味はあるのだろうかという思いが浮かんだから。
「ッ!二度と、僕達の前に姿を見せるなッ!!」
それだけを男に伝え、僕は剣を納め男の前から去った。
◇
「ホントにこの雨の中、出掛けるの?もう少し休んだ方が…」
「大丈夫です、治療費の分も稼がないといけないし、それに僕は大した怪我とかしてないですから」
装備を整え、僕はいつも通りギルドへと赴こうとしていた。雨だろうが何だろうが関係ない、動ける僕が動かないでどうする。
「それじゃあ行ってきます」
いつもより明るめな雰囲気でそう言い渡し出発した。すぐにフードを被り雨を凌ぎながらギルドへと、走って向かう。
雨の中は思いの他身体が冷えることに改めて感じた。
奴隷時代は薄い布一枚で生活していた為、今より酷いものだったんだなとまるで昨日のことの様に思い返す。
ギルドに到着し、建物の中に入ってみるものの雨だからかいつもより人が少ない。
いつもはがやがやと話し声がよく聞こえるんだけど…。
依頼書を見にボードの前までやってくるが、今回はミリアがいないのもあってどれが自分にあって、報酬が良いのかわからない。
ボードの前で悩んでいると、横から荷物を持っている女性係員がやってきた。
「?今日はあの子と一緒じゃないんですね」
後ろからその女性係員が話し掛けてくる。
見知った係員であった為、ミリアと僕のセットが彼女的には印象が強いみたいだ。いつも見掛ける相手ではあるが、やっぱり気恥ずかしく会話しにくい。
「は、はい…怪我しちゃって」
「そっか〜、それなら仕方ないですね。雨の日もご苦労様です」
会話をしている最中に気づいたが、ふと顔を見てみると美人なんだなと気づく。
ミリアも綺麗だし、人の顔ってちゃんと確認しないとわからないこともあるのか。今度から人間観察でも始めてみよう。
「あ、あの…!僕にでも受けられる依頼で、報酬が高額なのはないですか…?」
依頼書の把握が難しいなら、この人に聞いた方がここで悩むよりマシだろう。この際、依頼の難易度は度外視。
「一応ありますけど…」
係員は持っていた荷物を片付け、すぐに依頼書の確認を始めた。暫くして確認を終えた係員は、数枚、十数枚の依頼書を持ってくる。
「このぐらいありますけど、どれを受注しますか?」
「…''全部''お願いします」
係員の確認の質問に対して僕は、少し躊躇はしたがそう答えた。すると係員の表情は途端に驚きと心配の顔に変わる。
「え…ぜ、全部、ですか…?」
「はい、お願いします」
再度の確認に対しては即答した。
もう覚悟はしてるし、このぐらいしないと稼げないだろうし。何よりランク白から上へ上がろうとしたら、これ以上の努力をしないと。
ミリア自身も、簡単には上がれないと言っていた。
「わ、わかりました…では、依頼書の受注確認を致しますね」
依頼の内容は全く把握してないが、なんとかなるだろうとは思う。
他の人からしたら所詮ランク白だし、とか思われてそうだから。取り敢えず依頼達を受注すると、依頼書を受け取り外に出ようと移動する。
移動しながら依頼書を確認するが、やはり行ってみないとわからないものだらけだ。
幸い、絵が描かれているのもあって、全くわからないわけではない。
「あの!」
建物の出入り口前までやって来て、今すぐにでも外へ出ようとしたその時、後ろで先程の係員に呼び止められた。
何かあるのかと、後ろを振り返ってみる。
「む、無茶はしないで下さいね…?ランク白の方が何件もの依頼を受けて、途中で疲れ果てて、モンスターの餌食にされたっていう話が何度もありましたので…」
その話を聞いて僕は途端に「げっ」と心の中で呟いた。
勢いやら何やらに任せて何件も受けたが、係員の反応が物語るくらいにランク白にとってはかなり危険みたいだ。
「…ま、まぁ…危なくなったら退避するので、大丈夫です…」
そうは言ってみるものの、心の中では不安だらけに陥っている為なんとも…。僕は多少後悔しながら、雨が降り続く外へと出て出発した。
◇
「はぁッ!」
依頼に書いていった地図にある、ヒミル森とやらに依頼達成の為に赴いた。
依頼の内容は、キノコの形をしたモンスターの掃討。大きさは1mくらいで動きが鈍い、キノコである。キノコそのものである。
キノコに小さい手足が生えて、のっしのし歩く。
それを10体程討伐するのである。正直、ヌルい。意気込みながら攻撃してはいるが、実はそこまで硬くない。
「…まぁ、初心者なら苦戦かもね…」
こうして思い返してみると、ミリアは始めから難易度高めで僕に同行させたのではないかと思ってしまう。
結果的には、こうして簡単に進められているわけだけども。
◇
次の依頼は『水薬草』とやらの回収。
薬草とは違い、潤いがあって美容に使えるんだとか。とある川の付近にあるらしく早速行ってはみたが、これは難しい。
なぜなら…。
「!いっつ…!」
ガルルル…!
