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嫌われ者の快進撃  作者: 異夜
第一章 快進撃の始まり
1/33

第1話 彼の者の名は

9/13 後書き追加しました。

2023/02/23 内容を改変いたしました。

 

 雲が一つもない清々しい程の晴天、心地よく吹く風、干されている衣類達も喜びそうな太陽の温もりと光。

 その下では人々がここ《首都ユーンベルト》にて、大変賑わせていた。

 ある者は仕事でせっせと働き、ある者は友人達と和気あいあいと遊び、ある者は昼間から酒を浴びる様に仲間達と飲み合う。

 一見、平和そうに見えるその景色の中に一人、惨めにもがき生きる姿があった。


 自身でもわかるくらいに、惨めで、汚くて、この街とはかけ離れた存在であった。

 見窄らしく布切れ一枚のボロボロの服装で、その首には奴隷の象徴である首輪が繋がれていた。名前はまだない。付けてもらったすらない。

 親も兄弟も姉妹もいない天涯孤独の身の少年。


 それが僕だ。


 他人の様な力もない。知識もない。金もないし、服もない。家もない。待ってくれる、心配してくれる、一緒にいてくれる人も、いない。

 魔法も使えない、《スキル》等の能力もない。


 僕には何もないんだ。


 長い時間、手入れのされてない黒髪はボロボロで、痛んでおり、ポロポロとフケや毛が落ちていく。

 掌も皮膚がボロボロで、土で汚れており、変な悪臭も漂う。


 虚ろな瞳で路地から街の風景を見詰め、光を求める。空腹で力が入らず手を伸ばすこともできない。

 誰も、こんな僕に手を差し伸べてくれる様な光はなかった。

 全員が全員、僕を見詰める目がまるで家畜を見下す様な酷いものだ。はなから視界にすら入れる価値もないと無視をする者もいる。家畜の様な自分は奴隷として、日々酷な扱いを受けて生きるしかなかった。


 僕は気がついた時から《奴隷》だったのだ。



 …………………………………………



「オラ!さっさと運べ!クソガキ!」


 主人である小太りの男は、ボロボロな脚を引き摺りながら歩いている僕に対してそう指示する。

 力の無い僕には、どの荷物も重たかった。あまりの重さに脚を崩し、荷物を落としてしまうと、主人の男は木製の棒で僕を何度も叩く。

 痣が出来ようが、骨が折れようが関係なく、叩き続ける。

 気が済むまで叩き続け、それが終わると僕はまた指示される通りに作業を再開。


「…あ…あ、あ…う…」


 喋ろうとも喋ることが出来ない。毎日の暴力で喉をやられているからだ。痛いとも言えない。怖いとも言えない。泣こうとも思いっきり泣けない。

 左目はとうに潰れて視力がなく、残された右目もぼやけるばかり。涙は枯れて、渇いた瞳が陽の光を浴びてヒリヒリと痛む。


「おい!建物が崩れるぞ!」


 突如、一人の住民の声が僕の耳に入る。

 周りの人々は上を見上げ、驚愕の表情を表していた。絶望していた気分から一変、人々の様子を注目するため僕も思わず上を見上げる。するとそこには中心から折れる様に崩れる時計塔が虚ろな瞳に映り、それから生じる瓦礫や破片が自身の周りに落下する。

 周辺にいた人間達はたちまち逃げていき、僕も逃げようと少ない体力をもって駆ける。が、自身の首輪に繋がれている鎖が鉄の棒に巻き付いており、その場を離れることが出来なかった。

 主人は他の人々と共に僕を見捨て、自身だけでも助かるようにと逃げていく。虚ろな右目にそれが映った時、僕は自身の死を悟った。


(これが…僕の最期…)


 諦めるようにその場にへたり込み、力が自然と抜けていく。崩れていく巨大な建物の影がさらに広がり走馬灯すら見ることなく、耳に轟音が入ると同時に味わったことのない激痛と重みが襲う。

 骨はあっさりと折れ、身体全体は重みによりいともたやすく潰される。


 しかし苦痛はたった一瞬だった。





 心地の良い風、気温、空気。どれも僕には勿体ない。

 そんなものが僕の身体全体を包み込む。


(僕は…死んだんだ…)


 気がつけば突如として感じる生きた心地がしないこの環境。そっと目を開けると、そこにはまるで雲の中にいる様な白く柔らかい光景が広がっており、見たこともないその光景はまるでお伽話の様で妙に落ち着く。


 自身の掌を見るが、やはりみすぼらしい貧弱なものだった。夢なのか、はたまた別世界なのか。


「お目覚めかい?」


 透き通る様な綺麗な美声が、突如僕の耳を撫でるかの様に聞こえる。年若い男性の様であり、そっと振り向くと想像通りの男が僕を見つめて立っていた。

 純白の服装、綺麗な髪の毛、そして金色の瞳に整った容姿。画家であればその場で絵をしたためるであろう美しい人物だ。


「言葉は喋れるかな?」

「し…しゃべ…あ、れ…?」


 喋れる。少し喋り難いがそれでも喋れる。それに驚いていると、男性はニコッと笑みを浮かべた。そして、不意に僕の頰に触れる。とても暖かく落ち着く匂いを感じる。


「君は…奴隷だ。早くして死んでしまった哀れな奴隷。何の力も知識も能力も才もない、凡人以下の誰からも見捨てられた人間。それが君だね。」


 男性の言葉を聞き、僕は唇を噛み締める。受け入れる受け入れない関係なく、僕は誰からも必要とされず、存在してはいけなかったんだと思い出す。

 そう思っていると、彼は再び静かに笑みを浮かべた。


「それがどうしたんだ。人間は人間、皆同じ人間なんだ。君もその人間。嫌われ者でも、力が無くとも、君は皆と同じ人間なんだ。対等に生きる権利があると思わないかい。」


 彼は僕の頬に当てる手を決して離さなかった。それどころか、反対の手で僕の手を握りはじめる。


「誰もが君という存在をなかったことにしても、私は君を見捨てない。たとえ数多の神が見捨てても私だけは君の存在を否定しない。」

「…え…?」


 彼の目は本物だった。僕をただ真っ直ぐ見詰めており、微動だにしない。未だかつてこれほどまでに僕を真剣に見つめ、語った者がいただろうか。それだけで、渇いた瞳から涙が零れそうになる。