狼の群れがいるからだ。
その川の付近には、狼の群れが居座っているらしく、水薬草を取ろうとすると縄張りに入られたと思った狼達は一斉に浸入者を排除しにくるのだとか。
因みにこの依頼の報酬は、銅貨8枚。しょっぱい。
◇
次に来たのは、とある洞窟。
この中では二つ程、依頼が重なっている為丁度良い。一つは赤色の絵の具に加工できる鉱石の採掘と、もう一つはラプズというトカゲの討伐。
鉱石は割と早く見つかった。というのも、地表にもあるらしく見つけやすいのだとか。
また、それ程硬いわけでもない為、モンスターの牙などを杭の様に扱って採掘すれば容易に入手できるみたいだ。
トカゲに関しては、小さくてすばしっこいという印象。
が、噛まれたら割と痛かった。油断大敵というか、普通に舐めてたというか。
こうして僕は、何時間も掛けながら依頼を達成していった。時間がかかり過ぎたのか、全てやり終えた頃には雨も止み辺りは暗くなっていった。
◇
「ルーア君、遅いなぁ」
辺りはもう真っ暗。街中はまだ活気づいてはいるが、宿泊している宿屋辺りはすっかり静かになっており、ヘトヘトになりながらも僕は帰って来た。
宿屋の扉を開けて中に入ると、カウンターで待っていたユニさんが驚いた表情で見詰めてきた。
「!ルーア君!どうしたの、こんなに遅くに帰ってくるなんて…」
「はぁ…はぁ…ご、ごめんなさい…時間、かかり過ぎて…遅くなりました…」
息切れで上手い様に喋ることは出来なかったが、一応遅くなった理由を伝えた。するとユニさんは安心した様な表情に変わる。
「そっか、頑張ったんだね。晩ご飯、出来てるよ。食べて来なよ」
「は、はい…」
言われた通りに僕は、部屋には戻らずすぐに食事を摂りに行こうと別の部屋へと向かった。
………………………
疲れていた所為か、体が食事を受けつけず食事どころではなかったがなんとか食べ切り終わった。
取り敢えず休もうと食後に贅沢に紅茶を頂き飲んでいた。
「…明日はどうしようか…」
ミリアが来れない以上、暫くは一人で活動しなければならないし、今まで以上に頑張らなければいけない。
今日受け取った報酬の額だと、ミリアの治療費ぐらいにはなるかな。
「あ、ルーア君、一つ頼めるかな?」
「?何ですか…?」
僕に頼み事なんて珍しいなと思いながら何だろうと伺っていると、ユニさんは食事を乗せたトレイをこちらに差し出してきた。それを受け取ると、キョトンとした表情でユニさんを見る。
「食事をミリアちゃんに持っていってくれるかな?そろそろ起きてると思うから」
「…わかりました。持っていきます」
トレイの上の食事を溢したりしない様に慎重に持っていきながら部屋へと向かった。手が震えている所為で、カタカタと細かい音がする。
「あ!そういえば」
「…?」
「ミリアちゃんの体を拭いてた時なんだけど、何か右胸辺りに何かの紋章みたいなのがあったんだよね〜」
「!」
ユニさんのその話に僕は驚き思わずトレイをひっくり返すところだった。というより紋章を、あの紋章を直接見たのか。
「も、紋章ですか…」
「うん。よくわからないんだけど、ルーア君は何か知ってる?」
「…僕もわからないです」
取り敢えずそう答えはしたが、紋章を見られたということはミリアは
ユニさんに…。というわけでもなさそうな感じがする。現にユニさんはなんともない様子で、只々紋章についてわからないでいる。