「…だ、れ…」


 彼は僕を知っている様子だが、僕はまだ彼のことを知らない。不意に僕から問い掛けられたのにも関わらず、彼は落ち着いた様子でいた。


「私は人々がいう神だよ。創造神、主神とも呼ばれている。ただそれだけの存在さ。君をずっと見ていたし、ずっと君に会いたかった。」


 僕の手を握る彼の手の力が強くなる。憐れむように、あやすように、僕から視界を外さず優しく語り続ける。


「本当にすまないことをしたと思ってる。全ては私、いや私達が犯した罪だ。それを君に被せてしまった。そのせいで君は---」


 死んでしまった、死ぬ運命だった。神と名乗る彼が言葉を続けずとも、僕は心の中でそう察した。それを感じ取ったのか彼は、僕をそっと抱き寄せ背中をさする。そして無意識に涙がこぼれたのだろう、暖かいその手で雫を拭ってくれた。


 彼が語ったその罪とは、とても人の域で抱えられるようなものではないそうだ。呪いともとれるその罪は数多に存在する神ではなく、現世に生きる人々に降りかかったのだと。彼は後悔している様子で語り続けた。

 理不尽ともとれる降りかかった呪いは今尚存在しており、長く生きることができずに無残な死を遂げる運命にあると。その証が体に紋章として刻まれ、どんな祈りや魔法、解呪でも祓うことができないものなのだと。


 僕の体には、左胸にそれに該当するであろう紋章らしきものがあった。


「君は、自分の死を納得できるかい?」


 突然のその言葉に、僕は思わず驚いた表情を浮かべた。

 笑みを浮かべたままの表情から、その言葉の意味など感じとれるわけもない。だがしかし、僕は素直な気持ちを彼に伝えた。


「納得…でき、ない。納得、したくない。皆、みたいに…生きたかった…!」


 僕が自分で生きてていいと、皆みたいに楽しいと、幸せだと感じたかった。内心諦めてはいたが、やっぱり自分の死を受け入れたくはなかった。彼の体をしがみつくように強く抱きしめ、そう思いを伝える。すると彼は「ちゃんと言えたね」と囁き、優しく頭を撫でてくれた。


「もし再び苦痛を味わうかもしれないと、無残な死が待っているとしても、君が望むならもう一度、君自身の人生を歩んでみないかい?」


 そう語ると彼は僕を抱きしめる腕を解き、掌に小さな白い炎を出現させる。炎は心臓の鼓動の様に揺らめき、熱くもなく、冷たくもない、心地良い温もりである。炎の揺らめきは、まるで僕と呼応するかの様に、僕を体現しているかの様なものだった。


「もう一度…ぼくの、人生を…?」

「そう、前の君とは違う人生。君を変える君に。《転生》、生まれ変わり、新しい自分。君がまた行きたいと望むなら。」


 ---僕は…僕の答えは---


 ''生きたい…もっと、自分の人生を…歩みたい…!''



 言葉に出さず強く思いに浸ると彼は心を読んだかの様に静かに笑みを浮かべ、掌の炎を僕の胸に当てた。優しく、傷つけない様に。

 炎が僕の中に取り込まれてると、まるで全身の底から何もかもを実感したかの様な、魂が満たされるような感覚を感じた。


「君の本当の思い、しかと受け取ったよ。そういうことなら君の門出を祝って贈り物をさせてほしい。君は今、何がほしい?」

「贈り物…?」

「そう。私にできることならなんでも言ってごらん。君は、何を望む?」


 そう問われた僕の願いは、考えるまでもなくすぐに決まった。何の変哲もない、誰もが持っているもの。そして、僕には持っていなかったもの。


 僕はそれを願った。


「…名前が、欲しい」


 ---名前。僕には名前がない。両親のことを知らない僕には、誰からも名前を付けてもらえなかったから。僕にも名前があれば、意味を持って生きることが出来る。僕はそう思った。

 すると彼の顔は。


「流石私が選んだ君だね。そう言ってくれると思ってたよ。」


 安心したかのような穏やかな表情だった。そして続けるように。




 …君の名前は-----。






 …………………………………………………






 誰も知らない森、綺麗な空気で満たされ、妖精が棲みつく様な、そんな森で目覚める。

 僅かに溢れる明るい光に、自身の手を当て生きているという実感を持つ。

 僕は、生まれ変わったのだ。新しい自分に。

 以前の僕とは違う、最底辺から這い上がり胸を張って生きるために。


「僕の…名前は…」


  君の名前は…








 《ルーア・ハエレティクス》



 



誰からも嫌われた少年が、また一から人生を歩みなおし、這い上がる物語です。

物語のテーマの一つに「奴隷」がありますが、これから描く世界観の中に奴隷達がどう描かれ、元奴隷である主人公はどう生きるのか。そういったものも踏まえて読んでいただけると幸いです。

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