どういうことなんだろうか。
食事を持って部屋の前までやって来ると、ゆっくり扉を開け中に入ってみた。すると上半身を起こした状態で過ごしているミリアの姿がすぐ目に入る。
「!ミリア、目が覚めたんだね…」
「…ルーア…えぇ、お陰様で」
食事をミリアの付近にある台の上にまで持っていきすぐに台の上に置いた。用事を終えた僕は、自分が寝ていたベッドに腰掛け休む。
「…酷い目に遭ったみたいね。まぁ、いつものことだけど、ね」
ミリアは自身の傷を見詰めながらそう呟く。確かにミリアの言うことは間違っていない。
僕も以前はそんな風に過ごしていたからだ。
「ユニさんから聞いたわ。気を失ってた私を運んでくれたんだよね…その、ありがと」
ミリアからそう礼を言われると途端に照れくさくなり、
自分の顔が赤くなっているんじゃないかと感じるくらい顔が熱くなる。世話になっている分、こうして礼を言われると本当に気恥ずかしい。
「い、いや…!その、あのままじゃ風邪引くだろうし…動けた僕がミリアを置いてくわけにはいかないし…それに…」
「…それに?」
「…その、一緒に行動してるから…助けないといけないと思ったから…」
実のところ、あの時どんな思いでミリアを運んだのかハッキリと覚えていない。ただ、今挙げた思いは抱いていたはずだろうとは思う。
「…そう。ありがと。ところで、今日は私無しでも稼げたの?」
「え?あー、えっと…」
懐から報酬が入っている袋を探し発見すると、それをミリアに渡した。
袋の中には結構な量の銅貨が入っており、ジャラジャラと金属が擦れる音が聴こえる。
「…銅貨53枚か。頑張ったみたいね。明日も行くの?」
「うん…僕は傷とか大したことないし、動けるんだからその分稼がないと…」
「そう、じゃあ頼りにしてる。私はまだ、傷が痛むから…」
「大丈夫だよ…ユニさんもいるし、暫く休んでなよ」
ミリアにそう言葉を掛けると彼女は「そうする」と呟いた。すると彼女は、自身の装備から何やら探し始める。
「?」
何かあるのか?と思いながら様子を伺っていると、探し物を終えた彼女は僕の目の前に一本の黒い短剣を差し出す。
そしてそのまま手渡しされ、疑問を浮かべながら彼女を見詰めた。
「これは…?」
「護身用のナイフよ。何かあったら使って。良質の特別な鉱石で作られてるから、そう簡単に折れないわ」
「!いいの…?そんな良い物、僕が貰って…」
彼女は優しい様な表情で、短剣が握られている僕の手に添える様に彼女は自身の手を当てる。
「私、今は何も出来ないから。出来るとすればこれだけ。
それに、お供に死なれちゃったら困るから」
なんとも彼女らしい言葉ではあるが、確かに彼女の言う通りだ。
「…わかった、大切にするよ」
しかと短剣を受け取った僕は、次の日に向けて今はしっかりと休んだ。
また明日、僕の為にも、彼女の為にも頑張らないと。
僕は彼女から渡された短剣に向かってそんな思いを込めた。
女性係員の名前はセイラ・ミリナーンと言います。ほぼ毎日出勤の働き者です。
依頼自体はどんな数でも同時に受けることは出来ますが、基本様子を見てからなので
同時に複数の依頼を受けることはあまりなく、それでいて事故が多いです。
ランクが低いと自然と焦りが生じるみたいです。